花盗み
               
梅の花は、むかしはえびら(箙)にかざしたものらしいので、梅の枝をとるのは、許される花盗みであったとか言いますね。
でも、美しく刈り込んだ枝が折られるのはいやですねぇ。
             
梅は、縦に伸びるずわい(枝)が出ます。
これは、形を整えるためには、刈り込むものですから切られても困ることはありません。
早春に花が開き始めた頃に、切り枝にして部屋を飾って香りが楽しめます。
このために、梅は伸びかけのずわいを切り花用にわざわざ残しておきます。
              
野梅は、濃い臙脂色の紅梅が寒いうちから花を着けますが、これは香りがいいですね。
最近は淡紅梅っていう栽培種がおおいですねぇ。淡紅梅って言っても白いのもあります。
この栽培種は、花は多いのですが、どうも香りが少ないように思えるんですが。
          
梅って云うと福岡の太宰府の梅ですか? 
能楽では「うめ」ではなく「ンめ」って表記されてますが、本来「ンめ」って発音したのでしょうか。
それにしても、「ンめ」なんて、今の僕たちに発音できる? 「むめ」ならできるとしても。
            
発音は別にして、太宰府の梅は道真さんが、「こち吹かば、匂いおこせよ梅の花、主なしとて春な、忘れそ」って京の家を出るときに詠みはったら、すぐ飛んできたので、飛梅(とびうめ)って名付けられたそうだけど、飛梅はだんぜん紅梅ですねぇ。
「匂いおこせよ」だから、香りのいいのは在来種の梅ですよ。
               
首筋に花をかざすのは花の精を貰うものらしい。素敵な想いですよね。
          
ところで、花盗ッ人の話になるんですが、僕んとこの脇の入口の道路に面したところにマツリカを植えています。
あれは中々大きくならないで5年もたってやっと花を着けだしましたが、なんとも弱々しい。
でも、帽子にでもかざすと素敵ですし、梅に負けないほどの香りがします。
通りかがりに、嗅いだり観てくださっていると、「切ってさしあげましょうか?」ってことになるんですが、その際には剪定していい無駄枝を切らしてもらいます。
           
ところが、黙って枝を割いて引きちぎって盗んでいく人があるんです。
人間って勝手なもので、自分で納得して切った枝はなんともおもわないのに、引きちぎられた割け口をみると、無残って感じがするもんですね。
              
これで思い出すんですが、山の帰りに桜の枝をかざして風流がっている人があるけど、これを風流と言うか、どうかは議論のあるところ。
能楽の「雲林院」によると、昔から、「見てのみや 人に語らん桜花 手ごと折りて 家づとにせんとは」
とか、
「春風は 花のあたりを よぎて吹け 心づからや 移ろうと見ん」
って、折るのを咎める意見があるらしい。
           
でも、桜の枝は引きちぎって割くと木が弱りますよね。
特に、染井吉野は、身がぼさぼさですからねぇ。樹幹に雨水が入ってしまう。
人好き好きって云うと、白い花が満開する染井吉野と、昔からの山桜と、貴方はどっちが好き?
遠望すると満開の染井吉野は山全体が霞んだように見事ですね。この情景も捨てがたい。
           
山桜は、赤い葉が混じりますから、紅を帯びた雅びな雲。西行法師の世界ですねぇ。
えェ、どっちもいい? 僕も、そう。
でも、緑の樹影を背景に1本だけ咲いている姿は、山桜が勝るように思えるんですが。
        
蛇足・高校時代、人の悪口に出歯のことを、「山桜」って言わなかった?
心は「花(鼻)より葉(歯)が先に出ている」。人の身体的欠陥をあげつらうのは品性下劣。
高校生って意地悪な年齢ですねぇ。
           
これも先生の渾名。「ドブ板」。心は「年中じめじめしている」。たしか古文の先生だったっけ。