紅海
                 
子供たちと赤道を越える旅行をしたことがありました。
「アァ、赤道ヤ、赤い線がみえる」って、言ったら、子供たちは「エェ!」って、立って窓際まで見に行きましたねぇ。
機内の失笑を買ったりしてぇ。
           
当時、思春期だった子供たちには、耐えられない屈辱だったらしい。ボクは、一層信用がなくなりましたねぇ。
親は、こんなオチョクリをするべきではないのですね。
         
ところで、こんな子供だましを、私は大人になっても信じていましたことがあります。紅海のこと。
紅海って、海が紅色なんだと思っていました。
昔、安物のヨーロッパ・パック旅行に行って、思いがけず、南周りの便に乗ることがありました。
当然、紅海の上を飛ぶんです。期待しましたね。だのに、何にも、赤くなかった。
なぜ赤くないのに、紅海って言うかですが、語源は「赤い(デシュレト)砂漠に囲まれた海」を省略して、紅い海なんですって。
               
字面からだけ見て、思い違いをするって、ありますね。
神戸に平野って地名があります。これは「ひらの」って読みます。
この土地は、六甲山脈の山峡から流れてきた急流が、平野部に出てくる出口でして、決して平野ではありません。両岸はきつい崖。
このあたりでも、「ひら」って地名は崖崩れの多い土地を意味しますから、土地を買うのは気をつけなければならないって、教えられてきました。
              
「ひら」って、アイヌ語では崖を意味するんですってね。
「ぴら、ひら、びら」とも伝わって、平が当て字されているようですが。
神戸のような南の土地にアイヌ名が残っているのも不思議ですが、アイヌ語って原日本語でもあるらしいから、原日本語でも「ひら」は崖を意味したのかも知れないと考えると辻褄が合うかも知れない。
            
北海道の地名には、色濃くアイヌの言葉が残っていますね。
アイヌ語って、意味がハッキリしていて、地形をあらわすんですってね。
狩猟採集の人々にとっては、地名は地形を表してこそ、意味があるんでしょうから当然ですね。
                
「ない(内)、べつ(別)」は河川を意味するんですか?
稚内(ワッカナイ・冷たい飲み水の川)とか、岩内(イワウナイ・硫黄の多い川)、登別(ヌプリペツ・濁った河)ってのは僕たちでも知っていますね。
         
北海道の地名の和名を付けた人は天才的だ、なんていいますが、元の意味がさっぱりわかりませんね。
ヌプリペツを登別って和名を当てたから、今はノボリベツって読みますから、一層意味不明になりました。
            
狩猟採集民の地名で僕たちにも馴染みなのはハルピン、これは満州語のハ・エル・ピン、魚を日干しするところ、って意味だそうで、大連はダリン、港、岸だって言われていますね。
当て字を拒否しているのは、韓国の首都ソゥルですね。ソゥルって伝統的韓国語で都の意味で、漢字に当て字できないんですって。毅然としていて、いいなぁ。
              
登別のように、今は意味不明になった地名って、紅海もそうですが、世界中の地名には、こんなのが多いっていいますねぇ。
            
代表はインドですか?
サンスクリット語で河の普通名詞hinduヒンドゥが、訛ってインドになり、これから国名にまで昇格したんだそうですね。
河の普通名詞って云うと、ナイルは古代エジプト語の河。ガンジスも、ヒンドゥー語で河。
テムズは、ケルト語で黒い河。ラインもケルト語で流れ。セーヌもケルト語で、ゆったりと流れる河。
                
インド・ヨーロッパ語では、川の名前には接頭辞のド、ダがついているそうだけど、ドナウを英語読みしてダニューブなんて呼ばれると、登別と同じで、もとの意味は不明。
             
ついでに、馴染みの地名を、メモ替わりに書いておくと、アルプスはケルト語でALP(岩山)、ヒマラヤはサンスクリット語でヒマ(雪)とアラヤ(ある)、チョモランマはチベット語で世界の女神、カンチェンジュンガは同じくチベット語で大きな5ッの雪の蔵。
           
今はチョモランマのことをエベレストって言わないのは、イギリス人の測量技師の名前に由来するそうだから、使わないらしい。でも、見る側から名前が違うのは、部外者には不便ですね。
エベレストを南から見ると、サンスクリット語でサガルマータ(世界の頂上)って呼ぶらしい。
こんがらかる。
         
地名の詮索は、「知性の浪費」だって言われるけど、退屈しのぎにはなるよ。