わが家で、美味いものを食う方法
             
この答は、簡単。
女房を美味いもの屋に連れていくこと。
美味いものを食ったことがないのに、美味いものを作るってのは不可能。当たり前の話。
         
でもね、吉兆に毎月、連れていくなんて、愚の骨頂。
だいたい、連れていくことすらも、愚の骨頂。
何でかと言うと、材料も、佇まいも全く違う。
無理をして一回きり、連れていっても、なんの足しにもならない。ただただ「材料が違う」で終わり。
敵は、何の反省もしない。それに、女房の口が奢るだけ。
                
うんと、下るけど、ステーキ屋と寿司屋に連れていくのも、これは材料だけが勝負なので、何の参考にもならない。僕は、テンプラ屋でも、二流の店に、連れていきました。
二流の店は、ネタも二流でしょう。二流のネタを、如何に美味く食わせるかの工夫ですよね。
だいだい、家庭で使う材料って、料理屋の水準では、二流、三流ですヨ。
一流の天麩羅屋は、ネタは最高。油は一回づつ捨てるんです。
こんなことを、家庭でやっていたら、不経済だし、油捨てるのは公害の元。
           
二流の店で評判がいい店では、二流のネタの工夫揚げをしているでしょう。
たとえば、冷凍の海老なら、紫蘇や、海苔を巻いて、ごまかすとか。
これは、女房には参考になる。この反対に反面教師っていう、手もある。
うちの女房が、一番ショックだったのは、イギリスで、レストランって名前の食い物屋に行った時。
「料理ってだいじねぇ。同じ材料を使っても、こんなに不味くなるなんて!」って感激(?)してましたね。
「イギリスには料理はない。お惣菜があるだけ」って言いますもんね。
              
世界中の不味いものの話をしても、始まりませんが、ドイツも質実剛健な国柄だけあって、美味しいとはいえませんね。
世界中どこでも、田舎に行くと困るのは、塩辛いことですね。
京都暮らしで慣れたせいもあるんでしょうか、僕は塩味のきついのは苦手でして、外国旅行をしても、ドイツのような塩辛い田舎風の料理は極端に苦手なんです。
             
田舎料理といえば、南ドイツ(高地ドイツ)を旅行してまして、旅行会話って小冊子を持ってました。
この手の旅行会話本には、一見気の利いた項目がありまして「名物料理をください」って会話。よく使う会話ですよね。
ところが、これが曲者。南ドイツは田舎ですから、名物料理はゼーンブ豚肉料理。
例の、それも、どこへ行っても、豚の腿肉の塩漬け。
ですから、馬鹿の一つ覚えの「名物料理をください」を繰り返していると、毎回塩漬け豚の料理を食べることになってしまいました。
2日もしないうちにウンザリ。
       
そのうちに、女房が「湖の多いところだから、淡水魚の料理があるはず」って言い出して、昼食に寄った店で、鱒料理を頼みました。
鱒って粋なドイツ語を知っていた理由は、シューベルトの歌詞から。
ところが、出てきた鱒料理は背開にして、ドバーと溶かしたバターが、溢れさせてある。
泣けたなぁ。
             
これに懲りず、その晩、英語が通じるホテルのフロントで聞いて、裏町のレストランに出掛けました。
地図と淡水魚のメニューを2、3書いてもらって。
ところで、ドイツでは、メニューのことをカルテっていうんですねぇ。
メニューは定食のことらしい。ややっこしいなぁ。
         
その店って、ホテルのフロントが予約しておいてくれただけあって、満席でした。
ところが、出てきた、淡水魚の料理は、何と!醤油味なんですよ。
このレストランは、ボーデン湖の南岸にあるリンダウって温泉場でしたが、お醤油味には感激しましたねぇ。
食い意地が張っているゆえんもあるんでしょうが、今でも覚えています。
           
感激して、店のマダムに「どんな醤油をつかっているの?」ってきいたら、キッコーマンのビンを出してみせてくれるんですよぉ。
「日本から取り寄せてるの?」って尋ねたら、ドイツ製だと、自慢されまして、もう一度、感激。
変な感激。
         
その後、日本のテレビの料理番組でも、洋食のソースに醤油を隠し味に使い始めたけど、魚料理には、醤油が最高。ホント。
そういえば、箱根の富士屋ホテルの名物料理・鱒のムニエルのソースも、醤油味でしたね。
              
料理の話なら、女房の奴、料理講習会に行った友達から、「正調のスペイン風パエジャ(パエリアとも)って、米の芯に一筋、固いところを残すんだって」、って聞いて帰ってきたので、
「バカ、海抜1000mのマドリッドで、蓋をせんで、飯炊いたら、芯にコッツンが残るんだよ」
って、知ったかぶりを言ったけど、あれ、本当だったのかなあ。自信ない。
            
あんまり、変な料理を食わすから、インド風パンのナンを、ポットプレートで暫く焼いてくれたけど、ヤッパリあれは、あの窯の余熱火で焼かないと美味しくないですね。何時の頃からか、彼女もやめてしまいました。
わが家で、美味いものを食う方法は「女房に美味いものを食わせること」って題したけど、あんまり変なものは食わせないほうが、いいみたい。
              
蛇足に、珍しい食い物の話を付け加えますが、パリのモンパルナス広場の近くに、クレープ屋があります。ここで、食べたのは蕎麦のクレープ。
ソバって、蕎麦ボーロでご存知でしょう、焦がすと、いい香りがします。
美味しいですよ。ブルターニュ名物。
一ぺん、ご自宅で試してみては? 作るの簡単。そば粉のドロ焼き。