ノイローゼ完治の実践技術、11.具体的な対応 18.目次 10.この方法を理解・実践する為の知識 12.段階的に治してゆく過程                          

対人恐怖の例(ある雑誌から)

 私は小さい頃から母に似て非常に神経質だった。また感受性が強く、些細なことでも傷つき、何事にも正面からぶつかっていくということはなかった。十六、七歳頃には対人恐怖になっていた。
 大勢の人の前やえらい人、女の人の前に出ると必ず赤くなった。そのため人前に出るのが極端にいやだった。高校通学も大変な苦痛だった。車内での人の視線が気にかかり、ラッシュアワーの時など身動きできない時は、本当に赤面してしまって恥かしかった。
 会社に入ってからはこのような性格が通用するはずがなかった。臆病で失敗を恐れたため、仕事に対しても消極的であった。そのうえ協調性もないため上司の注意をよく受けた。そんな性格のため何回も 職を変えることになった。
          

対人恐怖に対する方法

 大勢の人やえらい人、女の人の前に出ると必ず赤面するというのは、そういう場面になると、神経質 のエネルギーが強いため、このエネルギーから出るクセとして、ひとりでに症状となって表に現われて しまう。そしてこれは出るのを抑えようとしても難しい。
 この人は、どういう時に、どういう場面で赤面するか、自分でわかるはずだから、そういう場面になる前に、三十分くらい数をかぞえたり、祈ったりして、精神集中をして、心のエネルギーをある程度開放してから、対人関係の場面に臨めば、心のエネルギーがより効果的に開放される。
 また人に会う前からプレッシャーがかかったら、それも神経質の兆候だから、その時から、精神集中行動をしなくてはならない。
 また、人と対面している場合は、その時にできる精神集中行動を行う。その人と対話しなくてはならなかったら、精神集中して話を聞き、精神集中して話をする。みんなで一人の人の話を聞く時も、精神集中して話を聞く。
 その場所になんとなくみんなといっしょにいなくてはならない時、そういう時がつらいという人もいる。そういう時は、部屋の中の文字の書いてあるところを何度も読む。数をかぞえる。祈る。そうして、たえず心のエネルギーを開放し続けるのである。
 話をする時、また、話を聞く時は、切り替え精神集中はできないから、その事に精神集中し、他の時は、文字を読んだり、数をかぞえたり、祈ったり、その時できる精神集中行為をするのである。また毎日の生活を創造的なものにすることも大切である。
 会社での私の場合前の部署にいた時に、月に一度くらい朝礼当番がまわってきた。百人くらいの人の前で話をするので、非常にプレッシャーがかかることもある。そういう時はいつも心の中で数をかぞえたりして、充分精神集中を行い、心のエネルギーを開放してから、朝礼をするようにしていた。

不潔恐怖(手洗い恐怖)に対する方法

 不潔恐怖(手洗い恐怖)に対する方法については(9「心のクセ」から応用) のページの下部の方に述べてあります。            

雑念恐怖の例(ある雑誌から)

 私がもっとも苦しんだのは司法試験の論文式を前にした時であった。択一式の合格発表後、必死で勉 強を開始した。初めは調子が良かったが、不得意な科目の勉強を始めた頃から急に本が読めなくなった 。字づらのみを追い全く内容が頭に入ってこない。家庭の事情等からなんとしても今年は合格したかっ たので、どうしたらいいのかわからなくなってしまった。
 そのうち「なぜあの時勉強しなかった」等の自分を苦しめる雑念が次から次へと浮かんで来て全く本 が読めなくなってしまった。私は雑念をなくそうとしながら必死で勉強した。しかし駄目だった。
 夜は眠れず、早朝近くの山を彷徨した。昼は放心状態で本を眺め、意味のない文字をノートに書きな ぐった。論文試験五日前に勉強を放棄した。私の合格を期待している老いた父母を思う時涙がとめども なく流れ、二年間死にもの狂いで勉強したのにと思うと無念でならなかった。
            

雑念恐怖に対する方法

 勉強の時雑念が湧いて勉強に集中できないという症状はよく聞くことだ。しかし切り替え精神集中法 で治すとすると、この場合もっとも治しやすい。なぜなら勉強という精神集中を必要とする行動が心の 切り替えの後に続くからだ。
 雑念が湧いてきたら神経質者はこれを消してすっきりした頭で勉強しようと意識によってはからう、そのため雑念を大きくしてしまう。ではどうすればよいか。
 雑念が湧いてきたら心を切り替え祈ってからその勉強に集中する。そうして勉強に集中し少し時間が たてば雑念はなくなるはずである。この心を切り替えて精神集中してから(心の切り替えだけでだいじ ょうぶだったらそれでも良い)勉強するということを雑念が湧いてくる場面、場面で実践する。そうす れば自然と雑念のノイローゼ症状はなくなるはずである。
 また雑念症状は治っても他のノイローゼ症状となってあらわれる可能性もあるから、その場合は、同じ要領で、そのノイローゼが出るたびに心の切り替え、又は切り替え精神集中を実践する。
 そうして、完全完治させる為に、創造的な生活というようなことを心掛けなくてはならない。
 雑念恐怖の人は勉強する前に頭をすっきりさせようとすると言ったが、人間の頭は勉強する前はすっきりしなくとも勉強することによってすっきりさせることができるものなのである。
 私は自分の気持がゆるんでいたり、心のエネルギーが溜まっているのを感じた時は古典とよばれる文 学作品等などを読む。一時間位読むと気持がひきしまりすっきりした心境になる。
           

加害恐怖の例(ある雑誌から)

 僕は高一の時、学習係をしていて試験の範囲を間違えて級友に知らせてしまった。誰でも失策はある のだと自分に言い聞かせたが、非常に迷惑をかけてしまったといった感情は消えなかった。
 それ以来自分が悪人のように思えてきて、小学校の頃、僕に悪口を言われた子が悲観して沈みこんで いるのではないか、自転車でぶつけてしまった幼児が今頃かたわになっているのではないかなどと過去 の失策が次々と浮かんで来た。
 僕の神経症はこのような加害恐怖である。それから更に不正恐怖、不完全恐怖等次々と症状が出てき た。大学病院で数十回精神カウンセリングを受け、さらに一年近く入院したが、症状は一進一退であっ た。
           

加害恐怖に対する方法

 この文章を読むと非常に弱気のエネルギーをもっていることがよくわかる。悪い方へ悪い方へと考え が傾いてしまう。取り越し苦労の典型である。ではこの人はどうすればよいのだろう。それは以前の対人恐怖の人と同様に、心を切り替えて精神集中を行う。
 この文章の場合から具体的に言うと、試験の範囲を間違って教えてしまい非常に迷惑を与えてしまっ た、という感情が起きてきた時に心を切り替えて精神集中を行う。
 同様に僕に悪口を言われた子が悲観して沈みこんでいるのではないか、という感情がおそってきた時、自転車でぶつけてしまった幼児が今頃かたわになっているのではないかと、いう感情が出て来た時に、心を切り替えて精神集中を実践するのである。
 ノイローゼ症状としての感情がおそってくるたびに、心の切り替え精神集中や心の切り替えを実践す る。そうしてノイローゼ症状を消滅させる。創造的生活をして心のエネルギーを開放するのは他のノイ ローゼ治療の場合と同じである。
           

尖端恐怖の例(ある雑誌から)

 私はちょうど二年前、ある刀剣類の展示会を見に行き、その刀を見ているうちに発作が起きたのです 。両手が痺れ蒼白になり身体が震え、その上展示されている刀を振り回したい衝動にかきたてられたの です。
 それ以来刃物はすべて恐ろしくなりました。もちろん家庭内にある包丁(尖端がある)、鎌、ナイフ 等、あげくは金物店で飾ってある刃物及び魚屋、八百屋、その他の店で使用している刃物まで恐ろしか ったのです。
 特に家にある包丁は尖端が丸味の物に換え、私は台所に入らないことにしていました。また、その他 の切れ物は親の方に移してしまいました。というのは、発狂して、衝動的に人に危害を加えないかとい つも不安だったからです。
 死に対する恐怖もあり、自殺、他殺、狂気という文字を新聞、書物やテレビで見たりすると、自分で もこのような行動を起こしはしないかといつも非常に心配で、不安と恐怖の連続でした。
            

尖端恐怖に対する方法

 この人の症状は私にもよく理解できる。私も、似たような症状をもっていたから、どのノイローゼ症 状の人にも共通することだが、他の人は何ともないのに私だけがなぜ、と考えてみるのも原因がはっき りわかってよいと思う。この人の場合も、他の人は刀剣類を見て何ともないのになぜ私だけが、と深く 考えれば良いと思う。
 この人の症状の治療の実践要領も、他のノイローゼ症状の場合と同じである。 刃物等を見て、その 時おそってくる感情(心のクセ)を切り替えて精神集中を行う。その実践をくりかえす。そうやってノ イローゼ症状をなくすとともに、ノイローゼ的素質エネルギーを和らげてゆく。そのために普段から創造的生活を心がける。
            

書痙の悩み

 今私にとって一番苦しいのは、人の前で文字を書く時、また文字を書かなくてはいけないと思った時 で、心臓がドキドキし、頭から血の気がひいていくような気がし、指先が震えてどうしようもなくなる 。
自分一人の時はふつうに書けるのに、人前ではどうしてこうなってしまうのかと思い困惑している。
            

書痙に対する方法

 書痙の症状を克服するのはどうすればよいか、このヒントを剣の達人が与えてくれる。
「剣客が、敵と相対して立つ時、自己も思わず、また敵の剣の動きにも気を止めぬのだ。ただすっと剣を持って立つ。さまざまな剣技もさらに念頭になく、彼はただ無意識の声に従うのみ、自分が剣をもって闘う者であることも没却してしまう。
 そこで振りおろす一刀は人が斬るのではなくて、無意識の手のうちにある一刀がみずから斬るのであ る。
 一刀の下に相手を倒した剣客が、自分が斬ったことにも気が付かなかったという当時の話が残って いるが、これは無意識の働きをよく物語っている。剣の場合のみならず、こうした無意識の働きという ものは、実に絶妙と言うよりほかはない」(禅と精神分析より)

 剣を使うのもペンを使うのも要領は同じである。つまり、自分が書くというよりも、自分の無意識に 書かせるのである。無心の状態でペンを動かす。ではどうするか。書く前に夢中で精神集中を行う。書 きながらもその状況に応じて精神集中して書く。
 考えながら書く場合は、別になにもしなくても、その事に精神集中して書けばよい。書いてあるものを別の紙に写すような時、また頼まれて人前で書くような時等は、数をかぞえたり、祈ったり、精神集 中をしながら書く。自分が無意識と一体になって、ひとりでにペンが動くようになるのが理想である。
           

万引癖の治し方について

 万引癖のある人を、よく心の病気だという。万引したことを見つかり、その人がもう絶対にやるまい と決心する。しかし買物に行き、店に並んでいる商品を見ると、万引したい欲求が心のクセとしておき てくる、まさにある意味では病気なのである。これでは買物に行けなくなってしまう。
 しかし、これも心のクセと理解し、万引したい欲求がでた時に、心の切り替え精神集中をし、その欲求の感情を追い出してしまうのである。そしてこの実践を繰り返せば、万引欲求の感情も出なくなるで あろう。
           

子供への虐待をやめる法

 どうしても子供への虐待がやめられないという人がいますが、やめる方法は、神経症を治すのと同じ要領です。殴りたいというような感情が起こってきたら、心を切り替えて精神集中行動をするのである 。本を読んでもよい、ものを書いてもよい、そういうふうに、別の方行に注意を向け、精神集中するこ とによって、殴りたいというような感情を流してしまうわけである。
 そうして、この虐待したいという感情がおこるたぴに、この実践を繰り返すわけである。何十回もこ の実践を繰り返せば、症状も弱まってくる。そうしたらそれなりに実践して、完台させればよいわけで ある。
        

すべては切り替え精神集中法の応用

 具体的症状に対する方法はわずかしか説明していないけれども、いくつ例題を出しても方法は同じな のだ。すべては切り替え精神集中の応用なのである。
 関係念慮の症状を持っている人は、他人に悪口をいわれているような気がするという感情におそわれ る。そういう気持がおきてきたら、心を切り替えて精神集中(祈ったり、数をかぞえたり、その他何で もその時できる精神集中行為)を行う。
 閉所恐怖の人は狭い場所へ行ってそういう気持になったら、疾病恐怖の人で心臓病恐怖の人は、心臓 がドキドキしてきたら、夢中で精神集中行為を行う。精神病恐怖の人は、気が狂うのではないかという 感情がおそってきたら、切り替え精神集中を行うのである。こうして、すべての症伏を消滅させてしま うのである。
        

重症の人には深い思索の必要な課題を

 ノイローゼのために、もうずっと寝たきりだというような人もいる。そういう人は、むずかしい問題 、深い思索を必要とする課題を与えて、心のエネルギーを開放させ、一時的にノイローゼ状態から脱出 させてから、切り替え精神集中の実践をさせる。
 どういう重症の人でも、ノイローゼであるかぎり、三日間ぐらいむずかしい間題を考えさせれば、一 時的には神経症から脱出できる。むずかしい数学や科学等の問題や知的なゲーム(詰将棋・詰碁〉、ま た座禅などととりくませる。座禅の場合、その人と健康な人とはどこが違うのか等を考えさせれば、は っきり答が頭に浮かんでくるはずである。
 最初に、数学やゲームの問題など知的な事にとりくませるのは、そういう行為が心のエネルギーの開 放に最も効果的であり、早く心のエネルギーが開放された状態になることができるからである。そして 、その目標は一時的にノイローゼを治してしまうことを目的としている。
 なにもないへやで、むずかしい問題だけを与え、五日間もとりくんでいると、たいてい、一時的にノ イローゼは治ってしまう。最初から数学等の知的な問題にとりくませても、患者はとりくめないと言う かも知れない。しかしその問題を最初は眺めているだけでよい。
 人間の頭というものは一度に一つのことしか考えることはできない。自分のノイローゼ症状で頭がい っぱいのままでも、問題を何時間も眺めて少しずつ問題を解こうと努力すると、エネルギーは自然と問題の方へ向いていくものである。
        

すべてのノイローゼに共通の治療法

 今まで、対人恐怖や加害恐怖等の、ノイローゼ症状の一つ一つの例をあげ、治療の方法を説明してき た。この本で説明したのは五種類だけだったが、もっともっとたくさんの種類があり、そして一人で数 種類の症状をもっている人も中には居る。
 そうしてたくさんの患者の症状の述べてあるものを読むと、どこか似ているというか、共通点のよう なものがあることに気づく。それは患者が皆、非常に神経質であるということであり、その神経質のエ ネルギー(弱気のエネルギー)を中心にして、他のエネルギー等とからみあって、ノイローゼ症状とな り、苦しんでいると考えられる。
 この心のエネルギーはなくすことができないから、一時的にだけしか治すことのできないノイローゼ治療法では、再発や転移がおこるのである。
 ノイローゼを完全完治させる為にはこの神経質のエネルギーを開放し続けなくてはならない。ノイロ ーゼ症状が出るたびに、心の切り替えや切り替え精神集中を実践し、このエネルギーを開放し、和らげ てゆく、そうすれば一つ一つのノイローゼ症状はなくなり、また、ノイローゼにならないような性格も 少しずつつくられてゆく。
 この心のエネルギーを和らげるというのはなかなか簡単ではない。心の切り替えや切り替え精神集中 が治療の中心となるが、完全完治をさせ、さらに予防の為にも、心のエネルギーをたえず開放し、弱気 のエネルギーを和らげなくてはならない。そのためには創造的な生活というか、心のエネルギーの流れを留めないような生活を心がけなくてはならない。
 ノイローゼを予防すること、心の平和を保つことは、何もしないでおれば良いということではない。 たえず心のエネルギーを開放する努力をしなくてはいけない。もし何もしないでぼんやりしておれば、 心のエネルギーは溜まってしまいノイローゼになりやすくなる。
 ノイローゼは精神病院でなにもしないで安楽に生活していては治らない。治ったようにみえても少しも良くなっていないのだ。ノイローゼの根治の為にはノイローゼの症状を治すだけでなく、創造的な生 活をして神経質のエネルギーを和らげるということも大切な要素なのだ。
 数学者や科学者などが精神的に健康なのは、絶えず創造的行為をして心のエネルギーを開放しているからである。