魂を貪るもの
其の七 浮上
5.相応
 

 『ナグルファル』の正面玄関前で、ちとせたちは悪魔たちの盛大な歓迎を受けた。
 ヘルセフィアスの残留思念ほどの強烈な瘴気を持ったものたちではなかったが、気の抜ける相手でもなかった。
 怒涛のごとく襲い掛かってくる敵を、力を合わせて薙ぎ払う。
 先頭をシルビアが駆ける。
 正面玄関の最新セキュリティを施されているはずの自動ドアは来るものを拒む気もないように簡単に彼女を迎え入れた。
 続いて、ラーン、真冬、ちとせ、悠樹と順に『ナグルファル』へと侵入を試みる。
 殿を努めていた鈴音が援護を受けながら莫大な数の敵を一閃して内部へと飛び込むと同時に、悪魔たちが後を追って来られないようにちとせが自動ドアに封印を施した。
 息を整えながら、一行が周りを見渡す。
 『ナグルファル』の内部は外の喧騒とは打って変わって、静寂に包まれていた。
 最新セキュリティが施されているはずの建造物であるにもかかわらず、ちとせたちの侵入に対して何の反応も起きる様子がない。
 足音だけが人気のないエントランスロビーに響き渡る。
「地下は研究施設と鍛練場のブロックに分かれてる。地上階の一、二階は事務関係、それ以上は研究施設だ。最上層には総帥室がある。異空間化がされていなければ、という前提だがな」
 『ナグルファル』の間取りを説明を口にしたのは先頭を歩くシルビアだ。
 元幹部であるシルビアとラーンは『ナグルファル』の構造を熟知している。
 だが、それがそのまま通用するとは限らない。
 以前にちとせたちがユグドラシルに飲み込まれた『ヴィーグリーズ』の超高層ビル『ヴァルハラ』に乗り込んだ際も、世界蛇ヨルムンガンドの結界によって現世から隔絶された異空間へと変貌されていた。
 『ナグルファル』にも異空間化の結界が張られないとは言い切れないし、何より『魔界』浮上の影響で構造が変化している可能性もある。
「ソレに『レーヴァテイン』がドコにあるか、だな」
 シルビアが肩をすくめる。
 最大の問題は『レーヴァテイン』の所在を掴んでいないということだ。
 魔剣の放つ莫大な魔力は、全員が確かに感じられていた。
 だが、その魔力の巨大さゆえに、漠然とした場所――この『ナグルファル』内部にあることしか感知できていなかった。
 そして、『レーヴァテイン』の魔力と『魔界』の瘴気のせいで、歴戦の退魔師である鈴音でさえもこの建物内にいるだろうランディ・ウェルザーズやシギュン・グラムなどの幹部の霊気をも感じることができなくなっていた。
 しかし、このエントランスロビーの奥から仲間たちとは違う気配が近づいてくることには気づいた。
「気をつけろ、何か来る」
 鈴音の言葉に頷いて、ちとせたちが周囲に警戒を走らせる。
 重い足音を立てながら姿を現したのは、雄大な肉体を誇る一人の男。
「ジーク!」
 シルビアが立ちはだかる男の名を口にし、ラーンが彼へ確認するように問いかける。
「あなたが最初の関門ですか?」
「おう」
 ジークは短く返答し、太い両腕に血管を浮き上がらせ、胸の前で拳を合わせた。
 開放された闘気が大気を震わせ、少女たちの肌を打つ。
 研ぎ澄まされた、それでいて、重厚な闘気。
 そして、その闘気を発するのは、純粋に闘うことだけを考え、強くなることだけを目指して鍛え上げられた肉体。
 ジークという人間自身が、まるで、難攻不落の要塞のようにも見える。
「まさか一人で、しかも素手でやるつもりかい?」
 鈴音が腰に帯びた細雪の柄に手を掛けながら、全身に闘いへの緊張を張り巡らせる。
 以前に猫ヶ崎樹海で鈴音と渡り合った時とは違い、ジークは徒手空拳であった。
「オレの得物はおまえに壊されてしまったからな」
 筋肉の鎧を揺らし、苦笑しながら応えるジーク。
 以前の戦いで彼の大剣は鈴音に破壊されてしまった。
 優れた破壊力を持つ武器であると同時にジークの肉体から繰り出される攻撃力の反動に耐えられるだけの業物でもあった。
 見合う武器はまだ見つかっていなかった。
「だが、おまえには言ったはずだ。オレの最強の武器は己の肉体だと、な」
 膨大な筋肉の埋まった鋼の肉体は、それだけでも恐るべき破壊を発揮する。
 しかも、ジークの身体は霊気を吸収してしまうという特異能力さえ保持している。
 猫ヶ崎樹海での戦いでは鈴音も苦戦を余儀なくされた実力を持っている。
 だが、この場にいるのは鈴音だけではない。
 純粋な霊気で戦う鈴音とちとせはジークとの相性が悪いが、悠樹には風、シルビアには雷、ラーンには水、真冬には炎を操る力がある。
 ヘルセフィアスとの戦いで消耗している真冬を戦力外としても、『ヴィーグリーズ』の戦闘系幹部でもあったシルビアとラーンの力はそれを補って余りある。
 鈴音一人に敗れたジークが、ちとせたち全員を相手に単独で戦ったところで勝機はないのは明白だ。
「それと、オレとておまえたち全員を相手に一人で戦うほど無謀ではないよ」
 ジークの言葉にラーンがハッとする。
 『ヴィーグリーズ』の幹部で現在、この『ナグルファル』にいるだろう顔ぶれの中、ジークと肩を並べて戦う人物で思い浮かべられるのは唯一人。
「……老、ですか?」
「その通り」
 しわがれた声が響き渡る。
 そして、ゆっくりと、ジークの背後から老人が姿を現した。
 シルビア、ラーン、そして、真冬が息を呑む。
「待っていたぞ、シルビア、ラーン。それに、シンマラ」
 姿を見せた老人――ファーブニルが、大木のようなジークの横に並ぶ。
 見上げるような巨漢であるジークに比べれば、その枯れた肉体は貧弱に見えるが、その身に宿る魔力の強大さをシルビアたちは知っている。
「ラーン」
 『ヴィーグリーズ』から師が去った後、保護者のように接してくれたかつての同志を目の前にして、シルビアが一歩前に出る。
 愛剣であるフランベルジュを抜き放ち、視線と声だけを背後の相棒に向ける。
「戦えるか?」
「……私たちは、そのために来たのよ、お嬢」
 ラーンがランスを一振りして、切っ先をあえてファーブニルに向ける。
 シルビアは静かに頷いて、その燃える眼差しを恋人からファーブニルへと向け直した。
 愛剣フランベルジュに電撃が迸る。
 臨戦態勢に入ろうとしている愛弟子たちの後ろで、真冬は沈黙したまま、ファーブニルを凝視している。
 その表情は、厳しい。
 だが、しかし、その厳しさは、己自身に向けられたもの。
 各々の武器を老人に向ける少女たちと、思いつめたような真冬の表情を見て、鈴音が大きく息を吐いた。
「真冬、あの筋肉野郎は、あたしたちに任せな」
「……頼みます」
 真冬は振り向かずにそれだけを言う。
 その返答は短い。
 しかし、『ヴィーグリーズ』を抜けた後に愛弟子を後見してくれた老人と対峙することへの責任感が、その一言に重さを与えていた。
 それを敏感に感じ取ったちとせは自分の相棒の肩をポンッと叩く。
「悠樹、センセたちの戦いには手出し無用だね」
「わかってるよ」
 悠樹は頷いて、風を纏う。
 ちとせもその身に美しき芸能の女神を降ろす。
 少年から吹き上がる風は肌を打つように大気を乱し、少女の身体に降りた光は眼を焼くような輝きを放つ。
 だが、ファーブニルの視線は、赤き雷光と青き清流の異名を持つ少女たちと、その二人の師である黒髪の女性にだけ向けられている。
「ジークよ」
「どうした、ファーブニル?」
「かまわんのだな?」
「気にするな、死闘はオレの望むところ。そして、老よ、戦うしか能がないとはいえ、オレも『ヴィーグリーズ』の幹部だ」
「すまぬ。感謝する」
 ジークの返答に頷いた後、ファーブニルは厳かさを感じさせるゆっくりとした動きで枯れ枝のような右腕を高々と掲げた。
 その手に莫大な魔力が、パリパリと電撃の弾けるような音を伴って収束していく。
 そして、それが戦いの始まりの合図となった。

 最初に動いたのは、ジークだった。
 規格外のパワーを備えた雄大な肉体を砲弾に変えて、大股で突撃してくる。
 狙われたのは、鈴音。
「ッ!」
 ジークの突進は鈴音の反応できない速度ではない。
 すでに左手は腰の鞘に、右手は細雪の柄に添えられている。
 閃光が走る。
 すべてを切り裂く退魔刀による神速の居合い。
 それがジークにとっての致命傷にならないことは知っている。
 カウンターで放った刃は、ジークの豪腕によって簡単に防がれてしまう。
 霊気を吸い取られる軽い虚脱感が、鈴音を襲う。
 そこへジークの太い脚から蹴りが繰り出される。
 それは細雪を握る鈴音の右手の甲に突き刺さった。
「ぐっ……ッ!」
 衝撃と虚脱感で握力が弱まる。
 そこへ、間髪いれずに追撃の回し蹴りが放たれる。
 刃の腹を打ち抜かれ、蹴り飛ばされた細雪が空中を舞う。
 細雪は鈴音にとって手放すことのできない大切な、両親の、そして、姉の形見。
 その想いは戦いの最中だというのに、宙へ打ち上げられた刀を視線で追わせてしまった。
 むろん、鈴音はそれをずっと眺めているようなことはしない。
 視線を敵から外したのは一瞬。
 だが、それがジークにとっては絶好の機会となった。
 しなやかな拳脚が鈴音の全身へと乱舞する。
 しかし、同時にジークの舌打ちが響き渡った。
 乱打を鈴音は急所に一撃も受けていない。
 鈴音は咄嗟に両腕を交差して、完全な防御の姿勢を取っていた。
 打ち込まれる拳脚の一撃一撃によって確実に霊気を吸い取られてはいるものの、打撃自体の衝撃は鉄壁のガードによって阻んでいる。
 ダメージは致命的なものには至っていない。
「らあぁぁぁっ!」
 無数の打撃音を消し去るような雄叫びが、鈴音の耳に聞こえてきた。
 悠樹が風を纏って突撃してくるのが見える。
 風の不定形な力は、鈴音の直接的な霊気の攻撃より防ぎにくいだろう。
 だが、ジークに焦った様子はない。
 巨漢の戦士は呼吸を整え、経絡を通して闘気を四肢に巡らせる。
 周りの床が闘気の上昇による圧力で陥没する。
 振りかぶった拳が鈴音に向かって解き放たれる。
 渾身の一撃。
 闘気の込められた拳は、今までのものとは威力が違った。
 ガードに徹していた鈴音の両腕が弾かれ、体勢が崩される。
 揺れる鈴音の視線の先で、ジークが悠樹の突撃を避けてカウンターの拳を顔へ突き入れるのが見えた。
「うっ、ぐっ、……あっ!」
 強打を頬に打ち込まれた悠樹が、錐揉み回転しながら吹き飛ばされる。
 さらに、ジークは自身の後方に向かって右の拳を突き上げる。
「ひょえっ!?」
 そこにいたのは、ちとせ。
 悠樹の突撃に合わせたちとせの奇襲をジークは見抜いていたのだ。
 ちとせの目の前をジークの右腕が轟音を立てながら通り過ぎる。
 拳撃がちとせの額をわずかに掠り、前髪が何本か舞い散る。
 途端に、ちとせの身体が揺れた。
 額への衝撃で脳が揺れ、さらに霊気を奪われる逆らいがたい脱力感に脚の力が抜けたのだろう。
「ちょっ!?」
 膝から地面に落ちたちとせの頭を、ジークが鷲掴みにして持ち上げる。
「ぬぅん!」
 そして、鈴音に向かってちとせを投げつけてきた。
「ちとせ!」
 鈴音は避けない。
 不利になることを承知で、少女の身体を受け止める。
「ぬっ!?」
 追撃しようと一歩踏み出したジークが唸り声を上げる。
 空気の渦が左腕に纏わりついている。
「これは……」
 渦巻く風の刃が豪腕の皮膚を切り裂き、血が吹き出す。
 その後方で脚をふらつかせながら立ち上がる少年をジークが睨みつける。
「殴られながらもカウンターを入れてくるとはな。さすがに老と渡り合っただけのことはある」
 ジークの視線を透明な瞳で受け止めながら、悠樹が唇の端から滴る血を手の甲で拭う。
 殴られた瞬間、悠樹はジークの左腕に風を纏わりつかせていたのだ。
 風によって刻まれた傷は皮膚を切り裂いた程度の浅いものだ。
 だが、虚を突かれたジークは行動を遅らされた。
 鈴音もちとせもすでに立ち上がっている。
 致命的な追撃こそ悠樹の機転で阻むことができたが、ちとせと悠樹は一撃ずつダメージを受け、鈴音もその手から細雪を奪われてしまった。
 ジークにとっては大きな戦果といえるだろう。
「女の子の顔を鷲掴みにするなんて!」
 ちとせが額の血を拭い、荒い息のままジークに抗議の声を上げる。
 だが、ジークは悠然とした態度を崩さない。
「相手が誰であろうと常に全力で戦うのが礼儀というものだ」
「うわっ、ボク的には相手をするのが困るタイプだね、これは」
「めんどくせぇ野郎だろ?」
「嫌いじゃないけどね」
「あたしも嫌いじゃないんだけどな」
 ちとせのジークへの評価を聞いて、鈴音が苦笑する。
 そして、前髪をかきあげ、ジークを睨みつける。
「筋肉ダルマ、六対一から三対一になったし、あたしから細雪を離しはしたが、まだ分は悪いぜ?」
「百も承知」
 ジークは深くと頷いた。
「特に人数の不利は足止めの役をファーブニルから頼まれた時から覚悟している」
「テメーが立ちはだかるのは『ヴィーグリーズ』のためじゃないのかい?」
「むろん、『ヴィーグリーズ』のためにもここから先に行かせるつもりはないさ。ただ、この場でおまえたちを迎え撃つ動機は、ファーブニルのためだ」
「……やっぱ、めんどくせぇヤツだぜ」
 鈴音は大きく息を吐き、空手になった両腕で構え直した。

「わたくしもそう思います」
 唐突に妖艶な声が響き渡った。
 淫靡な旋律に濡れた声は、全員に聞き覚えのあるものだった。
「ミリア・レインバック」
 ジークが不愉快そうに眉を跳ね上げる。
 巨漢の戦士の後ろに、黄金の髪を持つ『ヴィーグリーズ』総帥の第一秘書が姿を現していた。
 秘書という理知的な肩書きとは裏腹の、濃厚な色香を振りまく、タイトなロングスカートのスーツ姿。
「何をしに来た?」
 ジークの声には援軍を得たというような有り難味はまったくなく、逆に当惑の響きが強い。
「もちろん、遊戯をしに」
 "夢魔"セイレーンを正体に持つ女悪魔は艶かしい視線で、ジークの巨体を見上げた。
 その淫靡な視線に嫌悪感を覚え、ジークは苛立ちを隠すことなくミリアを睨みつける。
「遊戯だと? ふざけるなッ!」
「釣れないわね」
 ミリアが妖艶な微笑を浮かべ、右腕を水平に掲げる。
 そのしなやかな指先に銀色の光が集まり、虚空から物体が出現する。
 美しき輝きを放つ白銀の竪琴。
 現代的な秘書スーツに身を包んだミリアの腕に、時代を感じさせる銀の竪琴が違和感もなく収まった。
「策を弄するつもりか、レインバック!」
「策なんて呼べるほどものではなくてよ。わたくしは相応の相手に振り分けるだけ」
 戦いに横槍を入れられる怒りに吼えるジークを軽くいなし、ミリア・レインバックの細く美しい指が竪琴の絃に触れる。
「この『避けられない戦い』を、ね」
 ミリアが喉で笑い、音色を奏で始める。
 悠樹の顔色が変わった。
 小刻みな震動。
 大気が揺れ始めている。
「鈴音さん!」
 鈴音へ注意を促す叫びを上げながら、悠樹自身はちとせへ向かって風の翼を纏って飛ぶ。
 同時に不可思議な音色がエントランスホールに鳴り響いた。
 空気が弾ける。
「レインバック!」
 怒気を帯びた目で、ジークが金髪の夢魔を睨みつける。
 ミリア・レインバックの濡れたように紅い唇が笑みの形を刻む。
 空気の振動が激しさを増し、エントランスホール全体に広がった。

「ちとせ、悠樹!」
 振動で生じた歪んだ空気が生き物のようにうねり、ちとせたちを隔て、さらにファーブニルと真冬たちの姿をも鈴音の視界から奪う。
 それだけに留まらず、歪んだ空気の壁は轟音を立てながら、四方から鈴音を取り囲んだ。
 鈴音は舌打ちして、迫り来る壁へ霊気球を放った。
 壁はあっけないほどに簡単に消え去ったが、戻ってきた視界には、ちとせたちの姿はなかった。
「レインバックめ、姑息な真似を」
 不満そうな表情のジークの姿が確認できたものの、ここはエントランスホールではないようだ。
 鈴音は前髪をかきあげ、ため息を吐く。
「迎え撃つ方としては分断するのは常套手段。少人数で迎え撃とうってのが、おかしいんだよ。孤立させられたあたしが言うことでもないけどな」
「レインバックの手段が有効なのは認めるが、唐突に場に現れ、掻き乱した悪趣味さに腹が立つのだ」
 ジークがゆっくりと近づいてくる。
 鈴音は細雪を手放されて徒手空拳となっている両腕で構えを取り、迎え撃つ態勢を整える。
「あのサド秘書は相応の相手を用意するって言ってたな。そんで、あたしの相手はおまえか」
「ファーブニルがシンマラたちを相手にすることになっているだろう。レインバックの言葉を信じればの話だが」
「……そうなると、あたしは急がなけりゃならないってことだな」
「急ぐ?」
「ああ」
「オレを倒し、『ナグルファル』を単身突破し、ランディさまを止め、『魔界』浮上を防ぐか?」
「バ〜カ、まずはちとせと悠樹を助けに行くんだよ。『魔界』浮上も阻止するけどよ」
「オレの相手がおまえ、そして、ファーブニルの相手はシンマラたち三人。となれば、降魔師の少女と風使いの少年の相手は……そういうことか。それで、急ぐか」
「おうよ、放っておけないんでね」
 鈴音の頭に浮かんだちとせたちの相手はただ一人。
 ――"氷の魔狼"シギュン・グラム。
 二対一でも勝てる保証のない強敵。
 ファーブニルとの対面を望んでいる真冬たちとは事情が異なる。
 ちとせは一方的に狙われているのだ。
 無論、『魔界』の浮上も止めなくてはならないが、迫っているだろうちとせの危機を無視できるはずがない。
 両目に闘志の炎を灯す。
 それに呼応するように鈴音の全身から青白い霊気が噴出し、大気を震わせた。


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