京の日常
−其の四 悪夢と血と憎悪と復讐−



−猫ヶ崎市内−


 一人の女性がゆっくりと猫ヶ崎市を目指していて歩いていた。  街の人々は一目みて側から離れて行く。
 その服装によって誰も近づいていないのがよくわかる。
 もう夏本番だというのにロングコートを着ている。
 帽子も黒。サングラスも黒。服も黒。すべて黒……。
 誰にも口を聞かずただひたすら歩く。
 そして……。


「ここか……」


 一時間後、彼女は目的の場所につく。


「神剣<草薙>がある場所」


 目の前にある家……草薙流分家、京の家だった。


−猫ヶ崎高校−


 その日は午後から雨が降ってきた。
 空は黒く、時おり雷がなっている。
 こんなときでも授業はちゃんと行われる。
 つまり、嫌いな数学の授業でも、好きな授業だってある。
 何が言いたいというと……。


「なぜ文系の僕が数学のテストしなきゃいけないのか? 数学だけはどうしてもやめて欲しい」
「京の点数が悪いだけでしょ」
「でも、納得いくかい?」
「ぼくはある程度取れるけど、香澄先輩みたいには……」


 満点……一生ありえない点数だよな。
 今日は数学のテストがあり答えあわせをしていた。
 僕の成績は中の下。ちなみに七瀬さんは中の上。
 そして七瀬さんの知り合いである香澄さんは上の上。
 二年生ですでに学内トップクラスだとか。
 なんか……くやしいような。
 かわいくてて、頭良くて、天は二物を与えているよ。


「どうやったら点が取れるか」
「勉強やるしかないよ」
「そうだね」


 昼休み、友達とご飯を食べていたときに変な話を聞いた。
 最近、この街で人がいなくなっているという話。
 名のある霊能力者が消えていっているとかいう。
 その時は何も思わなかったが……。


−自宅−


 辺りには炎が飛び散り家が燃えている。
 火事だと近所は騒いでいる。が、二人には関係ない。
 男性と女性が会話を交わす。周りには炎がひしめている。
 だが、何もないように平然と会話をしている。
 男性は攻撃を受けたのか服はぼろぼろになっており、赤い血が出ている。
 女性は何も傷も埃もついていない。
 あるのは返り血……。


「あの剣はもうここにはない」
「戯れ言を……」
「神社に収めている。封印をかけてじゃ」
「………」
「何が目的じゃ?」
「………お前には関係ない」
「……ついに人の心までもが消えてしまうのか」
「人の心? なんだそれは」


 刀を抜き、そして男性に突き刺す。
 両足、両手すべてに血が吹き出てくる。


「これで草薙流もお終いだな」
「京の奴も殺すのか……」
「お前には関係ないことだ」


 その時、紅蓮の炎が二人を囲む。
 数十分後、火は消し止められた。
 が、誰も家にはいなかった。
 結局、放火事件として警察は調べることになる。


−放課後−


「なんだって?!」
「あなたの家が火事になったのよ」
「親父は?」


 桜花先生は空しく首をふるだけだった。
 親父は行方不明……。
 まあ、あの親父のことだから大丈夫だと思うが……。
 この報告を聞いてから何かが起こるような気がしてきた。
 平和な街並みに悪夢が襲い掛かってくることが……。




 側には闇があった。
 何事も光が届かない闇がそこにはある。
 神剣<草薙>を片手に持ち、口につける。
 血が滴り落ちて口に入る。が、おいしそうに舐めていく。


「妾の力は後少しで完全にもどる」


 彼女は笑う。


「ふふふふふふふふふふふふふふふふ……」


 冷酷な笑み。


「この街にはイイ霊力が多い」


 すべてを復讐のために費やす。
 止められた時間を取り戻すように動き出す。
 血はしたたり、裸体にべっとりとついている。
 赤き目は獲物を狙う。
 彼女はまだまだ獲物を追いかける。
 自分の力が完治するまで。復讐を遂げるために。


−猫ヶ崎公園−


 女性はここである友を待っていた。
 公園には誰もおらず、ただ一人立っている。


「遅くなってすまない。霧刀……」
「……だいぶんやられたようだな、ケル」
「少し油断してしまった。だが、神剣の行方はなんとかおさえた」
「怪我をしているのにすまない」
「我が主のためだ。気にするな」


 ケルベロスは今までの経緯を話した。
 この街で神剣の行方を追いかけてからの成り行きを。


「その神とやらが刀を持っていたと?」
「……ああ」
「おまえに怪我させた神か…」
「強い生命力持っているようだった」
「そいつが封印されていた者なのか」


−京の家焼け跡−


「何もない。すべて燃えてしまっている」


 僕が戻ってきたときはすでに消化活動は終わっていた。
 話を聞こうとしても誰もいなく、くわしい情報は聞けない。


「京さん」
「……葵さん」


 横にいつの間にか葵さんが立っていた。
 沈痛な顔つきでこちらを見ている。


「ここでは何ですから、神社まで……」
「はい……」


 いわれるまま葵さんについていく。
 どうしようもない無力感。
 事態が何もわかっていない焦り……。
 誰かに話しを聞いてもらいたい、聞いてほしかった。
 そう、誰でも………。


−神代神社−


 茶室に通された僕は正座をする。
 葵さんは白袴で優雅に茶をたてている。


「どうぞ」
「はい……」
「ふふ、なつかしいですわ」
「はぁ……?」
「昔を思い出します」
「……」


 意味がわからないよ?
 一口お茶を飲み流す。
 こ、これは……。


「おいしい」
「ありがとうございます」


 葵さんは笑顔でそう答える。
 本当においしかった。そしてなつかしかった。
 なぜ…?


「京さん、このたびは……」
「いいえ。ただ、何で火事になったのかと……」
「それについて何ですが……」
「何か知っているのですか?」
「はい。多分、私の神社で封印されていたものが原因かと……」
「封印ですか……それが……」
「あなたのお父様から預かっていたものです」
「親父が?!」
「はい」


 親父がこの神社に預けていたもの?
 その前になんでこの神社に関係ある?


「あなたのお父様は神剣を預けていきました」
「神剣……」
「そうですね。私が高校生の時です。この剣を魔物に渡してはならぬと言って置いていきました。神剣<草薙>は神を封印するものとも言っていました」
「神を封印するものをなぜ親父が?」
「……あなたはまだ何も知らないようですね」
「僕の知らないこと?」
「お教えします。草薙と神代の繋がりを」


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−次回予告−
 語られる草薙と神代の過去。
 その中でクシナダはついに行動にうつる。
 復讐を遂げるためにいくつものの悲鳴が叫び出す。
 一方、神剣を探す霧刀はついに京を見つける。
 圧倒的強さの前にどう戦って行くのか?

「……ねぇ、笑ってよ……。お願いだから……」