京の日常
−其の二 嵐の静けさの前に−



−猫ヶ崎公園−


「なんで僕が……」
「いくぞ!! 父の熱き魂の攻撃!!」
「はいはい……」
「がんばってーー!!」
「がんばれってね。親父を倒せということか?」
「隙あり!!」


 親父の腕から炎が出てくる。
 その炎が鞭のように伸びてくる!!


「<炎の鞭>」
「本気かよ!!」


 鞭をジャンプして避け、後方に着地する。
 避けた鞭が地面を炎とともに抉り取る。
 物を溶かすこの攻撃……。
 殺す気か!!


「ほんとにやる気?」
「おじけついたか、馬鹿息子!!」
「いや、親子ケンカなんだよな」
「親として子を叱る。自然の法則じゃ」
「法則かどうかは別として……このギャラリーはなんだよ?」


 さきほどまで七瀬さんと桜花先生しかいなかったのに……。
 いつの間にか円を描くようにして野次馬がいた。


「ほら、姉さん。京くんだよ」
「あらあら、なんの騒ぎかと思えば」
「そういえば鈴音さんは初めて見るよね」
「ああ、あいつら強いな」
「京くんは強いよ。草なんとかの後継者とか」
「草薙流後継者でしょ。魔を払う武術としてでてきた武術よ」
「この街には特殊な人間がホントに多いな」
「そうだよね。なにかしらの力とか」
「スタ●ド使いはス●ンド使いに惹かれるっていうし……」
「そのネタは……」
「えっ? みんな喜ぶからさ」
「せめてペル●ナ使いはペ●ソナ使いに惹かれるの方が……」
「すまんが、何喋っているんだ?」
「はは、気にしないで」


「……平和な街だな」
「うりゃーーーーーー!!」
「<炎の風>か――!!」


 熱風が僕のまわりに包み込む。
 酸素が……息が苦しい……。


「とどめの必殺! <草薙の剣>!!」


 巨大な炎が親父の両腕に?!
 ガードするしかない!!


「死ね―――――――」
「参式<凝>」


 ゴゴゴゴゴゴッ!


「どうじゃ親の愛の鞭は……うん?」


 実の息子に……<草薙の剣>を使った。
 あの親父は僕を殺すつもりか……。
 この時、僕は必死に感情を抑えようとした。
 負の感情が僕の心を埋め尽くして行く………。
 ウィルスに犯されるように細胞が高揚し出す……。
 俺の心が……理性が……。そして…。


「親父……怒ったぞ……殺してやる……」
「何!! まったく効いてないだと」
「草薙流……最終奥義……」
「ちょっと待て……実の親に向かってその技を?」
「安心しろちゃんと葬式はしてやる」
「!!」


「其の壱<無限>!!」


 慌ててる親父を無視して、全神経を右腕に集中する。
 赤き炎からやがて黒き炎へと変化していく。


「あの技は……」
「どうしたの? 姉さん」
「魔界の炎です」
「魔界の炎だって!!」


「うおおおおおおおおおっ!!」


 黒き炎が高速になって突き進む。
 周りを無とし地面を変色させていく。
 そして爆発する。


「俺を怒らすとこうなる。親でさえね」
「きょ、京。ちょっとやりすぎじゃないの」
「あらら、黒焦げ」
「大丈夫……殺してはいない…」
「京……口調が…変わっている?」


 親父は軽い火傷を負っているだけだった。
 この無限という技は魔を滅する技として利用されていた。
 最近ようやくこの技を出せるようになったのだが……。
 実戦では初めて使った。


「京……少し恐い……」
「………」


 この時、僕は理性を取り戻した。
 そして親父を見て、七瀬さんたちを見て……。


「またやってしまった……」
「えっ?」


 僕の心は二つあるのだろうか……。
 どちらも僕のもの……。それはいいこと? わるいこと?


−猫ヶ崎高校−早朝−


 あれから一週間たった。  実は少し後悔していた。
 親を病院送りにしたことを。
 七瀬さんと桜花先生に怒られるし……。
 なによりもまた見境無しにキレたこと……。
 普段はおとなしいがいったん怒らせるとまず口調が変わる。
 そして容赦なくその相手を潰す。
 この性格が災いして半殺しにしてしまった相手の数は多い。
 前の学校で不良にからまれたときもあまりもの暴力に理性が消え、<草薙の剣>を使ってしまった。
 この高校に来てしばらく抑えていたが……。


「どうしようもないのかな。この性格だけは直したい」
「京!! おはよう」
「おはよう」
「お父さん大丈夫?」
「ああ、親父なら今、家にいるよ」
「家でひさしぶりに蕎麦やうどんを作っているよ」


 七瀬さんは僕の顔を覗き込む。
 なんだろうな……。何か僕の顔をじろじろ見る。


「京って怒ると見境がなくなるの?」
「うっ!!」
「少しこわかったよ」
「……」
「それに……あの黒い炎……」
「あれがどうかしたの?」
「見ていたら気分が悪くなったんだ」
「無限が……」


 キーンコーンカーンコーン。
 チャイムの音がなる。
 指定された席につく。
 一日の授業の始まり……。そして平和なとき…。


−放課後−


 一通りの授業が終わり、午後の補修も終わり部活の時間になる。
 僕は補修道具を鞄に入れ、教室を出ようとした。


「京、待ってよ!!」
「あっ、うん」
「ぼくを置いていくつもり?」
「いや……」


 ここで呼び止めると周りが……。
 案の定、クラスメイトたちはひそひそと囁きはじめる。
 女子は七瀬さんを見て話している……。
 そういえば彼女……友達いるのだろうか?
 ふと思う。


「七瀬。だんなさまが困っているよ!!」
「そんなんじゃないよ」
「困っている七瀬かわいいよ」
「もう!!」


 僕の取り越し苦労か……。
 そういえば、友達から七瀬さんは一部の女生徒からは嫌われているけど、人気はあるといっていたような。
 生来の元気よさと誰にでも話しをする態度がそれを引き立てているとか。


「京行こう!!」
「ああ……」


 部室の前にいくと一人の女性がドアの前に立っていた。
 たしか……あの人は……。


「こんにちは。東さんでしょうか?」
「そうですけど何か?」
「ちょっとあなたにお話したいことがあるのですが……」
「僕に話したいこと……?」


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−次回予告−
 京は突然現れた神代葵の話を聞いて衝撃を受ける。
 そして事件はおこる……。
 その事件は京にとって最悪なものになるのか?
 次回をお楽しみに。