魂を貪るもの
〜京の日常〜



 それは僕にとって何でもないことだった。
 ひとおもいに殺そうとすればすぐにできた。
 ただ、彼女の目を見たときに戸惑ったのも確かである。
 その目は輝きをまだもっていた。
 絶望という文字を知らない人間だったのだろうか?
 僕はしばらく炎を出したままで彼女を見つめている。
 やがて彼女は震えた声で僕に声をかける。


「ちょっと本気をだすなんて卑怯だよ!!」
「別に力はまだだしていないけど……」
「ぼくは普通の人なんだからさ、手加減というものをさ……」
「ごめん。まだ慣れないんだ力の制御をさ……」
「そんなもので誤魔化さないで」
「いや、だって……」


 今、僕は猫ヶ崎高校の一角にある空手部の道場にいる。
 つい、最近までは廃部寸前だったのだが、とある大会のおかげで部員が大幅に増えた。
 まあ、ある先輩のおかげだともいえるのだが。


「何、笑っているの?」
「い、いや。何でもないよ」
「そうなの。どうせ、桜花先生のことでしょ」
「な、なんでその名前が出てくるの」


 桜花先生、とある先輩が連れてきた先生である。
 そのとある事件の大会に僕を出すためだけに転勤してきた人である。
 風神流という武術を使いこなす先生であるが、実は年齢が不明である。
 女子高校生とも大人の女性ともいえる容姿をもっており、たちまちにうちに人気の先生になった。
 僕も多少惹かれていたといわなかったら嘘になる。


「それにしても……多くなったよね部員」
「四人から二十人になるなんて……」
「なぜか女性が多いのが気になるけどね」


 七瀬さんは僕をジト目で睨む。
 僕は誤魔化すようにその目を避ける。
 この件に関しては僕に分がない。
 いつのまにか僕のファンクラブができたという……。
 その影響でこの高校で有名人になってしまい廊下を歩くにも視線を感じるように……。
 今まで僕は誰にも関わらない生活をしてきたためにあまりこのようなことには慣れていない。
 ただ、七瀬さんがとてつもなく女生徒から狙われている事は確かだ。
 いつも側にいると勘違いされているために攻撃目標にとなっていると……。


「で、タイミングつかめたの?」
「ぜんぜん。京のスピードが速すぎて技かけれないもん」
「……そうなんだ。ごめん」
「気にしないでよ。あの先輩とあそこまで戦えたのはいまだ少ないんだから」
「あの先輩ね」


 僕の目標にしている先輩。
 強力な守護霊を身につけている先輩はこの学校の最強を誇れる人だと思う。
 ただ、一人を除いてかな……。


「まだまだ修行かな」
「先輩が卒業するときにまた戦うでしょ?」
「……戦えたならいいね。僕とさ……」
「その時さ僕も見ているからさ」
「ありがとう……」


 実際のところ先輩との差はとてつもなくある。
 その差を埋めるには時間がかかる。
 僕はあの大会が終わって一週間の間、基礎から練習しはじめた。
 やる気がないときと違って技をちゃんとマスターしているので技だけは増えていた。
 ただ、破壊力だけはどうしてもつかないのが欠点である。
 僕の体格に筋肉がついていかないのだ。
 そのためスピードをもって相手を制すしかなかった……。


 この話はあの大会より数日たったところから始まる……。



−物語はかくて始まる−


−京の家−


 僕の名前はアズマ・キョウ。漢字で書くと、東京。
 なんでこんな名前にしたのだろうか?
 両親は僕を見捨てて海外に修行の旅に出かけている。
 草薙流分家の正統後継者として僕が家を守っている。
 この街、猫ヶ崎にはいろいろな特殊な人達が住んでいる。
 だから、僕みたいな人間がいても別に差し支えはない。
 神社にはおはらいしてくれる人あり。
 高校には日本一といっても過言でもない人間もいる。
 この街に転校してきたのもたんなる偶然ではなかったのかもしれない。
 自然とこの場所に惹かれていた……と考えているときもある。


「明日も部活か」


 また、僕が指導しなくちゃいけないのかな?
 ……門外不出であるこの拳を教えてくれなんて無茶をいう人もいるし……。


「炎を出せなきゃね」


 右手に炎を出す。
 そして空に目掛けて打ち込む。


「さてと…今日はどこにいこうかな?」
「すいません……」
「……?」
「すいませんーーー」
「この声は……まさか!!」


 慌てて僕は玄関に走っていく。
 予想通りの顔がそこにあった。


「七瀬さん……」
「やっほー。こんにちは」
「……何のようなの?」
「うーんとね……遊びにきたんだ」
「…この家に?」
「そうだよ。いけない?」
「……い、いや。慣れてないから」
「そんじゃそういうことで」
「困るんだけどな……」
「何か言った?」
「い、いや……」


 結局、彼女を家に上がらしてしまった。
 どうして彼女が遊びにきたのかは答えは簡単。
 組み手に負けたお返しに家に遊びに来ると突然言い出した。
 僕が女性を苦手だと知っていての行為である。


「今は両親はいないから……」
「ひょっとして何か期待している?」


 彼女は僕の顔を笑いながら言った。
 慌てて否定したが彼女はにやにやしながら僕の部屋に入った。
 ……そりゃね。僕だって男だしさ…。


「ここが京の部屋なのか。やっぱり京も男だね」
「悪かったな。かたづけてなくて」
「普通、女の子が来ると時は奇麗にかたづけておくの」
「……慣れてなくてね」
「じゃ、今から慣れて」


 といって僕の部屋を突然かたづけはじめた。
 しばらく呆然としていたが僕も部屋のかたづけを手伝った。
 五分もしないうちにかたづいた。


「ありがとう」
「別に。これからはちゃんとしててね」


 ……またくるつもりなのか?
 嬉しいけどさ。ちょっと不用心すぎないか?
 まあいいか。


「誰もいないのか。……京のやつ何しているんだ?」


 何か聞こえたような。


「おい、京!! いるなら返事しろ」


 まさか……親父!!
 なんでこんなときに帰ってくるんだ。
 七瀬さんと一緒にいるとこ見られたら……。


「こっちにいますよーー」


 !?


「七瀬さん……やばい…」
「何がやばいの?」
「こんなところ見られたら……」
「見られたら?」


「ここにいるのか開けるぞ!!」


 襖を開ける音が聞こえる。
 親父は七瀬さんの方を見る。
 そして僕の方を見て……。


「京……修行もせず……女性とうつつをぬかして……」
「こうなるんだよ」
「わかりやすいね」
「表に出ろ。父自ら成敗してくれるわ!!」
「こんにちは。お父様」
「うぬ。こんにちは。すまんの、こいつに強引に連れてこられたんだろ。すぐに成敗して家に帰してあげるから」
「い、いえ。ぼくのほうから……」
「なんと?! 家出してきたところを京のやつに利用されたと」
「……なんでそうなる?」
「やはり、京。お前の育て方を間違えたようだな」
「いままでほったらかしておいてそのセリフよく言えるよな。死んだ母さんも悲しむだろうな」
「まだ生きているよ」
「思い込みの激しいお父さんだね」
「さっさと家から出ていったほうがいいかも」


 こそっと家から出ていこうと部屋から出た途端、炎が飛んでくる。


「逃げるな!!」
「火事になる」
「この家よく火事にならないね」
「ある程度防火設定しているから」
「なるほど」
「勝負じゃぁーーーーーーーーーーーー!!」
「ここでか?」
「問答無用じゃぁーーーーーーーーーーーーーー!!」


 鉄拳がとんでくる!!
 紙一重でそれをかわして玄関に走っていく。
 こんなところで戦いなんてしたら本当に火事になる!!


「逃がすかーー!!」
「<寸打>」
「?!」


 親父は壁に激突する。
 僕は七瀬さんとその隙野間に二人で外にでた。
 どこに逃げたらいいのだろうか?


「京、後ろ」
「……もう起き上がったか」
「父に反抗するなど百年早いわ!!」
「とりあえず、広い場所に行こう」
「それなら近くに大きな公園があるからそこに行こう」


 近くの公園……もしかして猫ヶ崎公園のことか。
 あそこなら周りに被害はないかな。
 七瀬さんが乗ってきたスクーターを二人乗りして走っていく。
 スクーターの二人乗りは禁止だけど、ね。


−猫ヶ崎公園−


「ここなら周りに被害が……」
「あら、京じゃない」
「桜花先生!?」
「仲良くデート? いいわね。……妬けるな」
「ちょっと!! 京を誘惑しないで」
「あら、いたの? 七瀬さん」
「いました!! 先生なんでしょ。生徒を誘惑するのはどうかと思いますよ」
「ノンノン。教師の時間は十七時で終了よ。先生は先生じゃなくなるの」
「先生は先生です!!」


 なんでここで桜花先生がいるの?
 しかも二人でケンカ。……はぁー。なんだよまったく。


「ここかーーー!! 京見つけたぞ!!」
「親父までここに来るし……」
「あら? 京の父親かしら」
「そうですけど……」
「なぬぅ!! 父が見かけぬうちにまた女性をナンパしおって!! この腑抜け!! 父が根性叩き直してくれるわ!!」
「すごい父親ね」
「頼むからもうややこしくしないでくれ」
「今こそ京の魔の手から救い出してくれるわ。それが父としての役割だーー」
「だからさ、父親が普通、子供をほったらかしにしておく?」
「複雑な関係ですわね」
「家庭の問題は最近多いから」
「い、いや二人で納得しないで」
「覚悟じゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」


 こうして親父との最初のラウンドが切り開かれる。


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後書き
 こんにちは。ブギーです。しょうこりもなくまた投稿しました。
 しかも、キリ番とっていないキャラで続きもの……(汗)
 はたしていいのだろうか?
 とりあえず、前作の続きです。京がだいぶん明るくなっています。
 これも彼女のおかげでしょう。まだつきあっていないですけど。
 謎の親父の襲来で二人っきりの世界が壊れてしまいます。
 勘違いが凄すぎる親父。ちなみに名前は…どうしようか?
 やっぱ柴●とか…。わかんない?●舟だよ(笑)
 だめ? 当たり前か…。まあ考えておくかな。
 とりあえず次回に…。