My Work Station group B / 太陽系物理 最新・太陽系の軌道風景

 
 
 最新・太陽系の軌道風景 ・・・ 惑星軌道移動説
 
  

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   天体衝突                            

 トップページHot SpotMenu最新のアップロード       担当: 高杉 光一  ・  折原マチコ 

house5.114.2.jpg (1340 バイト)INDEX                                   

プロローグ   1999.12.30
ポン助.1  ポン助おでん屋を開業・・・屋台での初仕事/No.1        1999.12.30
<1>  太陽系の概略 1999.12.30
<2>  惑星軌道の考察 1999.12.30
ポン助.2  ポン助おでん屋を開業 ・・・屋台での初仕事/No.2 1999.12.30
<3>  太陽系空間における、小惑星、彗星、衛星の軌道について  1999.12.30
<4>  これまでの理論では説明できないカイパーベルト 2000. 1.10
<5>  軌道の共鳴現象 2000. 1.10
<6>  惑星軌道移動の考察 2000. 1.28

  


            参考文献                 日経サイエンス/1999年12月号

                                                         軌道を変えた巨大惑星  R.マルホトラ ( 月惑星研究所 )  

 

 
          
<対話形式>

       wpeD.jpg (25026 バイト)    room12.982.jpg (1511 バイト)      wpe98.jpg (8581 バイト)  wpeB.jpg (27677 バイト)      wpe75.jpg (13885 バイト)     house5.114.2.jpg (1340 バイト) 

 

     プロローグ                      

          

「私の助手としては、久しぶりの仕事だな、マチコ」高杉は、マチコがコーヒーを入れ

るのを眺めながら言った。

「競馬の方で忙しかったのよ」マチコは、テーブルの上にコーヒーを2つ並べた。

「それにしても、本業の方もしっかりとやってもらいたいものだな」高杉は、自分のコ

ーヒーカップを取り、ゆっくりと口へ運んだ。

「はーい!」

 

 

                  ( ポン助おでん屋を開業 /屋台での初仕事/No.1

 

  高杉は、コーヒーを飲みながら部屋を見まわした。インフォメーション・スクリーン

で、My Workstation の大部屋の方から、ポン助がおでんの屋台を引いて入ってくる

のが見えた。屋台の後ろをP公が押している。

 My Workstation Group B太陽系物理 /そして最後に 最新・太陽系の

軌道風景 とやってきた。

 

  うーむ...足のあるお化けなんて聞いたことがないが、と高杉は腹の中でつぶや

いた。いや...まて...確か、お化けのQちゃん( オバQ:お化けのQ太郎 )は、足があった

ような...うーむ...ま、どうでもいいか.....

 

「ポンちゃんたちが、おでんをご馳走してくれるそうよ」マチコが言った。「初仕事にな

るわね」

「うむ。ところでと、」高杉は、マチコが太陽系物理の中に新たにセットした対話形式

の設備を見つめた。「うーむ...この“最新・太陽系の軌道風景”は、<対話形式>

でせよという指示だったな...」

「はい。私と響子が一緒に企画しました。<対話形式>としては、放送大学の方で

すでにやっています」

「うむ、そうか...じゃ、ナビゲーターは君に任せていいわけだな」

「はい」マチコは、ドンと胸を叩いた。

「まあ、それだけでもずいぶんと助かる。ここのところ、“無門関峠の道場”、“無門

関・草枕”と、忙しくてな、」

「はい。ポンちゃんもPちゃんも、しっかりと手伝ってくれますから、」

「オーイ、ポン助!」高杉は、ようやく部屋にたどり着いたポン助に声をかけた。「しっ

かり頼むぞ!」

「おう!」ポン助は屋台を止め、タオルで首の汗をぬぐった。「久しぶりだよな、仕事

はよう!」

「味の方はどうなんだ?」高杉は、マチコの方に聞いた。

「たいしたものよ、ポンちゃんは...将棋も強いけど...それに、お酒も好きだし、」

「なるほど、多芸なヤツだな」

 

              wpe97.jpg (51585 バイト)  db3542.jpg (1701 バイト)  house5.114.2.jpg (1340 バイト)       

 

「P公は、ポン助の助手かね?」高杉は、P公にも声をかけた。

「うん...これから仕込みをするんだ」

「そうか、しっかりやれよ」

「うん...」

「じゃ、始めましょうか、塾長」

「うむ」

 

 

 <1> 太陽系の概略                

 

「うむ、この図でいい...」高杉は、プレゼンテーション用の大型モニターを見ながら

言った。「この海王星軌道の外から、冥王星軌道の最遠領域へかけ、ドーナツ状に

分布しているのが、いわゆるカイパーベルトだ」

「ふーん...こんなにいっぱい小惑星があるんですか...」マチコは、大型モニター

の前で、3次元画像を覗き込みながら言った。

「うむ...ま、この図は、誇張して書いてあるがね。ちなみに、太陽から45億kmの

海王星軌道から、その外側に2倍以上の遠くまで円盤状に広がっている。太陽系

は、太陽を中心にし、水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星、冥王

星とある。そしてこれらの太陽系の惑星は、冥王星以外はすべて同じ軌道面で、同

心円を描くように回っている。さらに、海王星の外側の膨大な広い空間に小惑星帯の

カイパーベルトがあるわけだ。もちろんこれらの小惑星群も、同じ円盤状の軌道面上

に拡散し、ゆっくりと太陽の周りを周回運動している」

「どのぐらいあるのかしら?」

「ま、推定だが...直径100kmから1000kmの氷の小惑星が、約10万個。それ

よりも小さいものとなると相当な数量になるようだ。ああ、小惑星帯としては、これの

他に、火星と木星の間に、有名なアステロイドベルトがある。これは火星や地球のよ

うな惑星がつぶれたもので、カイパーベルトのような氷の小惑星ではない。したがっ

て、アステロイドベルトはまさに、宇宙空間における鉱物資源の宝庫のようなものだ」

「ふーん。じゃあ、金なんかもあるのかしら?」

「あると思うがね。ま、太陽系を構成する重要な要素としては、この他に太陽風があ

るな。これは、太陽から放射状に噴出しているプラズマの流れのことだ」

「はい...」

「ところが、この太陽風というのが、なかなか面白い性質を持っている。このプラズマ

に電磁波が絡み付いていて、微粒子の流れが風圧を持っているのだ。分かるか?」

「ええ...」

「単なる超高速の素粒子の流れでは、何かに当たっても、全てが貫通してしまうだろ

う。ところが、太陽風の素粒子は磁力線が絡み付くことによって、その運動エネルギ

ーは風圧をもつようになる」

「ふーん...だから、太陽風というのね」

「うむ。この風圧というのは、太陽の熱放射と同じように、単位面積あたりのエネルギ

ーはたいしたものではないが、その総量は莫大なものだ。将来的には、これによって

帆船のように宇宙船を動かせると言われる。それから、この太陽風の終わるところに

も、1つのドラマがある。惑星空間と星間空間の境界に、太陽風の終端衝撃波のよう

なものが出来ているらしい。太陽風は全方位に噴出しているわけだから、この衝撃

波の面も、球形になっているのだろうな、」

「そこが太陽系の終わりなんですか?」

「うーむ...実は、この外側に“オールトの雲”というのがあるようだ。しかし、これは

太陽系と言えるかどうは分からん。太陽系の外から来る彗星の巣になっていて、1光

年以上も離れて太陽系を包んでいるらしい。いずれにしても、カイパーベルトもそうだ

が、まだ十分には分かっていない。21世紀の研究課題といったところだろうな。“オ

ールとの雲”も、これから次第に話題に上ってくると思う」

「ふーん...ねえ、高杉さん、」

「うむ、」

「冥王星は、どうしてこんなおかしな楕円軌道を取っているんですか?」

「いい質問だ。これが、いわゆる太陽系の最大の謎なのだ」

 

 

 <2> 惑星軌道の考察                

 

「これまでの理論研究だと、太陽系の惑星軌道は、誕生以来45億年の間、ほとんど

変化していないということだった。このことから、各惑星はもともと現在の軌道位置で

生まれ、それ以後ずっとそのままの軌道上を運動しつづけているのだと思われてき

た。

  まず...およそ太陽系の全質量をはるかに越える、ガスや塵の大集積があった

わけだ。それから、そのガスの中から星が生まれた。最近の天文写真でもしばしば

紹介されている、濃密なガスの中での星の誕生の風景だ。つまり、それが原始太陽

というわけだ。そして、その回転する原始太陽の周りに、同じガスと塵からなる広大

な回天円盤ができる。この回天円盤から、さらに質量が固まって行き、太陽系の九

つの惑星ができたというわけだ。したがってだ、各惑星が何故同じ軌道面にあるの

かも、これで分かるだろう。つまり、全ての惑星質量は、円盤のように回転していた

回天円盤から来ているわけだ。運動エネルギーも、角運動量も、そっくり全惑星系の

中に保存されている...

  そこでだ、何故、冥王星軌道だけが、こんなに傾いているかということだ。これは

ずっと太陽系の最大の謎だった。ま、これまでにも、色々な仮説があった。今回の

“惑星軌道移動説”でも、この解が得られたとしている。21世紀も近いことだし、精度

も高まっているはずだ。ま、いずれにしても、正しいものならずっと生き残って行くは

ずだ」

「惑星の軌道が動いたというのは、それほど重要なのでしょうか?」マチコは、手元

のノートパソコンをちらりと見て言った。

「うむ。この現在の場所で惑星が誕生したという概念が基礎になって、原始太陽系

星雲内のガスや塵の質量分布が推定されているわけだからな。さらに言えば、惑星

形成の物理条件や、惑星形成の時間スケールにも影響を与える。しかし、この概念

が否定された“惑星軌道移動説”は、それだけで革新的なものだ」

「うーん、じゃあ、全部やりなおしですか?」

「ま、宇宙物理学では、珍しいことではあるまい。観測と理論が違ってくれば全てが

ひっくり返るわけだからな。観測技術が宇宙論にまで接近してきた天文学では、よく

あることだ。しかし、惑星が現在の場所で形成されたという初期状況に関しては、そ

れなりに長い間支持されて来た訳だし、今後の推移を見守るといったところだろう

な...」

 

 

 <3> 太陽系空間における、小惑星、彗星、衛星の軌道について 

 

「一般的には、惑星は、現在ある軌道で誕生したというのがこれまでの常識だった。

しかし、アステロイドベルトやカイパーベルトを形成する小惑星、そして彗星、それか

ら惑星の周りを周回する衛生に関しては、この45億年の間に大きく変化したという

意見が一般的だ」

「ふーん...しっかり考えてるのね」

「もちろんだ。多くの宇宙物理学者や天文学者が支持するとは、そういうことだ」

「はい。あの...塾長、宇宙物理学と天文学はどう違うんですか?」

「うーむ...ま、私には、正確なところは何とも言えんな。ただ、天文学というのは観

測が主体で、有史以来の昔からあった。一方、宇宙物理学というのは、完全に現代

科学の中に組み込まれている。したがって、諸葛孔明(しょかつこうめい:“三国志”の中での、劉備

玄徳の軍師。中国が、呉、魏、漢と3分されていた時代の人物。)がやったような、星の動きで人の運命を

占うといったような学門分野は、入ってこないわけだ」

「うーん、だいたい分かりました」

「さて、1994年、木星の重力に補足され、木星に吸い込まれて行った彗星があった

な、」

「はい。シューメーカー・レビー第九彗星です。これは、ドラマチックでした。よく覚えて

ます」

「ま、これが地球でなくて良かったわけだ」

「ええ。地球だったらと思うと、ゾッとします」マチコは、胸に手を当てた。

「うむ。そんな映画もあったな」

「はい...」マチコは、大型モニターの画像を動かした。

「さて...」高杉は、モニターを眺めながら言った。「惑星間空間を漂うチリを惑星間

(わくせいかんじん: 彗星や小惑星から放出された、数μmから数mmのチリ)というが、これらの軌道も緩

やかに変化している。これらは放出された場所からラセン軌道を描きながら少しずつ

太陽の方へ落ち込んでいる。それから、惑星を周回する衛星軌道だが、これらはか

なり個別的な影響によるものがある。有名な衛星としては、まず地球の月、火星のフ

ォボスとダイモス、木星のイオ、エウロパ、ガニメデと...ま、後で一覧表を作ってお

いてくれないか」

「はい」マチコは、手元のノートパソコンにメモを打ち込んだ。

「うーむ...一番身近な月について、少し説明しておこうか」

「はい」

「人工衛星を除く、地球の唯一の衛星である“月”は、現在地球から平均約38万

4000km離れたところを回っている。しかし、月はもともとは、地球から3万km以内

のところで誕生したと考えられている。3万6000kmが静止軌道だから、それよりも

はるかに地球に近かったわけだな。この3万6000kmの静止軌道に、気象衛星の

“ひまわり”があるわけだから、いかに近いかが分かるだろう。そんな近い所を、あの

巨大な月が回っていたのだ。ま、地球の一部が分離して月になったと考えれば、こ

の近さも納得がいくだろう。もっとも、現在でも月がこんなに近いところを回っていた

ら、気象環境は目茶目茶になってしまう。海も山も、月の引力でガタガタになるし、地

殻も火山も絶えず激震している。むろん、もしそうだったら、地球に現在の我々は存

在していなかったはずだ。ところが、地球の重力による小さなトルク( 潮汐力)が、月を

ゆっくりと地球から遠ざけて行ったと考えられる。これは人間原理の考えになってしま

うが、こうした幾重にも重なった奇跡や偶然の集積の結果、ともかく今の我々がある

わけだ。いいかね、ともかく、分かっているのは、今の我々の、この存在なのだ」

「はーい...」

「疲れたか?」

「ええ、少し、」

「うむ。休憩とするか、」

 

 

                 ( ポン助おでん屋を開業 屋台での初仕事/No.2

                  wpe99.jpg (47276 バイト)    wpe86.jpg (6318 バイト)         house5.114.2.jpg (1340 バイト)house5.114.2.jpg (1340 バイト)          

  高杉は、ポン助の方へ手を上げた。

  ポン助は首にかけていたタオルをネジリ鉢巻にし、おでんの屋台を引っ

張り、すっ飛んできた。

「まいどうー!」ポン助が勢いよく言った。「だんな、熱いところを1本付けや

すかい?」

「おう、酒が出るのか?」高杉が言った。

「もちろんでさあ!おう、P公、熱燗だ!」

「うん...」

「さ、そっちの姉さんも、熱燗にしやすかい?」

「そうね、お正月だし、もらおうかしら」マチコが言った。「ふーん、ポンちゃ

んは、芸が細かいわね。本当のおでん屋さんになったみたいよ」

「で、だんなは、何にしやス?」

「うむ。適当にみつくろってくれ」

「姉さんは?」

「私は、まず、チクワブと大根、それからガンモドキ。Pちゃん、まず塾長に

熱燗をね、」

「うん...」

「どう、Pちゃん、この仕事は?」

「うん。面白いよ。ポン助が色々教えてくれるし...」

「そう。ポンちゃん、しばらく面倒を見てあげてね」

「あいよ!」

「マチコも色々大変なんだな」高杉は言った。

「ええ。でも、塾長、2000年はもっと大変になりそうですね」

「ああ...単なる時代の通過点ではあるが、大変な時代が始まりそうだ」

 

 

                                                     ( 2000. 1.10)

 <4> これまでの理論では説明できない惑星      

 

  < カイパーベルト >

「前にも言ったように、衛生や彗星の軌道が変化してきたことは、多くの学者が支持

して来た。ところが、惑星の軌道変化となると、最近まで殆ど考えられたことがなかっ

た」

  マチコは黙ってうなづいた。

「ところがだ、ここ数年の間に、状況が変化してきた。その1つが、カイパーベルト天

の発見だ。これはさっきも言ったように、推定で直径100kmから1000kmの

の小惑星が、約10万個。それよりも小さいものとなると相当な数量になる。もちろん

この小惑星群は、実はだいぶ以前からその存在自体は推定されていた。しかし、実

際に観測にかかってきた意義は大きいものがある。しかも、これらは冥王星の外側

にまで広がっていることが分かった。これは、太陽系の最も外側の惑星は、このカイ

パーベルトだということになる」

「そうかあ...そうなるわね、」

「ま、それにしても、何十億キロメートルと途方もなく遠いわけだが、人類文明の天文

観測技術が、ようやくそのあたりにまで目が行き届くようになったわけだ。そうした外

惑星からは、太陽さえも、だいぶ大きめな星ぐらいにしか見えないのかも知れんな」

「うーん...寒いのかしら、」

「もちろんだ。木星の2番目に内側を回る衛星に、エウロパというのがある。これはほ

ぼ月と同じぐらいの大きさだが、生命存在の可能性が指摘されている。この衛星でさ

え、赤道付近で絶対温度110K(−163℃)、極域では絶対温度50K(−223℃)だ。並の

寒さではあるまい」

「うーん、そんな所に生命が要るのかしら」

「うむ。実はこの衛星は、その内側を回るイオと同じように、内部に熱を持っているら

しいことが分かっている」

「ふーん、それじゃ次は、このエウロパをとりあげようかしら」

「かまわんよ...さて、話を戻そう。ここからが問題だ。このカイパーベルト天体の散

らばり具合を調べるとだ、この膨大な量の小惑星群は、どうもランダムに分布してい

るわけではないらしいことが分かってきた。しかも、この分布は、これまでの太陽系

の理論モデルでは、どうも説明ができないらしい...」

「ふーん、そこで“惑星軌道移動説”の登場になるわけね」

「ま、そこで太陽系の理論モデルが研究しなおされたわけだ。その結果、“木星型惑

星”の軌道変化の可能性が浮上してきた。つまり、こうした巨大な外惑星は、誕生

後、軌道がゆっくりと外側に広がっていったかも知れないということだ」

「“木星型惑星”というと、土星もそうなんですか?」

「ああ。あと天王星、海王星がそうだ。こうした巨大惑星は、少なくとも表面のかなり

の領域がガス体だ。つまり、そうした意味からも、地球や火星などの表面が地殻で出

来ている惑星とはだいぶ様子が違う。ま、そうしたことも、これからこの太陽系物理

のページで学習していくことになるわけだが、実際のところはまだよく分かったいない

というのが実状だろう。人類は、ようやく火星や木星へ、無人探査機を飛ばし始めて

いる段階だからな」

「はい」

 

< 冥王星 >

「塾長、冥王星はどうなんですか?冥王星は、“木星型惑星”でないんですか?」

「ああ。冥王星は、木星や土星のような巨大惑星ではない。この惑星の質量は、木

星の数千分の1というほど小さいものだ。まあ、外惑星でありながら、この質量の異

常な小ささも、謎の1つに数えられる。

  つまり、カイパーベルトと同じように、冥王星もこれまでの惑星理論ではうまく説明

できない謎の天体だった。それから、この冥王星でもっとも特徴的なのは、その異常

な惑星軌道にある。ちょっと、ディスプレイ・モニターに、太陽系全体の軌道風景を出

してくれ。そう...さっきのドーナツ型のカイパーベルトを描いたやつだ、」

「はい...これでしょうか?」

  マチコは、プレゼンテーション用の大型モニターに、太陽系の遠景図を呼び出し

た。SB−36Gのコードナンバーが右上に表示された。この図では、外惑星が強調さ

れているために、木星以内の内惑星軌道は、コマ中心部のように小さな同心円が重

なっている。もっともこの図でも、ズームアップして行けば、一応内惑星の様子も分か

るようになっている。マチコは、各惑星を10倍の速度で軌道運動させ、その様子を見

つめた。

「いいかしら?」

「うむ...」

  高杉は、テーブルの上のコードレスのマウスを取った。ゆっくりと動いている冥王星

にポインタを合わせ、クリックした。モニターの左側に、冥王星のデータがザーッと下

りてきた。

「うーむ...見て分かるように、この冥王星の軌道は、ひしゃげた楕円形だ。ところ

で、太陽と地球との平均距離を“天文単位”(1天文単位: 約1億5000万km)と言う。このスケ

ールで測ると、冥王星の軌道は最も太陽に接近した時、つまり“近日点”29.7

文単位。そして、最も遠ざかった時“遠日点”では、49.5天文単位だ。この楕円軌

道は、ハレー彗星などの彗星の軌道とよくにているわけだ。この冥王星が太陽に接

近して行く時...」高杉は、それからしばらく、じっくりと大型モニター上の冥王星を

見つめた。

「ま...太陽に接近して行く時、こうして海王星軌道の内側に入っていく。そして、遠

ざかる時は、その倍近い距離まで離れるわけだな...」

「本当に、彗星のような軌道ね」

「うむ。それから、各惑星の平均軌道面に対し、“近日点”では北極星のある北方へ

8天文単位、“遠日点”では南方へは13天文単位傾いている...何故こんなことに

なっているのかな?」

「冥王星の公転周期は248年ね。すると、約20年は海王星軌道の内側に入ってくる

計算になります」

「うむ...」

 

 

 <5> 軌道の共鳴現象             

 

「さあ、このあたりから、理論が微妙になり、“惑星軌道移動説”の核心に近くなって

いく。まあ、これから太陽系全体について勉強して行くわけだから、最初は聞き流し

ておくだけでいいだろう。ただ、話しのポイントと、新しく出てきた単語は覚えておいて

もらいたい」

「はい」

「さて、この海王星軌道を横切る天体は、まず冥王星だが、他に何があるかね?」

「ほうき星」

「うむ。つまり彗星だな。そしてだ、この海王星軌道を横切る軌道の殆どは、不安定

なものになるらしい。つまり、いずれは海王星に衝突するか、海王星の重力で太陽

系の外側の方へ放り出されるかの運命だ...」

「うーん...」

「いいかね、マチコ、ここで1つ記憶しておいてもらいたい。このように惑星に物体が

真直ぐに向かって行った場合、衝突するか、もしくはその巨大な重力で弾き飛ばされ

るということだ。これは、火星探査機や木星探査機などの加速でもお馴染みなので

分かると思う。しかし、地上で日常的に起こることではないので、直感的な理解は難

しいかもしれん」

「うーん、そうねえ。そういうものだと思いこむしかないのかしら、」

「ま、物理学者なら、数式で理解できるだろうがね。それから今後、導電性のワイヤ

ーを“テザー(ひも)として使う宇宙技術なども登場してくるだろうが、こうしたものも直

感的には分かりづらいものだ。地球の周りには磁場が存在しているのは知っている

だろう?」

「ええ」

「そこで、2つの衛星を“テザー”で結び、電気を流すことで、もう一方を遠くへ飛ばす

ことが出来る。これは電気エネルギーを運動エネルギーに変換しているのだが、直

感的には分かりにくいものだ」

「ふーん...」マチコは腕組みをし、首をひねった。

「ま、このスペース・テクノロジーの“テザー”には、原理として投石器の役割を果たす

ものと、電磁力を利用するものが考えられるが、いずれも太陽電池を利用する程度

で、燃料は殆ど必要としない。ま、近未来型の宇宙技術の1つになるだろう。こうした

スペース・テクノロジーの1つとして、惑星や衛星の重力によって弾き飛ばすという加

速技術もあるということだ...人類文明が太陽系空間へ拡大して行けば、ごくあり

ふれた加速力学の風景になるのだろうな、」

「はい...」

 

< 共鳴現象 >

「さて、この海王星軌道を横切ると不安定になるというが、では冥王星もいずれは海

王星とぶつかってしまうか?あるいは弾き飛ばされてしまうのか...実は、冥王星

は、このどちらの道をもとらない。何故か。それは、冥王星軌道と海王星軌道が、き

わめて特殊な関係にあるからだと分かった」

「それが共鳴なのね」

「ああ。しかし、何故こんなことになったのかは分からん。つまりだ...海王星が太

陽を3周する間に、冥王星はちょうど2周する軌道にある。これを、専門用語では、こ

う言うそうだ。

 

“冥王星軌道は、海王星軌道と3:2の共鳴状態にある”

 

  そして、このような軌道をとった場合にのみ、冥王星は海王星への接近を避ける機

構が働く。そしてこの現象を、共鳴による“秤動(ひょうどう)という。“秤”という字は、“天

(てんびん)”からきている。意味は推測できるだろう」

「ええ、」

「こうした関係から計算してみると、冥王星と天王星は、17天文単位より接近するこ

とはないことが分かった。いずれにしても、この共鳴状態は数十億年続いているし、

今後もきわめて安定した状態にあるそうだ」

「でも、何故こんな精密な関係が出来上がったのかしら?」

「うーむ...太陽系のロマンとして、残しておきたい問題だな、」

「うーん...」マチコは、大型モニターの方へ歩いて行き、首をかしげた。

 

 

                                                 (2000.1.28)

 <6> 惑星軌道移動の考察               

 

「さて、ようやく惑星軌道移動の考察に入って行くわけだな」高杉は椅子から立ちあ

がり、プレゼンテーション用の大型モニターの前に立った。「この円盤状のカイパーベ

ルトに包まれるようにある太陽系が、21世紀の人類文明の版図になるわけだ...

もっともこの図は、カイパーベルトが誇張されすぎているな、」

「北極星のある北天と南天には何もないのかしら?」マチコは、高杉の横に並んで

言った。

「うむ...太陽風は全方位に噴き出している。全く虚無の惑星空間というわけでもな

い。これから少しづつ、磁場や重力場などの研究が進んで行くだろうな。いずれにし

てもだ、こうして太陽系の全惑星が同一の軌道面上で公転しているのは、最初は巨

大な1つの回転円盤だったからだ。ところが、このガスやチリの集積した回転円盤で

も、質量の偏りが起こり始め、しだいに惑星が形成されてくる。もちろん、回転円盤の

持っていた運動エネルギーや角運動量は、そっくり9個の惑星と、2つの小惑星帯が

引き継いでいるわけだ...」

「ふーん...」マチコが言った。「画像を切り替えます?」

「うむ...さて、参考文献の軌道を変えた巨大惑星 日経サイエンス/1999年12月号/R.マルホ

トラ ( 月惑星研究所 )では、太陽系の歴史の初期に、惑星軌道が変化する時期があった

と推定している。さらに、冥王星の特異な軌道も、こうした軌道変化の結果だとして

いる。うーむ...残念ながら、私にはこの仮説に対し、賛成とも反対とも言いがた

い。つまり、専門知識が不足しているわけだ。ま...そういうわけで、仮説の大筋だ

けを追ってみることにしよう」

「はい、」

「まず、ストーリイは、太陽系の惑星形成の末期から始まる。およそ45億年前だ。そ

の頃、木星、土星、天王星、海王星という、太陽系における木星型の巨大惑星は、

ほぼ形成が終わっていた。しかし、それらの惑星の周囲には、直径数十km以下の

岩石や氷からできた微惑星が無数に漂っていた...」

「塾長...」マチコが、後ろで手を組んで、大型モニターをのぞきながら言った。

「何だ?」

「それじゃあ...木星や土星は、こういうものからできているのだとすると、ガスだけ

の巨大惑星ではないんですね?」

「うむ...どのくらいの深度になるかは正確には分からんが、固体のコアはあるはず

だ。地球にしてもそうだろう。何十kmもの成層圏や大気圏があるじゃないか」

「うーん...はい、」

「ただし、こうした木星型惑星は、地球や火星などとはだいぶ様相が異なる。ま、これ

から、徐々に勉強して行くことにしよう」

「はい」

「さてと、問題は、これらの巨大惑星の周囲にある微惑星だ...これらはいずれ、惑

星の重力によって吸収されるか、さもなければ散乱される。前にも言ったように、この

重力による散乱というのは、弾き飛ばすわけだ。たとえば、現在人類が木星圏へ探

査機を飛ばすテクノロジーは、地球や火星の重力によって加速しているわけだ。もち

ろん、こんな悠長なことをしていたのでは、時間がかかりすぎる。次世代の強力な推

進システムが投入されてくれば、最短距離で直接木星や土星へ探査機を投入できる

ようになる。ま、太陽系の大探検時代の幕が切って落とされるわけだな」

「それが、“新・太陽系時代”の始まりになるわけですね」

「すでに始まっているとも言えるがね。おっと、話を戻そう。こうした巨大惑星に散乱さ

れた微惑星というのは、かなり遠くの方にまで飛ばされるようだ。あるいは、太陽系

の重力圏を破り、太陽系の外へ出ていってしまうものもあったようだ。こうしたもの

が、つまり、オールトの雲と呼ばれるものになったのかも知れん。

  さて、ここからが肝腎だ。惑星軌道移動説の核心になる所だ。論文では、一番外

側の海王星に焦点を当てて説明している...いいかね、この頃、海王星の周囲に

も、こうした無数の微惑星があり、ほぼ同一軌道上を回っていた。中には海王星より

速いものもあるし、遅いものもある。しかし、それらの運動エネルギーの平均値を取

れば、その殆どの質量を占める海王星と等しくなる。

  しかし、こんな状況は、いつまでも続くわけではない。惑星形成の段階で、重力相

互作用していたこれらの質量も、次第に別々の道を歩み始めるようになるわけだ。む

ろん、その殆どは海王星を形成した。が、一方、微惑星は海王星よりも運動エネルギ

ーが高いものと低いものとで、別々の道を歩み始める。この運動エネルギーというの

は、つまり軌道を回るスピードのことだ。このスピードの遅いものは、やがて脱落し、

海王星軌道から内側の軌道へ落ちて行く。ま、同じ軌道面にあるわけだから、内側

の天王星、土星、木星の軌道に落ちて行くわけだ。が、なかでも第2の太陽になるは

ずだった最大質量の惑星/木星の重力に補足されたようだ...うーん...微惑星

は、ここで木星に吸収されるか、さもなければ木星の強大な重力で太陽系の外に放

り出されたかだ。分かるか?」

「ええ、」

「 さて、こうなると、海王星軌道には、運動エネルギーの高い微惑星、つまりスピード

の速い微惑星だけが残ることになる。むろん、こうなると、前とは事情が違ってくる。

海王星はこうした微惑星と重力相互作用することにより、微惑星からエネルギーをも

らうようになる。そして、海王星の軌道は、徐々に外側に膨らんで行くことになる。

星や天王星も事情は同じだ。ただし、木星は少し違う。この巨大惑星は、落ちてきた

微惑星を太陽系の外にまで弾き出すことで、逆にエネルギーを少し失っている。が、

木星に関して言えば、その膨大な質量に比べれば微々たるものだ。軌道変化という

意味では、殆ど問題にならなかったようだ」

「うーん...話が大きすぎるわねえ...」

「そうだな。ま、今回はこれぐらいにして、次の展開を待つとしよう。ともかく、まだ始ま

ったばかりだ」

「はい」

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