My Work Stationgroup C量子情報科学“量子=開かずの扉”の内部はU

        “量子/開かずの扉”  内部は? 

  
       
             【 ・・・U/ 検証実験 ・・・ 】

          
 干渉計の中を ソッ とのぞく        存在確率マイナス1・・・の光子とは?

                                                           

                       三郎          折原 マチコ         高杉 光一                                北原 和也    二宮 江里香     

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プロローグ             2009年/年の瀬 〜 新年へ 2009.12.23
No. 〔1〕 常識に反する現象が、実際に観測された 2010.  1.13
No.      <決して、部屋の中を、のぞいてはなりません 

                    ・・・・・・・・ 鶴の恩返し の世界
2010.  1.13
No.3      ハーディーのパラドックス/・・・ 存在確率マイナス1 2010.  1.13
No. 〔2〕 干渉計に・・・ 1個の光子を入れる 2010.  2. 7
No.      マッハツェンダー干渉計・・・ とは?> 2010.  2. 7
No.      マッハツェンダー干渉計に・・・ 光子1個 を投入 2010.  2. 7
No.      光子通った経路・・・ 確認する方法・・・? 2010.  2. 7
No.8 〔3〕 “心の領域”も、重ね合わせか 2010.  3. 2
No.9      <企画室の依頼=文明の閉そく状況/・・・

                             ブレークスルー
“人間の巣のパラダイム”
2010.  3. 2  
No.10      <絶対主体世界相互主体性システムが、重ね合わせの状態?> 2010.  3. 2
No.11 〔4〕 “存在確率マイナス1”  /そこを・・・通らない以下・・・の確率!? 2010.  3.24
No.12      量子力学の・・・コペンハーゲン解釈多世界解釈とは?> 2010.  3.24
No.13      <ハーディーのパラドックス/・・・ 4つのシナリオとは? 2010.  3.24
No.14      <干渉計の中の・・・4つのシナリオ> 2010.  3.24
No.15      マイナス1という・・・不思議な確率 2010.  3.24
No.16 〔5〕 “存在確率・・・マイナス1”を観測 2010. 4.16
No.17      光子検証・実験する・・・3つのポイントとは・・・?> 2010. 4.16
No.18      弱い測定をする・・・とは・・・?> 2010. 4.16
No.19 〔6〕 “マイナスの確率”・・・正体/実体は何か? 2010. 5. 1
No.20      “マイナスの確率”・・・由来/正体は?> 2010. 5. 1
No.21 〔7〕 “シュレーディンガーの猫”とは・・・? 2010. 5.13   
No.22      <最後に/量子コンピューター・・・への応用 > 2010. 5.13
No.23      次世代・キーワードは・・・ 生体ウエアー ?> 2010. 5.13

     


   参考文献 
 日経サイエンス /2009 - 10   

                    存在確率マイナス1/天才アハラノフの予言      吉田 彩  (編集部)   

                    宇宙の未来が決める現在         語り/・・・・・Y.アハラノフ  (テルアビブ大学)

                                                                 聞き手/・・・吉田 彩  (編集部)

                    量子の“開かずの間”をのぞき見る   井元 信之  横田 一広  (大阪大学)

               パラダイム・ブック    C+Fコミュニケーションズ/日本実業出版社  


 

  プロローグ                   

              wpe4D.jpg (7943 バイト)          

       ・・・ 2009年/年の瀬 〜 新年へ・・・       

 

二宮江里香です...

  色々あった2009年も、もう年の瀬ですね。私も、年末のバーゲン・セールで、コートを買おうと

                    思っています。シンプルで軽快なコートを物色中です。安価/高級/機能的なコートが、必ずあ

ると信じています。去年は失敗しましたので、今年はじっくりと選ぶつもりでいます。

 

  さあ、 “量子/開かずの扉” の内部は?》は、【T/概論】に続き...【U/検証実験】

ですね。考察の方は新年/2010年に入りますが、《新ページ》をアップロードしておきます。

  来年は、激動の年になると言われますが...それぞれ、良い年の瀬を...と願っています。

そして、新年にお会いしましょう!」


  〔1〕 常識に反する現象が、実際に観測された  

             wpeA.jpg (42909 バイト)             

 

「さあ...」マチコが言った。「新年早々の仕事ですが、さっそく始めたいと思います...

  “存在確率・・・マイナス1の光子”とは、どのようなものなのでしょうか。高杉・塾長、お願いしま

す」

「うーむ...そうですねえ...」

  高杉が、手を伸ばした。テーブルの上を歩いているミケの背中を押さえ、頭をひと撫でした。そ

して、腹をすくい上げ、キイボードの横に座らせた。ミケはおとなしくし、前足を揃えて目を閉じた。

「人類は...」高杉が、ミケの背中にそっと手を置きながら言った。「これまで...

  様々な道具機械...そして、プラントのような巨大で複雑なシステムを建造してきました。そ

して、それらは最先端科学においては...国際宇宙ステーションや、原子力発電所などになり、

“文明の第2ステージ/エネルギー・産業革命”の、象徴的存在となっているわけですね。

  このような、人類が作り出した如何なる装置であっても...入力出力があります。そして、

に応じて、目的にあった出力があるように組み立てられています。

  複雑電気回路であれ、複雑機械装置であれ、電気エネルギーがどこをどのように通っ

ているかを、チェックすることが可能です」

「うん...」マチコが、うなづいた。「そういう風にさあ...作ったわけよね、」

「そうです」高杉が、うなづいた。

決して、 部屋の中を、のぞいてはなりません   wpe8B.jpg (16795 バイト)

                     ・・・・・ 『鶴の恩返し』 の世界

                  

 

「さて...」高杉が言った。「ところがです...

  量子力学的・装置では、この常識が通用しないわけですねえ。量子力学によれば、我々が見

ていない所/“開かずの間の内部”では...“電子や光子は・・・異なるシナリオを・・・幾つも同

時に実現し・・・重ね合わせの状態”...になっている...“らしい”...ということです」

「うーん...」マチコが両手を組み、口をおさえた。「だから電子は、同時2つの場所に、存在す

ることもできるのかしら?」

「そういうコトです...

  それが理解できないと言いますが、そういうコトなのです...“異なるシナリオが・・・重ね合わ

せの状態”になっている...“らしい”...ということですね。“らしい”というのは、“推測”だけで、

誰もそれを見たことがないからです」

「うーん...

  でも、私たちが観測したら...“神がサイコロを振り・・・どれか1つに決定”するわけかあ...」

「その通りです...観測/測定/・・・強い測定をしたら...そうなるわけです」

「うーん...ややこしい構造ねえ...何故、そんな必要があるのかしら?」

「それは、分かりません...

  分かりませんが...その“曖昧さのトワイライト・ゾーン(たそがれ地帯)に、“物の領域”“心の

領域”の、統合性の謎も埋まってるわけでしょう。“この世”を認識している、“私/・・・主体の発

現の謎”も、そこに結び目があるのかも知れません。

  それが、つまり...“量子/開かずの間の内部”...という、“ゴルディアスの結び目”なの

かも知れません。“ゴルディアスの結び目”というのは、絶対にほどけないとされた結び目ですが、

アレキサンダー大王は、剣でそれを一刀両断したと言われます...」

「うーん...

  “私/・・・主体の発現の謎”かあ...不思議よねえ...そもそもさあ、“何で・・・私が・・・ここ

に居るのかしら?”...」

「うん...」江里香が、真面目な顔でうなづいた。

「はは...」関が、笑った。

 

「さて...」高杉が、ミケの背中をそっと撫でた。「この“開かずの間”では...

  入力したものが...何処をどう通ったか...回路も分からなくなり...その上、サイコロが振

られるわけです。

  しかし、出力すれば...再び、キッチリ波動関数で表現できるということでしょう。したがって

今までは、内部を知る必要がなかったわけです。ただ、神棚に祭っておけばよかったわけです」

「うん...」マチコが、斜(はす/・・・ななめ)に構えて言った。

「いいですか...」高杉が言った。「量子力学黎明期(れいめいき)において...

  あの、コペンハーゲン学派ボーアが...鶴の恩返し/日本の昔話よろしくに...“決し

て扉の中をのぞいてはいけない!”と主張しました。そして、それが受け入れられ、長い間、“量

子力学の教義”として、厳かに神棚に祭られ...“触れてはならない!”とされて来たわけです。

  そして、その“教義/ドグマ”の下で...量子力学大成功快進撃を続けて来ました。向か

うところ敵なしでした。そして、今は、現代・科学技術文明の基盤として、盤石の地位にあります。

まあ、100年足らずの歴史(/今日では1925年が、量子力学の誕生の年とされている)ですが...」

「うーん...」マチコが、高杉の脇からミケをすくい取った。

  ミケがマチコの手に咬みつこうとした。マチコが両腕で抱き締め、ミケの喉を撫でた。

 

「いいですか...」高杉が脚を組み上げ、テーブルを見回した。「もう一度説明しましょう...

  ボーアの言う...“決して・・・扉の中をのぞいてはいけない!”...とは、どういうことかと言う

と...“中をのぞいたら・・・量子の多重状態が壊れ・・・装置自体が機能しなくなってしまう”...

ということなのです。

  そして...“中をのぞかずに・・・装置の出力だけを問題にする限りにおいては・・・量子力学は

結果を正しく示してくれる・・・それは極めて正確で、応用においては向かうところ敵なしの様相”

ということですね...」

「うーん...」マチコが言った。「鶴の恩返しではさあ...

 が...“決して、部屋の中をのぞいてはなりません!”...と老夫婦に言ったわけよね。で

も、とうとう部屋の中をのぞいてしまったのよね...すると、1羽の鶴が、自分の羽を入れて機(は

た)を織っていたのよね...助けてくれたお爺さんに、恩返しをするために...」

「そうです...しかし、部屋の中をのぞいたとたん...その関係性は壊れてしまったわけです」

「うーん...」

ボーアは...

  “中をのぞくことに、意味はない!”としたわけです。そして、そのパラダイムで...量子力学

大成功を収めて来たわけです。しかし、一方、さまざまな矛盾顕在化してきたわけですねえ。

最大のものは、一般相対性理論との、ダブル・スタンダードということになるのでしょうか...

  それから、さらに大問題は...“物の領域と、心の領域の・・・大統合の課題”です。量子力学

コペンハーゲン解釈では...“主体と客体の間に・・・境界はない”...としています。つまり、

“主体と客体とは・・・1体のものだ”...というわけです。

  この“局所性の否定”は、【ベルの定理】によって数学的に証明されたわけですが...人類文

はこのパラダイムを、使いこなしてはいません。本格化するのは、おそらく、“文明の第3ステ

ージ/意識・情報革命”の時代においてでしょう。つまり、これからです...」

「何度も、聞くことだけど...」マチコが、関の方に体を向けた。「“主体と客体とは・・・1体のもの

だ”、とはさあ...どういうことかしら?」

「まあ...」関が、セーターの腕をしごいた。「こういうことでしょう...

  リアリティー世界には...切れ目/境界が、無いということです...“物の領域/・・・まさに、

今・・・私たちの視界”の...上下左右/360度において...切れ目というものが無いでしょう。

当たり前といえば、そうなのですが、“私/・・・個体”が全ての中心にあります。そして、何処にも

切れ目というものがありません...

  そして、同時に...“心の領域・・・主体と客体/自己と他者”の関係にも...切れ目/境界

が無いということです...全ては、“主体/・・・私の認識の鏡”に映し出された客体/他者であ

り、主体とは不可分の関係であり...真の意味での客体/他者は、存在しないということです」

「うーん...」マチコが、口を押さえた。「客観性という事が...成立しないということかしら?」

「厳密に言えば...」高杉が言った。「そういうことになりますねえ...

  すべては...“主体性/私という認識の鏡”に映し出された、全体風景だということです。ただ

し、同時に、“厳格な・・・相互主体性世界”だということです。その全体風景は、“相互主体性シス

テムの中で・・・ダイナミックに波動”しているのが...つまり、【人間原理空間・ストーリイ】なの

です」

「うーん...」マチコが、ミケを撫でた。すると、ミケがスルリと抜け出し、トン、と床に降りた。 

 

ハーディーのパラドックス /・・・ 存在確率マイナス1         wpe8B.jpg (16795 バイト)

                     wpe31.jpg (15537 バイト)   house5.114.2.jpg (1340 バイト)

 

「さて...」高杉が、作業テーブルを見まわした。「いいですか...

  関三郎が、モニターから顔を上げた。北原和也が、前髪を後ろへ撫で上げた。二宮江里香が、

真っ直ぐに高杉を見た。

“量子/開かずの間の内部” は...」高杉が言った。「【T/概論】で紹介したように...

  最近...“弱い測定”という測定法が登場し...成果を上げて来ています。これは、すでに紹

介しているように、イスラエル/テルアビブ大学/アハラノフ教授によって構築されて来たもので

す。再度、簡単に説明すると、こういうことです...

  測定を行う際...測定対象測定器を、一定時間相互作用をさせるわけですが...“相互作

用を極限まで弱くすることで・・・対象を破壊せずに測定する”...という測定法です。

  ただ、この場合...誤差が非常に大きくなります。したがって、“十分に測定回数を重ね・・・平

均値をとり、精度を上げる”...という作業が不可欠です。まあ、こういう全く新しい測定技法が、

確立して来たということです」

「はい、」江里香が、コブシを握ってうなづいた。

アハラノフ教授の...

  弱い測定値の理論によると...“重ね合わせ現象”の中には...“科学の常識に反する

かのような・・・”...非常に奇妙な現象が存在するようです。中でも、特に奇妙なのが、“存在確

率・・・マイナス1”というものです。

  この数学的表現を、どう解釈するかということですが...アハラノフ教授解釈では...“質

量/エネルギーも含め・・・全てが逆転している粒子・・・裏返しの電子や光子”...というものを

想定しているようです。

  これは、全く新しい概念なのだそうです...電子反粒子が、陽電子だというのとは、明確に

異なります。陽電子の場合は、質量までマイナスというわけではありません。陽電子は、プラスの

質量を持ちます。ところが、“全てが逆転している粒子”では、“質量も逆転”しているわけです」

「うん...」マチコが、うなづいた。「それは、【T/概論】で聞いたわよね...」

「ま、そうですね...

  このページでは...その成功した検証実験について...大阪大学当事者の研究論文をも

とに考察します。前にも話したと思いますが、これはイギリスの物理学者/ハーディー(Lucien Har

dy)が提唱したパラドックス(逆説)で起こる現象です...」

「はい...」マチコが、うなづいた。

 

「ええ...」高杉が言った。「後で詳しく考察しますが...

  ハーディーパラドックスとは、簡単に復習すると、こう言うことです...2つ“干渉計”を組

み合わせて...それぞれに電子と、その反粒子である陽電子を投入します...電子陽電子

は...出会うと対消滅(ついしょうめつ)し...物質としての相消滅してしまうわけです...

  しかし、それにもかかわらず...2つの粒子波動関数の干渉は起こるといいます...詳し

くは、後で考察しますが...この時、干渉計の中では、一体何が起こっているのかということで

す。これまで...“干渉計の中で起こっているコト”...は誰にも、説明ができなかったわけです」

「うーん...」マチコが、体を大きくかしげた。「干渉計の中は...一体、どうなっているのかとい

うことね?」

「そうです...」高杉が、組み上げている脚を下し、モニターをのぞいた。「そして...

  日本/大阪大学のグループと...カナダ/トロント大学のグループが...電子陽電子

代わりに、光子を用いて...検証実験成功しました...突破口を開いたわけですねえ...」

「うーん...」

「ええ...」高杉が、口に手を当てた。「私たちから見て...ポイントは...

  光子反粒子は、同じ光子だということですねえ...それから、詳しい説明は論文では割愛

されているわけですが...“量子もつれ=光子”の、“非局所性”をうまく応用した様子です...」

「塾長...」マチコが、テーブルの上で手を立てた。「そもそも...

  干渉計というのがさあ...もうひとつ、よく分からないわけよね。それは、どんなものかしら?」

「それも、今度は詳しく説明しましょう...

  ともかく、検証実験では...アハラノフ教授理論予測した通り...奇妙な現象が観測さ

れたわけです...“中をのぞくことに、意味はない!/決して、扉の中をのぞいてはいけない!”

という、“禁・・・教義/ドグマ”は、ついに破られたわけですねえ...」

「そしたら...1羽の鶴が...(はた)を織っていた...とわけね?」

「まあ...そうですねえ...

  少なくとも...“中をのぞくことに、意味はない!”...という“金言”は、その意味を失ったとい

うことです。

  そして、アハラノフ教授弱い測定値の理論は...“量子力学の・・・新しい解釈”...を

切り開く、可能性があるということです。“量子/開かずの間の内部”が、見えて来るということ

ですから、」

「うーん...」マチコが、深く頭をかしげた。「時代が進んで...“量子/開かずの間の内部”も、

見ることが可能になって来たということね?」

「そうです...

  “重ね合わせの内部・・・秘密の回路・・・粒子の楽屋裏”が...見えて来るのかも知れません。

【ベルの定理】も、非常に衝撃的なものでしたが、弱い測定値の理論も、量子力学黎明期

以来の、大変革をもたらす可能性があるのかも知れません。

  まあ...今後の展開次第ということでしょうが、その可能性があるということですね。量子情報

科学新展開と重なって、次世代テクノロジーに貢献することになると思います。“文明の第3ス

テージ/意識・情報革命”の時代の、基盤的テクノロジーになって行くのかも知れません...」

「はい...」マチコが、モニターをのぞきながら言った。「それは...

  少なくともさあ...“文明の第2ステージ/エネルギー・産業革命”の時代の...“大規模で

/粗野な・・・熱運搬エネルギー”...ではないということよね...“微細で/洗練された・・・

情報運搬エネルギー”...だということよね?」

「その通りです...」高杉が、満足そうにうなづいた。「さすがに...私の公設アシスタントです」

「はい...」マチコも、満面で嬉しそうにうなづいた。

「いいですか...

  “人類文明が、野生の喧騒を離脱し・・・さらに1歩深く・・・大自然に踏み込んで行く”とは、

状況としては...“粗野で/表面的な・・・喧騒のエネルギー世界”から...“微細で/洗練

された・・・より深い、自然情報系のエネルギー世界”へ...ステージ・アップして行くというこ

となのでしょう。

  当然そこには...核弾頭原発などの、“粗野な・・・熱エネルギー”は含まれません。人類

文明は、より繊細で、高度な領域へ流れて行くのでしょう。それが...“生命潮流のベクトル/

・・・生命潮流の力と方向”...なのかも知れません...

  まあ...そうしたはるかな先は、想像を絶するわけですが...しかし、いずれは、そうした世

界に突入して行くことになるのでしょう」

「はい...」マチコが、神妙に言った。

  江里香が、コクリとうなづいた。

  〔2〕 干渉計に・・・ 1個の光子をいれる      

                 


「さて...」高杉が言った。「まず、干渉計とはどういうものかを説明しましょう」

「はい、」マチコが、両手を揃えた。

干渉計とは、“2つに分離した光”を、再度、合流させる装置です。これは、量子現象観測手

として、よく使われるようです。“2つに分離した光”というのは、ビーム・スプリッター“2つに

分離した光”ですね」

「その...ビーム・スプリッターというのは?」マチコが聞いた。

「この言葉は、《量子情報科学》では、すでに何度も出てきていますね。しかし、今度は、詳しく

説明しましょう」

「はい...お願いします」

  高杉が、モニターに目を投げた。

「ええ...

  ビーム・スプリッターというのは...一言でいえば、“半透明の鏡”ですね...ビーム分割

たり混合する場合に使う、光学分野の装置です。ビーム・スプリッター入射した光は、一部は

反射し、一部は透過するわけです。そうやって、1つの光を、2つに分割します。

  この方法で、偏光成分分離できるものもあります。これは、偏光・ビーム・スプリッターといわ

れます。そして、この2つの光を、“干渉させて・・・1つにまとめる”のが、干渉計ということです。

まあ、私は専門家ではないので、この程度の説明で了承して欲しいと思います...」

「あ、もう1つ...」マチコが、指を1本立てた。「偏光というのはさあ...よく聞くんだけど、どうい

う意味かしら?」

「うーむ...」高杉が、重々しくうなづき、モニターに辞典を呼び出した。「実は...

  私も、この偏光という言葉を...何度か辞書で引いた覚えがあります。なかなか、一般的に

は、難しい概念です...ええと、広辞苑よりも、大辞泉の方が、多少分かりやすく説明して

あったように思いますので、こっちの方を紹介しましょう」

「はい、」

大辞泉によると...偏光とは...

  “光波の振動方向の分布が・・・一様でなく・・・つねに一定の平面に限られている光”...だそ

うです。“振動方向が、一直線上に限られている・・・直線偏光/円を描く・・・円偏光/楕円を描

く・・・楕円偏光”があるようです。

  そして、“自然光は・・・反射すると偏光になる”とあります。つまり、“偏光の反対の概念は・・・

自然光”だということです。大辞泉の説明もこの程度で、一読してもよく分かりませんねえ。ま

あ、光学的難しい概念になります。

  しかし、私たちは...偏光プリズム(ニコルのプリズム/方解石の複屈折を利用する)や、偏光フィルター

偏光顕微鏡など...偏光を応用した機材が、身の回りに多くあります。光学理論的な説明よりも、

実際のプリズムフィルター顕微鏡としての感覚の方が、馴染みやすいのかも知れませんね」

「うーん...こういうものだ、ということね。でも、原理が分からないのよね」

「そうですね...申し訳ありませんが、私も今ひとつ、理解が不足しています。折を見て、よく説

明のできるように、調べておきましょう」

「はい...

  ええと、それで...ビーム・スプリッターというのは...“量子もつれ=光子”を、分離して取り

出す時にも、使うわけよね?」

「そうですね、それも、詳しいことは分かりませんが...

  まず、“量子もつれ=光子”を作りだすのは、比較的簡単です。ビーム・スプリッターとして働く、

“特殊な・・・ダウン・コンバート結晶”に、を通すだけで作れます。そして、それを、ビーム・スプ

リッター分割し、“量子もつれ”を残しながら、“別々に・・・導き出す”ことができるわけです。

  そうした“量子もつれ=光子”を、“真空容器/電磁トラップ等”隔離し、全く新しい“量子コン

ピューター”デバイス(電気回路を構成する、基本的な素子)“量子通信”などのデバイスを作るわけで

すね。こうしたものは、次世代テクノロジー基盤技術として、大車輪で開発が進んでいます」

「はい、」マチコが、うなづいた。

「まあ...

  別々の光再統合するには...ビーム・スプリッターを、逆に通せばいいわけですね。これは、

2つ目/出力側ビーム・スプリッターがそうですが...2方向からを入れ、混合/干渉して、

“元の・・・もつれた光”にするわけです。

  しかし、まあ、こうした最先端分野は...私たちにとっても、データが少ないので...十分な説

明が難しいことを、了承して欲しいと思います」 

「はい、そうですね」マチコが、うなづいた。

 

「それから...」マチコが言った。「ええと、塾長...

  天体観測でもさあ...干渉計というのがあるわよね...これは、どういうもなのかしら?」

「うーむ...」高杉が、宙を見た。「確かに、ありますねえ...

  一般的には...波を干渉させる装置全般を、干渉計と言うのでしょう。確か、天文学では...

複数光学望遠鏡や、電波望遠鏡連動させ...細かな天体の画像を合成する装置のような

ものがあるようです。

  私は、あまり詳しくはないのですが...関さんは、その方面も、守備範囲でしたか?」

「あ、はい...」関が、モニターから顔を上げた。「ええと...そうですね...

  最新のものでは...アタカマ・大型・ミリ波/サブミリ波干渉計 (Atacama Large Millimeter/submillimeter

Array・・・ ALMA) が、チリ・アタカマ砂漠に建設中です。次世代・大型電波干渉計ですね。ALMAは、

2002年から建設が始まっています。完成予定は2011年/運用開始予定は2012年です...」

「うーん...」マチコが、首をかしげた。完成は、来年かあ...運用は、その翌年からね...」

「そうです...」関が、両手を固く組んだ。「これは...

  アメリカカナダ日本台湾、それからヨーロッパの、国際共同プロジェクトで建設され

す。南米チリ/アンデス山脈/標高約5000mのアタカマ砂漠に建設しているものです。“高精

パラボラ・アンテナ80台で・・・全体を1つの電波干渉計/電波望遠鏡”とするものです」

標高5000mですか...」高杉が言った。「なるほど...相当に、空気が薄いわけですね」

「はい...」関が、手をすり合わせた。「そうですね...

  “空気が薄く・・・最も乾燥している砂漠地帯”が、天体観測には最適なのです。ハワイマウナ

ケア山頂には、日本すばる望遠鏡がありますが...ここは標高4200mです。

  しかし、アタカマ砂漠アンデス山脈/標高5000mですから...それよりも相当に高くなりま

すし、砂漠乾燥しています。そのために、人の常駐が難しくなりますね。ごく、少人数での運用

施設になるようです...」

「すると...中腹か、下の方で...運用するということですか?」

「そのようです。まあ、完成が近づけば、関連ニュースも多くなると思います」

「うーむ...」高杉が、うなづいた。

<マッハツェンダー干渉計・・・ とは?>    wpe8.jpg (26336 バイト) wpeA.jpg (42909 バイト)  

                      

 

「さて...」高杉が言った。「量子力学で使う、光・干渉計の話に戻りましょう...

  レーザー干渉計などは、よく知られていますが...最も基本的なものは、19世紀の末に、

理学者マッハツェンダーが考案した、“マッハツェンダー干渉計”だと言います。この装置の

概略はこうです...

  ビーム・スプリッター/半透明の鏡で...光を2つに分離...それぞれ、等距離に置く鏡で反

...再度、ビーム・スプリッターを通し...混合/干渉させるという、光学分野の装置です。

  波長が同じで、位相(光の波の時間遅れ)がそろっていれば...“2つの光は・・・強まる方向で干渉”

します。しかし、“位相が逆になれば・・・波は打ち消し合って消滅”、してしまいます...位相差

が出るのは、ビーム・スプリッター表面での反射と、裏面での反射の、時間差です...」

「うーん...そうかあ...」マチコが、スクリーン・ボードに表示されている、概略図を眺めた。

 

「さて...」高杉も、スクリーン・ボードに目を投げた。「もう一度説明しますが...

  この図で示すように、“マッハツェンダー干渉計”というのは...ビーム・スプリッターが2枚

あります。そして、その間に、等距離に、2枚の鏡が置かれ...全体として菱形に構成

されます。

  そして、干渉検証するための光・検出器が、出力側/ビーム・スプリッター2方向に設置

れています。ビーム・スプリッターを、それぞれ透過した光と、反射した光が出ていく方向です」

「はい...」マチコが、スクリーン・ボードを見ながら、コクリとうなづいた。

 「さて...

  “マッハツェンダー干渉計”の...最初ビーム・スプリッター“2つに分離された光”は...

鏡Aの光路と、鏡Bの光路で、それぞれ鏡に反射し...2枚目ビーム・スプリッターに入ります。

ここでは、それぞれ逆の側からビーム・スプリッターに入光するわけですね。そして、混合/干渉

させます。

  最後に...干渉した光は、光・検出器に入り...終了です。この場合、1方向の検出器にだ

け、が入ります。つまり、もう一方の検出器には、光の検出はナシです。まあ、通常の光の干

では、こういう結果になります...」

「うん...」マチコが、うなづいた。

「さて、いいですか...」高杉が、江里香と北原の方を見た。「ここからが、重要です...

  “存在確率・・・マイナス1の光子”、の核心に近づいていきます。ここを良く聞いておかないと、

“確率・・・マイナス1”が、理解できなくなります」

「はい...」北原が、唇を引き結んだ。

 

「ここで...」高杉が、スクリーン・ボードを見ながら言った。「もし...片方の光路を、板で遮った

としたら...どうなるでしょうか。考えてみてください...」

  江里香が、唇に指を当て、首をかしげた。

「いや、難しく考える必要はありません...

  この場合...1方の光は遮断されるわけですから...当然、混合されず...干渉も起こ

らないわけです...そうですね?」

「はい...」江里香が納得し、うなづいた。

「それゆえに...

  2枚目/出力側ビーム・スプリッターに入るのは...1方の、“遮断されなかった方の光”

けになります。このは...したがって、干渉する相手もなく...普通に2つに分離され、2方向

検出器に入って行きます」

「そうよね...」マチコが言った。

「したがって...この2つ検出器で...

  “1方にだけ・・・光が検出されれば・・・2つの光の干渉が起こっている”...ことになります。し

かし、“両方に・・・光が検出されれば・・・干渉は破壊されている”...ということになるのです。こ

のことは、検証結果の判断として、覚えておいてください」

「はい...」江里香が言った。「“1方だけなら・・・干渉アリ”で...“両方なら・・・干渉ナシ”、と

するわけですね?」

「そうですね...」高杉が、うなづいた。「その理由は、後で説明します」

「はい、」

「うーん...」マチコが、頬に手を当てた。「ともかくさあ...

  1枚目ビーム・スプリッター光が分断され...A/Bの2つの光路に分かれるわけよね。

それから、それぞれ鏡に反射して...2方向からの光が...再び、2枚目/出力側ビーム・ス

プリッター混合され...干渉して1本になり...1方の検出器にだけ入る、ということかしら?」

「その通りです...」高杉が、大きくうなづいた。「ただし...

  2枚目/出力側ビーム・スプリッターから先については...もう少し詳しい説明が必要です」

「はい、」

「いいですか...」高杉が、ポン助の横のスクリーン・ボードを見上げた。「図の...

  鏡Aの光路鏡Bの光路分断され...2方向から来る光は...出力側ビーム・スプリッタ

で...それぞれ半分が反射し、半分が透過します。ビーム・スプリッターですから、当然そのよ

うに機能します。

  そして、これらの光は...それぞれ干渉しながら、2方向の検出器に向かって出て行きます。

そして、いいですか...図のように、上側の検出器の方へは、“光は干渉で・・・強め合って出力”

します。

  しかし、下側の検出器の方へは...“位相が逆になるため・・・光/波は、干渉で打ち消し合い

消滅”します...つまり、ここでは、“光の・・・波動性の側面”が現れるわけです。には、光子

としての粒子性と...としての波動性があるわけでしたね?」

「ええ...」江里香が、うなづいた。

光波/光の波は...

  ここでは、位相(光の波の時間遅れ)が逆になり...“光の波どうしが打ち消し合い・・・消滅”してし

まいます。つまり、このために、もう1方検出器では検出されないのです。

  これが...干渉が起こった時には、1方の検出器にしか、光が検出されないことの正体です」

「はい...」江里香が、言った。「そういうことなんですか...

  でも、どうして...ビーム・スプリッター反射した光と...透過した光が、位相が逆になるの

かしら...?」

「いい質問ですね...」高杉が言った。「実は...私もそう思いました...

  おそらく...ビーム・スプリッター表面で反射した光と、透過して裏面で屈折した光とでは、

位相ズレるわけですが...ちょうど、同じになる場合と、逆になる場合に、装置としてうまく

されているのでしょう」

「はい、」江里香が、うなづいた。

「まあ...

  光の干渉については...さらに詳しい説明が必要かもしれません。しかし、“参考文献”には

載っていませんし、ここでは、先に進みましょう。ともかく、そういう結果になるということで、納得

してください」

「はい、」江里香が言い、北原の方を見た。

「うーん...」マチコが言った。「そういうことなら...納得してもいいわよね...

  ともかく...出力側2方向の検出器で、1方にだけに・・・光が検出されれば...“光の干

渉が起こっている”、という証拠になるわけね...そして、両方に・・・光が検出されれば、“干

渉は・・・何らかの原因で・・・破壊されている”、という証拠になるのかしら?」

「一応、そういうことです...」高杉が、一息ついた。「関さん...何か、言うことは?」

「そうですね...」関が、モニターに目を落とした。「ええと...

  “マッハツェンダー干渉計”というのは...2つの鏡を通る...光路差を利用した干渉計

す。2つの距離同一にしておき...一方の光路に、透明体の被測定物(/個体・液体・気体)を入れ

ると...屈折率が変化した部分だけ、干渉縞(かんしょうじま)が変化します。

  つまり、“マッハツェンダー干渉計”とは...こうした、透明体被測定物を入れ...干渉縞

の変化を測定するものだ...ということですね」

「はい、」マチコが言った。

マッハツェンダー干渉計に・・・ 光子1個 を投入   wpeA.jpg (42909 バイト)  

                

 

「さて、いいですか...」高杉が、顎に手を当てた。「ここで...

  “マッハツェンダー干渉計”に入れるを...非常に弱くしてみます...それも、極限まで弱

て...“光子1個”にしたら、どうなるでしょうか...?」

“光子1個”だと...」マチコが、手を握った。「それ以上、分割できないということかしら?」

「そうです...」高杉が、うなづいた。「光子というのは、最小単位です...

  少し脱線しますが...そもそも、量子力学量子とは、不連続な値を持つ、物理量最小単

を表現しています。量子力学以前は、エネルギー物質というものは、“無限に細かく分

割できる・・・滑らかで連続的なもの”、と考えられていたわけです。

  しかし、“物質は・・・素粒子という、それ以上分割できない・・・最小単位の集合”、という考え方

が、量子論であり、量子力学新展開でした。そして、この新しいパラダイムは、まさに現在の

学技術文明の、基盤を築き上げました」

「うん...」マチコがうなづき、膝の上に飛び乗ったミケの頭を押さえた。

「私たちは...

  今では...量子論や、量子力学...あるいは、確率論的なものの考え方に、疑いを持ってい

ません。しかし、つい100年前までは、エネルギー最小単位の粒子があるなどとは、考えても

いなかったわけです。

  また...や、海水にしても...水分子という最小単位があるなどとは、考えていなかったわ

けですね。気体・液体・固体3つの相を持つ、あらゆる物質がそうです。そうした粒子生物体

が構成され、生態系が構成され、それはビッグバン宇宙論にまで拡大されて行ったわけです。ま

さに、向かうところ敵なしでした。

  ただ...この壮大な理論体系は...まだ完全/絶対的なのものではありません。多くの基本

的矛盾も、積み残しています。よく知られているように、一般相対性理論/・・・重力が、素粒子

の標準理論(電弱統一理論と、強い力を記述する量子色力学を合わせた理論/自然界の4つの力のうち、重力以外の、電磁気

力、弱い力、強い力を統一する理論)に組み込めず...それゆえに、ダブル・スタンダードになっています」

「はい...」マチコが、ミケの頭をなでた。

「それから...

  さらに大きな問題として...量子論/量子力学は、生物無生物差異を、明らかにしていま

せんね。また、この問題と関連しますが、私たちは...“我思う・・・故に我あり(デカルト)...と

いうように...“思惟する者・・・意志を持つ精神的な存在”...という側面を持ちます。

  こうした観点から眺めると...量子力学は、“物の領域”偏った理論であることは明白です。

“この世”を、“物の領域”“心の領域”分断したのは、デカルトがですが...はそれを統合

する“神”の存在を信じていました...さあ、では、我々はどうしたらいいかということです」

「うーん...」マチコが、大きくうなづいた。「まだまだ、大きな仕事が山ほどあるあるわけね、」

「そういうことですね、」関が言った。

  ミケが、マチコの膝から作業テーブルに上がった。そのミケの頭を、江里香がそっと押さえた。

 

          wpeA.jpg (42909 バイト)               

「ええと...」高杉が言った。「この機会ですから...この問題についても、一言、触れておきま

しょう...

  重力量子化した...“重力子/グラビトン”を...素粒子の標準理論に導入すると、あらゆ

計算結果が、たちまち無限大に発散してしまうのだそうです。

  まあ、これは、一般相対性理論(アインシュタインの重力理論)と、量子力学時間概念が、そもそも、

根本的に異なっているからだと言います」

「塾長...」マチコが、小さく手を上げた。「“重力子/グラビトン”は...まだ、発見されていない

のかしら?」

「もちろんです!」高杉が、強くうなづいた。「いいですか...

  一般相対性理論では...時間1つの次元なのです。そして、“時空という構造”に組み込ま

れています。だから、4次元時空間などと言いますね。つまり、時間空間等価なのです。そし

て、その関係性の解釈は、幾何学的に与えられます。

  光速度で宇宙旅行をすれば、時間がゆっくり流れるというのは有名な話ですね。しかし、相対

性理論は、よく古典的といわれるわけですが...こと時間概念に関しては、量子力学の方が、

むしろニュートン的なのです。つまり、ニュートン絶対時間の概念に近いわけです...」

量子力学では...」関が、言い添えた。「時間は...単なるパラメーター(媒介変数)だということ

ですね。モノの本質ではなく、運動変化記述する、時間パラメーターだということです。時間

に沿って開示された、映画フイルムのような解釈ですかね。映画ストーリーとは無関係の、」

「まあ...」高杉が、うなづいた。「いいですか...

  少なくとも...“時空構造”物質/質量によって曲がり...それが重力となるような関係性

ではない、というわけです。

  ちなみに...“最新の・・・ホジャヴァ重力理論”では...“ニュートン的・絶対時間に回帰しつ

つある、とも聞きます。

  現在、その検証が進められているわけですが...最新物理学1つの動向として、こうした流

れもあるということです。しかし、これは、知性の探求過去へ回帰しているのではありません。

螺旋を描きながら、さらに前進しているのです...」

「そうですね...」関が、うなづいた。

 

「さて...」高杉が、モニターに肩を寄せた。「脱線はこのぐらいにして、話を進めましょう...

  ええ...“マッハツェンダー干渉計”に、“光子を1個”入れる...という所でしたね。光子は、

先ほども言ったように、最小単位です。これは、ビーム・スプリッターでも分割不可能です。

  さて...この光子が、最初ビーム・スプリッターを通過する時...これは透過するのか、

するのか...まあ、“・・・どちらか・・・”、になると思われます。江里香さん、ここまではいいで

すか?」

「ええ、はい...」江里香が髪をすいて、耳の後ろへ送った。

「では、この思考実験を進めてみましょう...

  先ほどの基本的な実験と同じです...1方の光路板で遮った場合と同じく...1個の光子

は、どちらか1方の光路を進み...干渉は起こらず...それゆえに、2つ目/出力側ビーム・

スプリッターでは...1個の光子ですから、再び透過反射が選択します。

  そして、最後に、2方向の検出器ですが...ここでも、“1方を・・・ランダムに選択”して...

出器に入って行くことが予想されます...さて、では、これは“・・・正解・・・”なのでしょうか?」

「うーん...」マチコが、うなづいた。「多分、そんなところよね」

「そうですね...」高杉が、脚を組み上げた。「まあ...常識的には、そうですね...

  ところが、ここで、“常識が・・・大きく外れてくる”のです。実際に実験してみると...この予想さ

れた結果にはならないわけです。

  どういう結果になるかというと...“光子は今までと同様に・・・1方向の検出器にだけ出る”

といいます。“1方の検出器にだけ出る・・・すなわち・・・光の干渉は起こっている”ということです。

  さて、では...“一体、どうやって・・・干渉を起こしたのでしょうか?”...ともかく“光子は1個

だけで・・・干渉”して、1方向の検出器に入ったのは、実験的事実です。そして、もう一方の検出

では、位相が逆になり、波が打ち消し合って消滅したと考えられます」

「うーん...本当なのかしら?」マチコが、ポカンと口を開けた。

「まあ...基礎物理学実験です。考えうる限り、厳密なものでしょう」

「うーん...」マチコが、江里香を見た。

何故、こんな現象が起こるのか、メカニズムはどうなっているのか...ということですね...

  実は...量子力学的種を明かしをすれば...この時、“1個の光子”は...“マッハツェン

ダー干渉計”の...“2つの光路を・・・それぞれ同時に通過する”という...“量子の重ね合わ

せの状態”を、実現していたと考えられるのです...」

「...」

「この図で...」高杉が、スクリーン・ボードを見上げた。「鏡Aの光路をたどった光子は...2つ

目/出力側ビーム・スプリッターで...鏡Bの経路をたどった自分自身と出会い...干渉

起こしたと考えられます...

  つまり、干渉が成立しているわけです。したがって、“1方向の検出器にだけ・・・光子が検出さ

れた”、というわけです。うまく説明がつくわけですね」

「そうかあ...」

「しかし...

  何度も言いますが、干渉計の内部のことは分かりません...これは、あくまでも、量子力学的

な推測で、内部を直接観測したわけではありません。“量子力学的な現象は・・・観測や測定をし

ただけで・・・状態が撹乱/破壊”、されてしまいます...つまり、事実は、藪の中です...」

「うーん...」マチコが、深く頭をかしげた。「ここでも...“量子/開かずの間の内部”かあ...

ややこしいわねえ...本当なのかしら...?」

「まあ...」高杉が腕組みをし、大きく息を吐いた。「そうですね...

  常識的には...“1個の光子”が、同時に2つの経路をたどり...混合/干渉するなどという

理屈は...にわかには信じがたいでしょう。では、“実際に光子は・・・何処を通ったのか?”、そ

れを、調べる方法はないのかということです。

  そして、ここで...イスラエル/テルアビブ大学/アハラノフ教授の、弱い測定値の理論

の登場になるのです...しかし、その前に、色々と確かめておくことがあります。そうでないと、

“弱い測定値”を持ち出して来る、意味が分からないことになります」

「はい...」マチコが、コクリとうなづいた。

光子の通った経路・・・ 確認する方法・・・?  wpeA.jpg (42909 バイト)  

                 

 

「まず...」高杉が言った。「“弱い測定/弱い測定値”の話は後回しにして...先ほどの話に

戻ります。“量子の・・・重ね合わせの状態”という話も、しばらく離れましょう...」

「はい、」マチコが言った。

「そこで、いいですか...

  “マッハツェンダー干渉計”の中に...鏡Aの光路鏡Bの光路があるわけですね。このどち

らを、“1個の光子”が通ったかを確かめるには...“A/Bどちらかの光路に・・・検出器を置い

てる”、という方法があります」

「はい、」

「この検出器は...

  光子が来たら...カチリと音を立てて知らせ...そのまま光子を呑み込んでしまうものにしま

す。もし、光子この光路を来たら、“1個の光子”検出器がキャッチし、実験はこの時点で完了

します。つまり、光子の通った経路が確定され、目標が達成されるからです。

  そして、もし...光子別の光路を選んでいたら...検出器にキャッチされることはないわけ

ですが、当然、もう1つの光路を通るわけです。この場合も、混合による干渉は起こらないわけで

すね。

  つまり...2つ目/出力側ビーム・スプリッターでは...この“1個の光子”は...2方向の

検出器ランダムに選択し...そこに入って行くことになります。この、1つの検出器でのキャッ

は、光の干渉によるものではなく、“1個の光子”ランダムに選択したものです」

「うん...」マチコが、両手を組んだ。「実験を重ねて、平均化すれば...両方というわけね、」

  高杉が、うなづいた。

 

「さて...」高杉が、肩を引いた。「いいですか...

  この...“1方の光路に・・・検出器を置くという実験”を、実際にやってみると...“光子は両

方向の検出器にランダムに出てきて・・・干渉が消えたことが確認できる”、のだそうです...こ

れは、どういう意味なのでしょうか...?

  しかし、いいですか...いずれにしても...“光子が・・・1個で干渉している時”...“1個の

光子が・・・何処を通ったのかを・・・確認する”...という、当初の目的は、達成できないことにな

る、のだそうです」

「ふーん...」マチコが、口に拳を当てた。「当初の目的かあ...」

「でも...」江里香が言った。「光子は...検出器をセットしてない光路だけを...通ったことに

なるのかしら?」

「そうよね...」マチコが言った。「何度やっても、こうなるのかしら?」

“参考文献”には...」高杉が言った。「そのことは書いてありませんが...

  たった1回の実験で...たまたま、検出器の無い光路だけを通ったというのであれば...

験の意味がありません。したがって、“何度やっても・・・両方の検出器に・・・ランダムに入る”、と

いうことでしょう...」

「うーん...?...」 

「ええ、いいですか...」高杉が言った。「次に...

  “透明な検出器”を、使ってみたらどうかということです。この場合、光子が来たかどうかは検出

しますが...透明だから光子は呑み込まず...そのまま通過させてしまうような検出器です」

「うん...」マチコが言った。「面白そうね...

  それなら...検出器セットしない時のように...“1個の光子”干渉が起こるかもね...」

「実は...」高杉が、ほくそ笑んだ。「こうした、“透明な検出器”というのは、実際に存在するのだ

そうです...

  これは、“量子・非破壊測定”と呼ばれる方法だそうです。この方法なら、マチコさんの言うよう

に、干渉を妨げることもなく、“1個の光子が・・・どの光路を通ったか”、を調べることができそうで

す。しかし、結論を言えば...この方法も、当初の目的を達成せず、崩れ去ってしまうそうです」

「どういうことかしら...?」マチコが、高杉の横顔を見た。

 

                           house5.114.2.jpg (1340 バイト)

 

「うーむ...」高杉が、モニターを読みながら、うなった。「ええ...いいですか...

  どんな量子測定にも、測定の反作用というものがあります...いわゆる、撹乱してしまうわけ

ですね。“量子・非破壊測定”では、その反作用は、光の波の形ボヤけてくることに現れるとい

います。

  実際に、実験してみると...“2つの波が、ボヤけた状態で合流し・・・干渉は不完全になり・・・

光子は2方向から出てくる”、と言います。つまり...2方向に出て、2つの検出器に入るのだそ

うです。してがって、ボヤけたために、干渉は起こらず2つの検出器に入る、というわけです」

「...」マチコが、口を押さえた。

「はは...」高杉が、笑った。「つまり...

  “透明な検出器”を使っても...“光路に置かれた検出器の存在”が...干渉を破壊してしま

い...当初の目的は達成できない...ということです」

「うーん...」マチコが、口をとがらせた。

「ええと...」高杉が言った。「いいですか...

  “1個の光子”を...“マッハツェンダー干渉計”に投入するところに話を戻しますが...この

光子は、どの光路を通ったかは分かりません。確認する方法がないからです。ともかく、“光子が

・・・1個で干渉”し、それゆえに、1方向の検出器に入って来ます。

  さて...色々と予測はできますが...実際に、干渉計の中の何処を通っているのか、それを

実際に観測するのは、不可能なのかということですね...」

「うーん...」マチコが言った。「鶴の恩返しのようにさあ...やっぱり、中をのぞいてはいけ

ないのかしら...そこは...“神の領域”...になるのかしら?」

「はは...いいことを言いますねえ...

  あるいは、本当にそこは...“神の領域”...なのかも知れません。しかし、そこに足を踏み

入れる人類文明は、今...“神の資質”...を試されているのかも知れませんねえ...」

“神の資質”かあ...」マチコが言った。「ともかく...干渉計の中は、“開かずの扉の中”とい

うわけよね、」

「そうですね...そこで、弱い測定値の理論の登場になります」

「はい...」江里香が、うなづいた。

   〔3〕 心の領域も、重ね合わせか     house5.114.2.jpg (1340 バイト)

             wpe8.jpg (26336 バイト)     沙織    

 

「ええ...」高杉が、関の方を見た。「弱い測定値の理論の話に入る前に、“心の領域”の考

察を、少し進めておきたいと思います。

  そういうわけで、ここは途中ですが、 シンクタンク=赤い彗星心理学担当/綾部

沙織(あやべさおり)に、急きょ、参加してもらいました。今後、この方面の考察で、流れを把握してお

いてもらうために、オブザーバーとしての参加を依頼しました。

  ええと、沙織さんは...前にも紹介していますが...ユング心理学トランスパーソナル心理

の方面が、ご専門です。よろしくお願いします

「よろしくお願いします、」沙織が、ゆっくりと頭を下げた。「ここでの、皆さんのご意見を、拝聴させ

ていただきます」

「よろしくお願いします」江里香が、頭を下げた。

 

「さあ...」高杉が言った。「では、続けましょう...

  ともかくデカルトが...“この世/・・・この世界”を、“物の領域”“心の領域”分断しました。

これは、自然科学的・思想を広げるという意味において、大きな貢献をしています。しかし、現在

科学技術文明は...“物の領域”大きく偏重し...生態系崩壊危機を招いています」

「はい...」マチコが言った。「“物の領域”に、傾き過ぎてしまったということですね?」

「そうです...

  その“物の領域”大繁栄基盤が...量子論/量子力学一般想定性理論です。これらは

ダブル・スタンダードとなっているわけですが、“文明の第2ステージ/エネルギー・産業革命”

パラダイムは...“技術展界の閉塞状況・・・進化の袋小路”...に陥りつつある様相です」

「うーん...」マチコが言った。「そうした中で...

  “高速増殖炉・もんじゅ”(福井県敦賀市/日本原子力研究開発機構)がさあ、運転再開になるというわけ

ね...大丈夫なのでしょうか?」

「まあ...」高杉が、顎をひねった。「非常に不安ですねえ...

  不安のみがつのります。仮に、運転再開になったとしても、すでに非常に古い設計思想

子炉なのです。私たちはよく、北朝鮮原子炉施設の映像を、ニュースなどで見ますが、非常に

旧式ですね...“高速増殖炉・もんじゅ”設計思想も、昭和50年代のものだと言います」

半世紀以上も、前のものですか?」マチコが言った。

「そうです...

  実用炉は、全く新しい概念で作るとも言っていますが...そもそも、“高速増殖炉”などという

ものは、時代的役割終了しているものと考えています」

「はい...」北原が、大きくうなづいた。「そうですね...

  My Weekly Journal/第2編集室の立場から言えば...“目的の曖昧な・・・危険度の

高い原発施設”が、官僚的体質のもとで、現状維持を計っているように思います。まさに、“危

険のツボ”にはハマり、トラブルの発生を待っている状況のような気がします。

  アメリカで...老朽化・核弾頭を、新設計RRW(Reliable Replacement Warhead)/高信頼性

代替核弾頭に総入れ替えするという、25カ年計画が進行していますが、それと非常によく似た

状況です。ナンセンスであり...いいことはなにも無く...非常に危険です...」    

                                          <・・・・・詳しくは、こちらへどうぞ>

「我々としては...」高杉が言った。「“脱・原発の時代”を目指しています...

  “核爆弾”はもちろんですが、“高速増殖炉・もんじゅ”も、“大きなトラブルの元凶”だと見て

います。いいことは、何もないですねえ...」

「はい!」北原が、強くうなづいた。「“核爆弾/核エネルギー”はの技術は...

  さしあたり...地球近傍天体/彗星・小惑星の、地球直撃を回避するのに使えるぐらいです」

「それは...」マチコが言った。「宇宙空間で使用するわけね?」

「そうです...」北原が言った。「地球生命圏を守るために使います...

  これは、生態系の中で使えるエネルギーではないですね。地球上では、仮に、インドパキス

タンの局地戦争核兵器が使用されたとしても、“世界は核の冬に沈む”と言います。日光が

遮られ、暗く寒冷化し農業が崩壊し巨大な飢えが...到来すると言います...

                        “参考文献”・・・日経サイエンス2010/04/局地戦争でも、人類は滅亡)

「はい...」マチコが、うなづいた。「“原発”でもさあ...大きな事故が起こるわよね、」

「そうです...」高杉が言った。「我々としては、ともかく、“高速増殖炉・もんじゅ”運転再開

は、中止することを提言します。

  “チェルノブイリ原発事故(1986年/ソ連/事故の国際評価尺度・レベル7や、“スリーマイル島原発

事故(1979年/アメリカ/事故の国際評価尺度・レベル 5の様な大事故にならないうちに...“目的の曖

昧な原子炉”は、すみやかに閉鎖・解体することを提言します」

                                                       <・・・・・詳しくは、こちらへどうぞ>

高リスクをとる、価値がないということですね、」北原が言った。「時代が、大きく動いています」

「その通りです...

  いずれにしろ、“文明の第2ステージ/エネルギー・産業革命”の、“熱運搬/巨大エネルギ

ー”パラダイムは...終息に向かうでしょう。

  “文明の第3ステージ/意識・情報革命”の、“情報運搬/微細エネルギー”の時代には...

そのような、“粗野なエネルギー”は無用のものとなります...時代が、大きく動いていますね」

「本来...」関が言った。「巨大エネルギーは、生態系には馴染まないですね...

  大自然の中には、火山地震など、巨大エネルギーは存在しますが...生態系ではそ

巨大エネルギーを、ナマのままで使うことはないわけです。使うとしても、もっと微細に加工

て使います。

  “文明の第3ステージ/意識・情報革命”パラダイムでは...そうしたレベル大自然より

も、“もう1歩深く・・・自然界の奥へ踏み込んで行く”ことになります。そこには、これまでとは異な

る...“微細で濃密で・・・はるかに高度な別世界”が...私たちを待っています...」

「はい、」マチコが言った。「うーん...私たちを、待っているわけですね?」

「そうですね...」関が、明るく言った。「“生命潮流のベクトル・・・生命潮流の力と方向”が、

私たちを、そこへ案内するのだと思います。この、“21世紀・大艱難の時代”を、乗り切れたら、

ということです」

「はい!」江里香が、固く手を握った。

 

「ええ...」高杉が、大きく息を吐いた。「“生命潮流”と...【人間原理空間・ストーリイ】は、

どのような関係性にあるのかは、まだよく分かりません。

  しかし、“熱運搬/巨大エネルギー系”の...“宇宙開発”“原子力発電”“核融合発電”

など...“文明の第2ステージ/エネルギー・産業革命”パラダイムイノベーション(技術革新)

には...“急激な抑制”が働いているように思います。

  そして、一方、“情報運搬/微細エネルギー系”の...“コンピューター”“ゲノム解読”や、

“量子情報科学”という、“文明の第3ステージ/意識・情報革命”の、次世代ステージ/次世代

パラダイムイノベーションが...“急激に伸長”して来ていますねえ」

「うーん...」マチコが、顔をかしげた。

「これは...

  【人間原理空間・ストーリイ】【原型/世界軸】に沿い...リアリティー世界に、強力なバ

イアス(偏向)がかかっているのかも知れません。そんな、“意味不明の・・・巨大なベール”が...

過渡期にある人類文明を...包んでいるように見えます。

  “文明の第2ステージ/エネルギー・産業革命”イノベーションは、終息の方向性が明確に

なり...“文明の第3ステージ/意識・情報革命”次世代ステージが、“生命潮流”の中で・・・

スタンバイしている”、と私は見ています」

「はい...」関が、うなづいた。「しかし、塾長...その主体性は、何処にあるのでしょうか?」

「つまり...

  “主体性の発現こそ・・・すなわち・・・神に匹敵するものかも知れない”...ということです」

「...」

「私たちが...」マチコが、頭を揺らした。「“神様”なのかしら...?...この私が...?」

「その資格は、ありますねえ...」

「ふーん...」

企画室からの依頼               

   文明の閉塞状況/・・・ブレークスルー “人間の巣のパラダイム”
 

              

 

「ええと...」高杉が、口に手を当てた。「企画・担当響子さんからの、緊急依頼が来ています

ね?」

「あ、はい...」マチコが、メモ用紙を見た。「必ず...コメントを入れるようにと、私の方にも言っ

て来ています」

「うむ...そのコメントを、ここで入れておきましょうか」

「はい、」マチコが、作業テーブルの上で、手をそろえた。「お願いします」

「うむ...」高杉が、依頼の内容をモニターに呼び出し、スクロールした。

  モニターを見ている高杉の横顔を、マチコが眺めていた。他のみんなも、それぞれのモニター

で、内容に目を通していた。すでに何度も目にしている、定型的なものだった。

 

「まず...」高杉が、顔を上げた。「ええ...

  現在の世界体制...グローバル化が加速する中での、資本主義/市場主義パラダイム

が、閉塞状況に陥っているということですねえ...これをどうするかということが、いよいよ、

急課題になって来ました。

  “新時代/次世代文明の・・・社会的基盤”を創出するためにも...“文明の折り返し/反

・グローバル化”は、必至の情勢だということです。そして、受け皿となる“最有力・ビジョン”が、

〔人間の巣のパラダイム〕だと言うことですね、」

「はい...」マチコが、うなづいた。「もちろん...

  私たちも、〔人間の巣のパラダイム〕を、信じているわよね。それを、“塾長の言葉で・・・コメン

トして欲しいの”と、響子が言っていました」

「うむ...」高杉が、口に手を当てた。「企画・担当響子さんの依頼は...

  “持続可能な経済成長”からの脱却....“文明の折り返し”/〔人間の巣のパラダイム〕

への転換...それへの、“私からの・・・ひと押し”...ということすね?」

「はい!」

「ええ...そうですねえ...

  “地球温暖化”“人口爆発”...そして、“グローバル化世界の・・・限界的状況”...こうし

た中で、いよいよ〔人間の巣〕と、自給自足型社会世界展開が、急務の情勢となって来たとい

うことですね。そこの所を、《危機管理センター》響子さんが、警報を発しているわけですね」

「はい、」マチコが、真剣な眼差しで、高杉を見た。「ひどく心配しています...

  ハイチ地震に続いて、南米/チリでもM8.8大地震が発生しました。その前は中国/四川

大震災になっていますし、インドネシア/スマトラ島沖の地震では、アンダマン海大津波

が発生しています」

「うむ...」

響子は...

  日本の...“太平洋ベルト地帯・・・メガロポリス群での大地震”を...ひどく心配していま

した。このベルト地帯人口工業も、全国に分散し...〔人間の巣〕緊急展開するのが...

急務だと言っていました。“政治は・・・何もしていない”とも、言っていました」

「うむ...」

響子は...“太平洋ベルト地帯”崩壊すれば...日本壊滅的・大打撃を受けると言ってい

ました」

 

「まあ...」高杉が、深くうなづいた。「それは、そうでしょう...

  さて、私も...現在のところ...〔人間の巣のパラダイム〕が...人類文明軟着陸が可

な、“最有力の・・・文明の舵取り”だと考えています。

  皆さんが言うように、日本でも猛烈な社会混乱が加速しています。この日本においても、〔人

間の巣〕全国展開が、防衛問題も含めて、全ての難題解決できる、〔21世紀・維新〕だと

思います...皆さんの言われている、【日本版/ニューディール政策】ですね、」

「はい...

  【日本版/ニューディール政策】は...大公共事業による、〔人間の巣〕自給自足・農業

社会の、全国展開です。これで、日本中に幾らでも仕事ができますし、〔明治維新〕にを超える、

大社会改革スタートします。そして、これが、世界・スタンダードになって行く、というものです」

「うーむ...私も、根本的・解決策は、これしかないように思いますねえ...

  経済学者起業家は、日本経済の復興を叫んでいますが、これは競争の激化を呼ぶだけの

ものです。資本主義/市場経済の、最後の輝き演出するだけですねえ。その先に展開するの

は、“文明の第3ステージ/意識・情報革命”と...〔人間の巣のパラダイム〕になるでしょう」

「はい...」マチコが、上体を伸ばした。「響子からの、依頼は...

  ええと...メキシコで行われる、COP16第16回・気候変動枠組条約・締約国会議/2010年11月・・・メキシコ

で開催予定)において...“持続可能な経済成長”から、“文明の折り返し”/〔人間の巣のパラ

ダイム〕へ...“・・・大舵を切る・・・”...その準備を始めて欲しいということよね、」

 

「そうですね...」関が、組んでいる腕を解いた。「本当に、もう、後がないと思います...

  ここを過ぎてしまえば...世界システムが大混乱をきたし...巨大な犠牲を伴うのは必至

しょう。しかも、いずれにしても...“文明の折り返し”不可避です。早晩、“折り返す”ことに

なるか、“崩壊・衰退”することになります。

  このまま推移すれば...“ノアの洪水”旧約聖書: 大洪水により地上の人間の大半が死に絶えたが、箱舟に避

難したノアの一族、家畜などは無事だったのような大事態が...“100億の巨大文明”を、押し流すのは

です...気候変動と、巨大飢餓は、回避不可能です...」

「はい...」江里香が、唾(つば)をのんだ。

「いいですか...」関が、江里香に言った。「だいたいにおいて...

  ホモサピエンスのような大型哺乳類/100億の人口を...如何様にしても...地球生態系

/地球生命圏では、支え続けられないのです。その上、ホモサピエンスは、“巨大な・・・熱運

搬エネルギー”使い散らし...生態系踏み荒らし...大自然征服して行くわけです...」

「とても...」江里香が、うなづいた。「持ちこたえられませんね、」

「そうです...」関が、口を結んだ。「このままで、推移すれば...

  早晩...非常にドラスチックな、巨大な悲劇が起こります。基本的には...イナゴバッタ

大量発生し、大暴れした後で...ほとんどが何処ぞで、餓死して行く状況と同じです。これは、

誰が見ても明白なことです。

  経済学者起業家は、眼前にある競争に熱中していますが、この“文明の本流/文明の舵

取り”の方は、どうするのかということです...“国家の青写真・・・国家の将来展望”を示さな

い、日本の政治も、同様です...」

「うーむ...」高杉が、うなった。「“ノアの洪水”ですか...その事態は避けたいですねえ...」

「はい...」江里香が、高杉を見つめた。

 

「さて...」高杉が言った。「ともかく...

  現状の...“文明の第2ステージ/エネルギー・産業革命”延長線上には、人類文明の繁

はないということは、次第に明確になって来たと思います。

  資本主義/市場主義/競争社会は、現在、最後の輝きを放っている様相です。しかし、まさ

余力のある現在、“次世代ステージへの切り替え”が必要なのです。崩壊・衰退した後で、文明

再起動・再構成するのは、容易なことではありません...」

「そう思いますね...」関が同意し、うなづいた。

...“生命潮流・・・この未知なる巨大ベクトルは...

  “粗野で巨大な・・・熱運搬エネルギー”“物理科学・文明”から...“繊細で微細な・・・

情報運搬エネルギー”“生命科学・文明”へ...すでに“レールのポイントを切り替えている”

と見るべきでしょう。

  したがって、このレールから外れた...企業活動/社会活動/政治動向は...“生命潮流

のベクトル/生命潮流の力と方向により...弾かれて行くことが予想されます。私たちもま

た、その方向で、“舵を切る”ことが必要です...」

「うーん...」マチコが言った。「つまりさあ...長期的展望が必要な時代、ということかしら?」

「そうですね、」関が、マチコにうなづいた。

「当然...」高杉が、両コブシを握った。「これには、十分な検証が必要でしょう...

  しかし、私たちには、残された時間はないと思いますねえ。もう、これ以上、のんびりと検証

している時間はないということです。したがって、“直感的な判断と行動力”が必要になります」

「うん...」マチコが言った。「こんな不安な時代こそさあ...

  “万能型・防護力”と、自給自足・農業社会を展開する、〔人間の巣/未来型都市/千年都

市〕が欲しいわよね。そういう方向なら、安心よね、」

「まさに、そういうことですね、」高杉が、うなづいた。「沙織さん、何か意見は?」

「ええ...」沙織が、口に手をやった。「ともかく...

  “覇権争い”や、“市場競争”をしている状況ではありませんわ。文明崩壊の危機にあります。

響子さんの言われる通りですね、」

「うん...」マチコが、神妙にうなづき、江里香の手を見た。


絶対主体世界相互主体性システムが・・・       wpe8B.jpg (16795 バイト)   

                     重ね合わせの状態・・・ ?>

                                    
   

「さて...」高杉が、関の方に微笑を向けた。「本題の方に入りましょう」

「そうですね、」

量子力学の...」高杉が、みんなの顔を見回した。「“開かずの扉の内部”では...

  “粒子の状態が・・・重ね合わせ”になっていることは、すでに何度も説明してきています。そこ

では、“1個の粒子というのは・・・1つの状態に対応”しているのではなく...“複数の状態が・・・

重ね合わせのように存在している・・・らしい・・・”、ということです。

  直接には観測できないので、あらゆる状況から推測して、“らしい”と言うことになるわけです。

何度も言いますが、観測すれば粒子を対象に当てることになるので、それだけで撹乱・破

されてしまう、ミクロ世界なのです。つまり、それが、非常に厄介なわけです」

「うん...」マチコが、うなづいた。「そこまでは、分かったわよね、」

「そこで...」高杉が肩を回した。スクリーン・ボードを見た。「先ほどの、検証実験の話に戻りま

すが...

  “1個の光子”の...“重ね合わせの状態”1つ1つが...Aの光路Bの光路を...同時

に進むようです。つまり...“1個の光子”が、同時2つの場所に存在して...“それぞれの状

態”が、出力側/ビーム・スプリッター混合され、干渉を起こしていると考えられます...」

「うーん...」マチコが、顔をかしげた。「でも、さあ...それを、信じろというのかしら...?」

「そうです...」高杉が、マチコを眺めた。

「はっ、はっ、はっ...」関が笑った。

  北原や江里香も笑った。ミケが、スルリと江里香の手から抜け出た。

 

「ともかく...」高杉が、掌をかざした。「いいですか...

  量子力学とは...こうしたエキゾチック(異国的)な、奇妙な世界なのです。それゆえに、私は、

“心の領域との・・・親和性/整合性/統合性が、滲(にじ)み出ている...と思っています」

「うーん...」マチコが、神妙にうなづいた。

“神”は...」高杉が言った。「サイコロ博打(ばくち)を嗜(たしな)まれるようですが...

  まさに、その“ランダム性/曖昧さ”の中に...“神の領域”を守っているのかも知れません」

「そして...」関が肘をつき、上体を押し出した。「その“神の領域”こそ...“物の領域”“心の

領域”をつなぐ、懸け橋と考えるわけですね...?」

「そうです...

  デカルトは、非常にストレートに...そこに“神の存在”を据えることができたわけです。しか

量子力学では、“量子化した・・・神”を、波動方程式導入するわけにもいきません。よしん

ば、それが可能だとしても...理論全体を揺るがすような、構造的な大問題になります」

「はは...そうですね、」

「だから...

  “主体性/・・・私”が...“神”かも知れないと言ってきたわけです。“私/・・・主体性の発現”

が、“神”だとすれば...デカルトの方式が使えます」

「すると...」関が、口元を崩した。「色々と、工作が可能になりますね...」

「その通りです...」高杉が、脚を組み上げ、手を組んで置いた。「ま、ともかく...今後、考察を

深めて行きましょう...」

「はい、」

「ともかく...

  “神”がくり出す“サイコロのランダム性”は...“開かずの扉の内部”から...に向かって

(つぼ)を振る時だけです...それ以外では、粒子の状態波動関数で記述され...それは、

正確無比だということです

「そうですね...」関が、ゆっくりとうなづいた。

 

  高杉が、しばらくモニターに目を当てていた。ミケが、高杉の手を舐めた。マチコが、ミケを自

分の方に引き寄せた。するとミケが、綾部沙織の方へのっそりと歩いた。そこでウロウロしてい

たが、慎重に場所を確かめ、ゆっくりと丸くなり、くつろいだ。

  沙織が、慣れた手つきで、優しくミケの額を指先で撫でた。そして、マチコと江里香に何か話し

かけた。話し始めると、ミケが丸い目をパッチリと開けた。そして沙織の手に、チョイチョイとジャ

レついた。

                                                  wpeA.jpg (42909 バイト)  

 

「さて...」高杉が、おもむろに顔を上げた。「いいですか...」

「はい、」江里香が答えた。

「一方の...

  “心の領域”の方は、どうなっているのかということですが...先ほどの、関君の言葉を借りる

と...リアリティー世界には、切れ目/境界が無いということですね。上下左右/360度の視界

において...空間に、割れ目切れ目というものが無いわけです。

  このことは...“主体が全ての中心であり・・・客体との間に境界が無いということは・・・世界と

は巨大な主体である”...ということになります。これは...“1人称的/絶対主体世界・・・部

分系の成立しない・・・1つの巨大な全体世界”...と言うことになります。

  これは、私たちにとっては、ごく当たり前のことですが、非常に重要なことです。これは、“この

世/・・・この世界”の、在り方/・・・認識を規定している枠組だからです。量子力学は、“心の領

域”との親和性を持つ学問ですが、それゆえに、主体の座標不可分に関わってくわけです」

「はい...」マチコが、ボンヤリと言い、頬に手を当てた。

 

「いいですか...」高杉が、マチコに言った。「“心の領域”では....

  “主体と客体・・・自己と他者”の関係においても...そこに、切れ目/境界が無いということ

です。全ては、“主体/・・・私の認識の鏡”に映し出された、客体/他者であり...主体とは不

可分の関係にあるということです。

  したがって、“主体/・・・私”にとっては...真の意味での、客体/他者は存在しないというこ

とです...」

「はい、」関が、うなづいた。「すべては...

  “主体/・・・私という認識の鏡”に映し出された、全風景だということですね。さらに、これを突

き詰めていけば...“主体とは・・・全てと不可分一体のものであり”...“逆にいえば、世界

とは・・・部分系の存在しない、巨大な全体世界であり・・・主体/私と一体のものだ”...と

言うことになります...以前、塾長の言われた言葉です」

「その通りです...」高杉が言った。「その上で...いいですか...

  “心の領域”とは...“厳格な・・・相互主体性システムの・・・枠組”...がかかっていて、そ

こで、【人間原理空間・ストーリイの・・・弦が波動】しているということです...

  このあたりのメカニズムは、“開かずの扉の内部”のように、“絶対主体世界が・・・重ね合わ

せ状態”になっているのでしょうか...

  こうした、“意識領域の・・・未知の法則性”のもとで...種の共同意識体結晶化し...

し、あるいは、巨大文明を築き上げているということですねえ。こうした“主体/・・・私/・・・私

たち”は...

 

    我々はどこから来たのか・・・我々は何者か・・・我々はどこへ行くのか・・・  

 

  ...ということですねえ...」

「あ...」江里香が、ニッコリとほほ笑んだ。「ゴーギャン(フランスのポスト印象派の画家/ゴッホの友人)

ですね?」

「そうです...見ましたか?」

「はい、」江里香が、コクリとうなづいた。

「私は...」マチコが言った。「パンフレットで見たわよね、」

「しかし...」関が言った。「こうした意識領域というのは...広大なフロンティアですね、」

「そうですね...」高杉が言った。「まさに、そうです...

  “絶対主体世界/相互主体性システムの枠組”の中で...“ストーリイが紡ぎ出され・・・

泡のような・・・無数の夢が生滅”して行きます。そして、リアリティー世界に、豊かな感情

晶化し...文化芸術が育まれて行きます...

  “主体/・・・私たち”新たな価値観...“存在することの覚醒・・・存在することの感動”も、

のように湧き出して来ます。こうした“心の領域”では、私たちは逆に、“開かずの扉の内部

から・・・外界をうかがっている存在”、なのかも知れませんねえ...」

「うーん...」マチコが、大きく肩をかしげた。「それは、どういうことかしら...?」

「いや、まだ分かりません...」高杉が、笑った。「これから、考察を進めていこうということです」

「はい、」

主体性の発現も...」関が言った。「確かに、大きな謎ですが...

  それが、“重ね合わせ状態”になっているわけですかね...そして、それそのものが、“開か

ずの扉の内部”ですか...はは、何のことが分かりませんね...」

「そうよね、」マチコが言った。

「そこを、【人間原理】の視点から眺めるのです...」

「はい...」関が、唇を引き結んだ。「物理科学の目ではなく...【人間原理】根本から、眺め

るわけですか、」

「うーむ...」高杉が、おもむろに、モニターを眺めた。「“絶対主体世界・・・部分系の成立しな

い・・・巨大な全体世界”が...“人間の数だけ/・・・生命体の数だけ/・・・意識体の数だけ”

存在し...その相互作用ストーリイが形成され、それぞれに認識されて行きます...

  私たちは...【人間原理空間の・・・アイテム】を使い...その華厳経(けごんきょう)のような

世界を、万華鏡のように...のぞいているのかも知れませんねえ...」

「はい...」関が言った。

「こうした...

  ホモサピエンス/文明種族の意識体に...さらに、他の生物種の共同意識体が重なり、“全

・生命体の意識”/“36億年の彼”が、“この世界”結晶化しているのかも知れません...さ

あ、その先は、どうなって行くのでしょうか。想像もつきませんね...

  ともかく、“この世/・・・この世界”の...“絶対主体世界/相互主体性システム”を解きほ

ぐしていくのは...“量子の・・・重ね合わせ状態”を解きほぐしていく以上に、複雑難解なもの

になりそうです。

  しかし、こうしたものが...“文明の第3ステージ/意識・情報革命”の時代の、推進力になっ

て行くのでしょうか...」

「...」マチコが頭をかしげ、ミケの頭に手を置いた。ミケがマチコの手に齧(かじ)りついた。

 

「ともかく、沙織さん...」高杉が言った。

「はい...」沙織が、顔を上げた。

「非常に、乱暴な話ですが...

  “心の領域”の、量子力学的・解釈にも...一歩踏み込んでみたわけです。簡単に行く理論構

ではないわけですが...私たちは“非常に自由な・・・フリーな身分”です。“物の領域”“心の

領域”統合に向かって、ブラリと歩き始めてみることにしましょう」

「はい...」沙織が、息を吐き、はにかむように口をすぼめた。「塾長の言われるように...とも

かく、歩き始めてみましょう」

「お願いします」高杉が、頭を下げた。

「はは、面白そうですねえ、」関が、口に手を当てた。

「考えるのは...」高杉が言った。「誰でも、自由だということです」

「うん...」マチコが言った。「“心の領域”というのもさあ...なんだか、何か面白そうよね、」

「これから...

  “文明の第3ステージ/意識・情報革命”の時代が、本格化して行けば...こういう課題とい

うのも、日常茶飯事になって行くのでしょう。人類文明は、さらに複雑化繊細化高度な意識化

へ、進むでしょう。

  そして、1方...“文明の第2ステージ/エネルギー・産業革命”パラダイムは、まもなく

して行くものと思われます。自動車や、原発や、兵器産業などが、不要のものになって行きま

すね。

  次世代“手本/・・・手引き”となるのは...生態系生物体、そして、生命の最小単位/

細胞、ということでしょうか。そこにはまさに、“顕微鏡の中の・・・巨大化学工場が・・・有機的に

集積し”し、さらに、“臓器や・・・個体へと拡大”しています。

  そうしたテクノロジーの方向へ、人類文明が流れていくのは自然であり、確実ですね。“文明

の第2ステージ/エネルギー・産業革命”の時代は、“大自然の征服”でしたが、“文明の第3ス

テージ/意識・情報革命”の時代は、“大自然との融合”になりそうですねえ...」

「はい...」マチコが、うなづいた。「そうでなければ、地球の生態系は、崩壊に向かいますね?」

「そういうことです...

  いずれにしても、現在の価値観/競争社会延長線上には...繁栄はないということです」

「はい、」マチコが言った。


  〔4〕 “存在確率マイナス1”       wpe8.jpg (26336 バイト)

       そこを・・・通らない以下・・・の確率!? 
     
  

               

 

さて...」高杉が言った。「いよいよ...

   “マッハツェンダー干渉計”の中を...“1個の光子が・・・2つの経路を・・・同時に通る!”

いうことの...“弱い測定/弱い測定値”の話に入りましょう。本来、測定できない現象というの

は、実験で確かめることができず、科学には馴染みにくいわけですねえ。

  したがって...“1個の光子”が、“マッハツェンダー干渉計”の中を通り、“干渉して出てくる”

という現象は...量子力学での理論的推理はできても、“物理的にどんな状態を示しているの

か”、という疑問には...科学的・実証で、答えることができなかったのです」

「はい...」江里香が、うなづいた。

「そこで、いいですか...

  “量子力学の教義/ドグマ”に従い、“問うこと自体に・・・意味がない”...鶴の恩返し

ように...“決して・・・部屋の中をのぞいてはなりませんということで、押し通してきたわ

けです。

  また...“マッハツェンダー干渉計”の中の...物理的実体が分からなくても...そこから

出力では“確実に干渉が起こり”...“必ず1方向に出て行く”...という結果が得られるわけ

です。

  つまり...干渉計の外の検出器では...それが普通に観測できるわけです。そこで...“そ

で・・・十分じゃないか!”と、割り切ったわけです。そうやって、これまでは、量子力学は予想

を超える大成果を収めてきたわけです。

  そして...“問うこと自体に・・・意味がない!”...というボーア(ニールス・ボーア/1922年、ノー

ベル物理学賞を受賞)の言葉は、“量子力学の教義/ドグマ”になったわけですが...以来、1世紀に

近い時間が流れました。

  その間に...理論・物理学/基礎・物理学の周辺も、しだいに地盤が固まって来ました。そし

て、そうした科学技術の成果で、多くのものが明確に見えるようにもなって来ました。しかし、依

然として、“量子力学の教義/ドグマ”は...物理学者の頭脳に、悶々とした日々を強いてきた

わけです」

「これまでは...ということね?」マチコが言った。

「そうです...」高杉が、うなづいた。「そして、おそらく...

  この“量子力学のドグマ”に、突破口を開くのは...イスラエル/テルアビブ大学/アハラノ

フ教授であり...弱い測定値の理論ということになるのだろうと思います。それは、“測定を

弱くし、何度も行うことで・・・量子的な重ね合わせ状態を、観測できる”、というものです」

「うん...」マチコが、うなづいた。「それは、何度も聞いているので、分かるわよね...」

 

量子力学の・・・コペンハーゲン解釈と、多世界解釈とは?    

     wpe5B.jpg (113373 バイト)           wpe8.jpg (26336 バイト)          

 

「ええ...」高杉が言った。「大事な所なので...くり返しましょう...

  いいですか... “量子/開かずの扉”の内部の...“重ね合わせ状態”を、“測定/通常の

強い相互作用による・・・測定”をすると...普通は、どれか“1つの状態”が、ランダムに選択

れて現れ...“それ以外の状態”は消えてしまいます」

「はい...」江里香が言った。

“マッハツェンダー干渉計”で...

  光子が通った経路を測定(/どちらかの光路に、検出器をセット)してみると...“結局・・・どちらか1方

しか通れなくなり・・・干渉が消えてしまった!”...のは、このためだと言うことです」

                                                       ・・・・・・・<詳しくは、こちらへどうぞ>

「...」江里香が、口を押さえた。

「それから...

  これは、“参考文献”でも問題にされていませんが...もう1つ、重要な問題があります。それ

は、“ランダムに・・・選択されなかった方の状態は・・・何処へ消えて行くのか?”、というこ

とです。“選ばれずに、消えて行く方の状態は・・・本当に、存在していなかったのか?、と

いうことです。

  その、“選択されなかった状態”というのは...“物の領域/・・・実在”のことなのか...“心

の領域/・・・認識”のことなのか...あるいは、両者の、“トワイライト(夕暮れ)・ゾーンへ消え

て行くのか・・・?”...ということですねえ、」

「うーん...」マチコが腕組みし、肩をかしげた。

 

「そもそも...」高杉が言った。「量子力学には...

  “コペンハーゲン解釈”と、“多世界解釈”という...2つの解釈があります。これについて、

簡単に説明しておきましょう」

「はい...」マチコが、テーブルに両手を置いた。

「まず...“コペンハーゲン解釈”が...物理学界では多数意見となっています」

「はい、」

量子力学黎明期において...

  “コペンハーゲン学派”というのは...アインシュタインと論争した、ボーアハイゼンベルク

(【不確定性原理】を提唱/ノーベル賞受賞)のグループです。ボス的存在であったボーアが、デンマーク/

コペンハーゲンを拠点に活動していたことから、“コペンハーゲン学派”と呼ばれました。

  そして、彼等のグループの解釈を、“コペンハーゲン解釈”というわけです。しかし、これは、

一言で説明するのは難しいですねえ...しかし、まあ、それをやるのがこのページですから、何

とか説明してみましょう」

「あ...簡単に、お願いします...」マチコが、念を押した。

「そうですね...」高杉が、頭に手を当て、モニターをのぞいた。「まあ、やってみましょう...

  まず、“コペンハーゲン解釈”では...“客体/物理的実在を・・・観測する・・・主体の立

大問題になります。ええ...“相補性”という言葉は、量子力学ではよく出てくる新しい概

ですが、この辺りから、もう一度説明してみましょう...」

「うん...」マチコが、うなづいた。

「例えば...

  は...粒子性波動性を持っています。光子としての実験をすれば、粒子としての性質

示し...光波としての実験をすれば、波としての性質を示すわけですね。こうした、“同じリアリ

ティーを記述する・・・互いに補い合う・・・対概念・・・”を...ボーア“相補性”と呼んだのです」

  マチコが、無言でうなづいた。

「そして...

  ここが肝心なわけですが...粒子性を選択するか、波動性を選択するかは...“主体/観

測者”判断に...“まかせる”というわけです...」

「はい...」

「しかし...粒子とかとかの、リアリティーを示す言語は...

  実は...“私たち/主体/観測者”が、“経験”を通して獲得してきた概念なのです。また、

そもそも“経験”とは...“主体と客体との・・・相互作用”によって生まれてくるものです。

  “眼前するリアリティー/・・・カオス/・・・巨大な全体世界”に...数々の名詞を与えて分割し、

それを形容詞で修飾し、動詞でそれを波動させ、ストーリイを紡ぎだしてきたのは...“経験・主

体/観測者”なのです...」

「うーん...」マチコが、体を深く横に傾けた。「だから...どうだというのよ...?」

「いいですか...」高杉が、苦笑した。「つまり...

  “コペンハーゲン解釈”特徴は...ボーアの...この“相補性”概念を展開したことにあ

ります。つまり、“経験・主体/観測者”が...“客体/物理的実在”にまで...“不可分に参

入”している、ということです。これが量子力学を、ニュートン力学とは隔絶したものにしています。

  また...アインシュタインが、もっとも量子力学反対したのも...この最大の特徴...“主

体/観測者/参与者の・・・導入”、にあります。アインシュタインは、科学における客観性が

存立しなくなることを、ひどく嫌ったわけですね、」

「はい...」江里香が、コクリとうなづいた。

「さて...」高杉が、江里香に言い、北原を見た。「いいですか...

  従来の科学では...多くの側面観測することにより...“その奥にある・・・究極的な真実”

に、到達できると信じられて来ました。“対象を細かく分割して行く・・・要素還元主義”も、その

から生み出されて来たものです」

「はい...」江里香が、口にコブシを当てた。

「ところが...量子力学“コペンハーゲン解釈”では...

  現象が起こっている奥は...“知る必要がない!・・・中をのぞこうとしてはいけない!”

としてきたわけですねえ...粒子“重ね合わせ状態”は、知る必要がなく... “量子/開か

ずの扉” の外側の、“波動関数で表現できる領域”だけで...十分だとしてきたわけです。

  さて...これでは...“コペンハーゲン解釈”では...リアリティー表現できなくなってしま

います...しかし、その説明は、こうです...

 

“世界というのは・・・私たちが見ている通りのものではない!”

“私たちが見ているこの世界は・・・私たちの認識構造である!”

リアリティーとは・・・観測する主体の・・・内側に存在する!”

 

  ...と言う...ことだそうです...」

「うーん...」マチコがミケの頭を、強く両手で挟んだ。ミケがマチコの手を噛み、ジャレついた。

「そして...」高杉が、言った。「...いいですか...

  “コペンハーゲン解釈”では...“物の領域と、心の領域が・・・不可分であることが・・・示

されている”...といいます。まあ、これは、私たちのテーマでもあるわけですね...」

「うーん...」マチコが、うなった。「...それで、さあ...

  “神様”サイコロを振って、“選ばれなかった方の状態”は...結局、“何処へ消えて行く”

けかしら...?」

「つまり...」高杉が、両手を固く組んだ。「いいですか...

  “コペンハーゲン解釈”では...量子力学で記述される・・・重ね合わせ状態”は...“実在

せず”、とします。そして...“測定した時・・・選択された状態が実在”...となり、それが“物理

的・実体”、ということのようです...これを、“波束の収縮”、と言うのだそうです...

  くり返しますが...この“コペンハーゲン解釈”が、物理学界では多数の支持を得ています」

 

「それで...」マチコが言った。「“多世界解釈”というのは、どういうのかしら?あ、もっと簡単に、

お願いします...」

「では...」高杉が、うなづいた。「もっと、簡単に行きましょう...

  まず、“コペンハーゲン解釈”問題点は...その最大の特徴でもある、“主体と客体は・・・

不可分である”、とした点にあります...つまり...“観測が行われない限り・・・対象は存在

しえない”...ということに、なってしまいます。

  しかし、これでは、世界を語れません...観測しようがしまいが、私たちは世界を実感します。

そうした、膨大な言語的亜空間と・・・リアリティーの融合した世界”に...主体が存在して

いる実感があります。デカルトの言葉を借りれば...我思う・・・ゆえに、我あり・・・ですね、」

「はい...」江里香が、耳の後ろへ髪を撫でた。

シュレーディンガーの波動方程式では...

  観測によって・・・被観測系波動関数は・・・物理的実在へと収縮 し...観測が行

われないと・・・無限に広がってしまう...と言います...」

「はい...」江里香が言った。

「そこで...

  この問題を解決するために...ヒュージ・エヴェレット...ジョン・ウィーラー...ネイル・グラ

ハムの3人が...“コペンハーゲン解釈”に対して...“多世界解釈”を提唱しました。

  これは...波動関数が表現している可能性が、リアリティーであって・・・その全てが実

際に起こりうる...とする解釈です。

  この、“多世界解釈”では...全ての可能性は・・・現実のもの・・・”となりますが...それ

が起こるのは、私たちの世界ではなく...並行して存在する・・・別世界という解釈になりま

す...つまり、別の宇宙ですね...」

「うーん...“多世界解釈”かあ...」マチコが、江里香の方を見た。「...そういう話はさあ、よ

く聞くわよね?」

「ええ...」江里香が、うなづいた。

「ええと...」高杉が言った。「ちなみに...

  “多世界解釈”では...“量子力学で記述される・・・重ね合わせ状態”が...“全て等しく実

在”して...“多世界世界を・・・形成している・・・”...と言うことになります。

  物理学界では少数意見になりますが...量子情報系や、宇宙物理学の分野では...“強力

な・・・支持がある”、とも聞きますねえ」

「はい...」マチコが言った。「そうした上で...

  塾長は、“選ばれなかった方の状態は・・・何処へ消えて行くのか?”、ということですね」

「まあ...そうですねえ...

  そこに...“物の領域と、心の領域との・・・親和性/統合性が...見えて来るかも知れ

ないということです...いずれにしても、私たちの周囲には、“物の領域”“心の領域”が存在

し...これらは、再統合されるのを...今か今かと、待っているわけです」

「はい...」マチコが、コクリとうなづいた。「再統合された時には、御褒美(ごほうび)があるのかし

ら?」

「測り知れない、御褒美があるかもしれませんねえ...」

「うーん...」マチコが、ニッコリと顔を崩した。

 

「さて...」高杉が、モニターをスクロールした。「話を戻しましょう...

  ええ、ともかく...アハラノフ教授“弱い測定”を用いると...重ね合わせになった状態

が・・・どんな割合で起っているか・・・測定可能になる”...と言います。

  例えば、“マッハツェンダー干渉計”ならば...“Aの光路を通った光子”と、“Bの光路を通っ

た光子”が...“それぞれ1/2の確率で・・・重ね合わせになっている”...ことが、見えて来る

のだそうです...」

「うーん...?」マチコが、首をかしげた。

「もっとも...

  こうしたケースは、結果が容易に想像できるわけです。ごく当り前のことですね。あえて、“弱い

測定”に、登場願わなくてもいい、と言います」

「つまり...難しく考えなくてもいい...ということかしら?」

「そうです....

  こうした、“弱い測定”真価を発揮するのは...“最終的な状態が・・・毎回異なるようなケ

ース・・・”...“普通の測定をした時の結果が・・・毎回異なるようなケース”...なのです。

  つまり...“量子状態を壊すような・・・強い測定をした時の結果が・・・毎回異なるようなケー

ス”...なのです...分かりますか...?」

「うーん...」マチコが言った。「言葉の意味は...分かるわよね、」

「うーむ...ともかく、説明を続けてみましょう...」

「はい...」

「...“こうしたケース”の場合...

  特定の終状態になるものだけを取り出し・・・その結果をもたらす重ね合わせ状態を・・・

弱い測定で観測する”...というわけです。弱い測定をくり返すことで・・・対象を壊さずに

観測する”...ということです。分かりますか...?」

「うん...」マチコが、うなづいた。「少しは、分かったわよね...」

「ま、くり返し、説明して行きましょう...

  私自身も、しばしば誤解していたりしますから、一緒に考察して行こう...ということですね、」

「はい!」マチコが、コクリとうなづいた。

「ええ...」高杉が、息を吐(つ)いた。「いいですか...

  こうした、“弱い測定”をして行くと...しばしば...“非常に・・・不思議な現象”...が見えて

くると言います...“存在確率・・・マイナス1”は...そうした、最も奇妙なものの1つ、のようで

す...」

「はい...」マチコが言った。

<ハーディーのパラドックス・・・ 4つのシナリオとは?  

                     

 

「ええと...」関が、作業テーブルを見まわした。「“ハーディーのパラドックス”について、今度は

私の方から、詳しく説明します」

「はい、」マチコが、関の方に肩を向けた。「そもそも...“ハーディーのパラドックス”というのは、

どういうものなのでしょうか?」

そうですね...」関が言った。「それから、詳しく説明しましょう...

  くり返しになりますが、この“参考文献”検証実験は...“ハーディーのパラドックス”と呼ば

れる、“量子力学特有の奇妙な現象”を、“光子を用いた干渉実験で・・・直接測定/弱い測定”

に成功し...アハラノフ教授弱い測定値の理論と、予言を...確認/検証したものです」

「はい...」

これは、いわゆる...

  “古典物理学では考えられない現象を・・・量子実験によって確認した”...という側面も持ち

ます。ともかく、干渉計の中を、“弱い測定”直接測定/観測し...アハラノフ教授奇妙な

が...まさに、確認されたわけです。

  そして、そこから...“量子世界の・・・新らしい側面が見えて来る”...という、可能性

るということです」

「うーん...そうかあ...」

「ええと...いいですか...

  イギリス/ダーラム大学/物理学者:ハーディーは...1992年に、あるパラドックス(逆説)

提唱しました。これが、つまり、“ハーディーのパラドックス”と呼ばれるようになるわけです...」

「はい...」マチコが、うなづいた。

 

                   

 

  関が、スクリーン・ボードの方を眺めた。みんなも、そっちに視線を移した。ポン助が横に立っ

ていた。その向こうの窓に、満開の桜の木が見えた。関がリモコンを使い、画像を送って行く。そ

して、コトリ、とモコンをテーブルに置いた。

「ええと...」関が、ゆっくりと言った。「“ハーディーのパラドックス”には...

  この図で示すように...全く同じ形“マッハツェンダー干渉計”を、2つ用意します。そして、

経路(/光子の場合は光路)が途中で交差するように、2つの干渉計セットします。つまり、この図の

ように、経路を描く菱形が、1部、重なります。

  この平面図では、2か所で、経路が交差していますが、ともかく交差していればいいわけです」

「うーん...」マチコが言った。「要するに...

  “マッハツェンダー干渉計”がさあ...2つあって...経路が組み合わさり...1つのシステ

になっているわけよね...

  あ...それから...それぞれの“マッハツェンダー干渉計”で...“交差していない経路”も、

1本づつあるわけよね...そこを通った場合は、迂回路になって...交差しているのは、関係な

なるわけかあ...」

「そう言うことですね...」関が、満足そうにうなづいた。「さあ...

  “ハーディーのパラドックス”では...この2つ“マッハツェンダー干渉計”に、電子と、その

反粒子である陽電子を...それぞれ、1個づつ投入します...」

「はい...」

電子陽電子も...粒子性波動性を持ちます...いいですね?」

「はい、」マチコが、うなづいた。

「つまり...

  もし、干渉計経路が、“交差していない”とすれば...電子陽電子も、そのまま素通りする

わけですね。そして、光子の場合と同じように、“重ね合わせの状態”2つの経路を同時に通っ

て、1個で干渉を起こし、1方向の検出器に入ります...この説明は、いいですね?」

「はい...」江里香が、うなづいた。「その場合は...

  “マッハツェンダー干渉計”が...それぞれ独立しているのと...同じことかしら?」

「うん...」マチコが、江里香にうなづいた。

「その通りです...」関が言った。「ただし...

  この場合は...“経路が交差するようにセット”してあるわけです。経路が交差していたら、

はどうなるだろうかということですね」

「うーん...」マチコが、腕組みをした。

 

「ええと...」関が言った。「いいですか...

  何故...こんなややこしい思考実験をするのかと言うと...干渉計の中での粒子(電子・陽電子、

あるいは光子)は、どうなっているのか...その、“重ね合わせの状態”を知りたいということです。

  干渉計からの出力では...こいつらは再び...“死んだふり”...をして、検出器に出てくる

わけです」

“死んだふり”かあ...」

「そうです...

  ええ、いいですか...もう一度、“パラドックスや、検証実験の・・・目的・・・を明確にしてお

く”、必要がありますね。私たちが知りたいのは...“死んだふり”...の姿ではなく、“量子/

開かずの扉の中”の...“粒子の・・・重ね合わせの・・・真の姿”...なのです」

「うん...」マチコが言った。「つまりさあ...

  “重ね合わせ状態”が...干渉計の中ではバラバラになり...Aの経路と、Bの経路を、同時

に進み、再び干渉して出てくるわけよね...

  干渉計の中は...鶴の恩返しのように...“決して・・・中をのぞいてはなりませぬ!”

の世界よね...その中の様子を、見るというわけよね、」

「そうです...」関が、うなづいて、しっかりと唇を結んだ。

「じゃ...」江里香が言った。「干渉計の中を様子を探るために、“ハーディーのパラドックス”が、

考案されたわけなんですね?」

「そうですね...」高杉が言った。「ハーディーは、電子陽電子を用いたわけですが...“参考

文献”著者たち(/大阪大学のグループ)は、光子によって、検証実験に成功しました。光子の場合

は、反粒子光子になります...それと、“光子の・・・量子もつれ”を、うまく使った様子です」

「はい...」江里香が、うなづいた。  

「ええと...」関が、スクリーン・ボードに目を投げた。「いいですか...

  話を戻しますが...2つ“マッハツェンダー干渉計”の、“経路が交差”していたら、干渉

どうなるだろうか...ということでしたね?」

「うん...」マチコが、口に手を当てた。

「もし...

  電子陽電子交差点で出会ったら...その時は、“対消滅(ついしょうめつ)という現象が起こ

ります。両者の質量に相当するエネルギーをもつを...ピカッと放出し...両者とも消滅して

しまいます。当然のことですが、電子陽電子は、そこから先へ進むことはできません。

  一方...もし電子陽電子が、“交差していない経路”を通れば...“対消滅”は起こらず、

“マッハツェンダー干渉計”は、それぞれ独立に動作することになります。つまり、電子

電子も、それぞれ1個干渉を起こし、1方向の検出器に出て行くことになります...

  塾長、これでいいのでしょうか...?」

「うーむ...」高杉が、首をひねった。「“何か・・・大きな勘違い”があるのかも知れません...

  そうした予感はあります。しかし、ともかく、考察を進めましょう...そうすれば、全体がしっか

りと見えて来ます...」

「はい!」関が、うなづいた。

失敗を恐れず...」高杉が言った。「考察して行きましょう...間違っていたら、その時は、修正

すればいいわけです...」

「そうですね...」関が、口元に微笑を浮かべた。

 

「さて...」関が、パン、と手を打った。「一応...こう考えるのが、普通なのですが...

  しかし、この予測は、当たらないわけですね。しっかりと外れます。そこで、“干渉計の中では

・・・何が起こっているのか?”、ということになります」

「...」マチコが、頭をかしげた。

「いいですか...」関が言った。「干渉計出力を...

  量子力学を用いて計算してみるとですねえ...“電子と陽電子が・・・対消滅しない場合”でも、

2つの干渉計動作は...必ずしも独立にはならない様子です...

  “電子と陽電子が・・・対消滅しない場合”というのは、“電子と陽電子が・・・交差点で出会わな

い場合”ですね...この場合も、干渉計は、必ずしも独立にはならないと言います...」

「うーん...」マチコが言った。「じゃ...どうなるというのかしら?」

「うーむ...」関が、頭に手を当てた。「結論を言うとですねえ...

  “両方の粒子は、1/12の確率で・・・普通の干渉計では出てこない方向に、出てくる!”

と言います...」

「...どういう意味かしら...?」

「さあ...」関が、首を振った。「分かりません...

  ともかく...この時・・・干渉計の中では・・・何が起きているのか?”...ということです...」

「うーん...」マチコが腕組みし、頭をかしげた。「どうして...“1/12の確率”なのかしら?」

“参考文献”には...詳しい説明がありませんね...

  ともかく...電子陽電子が...“共に、出てこないはずの方向に出てきた場合・・・干渉計の

中に・・・どんな重ね合わせ状態があったのか...?”...これを、私たちも考察してみましょう」

「はい...」

「ともかく...

  考えられるのは、次の4つのシナリオだそうです。この4つのシナリオが、干渉計の中で、“重

ね合わせの状態”で、存在しているようです...」

 

 

**************************************************************

    <干渉計の中の・・・4つのシナリオ>  

 

 シナリオ・1  電子陽電子が、共に交差点を通った。        0

 シナリオ・2  電子陽電子が、共に交差点を通らなかった。 −1

 シナリオ・3  電子は交差点を通り、陽電子は通らなかった。 (+1)

 シナリオ・4  電子は交差点を通らずに、陽電子は通った。  (+1)

 

「この...4つのシナリオが...

  “干渉計の中で・・・重ね合わせになり・・・同時に実現したと考えられる”、と

言います。

  “ビーム・スプリッター”は...飛んでくる電子陽電子半分に分ける(/重ね合

わせ状態を、AとBの経路に分ける)ので...通常なら、4つのシナリオ実現する確率は、

等しくなります。

  しかし、電子陽電子“対消滅”となる...シナリオ・1の存在が...ストーリイ

複雑化していると言います...“対消滅”となった場合、“重ね合わせの状態”

1方が消滅するわけで、干渉の成立に影響します...」

 

アハラノフ教授は...

  “粒子が意外な方向に出てきた場合・・・に限定し・・・弱い測定で干渉計の

中をのぞいた時”...ということで...各シナリオ実現する確率を、計算し

たそうです。すると、以下のようになったと言います...」

 

 シナリオ・1  (/実現する確率)    0  (    0割/    0% )  

 シナリオ・2  (/実現する確率)  −1  (−10割/−100% )     

 シナリオ・3  (/実現する確率)  +1  (  10割/  100% )     

 シナリオ・4  (/実現する確率)  +1  (  10割/  100% )   

 

「ええ...ここで...

  シナリオ・2に、“実現する確率・・・マイナス1”という...“不思議な確率”が現れ

て来るわけです。シナリオ・2は、電子陽電子が、共に交差点を通らなかった”

というシナリオですね...

  くり返しますが...これは、両方とも交差点を通らなかった確率が...“マイナス

10割/マイナス100%”...という数値が出たということです。しかし、このマイナ

スの確率を...どう解釈したらいいのかと言うことです。マイナス100%”などという

確率は、存在しないわけですから...」

 

     wpeA.jpg (42909 バイト)            

**************************************************************

   

マイナス1という・・・不思議な確率 >             house5.114.2.jpg (1340 バイト)

                           wpe8.jpg (26336 バイト)  

 

「ええ...」高杉が、作業テーブルを見回した。「関君...ありがとうございます」

「はい、」

「さあ...

  ここで具体的に...“弱い測定”と、“存在確率マイナス1”...という、アハラノフ教授計算

が出て来ました。ともかく、この計算値/予測値をもとに...まず、電子何処を通ったのか

を考察してみましょう」

「はい!」マチコが、椅子に座りなおした。「面白そうよね!」

「はは...いいですか...

  確率は、0〜1をとります。確率00割であり0%...確率110割であり100%...

と言うことです。確率120%とか、200%とか言う場合がありますが、こんな変な数値は、本来、

あり得ないわけです。

  そして、それと同じように...“マイナス1という確率”も...意味をなさないし、あり得ないわ

けです。しかし、アハラノフ教授が、“各シナリオの実現する確率”を計算すると、まさに、このよう

変な数値が出てきたわけですね、」

“0%以下の確率”でさあ...」マチコが言った。「“マイナス100%の確率”、と言うことよね?」

「一応...従来ですと、そういう解釈です...まあ、今後の動向を見守りましょう」

アハラノフ教授はさあ...

  “負の確率”というのは...何と言ったかしら...“何かが・・・負の数だけある”とかで、それ

“意味がない”とか、言っていたわよね...?」

「そうです...

  アハラノフ教授は...この“マイナスの確率”に、“全く新しい概念を導入”しています。“マイ

ナスの質量/負の質量を持つ・・・全てが逆転した粒子”を、考えておられるようです...」

「うーん...そんなものを、持ち込んで来るとさあ...さらに、ややこしくなるわよね」

「まあ、しかし...

  それが...“量子力学の・・・新たな側面に光を当てる”...というものなら、大いに検討

てみる必要があります。“存在確率マイナス1”も、検証実験確認されたことですから...

  さあ、ともかく...この4つのシナリオの考察を進めましょう」

「はい、」

 

「ええ...」高杉が、スクリーン・ボードの“4つのシナリオ”を眺めた。「いいですか...

  電子が・・・交差点を通る”のは...シナリオ1/確率0と...シナリオ3/確率1です。

両方の確率を足すと、になります。いいですね...?」

「はい...」江里香が、うなづいた。

「そして、電子が・・・交差点を通らない”のは...シナリオ2/確率−1と...シナリオ4

確率1です。これらの確率を足すと、になります。これも、いいですね?」

「はい...」江里香が言った。

「つまり...

  “交差点を通る/確率の合計が1...“交差点を通らない”/確率の合計が0...とい

うことは、要するに...“電子は・・・100%交差点を通った”...と言えそうです。通常は、そ

ういうことで、いいですね?」

「うーん...」マチコが、頬に手を当てた。「そりゃ、そうよね...

  “通った確率が100%”でさあ...“通らない確率が0%”なら...“通った”ということよね、」

「はい...」江里香がうなづいて、膝の上のミケの背中を撫でた。

陽電子の場合も...」高杉が言った。「電子の場合と、全く同じことが言えるわけです...

  陽電子が・・・交差点を通る”のは...シナリオ1/確率0と、シナリオ4/確率1であり、

確率の合計は1です。陽電子が・・・交差点を通らない”のは...シナリオ2/確率−1と、

シナリオ3/確率1であり、確率の合計は0です。

  つまり、陽電子の方も・・・100%交差点を通った”、と言えそうです。通常の考察では、」

「うーん...」マチコが、ゆっくりとうなづいた。

「しかし、いいですか...ここで、奇妙なことが分かります...

  電子が・・・交差点を通った確率が・・・100%”...そして、陽電子も・・・交差点を通っ

た確率が・・・100%”になります。つまり、“両方とも100%・・・交差点を通っている”、というこ

とになりますね。しかし、両方交差点を通れば、“対消滅”が起こり、全て消滅するはずです」

「そうか...?」江里香が、マチコの方を見た。

「しかし、いいですか...それにもかかわらず、必ずしも、“対消滅”は起こらないのです...

  ちなみに、アハラノフ教授計算式によると...“シナリオ1/電子陽電子が・・・共に

差点を通った”という、確率は0なのです。確率0ということは...つまり、出会わず、“対消滅”

は起こらないということでしょうか...?

  うーむ、分からないですねえ...ともかく、電子陽電子出会えば...“対消滅”が起こりま

す。そして、出会わなければ...それぞれの“干渉が起こり...1方向の検出器”に出て来ます。

ところが、実際には...“その・・・どちらでもない現象”が、起こり得ると言います...」

「うーん...」マチコが言った。「じゃあ...出会ったのかしら、出会わなかったのかしら...?」

「そこですねえ...

  一体...干渉計の中の...“4つのシナリオの・・・重ね合わせ”は...どうなっているのかと

いうことです。いや...電子も、陽電子も、何処を通りどうなっているのか、ということですねえ。

  そこで、どうしても...“干渉計の中で、一体何が起こっているのかを・・・観測したい”...と

いうことになります。ところが、これまでは、その検証実験は不可能だったのです...」

大阪大学グループが...」マチコが言った。「光子を用いて、検証実験に成功するまではです

ね?」

「そうです!」高杉が、うなづいた。

 

「でも...」江里香が、横の北原を見て言った。「“マイナス1の確率”というのは、変ですよね?」

「そうですね...」北原が笑い、高杉の方を見た。

「さて...」高杉が、テーブルを見まわした。「いいですか...

  全ての原因は...“存在確率・・・マイナス1”という...不思議な確率にありそうです。先ほど

から言っているように...確率というのは、通常は正の値しか取りえないのです。

  電子陽電子・・・マイナス1の確率で・・・共に交差点を通らなかった”...などという、

“不思議な確率/不思議な現象は・・・何を意味しているのか”、ということです」

アハラノフ教授はさあ...」マチコが、両手をこすった。「計算を、間違えたのじゃないかしら?」

「いや...量子力学厳密なアルゴリズムと...コンピューター計算です...

  それも、何度も確認し、くり返し計算されているはずです...まあ、その上で、量子力学という

のは、20世紀初頭黎明期以来、非常にエキゾチック(異国的)な学問だということですねえ...

奇妙な現象と呼べるものは...この学問体系には、幾らでもあるということです...」

「それほど...」関が言った。「ダイナミックであり...斬新的ですね...」

「うーん...」マチコが、首をひねった。「だから...

  “心の領域との・・・親和性/統合性がにじみ出てくる・・・”...ということかしら?」

「まあ...」高杉が言った。「私は、そう見ています」

「はい、」

「これまで...

  この、アハラノフ教授“弱い測定”予言が...あまり問題にされてこなかったのは、検証

実験が、そもそも困難だったからです。

  ところが、何度も言うように...最近、大阪大学のグループが、光子を用いて実験し...“ア

ハラノフ教授の予言は ・・・正しい”...ということが、検証されたわけです。“存在確率・・・マ

イナス1の光子”が、確認されたわけです」

「高杉さん...」関が言った。「干渉計の中の...“粒子の・・・重ね合わせ状態”の流れは...

想像を超えるものかも知れませんね...?」

「うーむ...」高杉が、腕組みをした。「私はとしては...そこに“心の領域との・・・親和性/

統合性が出てくるか...楽しみにしています」

「はい...」関が、両手をガッチリと組み、口に押し当てた。


  〔5〕 “存在確率・・・マイナス1”を観測wpe8.jpg (26336 バイト) wpeA.jpg (42909 バイト)

                            

 

「さて...」高杉が、脚を組み上げた。スクリーン・ボードを眺める。「話を戻しますが...

  この“ハーディーのパラドックス”で...アハラノフ教授予測が正しいのかどうかは、検証・

実験してみれば分かります。しかし、この電子陽電子を使った実験は、実際にやってみるとな

ると、非常に難しいようです。

  2002年には...反陽子陽電子から“反水素”を作る実験が行われました。聞く所では、

万個を作り出すことに成功しているようです。これ程の、量子工学的・技術があるわけですから、

電子陽電子実験ぐらいは、簡単だろうと思われますね。ところが、干渉計実験と言うのは、

ただ粒子生成するのとは違う、精密なコントロールが必要になります」

「塾長...」マチコが、人差し指を立てた。「“反水素”というのは...何かしら?」

「うむ...

  “反水素”というのは...いわゆる反物質です。“反水素”は、マイナスの電荷をもつ反陽子と、

プラスの電荷をもつ陽電子という、“自然界にほとんど存在しない・・・反粒子”で構成されます。

この反物質は、我々の世界においては、非常に危険物質と言えます...」

「うーん...“対消滅”が起こるからかしら?」

「詳しいことは分かりませんが、そういうことでしょう...しかし、数万個程度“反水素”なら、大

したことではないのでしょう...小さなブラックホールがでる可能性のある実験もあるようですが、

そのあたりの安全性は、十分に考えてあるのでしょう」

「うーん...そんなことができるんだあ、」

「そうです... 

  だから、電子陽電子実験ぐらいは、簡単だと思うでしょう。ところが、干渉計実験は、た

粒子生成するのとは違います。この実験では、少なくとも...電子陽電子を、それぞれ

同じ値になるように制御し...同じ方向から同時に、干渉計に投入する必要があります」

「ふーん...」マチコが、首をかしげた。「そんなことが...技術的に難しいんだあ...」

「まあ...」高杉が、顎に手を当てた。「そういうこと、らしいですねえ...

  その上...電子陽電子が・・・それぞれ、交差点を通る確率を掛け合わせても・・・両

方が、交差点を通る確率にはならない・・・”...と予測されているわけです。

  まあ...“意味が混乱し・・・よく分からない”わけですが...ともかく、両者バラバラに見る

のではなく、“全体を・・・同時に測定しないと・・・意味がない”、ということです」

「うーん...」マチコが、ため息を吐(つ)いた。

「したがって、いいですか...

  “ハーディーのパラドックス”を...そのままの形実験するのは...“まだ、かなり先のこと

になる”、という見通しのようです。現在は技術的に、そのレベルには到達していないということ

でしょう。

  しかし...この“ハーディーのパラドックス”検証・実験は...光子を使って...実現できた

と言うわけです。実験の詳細は、“参考文献”には載っていませんが、“ポイントは・・・3つあっ

た”、と論文の著者は述べています...」

光子検証・実験する・・・3つのポイントとは・・・?> wpe8B.jpg (16795 バイト) 
  

           、     

 

「ええ...」高杉が言った。「“ハーディーのパラドックス”を...光子を使って検証・実験するに

は...“3つのポイントを・・・クリア”...しなければならなかったということです。これらの課題

クリアしてでも...電子陽電子ではなく、光子で...検証・実験成功したということです。

  ええと...クリアしなければならなかったのは...次の3つです...

 

 1つ目・・・電子陽電子に代わるものを...どうやって、光子で作るか!

 2つ目・・・“対消滅”と相当のものを...どうやって、光子で実現するか!

 3つ目・・・各シナリオが実現する確率を...どうやって、“弱く・・・測定”するか!

  まず、 1つ目ですが...光子反粒子というのは、どのようなものかというと、これは

子それ自身なのです。何故か、と言われると難しくなりますので...光子反粒子は、光子とい

うことで承知して下さい」

「うん...」マチコが、素直にうなづいた。「それは、確かなわけね?」

「そうです...

  したがって、ここは...電子陽電子ペアを作る代わりに、光子2個...用意すればいい

のだそうです。ただし...波長など全く同じ光子です。こうした光子ペア生成する技法は、す

でに存在しています。“ビーム・スプリッターで・・・分割した光/光子”で、いいわけですね...」

「うーん...」マチコが、口に手を当てた。

「ただし...

  ええ...これは、 2つ目になりますが...光子どうしでは、出会っても“対消滅”は起こり

ません。そこで、代わりになる工夫が必要です。これには、“2光子の干渉現象/マンデルの干

渉”を利用します。これは、アメリカ/物理学者:マンデル(Leonard Mandel)が提唱したものです。

  簡単に説明すると...2個の光子は一緒になって、1つの検出器に出て行くということですね。

これは2つの光子が、ボーズ粒子として干渉した結果で、もう少し正確に言うと、“ホン−オウ−

マンデル(Hong-Ou-Mandel)の干渉”というのだそうです」

「はい...」

検証・実験では...光路が交差した所で...“マンデルの干渉”が起こるようにしておくわけで

す。すると...2個の光子が出会うと、2個の光子がそろって同じ方向へ動き...別々の光路

は進めなくなるわけです。つまり、一緒に仲よく...1つの方向に出て行く、ことになります...」

「それはさあ...」マチコが言った。「干渉計で...干渉があった時...1つの方向の検出器

出て行くのと、同じことかしら...?」

「そうですねえ...」高杉が、ゆっくりとうなづいた。「まあ、そうなのでしょうが...詳しいことは、

調べてみなければ分かりません。しかし、ここではそうしておきましょう...

  要するに...光路が交差している所で、この現象が起こった時...光子と、その反粒子に相

当する光子“出会った”ことになるわけです。そして、“対消滅”の代わりに、干渉が起こるわけ

です。そして光子は、別々の光路には進めなくなり、一緒に仲よく1つの検出器へ向かいます」

「うん、」マチコが、うなづいた。

「そこで、いいですか...

  実験では...“この干渉が起こった時の出力は・・・カウントしないようにセット”して置きます。

これで、実質上...“2個の光子が消滅したのと・・・同じ効果が得られる”...とわけです」

「うーん...」マチコが、頭をかしげた。「でも、本当かしら...こんな複雑なことをして...?」

「うーむ...」高杉が、口元を崩し、腕組みをした。「マチコさんの気持ちは、分かります...

  私たち門外漢には...その、理論的信頼性の枠組や、精度の高さには介入できません。そこ

は、第一線の研究者を信頼しておきましょう。まあ、検証・実験成功を収めている...というこ

ともありますが...」

「はい...そうですよね...」

 

「さて、最後の 3つ目 ですが...」高杉が言った。「この光子をつかった、“ハーディーのパ

ラドックス”を...“弱い測定”によって、観測する方法です」

「はい...」

「単純な、“マッハツェンダー干渉計”では...

  光子が、何処を通ったかを...“普通に測定/強い測定”をするのは、簡単です。“入射する

光子を・・・あらかじめ水平に偏光”させ...光路の一方に、それを“90度回転させるような・・・

偏光板”を、入れておけばよいのだそうです。

  光子が...“偏光板を入れた方の光路を通れば・・・偏光は垂直に変わる”ので...最終的

出てきた光子の偏光を測れば...どちらの光路を通ったかが、判明するわけです」

「ふーん...偏光させる、わけかあ...」

「そうです...ただし...

  いいですか...“この場合・・・光子がどっちを通ったか、決まってしまうので・・・干渉は起

こらず・・・結果、光子は2方向に、ランダムに出てくる・・・”...ことになる、と言います」

光子の...」マチコが言った。「“通った経路が・・・決まってしまう”と...どうして干渉が起こら

ないのかしら...?」

「うーむ...そこがミソですねえ...

  つまり、これが...“普通の測定/強い測定”だということでしょう。“強い測定”で...“どちら

か一方を通ったコトが確定”されれば...当然、“もう一方は通らないコトが確定”され...干渉

は起こらないことになります。

  干渉という現象は...あくまでも、2つの経路から来る位相のそろった光子が出会い、初めて

起こる現象です。“一方の光路を通ることが確定”され...その結果、“もう一方の光路を通らな

いことが確実”となれば、“干渉は起こらない”ということになります...」

「うーん...

  そりゃあ...一方からしか光子が来ないと確定されたら...干渉は起こらないわよね。でも、

それは...頭の中の“勝手なへ理屈”じゃないのかしら...?」

「うーむ...」高杉が、脚を組み上げ、顎に手を当てた。「だから...

  量子力学では...“観測者/主体の立場”というものが...非常に重要になってくるのです。

しかし、まあ、これは、“参考文献”から得た、私の解釈です...私の思い違いで、真の解釈は別

の所にあるのかも知れません。こうしたことは、最先端科学では、しばしばあることですから...

  まあ、ともかく...それはひとまず置いておき...“弱い測定”の方を見てみましょうか...」

「はい...」江里香が、コクリとうなづいた。

弱い測定をする・・・とは・・・?>   wpe8B.jpg (16795 バイト)      wpe8.jpg (26336 バイト)

                             

 

「さて...」高杉が言った。「“弱い測定”を行うには...

  “90度回転させるような偏光板”は、使えません。“弱く・・・測定”するわけですから、“ほんの

少し回転させるような偏光板”を、一方の光路に入れることになります...

  この光路を通った光子の偏光は...偏光板で水平からズレるわけですが...“ほんの少し”

だけです...したがって、1回測定しただけでは、あまりにも誤差が大きく...どちらの光路

通ったかを、見極めるのは不可能です...」

「うん...」マチコが、うなづいた。

「したがって、ですねえ...

  個々の測定では...“2つの状態の・・・重ね合わせは・・・壊れず”にあり...“出力側/ビー

ム・スプリッターでの干渉も・・・これまで通り成立する”...ということになります。

  つまり...“強い測定”では、“重ね合わせ状態”が壊れ、干渉起こらないわけですが...

“弱い測定”では、“重ね合わせ状態”が壊れずに...干渉起こるということです...」

「うーん...どこか...“勝手なへ理屈”、のような感じがするのよね...」

「はは...」関が笑った。

「ところが...」高杉が言った。「いいですか...

  この“弱い測定”を...1万回もくり返せば...“水平偏光の光子”と、そこから“わずかにズレ

た光子”が...半々の確率で出てくるのが、見えて来ると言います...

  “2つの状態(Aの光路 or Bの光路)の・・・重ね合わせ”だから...どちらの光路を通ったか...

/2の、半々の確率になるわけです...」

「うーん...やっぱり、半々なのかあ...

  でもさあ...“重ね合わせで・・・1個の光子が両方の光路を・・・100%通る”のだから...

個の光子でも、干渉できるわけでしょう。それが、どうして、1/2半々の確率なのかしら...

最初から、両方の光路を、100%通ると分かっているのに...」

「うーむ...」高杉が、体を椅子の背にあずけた。「いいですか...

  “1個の光子が・・・重ね合わせ状態で・・・両方の光路を同時に通る”というのは...量子力学

理論的解釈から来る、予測的風景です...そして、1万回くり返した中で、半々の確率で出て

来るといは...観測/測定の結果だということです...」

「ああ...そうかあ...うーん...」

「先ほど...

  測定しなくても分かると言ったように...単純“マッハツェンダー干渉計”で、こうした“弱い

測定”を行えば...Aの光路Bの光路を通った光子50%づつ検出され...“両方の状態が

・・・半々の確率で実現”している...のが分かるそうです」

「はい...それで、測定しなくても分かるということよね、」

「そうです...」高杉が、うなづいた。「ところが...

  “ハーディーの干渉計/・・・ハーディーのパラドックスの干渉計”では...話はそれほど単

純ではなくなります。つまり、先ほど考察した... “4つのシナリオ”...が実現するわけです

ね...」

「そうかあ...」マチコが、口を開けた。

「それから...

  “どのシナリオが・・・起きているかを判別”するには...もう1つ...投入される2つの光子を、

別々に測定したのでは意味がありません。一括して測定する必要があります」

「うん...そうかも...」

「いいですか...これは重要なことです...

  そこで...ここで“量子もつれ・・・光子”を...“測定装置どうしの・・・一括測定”に、応用する

ようです。“参考文献”では、これ以上のことは述べられていませんが、私たちの、これまでの“量

子もつれ”の考察で、おおよそのことは理解できると思います。

  つまり、大雑把に言えば...“量子もつれ・・・光子”を、ビーム・スプリッター分割し、それぞ

れの測定装置へ送り、その“非局所性”で、一括測定可能になったものと思われます。

  “量子もつれ”“非局所性”は...それが例え...銀河系の両端に離れていようとも、その

同時性は、“距離に依存しない”というわけです...」

「うん、」マチコが、うなづいた。

「この“量子もつれ”の導入が...検証・実験突破口となったようです...

  そして、これに気づいたのが、“参考文献”著者の一人/・・・大阪大学/大学院生:横田一

広(氏)のようですね...」

「はい...」江里香が、コクリとうなづいた。

「ええ...」高杉が言った。「“参考文献”の...

  検証・実験で用いた手法は...“測定の強さを・・・連続的に変えられる点に・・・強みがあ

る”...と言っています。その詳細は、例によって記載されていませんので、ここではコメントのし

ようがありません」

「はい、」江里香が言った。

「しかし...

  実際に、“測定を・・・どんどん弱めて行く”と... “シナリオ・・・1、2、3、4”確率が...

前に述べたように、 “0、−1、+1、+1”に、近づいていくことが、確認されたと言います。

  つまり、アハラノフ教授理論通りに...“存在確率・・・マイナス1”が、観測されたわけです」

「うーん...」マチコが、腕組みをした。「そうかあ...

  “存在確率・・・マイナス1”が...とうとう観測されたんだあ...“マイナスの確率”が...」

「そうです...」高杉が言った。「これで、“3つのポイントを・・・クリア”したわけです」

 

  〔6〕 “マイナスの確率”・・・正体/実体は何か? 

                     

 

「さあ...」高杉が、江里香を見て言った。「実際に...

  “存在確率・・・マイナス1”が観測されたとなると...冗談ではなく...容易ならざることです。

量子力学という学問の体系としても...その“実態”を...考察/解明しなければなりません」

「はい...」江里香が、長い髪を握った。

「しかし、前にも述べていますが...

  “負の確率/マイナスの確率”というものは...意味としても...実用としても...まるで、用

をなさないということです...」

「うーん...」マチコが、うなづいた。

「いいですか...

  アハラノフ教授予測した、この“負の確率の値”は...これまで便宜的に、“両者(電子と陽電

子/光子と光子)が・・・共に交差点を通らない確率”、と呼んできたわけですが...厳密に言えば、

これは確率ではないのです」

「はい...?」江里香が、顔をかしげた。

確率というのは...」高杉が、マチコの方に視線を移した。「ある試行をくり返した場合に...

特定の結果が出て来る...その割合のことです」

「うん...」マチコが、口に手を当てた。

「しかし...“弱い測定”の場合は...この条件とは、少し違うのです...

  “弱い測定”では...ある試行の全部ではなく...“電子と陽電子が・・・通常のマッハツェン

ダー干渉計とは違う方向へ出てきたケース/・・・その特定の状態のみ・・・”...を、“後から選

択”し...つまり、“遡って測定”を行っている...ということになるわけです」

「はい...」江里香が、頭をかしげた。「そういうことに...なるのかしら...?」

「そういうことに...」高杉が、微笑した。「なるわけですねえ...

  非常にややこしいわけですが、ここを考察することが核心です。つまり、これは、“条件付き・・・

確率”、ということになるようです。“マイナス1”という、予想外の“負の値”が出てきたのは、この

“事後の選択”と...密接に関係しているようです」

「うーん...」マチコが、首をかしげた。「“事後の選択”というのはさあ...“特定の状態”だけを、

選択したということかしら?」

「まあ、そうですねえ...

  簡単に言えば...“そうした状態になった”ものを...後から選択したということでしょう。そし

て、それを、これから測定するというのでは、意味がないわけです。したがって...そうした結果

が出る前のデータを集めることになります...

  それが、“遡って測定”するという意味でしょう...まあ、慎重を期して言いますが...門外漢

が、“参考文献”を読んだ上での、私の解釈ということですね...みんなも、自分で考えて欲

しいと思います」

「そうかあ...」マチコが、江里香と顔を見合わせた。

「ところが...ここから...話がかなり複雑になって来ます....」

「はい...」江里香が、コブシを握った。

                                                    
  

“参考文献”にあるように...」高杉が言った。「話を、単純化して考えてみましょう」

「はい...」マチコが、うなづいた。

「今...

  光子が1個...干渉計の中の光路を通っているとしましょう...そして、そこに...光子の数

を、針の目盛りでカウントする測定器につなぐとします。

  アナログ式の、スピード・メーターのような測定器を考えればいいでしょう...その目盛りで、

1個2個、と光子カウントする測定器です...」

「はい...」江里香が、まばたきした。

「さて...いいですか...

  この測定器ですが...ハイゼンベルク【不確定性原理】によれば...“針の位置”“運動

(/=質量×速さ)には...それぞれ、“量子ゆらぎ(量子論的なゆらぎ/・・・量子系において、ある物理量が確定

した値を取っておらずに、波動関数によって示されるような、拡がりを持っていること)があります...

  これは“相補的”な関係で...その(/乗積/掛け算)が、“ある値よりは・・・小さくはならない”

いう事になります。つまり、“針が示す場所”を正確に知るためには...“位置ゆらぎ”ゼロに近

付けて行くわけですが...そうすると、その分、“運動ゆらぎ”が大きくなるというわけです...」

「うーん...」マチコが言った。「それで...?」

「うむ...」高杉が、うなづいた。「いいですか...

  私たちが日常に使うような、普通の測定機ならば...針が十分に重いわけで...少々の“運

動ゆらぎ”があっても、はだいたい止まります。そして、光子の個数も、ちゃんと測定できます。

  ただし...その代わりに...“運動量ゆらぎ”反作用のために、“測定対象である・・・

光子の波の形が・・・ボヤける”...ということです...」

「...?...」マチコが、ゆっくりと首をかしげた。

「まあ...とりあえず、聞いてください...」

「はい...」

「いいですか...

  “波形がボヤける”ために光子は...別の光路を通って来た、“自分自身の分身/・・・もう1

つの・・・重ね合わせ状態の関係にある自分”...と出会っても、干渉できなくなってしまうので

す。“ぼやけた光子では・・・干渉が成立しなくなる”...ということです」

「ああ...」江里香が、上を見た。「前に、聞きましたわ...波がボヤけてしまって...干渉がで

きなくなるって、」

「そうです...」高杉が、うなづいた。「光路の一方に、“透明な検出器”をセットした場合もそうで

したねえ...あれは、“量子・非破壊測定”と呼ばれる方法でした...」

「はい、」

「あの場合も...

  実際に、実験してみると...“2つの波が、ボヤけた状態で合流し・・・干渉は不完全になり・・・

光子は2方向から出て来る”...というものでした」

「そうかあ...」マチコが言った。

「まあ...」高杉が、髪に手を当てた。「この場合...

  “干渉している状態を・・・破壊せずに測定”、しようと思うなら...針を非常に軽くして...“運

動量ゆらぎを小さく”、してやれば良いわけです。しかし、そうすると今度は、“位置ゆらぎ”

が、大きくなるわけですねえ...」

「ああ、はい...」江里香が、うなづいた。

「いいですか...

  また同じ説明になりますが...こうしたことのために、1回の測定では、誤差が大きくなってし

まうのです。そのために...“マイナスの値”や、2個以上の光子が、観測される場合もある...

という現象が起こるようです...」

“マイナスの値”は聞いたけど...」マチコが言った。「2個以上の光子というのは...?」

「うーむ...」高杉が、首をかしげた。「...詳しいことは、分かりません...

  “参考文献”に、そう記載されているわけですが、それ以上の説明はありません。ともかく、

妙な数値観測されるということでしょう...1個の光子しか投入していないのに、2個以上とい

うのも、確かに異常な数値です。

  ただし、いいですか...この“弱い測定値”実験でも、“何度も・・・くり返して測定”して、“平

均値”をとれば...しだいに精度が上がり、“1個の光子”に収束して行くのだそうです...」

「うーん...」マチコが、頭を斜めにしてうなづいた。「そういうことなんだあ...」

 

“マイナスの確率”・・・由来/正体は?     

                 wpeA.jpg (42909 バイト)     

 

「さて...高杉が言った。「このあたりは...

  “参考文献”でも...“/・・・同中段”とか、“/・・・同下段”などとなっていて...どうやら、

のデータからの要点の抜粋になっている様子です。

  そういうわけで...私たちも、全部のデータを追跡できるわけではないという事情を、理解し

て欲しいと思います。ええ、その上で...核心部分の考察を続けます...」

「はい...」マチコが、うなづいた。「ともかく...このデータで、考察してみるということよね、」

「そうです...

  ま、必要なデータは、整えてあるのだと思います。しかし、ともかく、最先端の、新展開を見せ

つつある研究分野だということですね...私たちも、まさに、背伸びしているわけです...」

「はい!」

 

「ええと...」高杉が、顎に手を当て、モニターに目を投げた。「話の続きになりますが...

  この“思考実験”では...実は...“光路にある・・・光子の数にも・・・量子的なゆらぎ”...が

存在するようです。この“光子の・・・数のゆらぎ”と、測定器の針“位置ゆらぎ”に...相関があ

ると...また、話は変わってくると言います...」

「ふーん...」マチコが腕組みし、椅子の背に上体を倒した。

「いいですか...」高杉が、マチコに言った。「実験では...

  “ある特定の方向に出てきた光子だけを選び・・・その光子が干渉計の中で通って来た・・・そ

の光路を測定している”...ということです。

  この“事後選択”が、“弱い測定”に、何らかの影響を及ぼし...“1方向に振れた誤差だけが

・・・拡大されている可能性”...は否定できないと言います。それが、“マイナスの確率”という、

“本来では・・・あり得ない測定値”...を、もたらしたと考えられると言いますねえ...」

「うーん...」マチコが言った。「ややこしいわねえ...」

「はい...」江里香が、マチコにうなづいた。

「しかし...」高杉が言った。「そもそも...

  “量子/開かずの扉” があり...その中に、“粒子の状態の・・・重ね合わせ”があり...外

部に対しては、“神が・・・サイコロを振る”...というわけです。しかし、それでも、鶴の恩返し

のように、どうしても、“中の様子を知りたい”ということで、“弱い測定”というものが開発された

わけです。

  まあ、そうした事情ですから...色々と、無理無理を重ねて...“弱い測定”が開発されて

きたわけですね。しかし技術というものは、そのルートが確立されて安定化してくると、それが次

第に無理ではなくなって来るわけですね...

  そしてやがて、大きな、“技術革新/イノベーション/・・・新機軸”がやってくるわけです...」

「話を戻しますが、塾長...」関が言った。「それは、単に...

  測定対象に存在する...“些末(さまつ)な・・・量子的な誤差”...のようにも見えますが?」

「うーむ...そう見えるかも知れません...

  しかし...“事後選択”によって...“重ね合わせ状態が・・・変化し得る”...というのは、

“些末な問題”ではないでしょう。

  古典物理学では...そもそも...“事後の選択が・・・前に通って来た光路に、影響を与え

ることなど”、は...“あり得ない”...わけですからねえ、」

「うーむ...」関が、うなった。「なるほど...

  アハラノフ教授が...“未来から来る・・・現在への衝撃!”...と言ったのは、そういうこと

なのですか...?」

「うーむ、そうですねえ...

  正確な所は、検討してみなければ分かりませんが...こうしたことが、全て含まれるというこ

とでしょう。量子力学では...“対象を強く測定するという・・・行為そのものが・・・対象の状態を

変えてしまう”...ということです、」

「うーん...」マチコが、頭をひねった。それから、腕組みをし、頭を反対側に倒した。

「いいですか...」高杉が、マチコに言った。「思い出して下さい...

  量子力学には...“過去をも語る・・・時間反転・対称性”があるということです...つまり...

“未来にどの状態が観測されたかによって・・・その状態に行き着くところの・・・過去が決ま

って来る”...と考えられる、と言います」

「うーむ...」関が、固く両手を組み、口に押し付けた。

  高杉が、ミケの頭に手を置いた。

「それは...」マチコが言った。「どういうことなのかしら...?」

 

                                           wpeA.jpg (42909 バイト)     wpe8B.jpg (16795 バイト) 

「いいですか...」高杉が言った。「量子力学においては...

  “現在の状態によって・・・遡(さかのぼ)って過去が決定される・・・とも考えられる現象”...

が、“ままある”のです。

  有名な、“シュレーディンガーの猫のパラドックス”にしても...“生と死が・・・重ね合わせの状

態になった猫”...を観測して、“猫が・・・もし生きていた”としたら...どうでしょうか?つまり、

この猫は、当然、“過去においても・・・ずっと生きていた”と、言えるのではないでしょうか...?」

「うーん...」マチコが、頬に手を当てた。「そりゃ、そうよね...

  それで...“現在の状態”によって...“過去が決定される”と言えるわけかしら?そんなの、

当り前じゃないのかしら...?」

「いや...“遡って・・・過去が決定される”...という事が...問題なのです...

  つまり、このように...“現在を選択をすることで・・・過去の様相が変わり得ることを・・・

端的に示す”のが...“存在確率・・・マイナス1”のような...“弱い測定”での...異常な測定

のようです...まあ、なんとも...意味が、スッキリとしませんが...」

「うーん...」マチコが、うなづいた。

「こういうことが...」関が言った。「どのような条件で、起こるのかということは...分かるわけ

ですか?」

必要条件十分条件は...まだ、分かっていないということです。そうした研究は、これからと

いうことになるのでしょう」

「はい...」関が、うなづいた。

 

「あの、塾長...」江里香が言った。「“シュレーディンガーの猫”というのは...どういうものな

のでしょうか...言葉だけは、何度も聞くのですが、」

「ああ、はい...」関が、微笑した。「それは、私の方から説明しましょう」

「あ、お願いします、」江里香が顔を崩し、両手を軽く合せた。

  関がマウスを使い、自分のデータ・ベースをスクロールした。それから、それらのデータに目を

通した。

「ええと...」高杉が言った。「それでは...“シュレーディンガーの猫”について、関君に説明し

てもらい...最後のまとめに入りましょうか、」

「はい、」マチコが言った。

 

  〔7〕 “シュレーディンガーの猫”とは?  wpeA.jpg (42909 バイト)   毒ガス!      

                        

 

「ええと...」関が、ようやくモニターから顔を上げた。「すみません...

  ともかく、量子力学“コペンハーゲン解釈”は...現在でも、物理学界多数派の支持を集

め、最も大きな貢献をしています。しかし、前にも言ったように...“全く問題がない・・・というわ

けではない!”...ということです。

  “コペンハーゲン解釈”の...“最大の特徴であり・・・かつ・・・最大の欠陥!”とも、揶揄(やゆ)

されるのは...“主体と客体とを不可分とした・・・観測の問題”...なのです...」

「はい...」江里香が、小さく顔をかしげた。

「いいですか...

  “物質/被観測系は・・・観測によって・・・はじめて物理的特性を獲得する”という...“コ

ペンハーゲン解釈”の考え方は...“リアリティーは・・・観測によってはじめて・・・リアリティ

ーになり得る”...ということなのです。

  逆に言えば...“観測が行われない限り・・・対象は存在し得ない”...ということになって

しまうわけです...私たちが、直感的に判断して、“本当に・・・そうなのだろうか?”ということで

すねえ...」

「うーん...」マチコが、口に手を当てた。

「前にも言ったように...」関が言った。「シュレーディンガー波動方程式を使うと...

  観測によって・・・被観測系の波動関数は・・・物理的実在へと収縮...します。これを、

“波束の収縮”と呼びます。しかし、観測が行われないと...“無限に広がってしまう”...と

いうことです」

「うーん...」マチコが、関を眺めた。「この問題を解決するために...“コペンハーゲン解釈”

対して、“多世界解釈”が、提唱されたわけよね?」

「そうです...

  ちなみに...“多世界解釈”というのは、否定するのは難しいのだそうです。“本当かどうかも

検証できませんが・・・否定も難しい”、ということでしょう。

  しかし、そうかといって...“多世界解釈”を認めてしまうと、そもそも...“情報や認識につい

ては・・・論じる必要もなくなってしまい・・・話はそこで終わってしまう”...のだそうです...」

  関が、高杉の方を見た。高杉が、小さくうなづいた。

「うーん...」マチコが、手を組んだ。「どうしてかしら...」

実現可能あらゆる世界が...」関が言った。「多重並行的に存在するからでしょう...

  まあ、私は、“多世界解釈”については、詳しいデータは持ち合わせていません。そもそも、

の種の本は、あまりないのです。ともかく、“話がそこで終わってしまう”、からかも知れませんね」

「しかし...」高杉が言った。「物理学界では、少数意見ですが...

  量子情報科学や、宇宙物理学などの1部には、根強い支持があると言うことです。詳しいの

は、そういう研究者たちでしょう」

「はい、」関が、うなづいた。

 

「うーん...」マチコが、頭をかしげた。「“多世界解釈”というのもさあ...何となく、納得できな

いわよねえ、」

「つまり、いいですか...」関が、白い歯を見せた。「全体が、非常に分かりずらいわけですね、」

「はい、」江里香が言った。

「そこで...」関が言った。「当時...

  あの、量子力学の黎明期において...“古典物理学的・解釈”...それに、量子力学“コペ

ンハーゲン解釈”...“多世界解釈”の違いを示すのに...を使ったアナロジー(類推)が用いら

れたわけです。それが...“シュレーディンガーの猫のパラドックス”なのです」

「ああ...」江里香が、コクリとうなづいた。「はい...」

「では...」関が、また自信を取り戻し、両手を握った。「その...“シュレーディンガーの猫”

ついて...説明しましょう」

「はい...」江里香も、笑って、明るくうなづいた。

 

  毒ガス  wpeA.jpg (42909 バイト)  毒ガス  wpeA.jpg (42909 バイト)  毒ガス  wpeA.jpg (42909 バイト)   wpe8.jpg (26336 バイト)

 

「まず...」関が言った。「“毒ガスが噴出する箱”の中に...猫/ミケを、入れると考えて下

さい...

  いつでも、“毒ガス”を噴出すことができます。“毒ガス”が出れば、むろん、猫/ミケ即死

す。しかし、“毒ガス”“噴出する”“噴出しない”かは、“予測がつかないようになっている”

とします。

  つまり、これは...粒子崩壊のように、局所原因によらず...観測者が、予測不能な現象と、

考えて下さい...ここまでは、いいですね...?」

「ええと...」江里香が、口に手を当てた。「毒ガスが...

  “噴出する”“噴出しない”かは...“予測がつかない”...ようになっているということです

ね?これは...“神様が・・・サイコロを振る”...と考えても、いいのでしょうか?」

「そう...」関が、うなづいた。「そういうことですね...」

「はい、」

「さあ...猫/ミケを入れます...“この箱”を閉じます...思考実験が始まりました...

  さて...“毒ガスが噴出して・・・猫/ミケは死んでしまうか”...“毒ガスは噴出しないで・・・

猫/ミケはそのまま生きているか”...

  少々残酷な実験ですが...結果は、箱を開けてみるまでは、分からないわけです...いいで

すね...?」

「はい、」江里香が、両手を包むように握りしめた。

  マチコが、ミケを抱きしめ、頭を強く撫でた...ミケが、マチコの指に噛みついた。

「さあ...」関が言った。「ここから...推理です...

  “古典物理学的・解釈”では...実験の結果は、2通り、しかありません。つまり、“生きている”

か...“死んでいるか”...箱を開けてみれば、実験の結果は明確になります。あ...ついでに

言うと...私たちの日常は、いまだに、この解釈常用しています。

  研究・開発などでも、こうしたパラダイムが用いられています。刑法などでも、こうした解釈によ

り、有罪・無罪確定されています。そして、“動かぬ証拠”、などと言いますね...」

「ふーん...」マチコが言った。「それは...“古い・・・古典的解釈”、ということなんだあ...」

「いや...」高杉が、両手を開いた。「それは、一言では言えません...

  【人間原理的な・・・深い領域】が...からんで来るのかも知れません...それに、法律とい

うものは、自然科学における原理法則とは違います。“人間社会が・・・便宜的に作り上げた、

社会的な決め事”、という事でしょう...それはまた、別の考察が必要です...」

「そうかあ...」マチコが、天井を見た。「そうよね...」

「ええ、いいですか...」関が、高杉を見た。「ともかく、話を進めましょう...

  次に...量子力学“コペンハーゲン解釈”では...猫/ミケは...どういう運命になるか

を、考察してみましょう」

「はい...」江里香が言った。

“コペンハーゲン解釈”では...

  まず、“確率計算”から始めます...猫/ミケが、“生きている可能性/傾向”と、“死んで

いる可能性/傾向”を含む...波動関数によって表現されるのは...あくまでも、“確率”

ということです。

  1方の可能性現実となり、もう1方の可能性消滅するのは...この箱を開けた瞬間です。

ともかく、それ以前には...“何も言うことができない!”...という立場です。

  つまり...“この箱”を開け...猫/ミケ目撃るまでは...そもそも、“猫/ミケは存在し

ていない”、ということになるのです。言い換えれば...被・観測系が...観測という相互作用

にゆだねられるまでは...それは、“存在していない”、ということになるのです。

  “存在する可能性・・・傾向”は...“しっかり認めつつ”も...量子力学“コペンハーゲン

解釈”では...“確定的に・・・ものごとを判断することはない”、ということなのです...」

「うーん...」マチコが言った。「あくまでも...“確率で・・・表現する”、ということかあ...」

「そういうことですね...」関が、口に手を当てた。「さて、次に...

  “多世界解釈”の方ですが...確率計算までのプロセスは...“コペンハーゲン解釈”と同じ

です。“箱の中の猫/ミケ”は...“生きていながら・・・同時に死んでいる”という...“2つ

の状態の・・・重ね合わせ”...になっているわけですね...」

「はい...」マチコが、うなづいた。

「さて...いいですか...

  “多世界解釈”では...“重ね合わせ状態の・・・両方が実在します。一方、“コペンハーゲ

ン解釈”では...“重ね合わせ状態は・・・実在せず・・・観測した時に・・・波束の収縮で物

理的実体”、となります。

  つまり...“コペンハーゲン解釈”では、“普通の測定/強い測定”をした時に、1つの状態

ランダムに選択され、そこで初めて“物理的・実体”となるわけです。これを、“波束の収縮”と、

呼ぶわけですね」

「はい...」江里香が、うなづいた。「“コペンハーゲン解釈”では...“波束の収縮”で、“物理

的・実体”となるわけですね?」

「そうです...

  ええ、くり返しますが...“多世界解釈”では、“重ね合わせ状態は・・・全て等しく実在し・・・多

重世界を形成”、しています。しかし、“コペンハーゲン解釈”では...“重ね合わせ状態は・・・実

在せず・・・観測によって波束の収縮が起こり・・・ここで物理的実体”、となるということですね、」

「うーん...」マチコが言った。「それで、この“コペンハーゲン解釈”が、多数意見なわけかあ、」

「まあ...」高杉が、腕組みをした。「しかし、“波束の収縮”というのも...おかしな話です...

  門外漢の私が、勝手なことを言いますが...この、“波束の収縮”にこそ...“物の領域と

・・・心の領域との・・・接点...があるのではないかと考えています...」

「うーん...」マチコが言った。

 

「さて...」関が言った。「続けます...

  “コペンハーゲン解釈”では、“箱の中の猫/ミケ”“確率”で表現され、“波束の収縮”

よって、“1つの状態が・・・物理的実体”となるわけですね...

  “多世界解釈”では...“猫が生きている世界”と、“猫が死んでいる世界”は、並行して実

します。“並行宇宙に・・・実在”するわけですね。そして、箱を開けた瞬間に、観測者が目撃

するのは...ランダムに選択された、どちらか1方になります。

  その時...仮に、“死んでいる猫”目撃したとしても...別の並行世界では、“生きている

猫”が存在します。“多世界解釈”では...“波束の収縮”はなく...“重ね合わせの状態”の、

“両方が・・・現実に起こっている”、と解釈するわけです」

「うーん...」マチコが、頭をかしげた。「それでさあ...それが、どうだというのかしら...?」

「つまり...」関が、唇をこすった。「どれが、“・・・正しい考え方か・・・”、ということです」

「ふーん...」マチコが言い、黙って聞いている、北原の方を見た。

「難しい話ですね...」北原が、首をかしげた。

    

「まあ...」高杉が、脚を組み上げた。「どれも、一長一短があるということでしょう...」

“古典物理学的・解釈”では...」江里香が、高杉に言った。「どうして、いけないのかしら?」

「いけないというか...それにも、“深い・・・一面の真理”、があります...

  というのは...今でも、多くの人々の日常生活において、本能的常用されているからです。

そして、ホモサピエンス意識が形成している【人間原理空間】は、“絶対主体性の下で・・・

相互主体”、という認識形式をとっているからです。そしてそれが、“この世の姿”、だからです」

「うーん...?」マチコが、唇を尖(とが)らせ、頭をかしげた。

「いいかね...」高杉が、肩を回し、マチコに言った。「つまり...

  この...“古典物理学的・解釈”というのも...人間的側面/人間的感性に沿っていて...

それゆえに...近似値的には正しく...矛盾を克服していて行く、人間的パワーがあるというこ

とです。量子力学時代の、今なお、“非常に優秀な・・・人間的感性”、だということです...」

「はい...」

「が、しかし...

  古典物理学では、現代・科学技術文明は築くことはできなかったわけです。電気エネルギー

電子の集合と認識し...地上に降り注ぐ太陽の光を、光子の集合と認識しなければ、電子工学

光工学も、存在し得ないということです。

  そうした、量子的・基本概念がなければ...当然、コンピューターも存在しません。ヒトゲノム

の解読もなかったでしょう。つまり、それが、量子力学威力/成果なのです。まあ、その一方

で、原子爆弾/核弾頭のようなものも、生み出してしまったわけですがね、」

「はい...」江里香が、長い髪を絞った。

 

「ええ...」高杉が言った。「ここに...

  古典物理学量子力学の違いを...月の裏側を使って説明しているものがあります。これも、

分かりやすい説明ですから、紹介しておきましょう」

「はい、」江里香が言った。「お願いします」

「ええと...」高杉が、モニターをスクロールした。「いいですか...

  今では...月探査機が...月の裏側の写真も撮ります...したがって、“月の裏側が存在し

ない”、などという人はいないでしょう。そして、写真を撮る以前からも、月の裏側は存在していた

し、クレーターのあるその地形は、確定していたはずです。

  私たちは...こうした考えを、当り前のように信じています。しかし、これは、“古典物理学的・

解釈”なのです。これは、人間的側面/人間的感性に沿っていて...これを否定したら...あ

いつは、“アホウだ!/頭がイカレてる!/話にならん!”...などと言われるでしょう...」

「はい...」マチコが、楽しそうに笑った。

「しかし...

  量子力学“コペンハーゲン解釈”では、だいぶ様相を異にします...“コペンハーゲン解釈”

では...“観測者が・・・観測対象に関与して初めて・・・物理的リアリティーが存在する”...と

いうことになるからです。

  つまり...“月の裏側は・・・写真に撮って初めて・・・物理的リアリティーが実体化する”...と

いうことになるのです。言い換えれば...“観測/写真が撮られる以前は・・・月の裏側というも

のは・・・物理的には存在しなかった”...というのが、“コペンハーゲン解釈”なのです...」

「うーん...でもさあ...確かに、あったわけよね...」

「もちろん...

  “存在する可能性・・・傾向”は...“しっかり認めつつ”も...“波束の収縮”があるまでは、

物理的・実体とはならないというのが...“コペンハーゲン解釈”なのです...」

「おかしな話よね...」

「うーむ...」高杉が、微笑して言った。「まあ...

  常識的には...“古典物理学的・解釈”の方が、“だんぜん正しい!”ように見えます。ところ

が、“粒子/量子の世界”では、この“常識的な考え方”は、全く当てはまらなくなるのです。

  極微の世界を記述するには・・・確率の考え方を・・・導入するしかない”、といいます。つ

まり、そこは、“常識の通用しない・・・エキゾチック(異国的)な世界”となっているわけです...」

「うーん...どうしてかしら...?」

「さて...」高杉が、大きく息を吐いた。「...分かりませんねえ...

  ただ、私としては...“エキゾチックな量子力学世界は・・・心の領域との親和性/整合性

/統合性...が高まっている、“トワイライト・ゾーン(薄明かり/黄昏の地帯)だと考えています...

“確率論的な曖昧さの壁も・・・心の領域との親和性から来ている”...と考えています...」

「そうかあ...」マチコが、口を開けた。「“物の領域”“心の領域”の、統合が必要なわけね、」

「そうです...

  ともかく...【不確定性原理】で有名な、ハイゼンベルク(ノーベル賞受賞)は、こう言っています。

 

自然を扱う科学にとって・・・研究の主体はもはや

       ・・・自然それ自体ではなく・・・

    人間の諮問にゆだねられた自然である・・・”

 

  ...ということです...“主体と客体との関係/観測者と被・観測系との関係”を、明確に

述べています。これが、“コペンハーゲン学派”の、“コペンハーゲン解釈”です。ボスは、デンマ

ーク/コペンハーゲン/ニールス・ボーア(ノーベル賞受賞)であり...ハイゼンベルクは彼の弟子

相当します。共に、20世紀初頭の、量子力学黎明期を築き上げてきた、偉大な人物です」

「うーん...」マチコが、ゆっくりと腕組みをした。「量子力学の、黎明期かあ...」

「そうです...黎明期と言えば...

  そこに、1935年...極東の辺境の島国から...湯川秀樹・博士中間子論が提出され、

当時、“量子論のメッカ”であった欧米に、大衝撃を与えました...そして、日本人で初めて、

ーベル賞を受賞しました。

  湯川秀樹・博士は、ほとんど独学で...後に素粒子の標準理論にまで発展する、中間

子論をまとめたと言われます...“力は・・・粒子の介在によって起きる現象”、と定義したの

は、この中間子論によるわけです...」

「はい...」江里香が言った。「そして...以後、理論物理学は...日本の得意分野となってい

るわけですね、」

「そういうことです」高杉が、うなづいた。

<最後に/量子コンピューター ・・・への応用       

                              

 

「さて...」高杉が言った。「“新しい概念”というのは...

  “実用上の・・・ありがたみ”を人々が享受し...有用性が社会に広く認識されることによって、

“その概念が・・・確立される”、という社会的側面を持ちます。こうした意味においては、“弱い測

定の概念”は、社会的にはまだ確立されていないようです。

  これと対比してみると、量子力学は...理解しがたい、エキゾチック未完成の理論であって

も...その有用性は社会に広く認識されています。粒子/・・・量子という考え方が、【素粒子の

標準理論】を構築し、それが、現代/科学技術文明礎石(そせき)となっているからです」

「うん...」マチコが、神妙にうなづいた。

“弱い測定”は...」高杉が言った。「あくまでも...

  干渉計出力が得られてから...“干渉計の中にいた時の・・・過去の状態を・・・遡って調べ

...ものです。

  つまり...“結果が得られた時には・・・測定対象は干渉計の外にあり・・・重ね合わせではな

い/普通の振る舞いに戻っている”...ということです。

  したがって...“弱い測定の数値/・・・あるいは状態”を...他の装置観測利用すること

は、できないことになります」

「ふーん...」マチコが言った。「他の装置で、利用することはできないのかあ...」

“参考文献”には、そうあります。しかし、これだけではよく理解できないですねえ...

  ともかく、“弱い測定”というのは...“弱い相互作用の・・・測定”で...“重ね合わせ状態を

壊さずに・・・何度も測定をくり返し・・・”...さらに、その中から、特定の結果になったものを、選

び出しているわけです。

  そのために...“存在確率マイナス1”というような...“意味不明の・・・異常な数値”が出て

来る...というわけです」

「はい...」マチコが言った。

 

「ええ...」高杉が、ポン助の用意した、スクリーン・ボードの画像を眺めた。「とりあえず...

  “弱い測定”技術を、何かに応用できないかということですね。前に少し触れましたが、“量

子コンピューターの・・・動作試験修理に応用できる”...可能性があるということです。

  “量子コンピューター”というのは...私たちも、これまでに概略を紹介してきているわけです

が...これは、“量子もつれ”を内包した、複雑で大規模な・・・干渉計からなっている”、とも

言えるのだそうです」

“量子コンピューター”というのは...」北原和也が、口を開いた。「“大規模な干渉計”...な

のでしょうか?」

「うーむ...」高杉が、顎に手を当てた。「そうらしいですねえ...

  “量子コンピューター”については...我々としても、十分に理解しているわけではありません

が...“量子もつれ・・・光子”を応用したものでは、そうなるのでしょうか...いずれにしても、

常に複雑なものになりますが、そうした側面もある、ということでしょう...

  現在のコンピューターの...電子デバイス光デバイスでも、相当に複雑に進化しています。

それを考えれば、“量子デバイス/・・・量子ドット”というものも、かなりの部分で、想像はつきま

す。また、既存コンピューターと、重なる部分も多いと思います。

  しかし、干渉計の部分は、既存コンピューターとは重ならないわけですが...おそらく、そこが

心臓部になるのでしょう。しかし、量子デバイスがその中心領域を占めたとしても...データの

人間的側面では、既存コンピューターと変わりはないのでしょうから...」

「はい...」北原が言った。「量子コンピューターというのは...しかし、大変なものを、作ってい

るわけですね、」

「そうらしいですね...しかし、“かつて歩いて来た・・・開発の道”...であるのも確かでしょう」

「はい...」北原が、深くうなづいた。

「さて...」高杉が言った。「この...

  “量子コンピューターの・・・動作確認を、したい場合...“全体の干渉効果”確認しなが

ら...動作の試験や、修理を行う必要があります。つまり、“量子コンピューター”としての計算

影響を与えずに...部分部分を確認しながら...それをやる必要があるわけです」

「はい...」江里香が、うなづいた。

「つまり...くり返しますが...

  “量子コンピューター”動作中に...各部分を、“普通に測定・・・強い測定”をしたのでは、

“干渉が消え・・・計算が停止”、してしまうわけです。これでは、確認になりません。しかし、“弱い

測定”なら...こうした検証も...可能かも知れない...というわけですね。

  もちろん...“弱い測定”何度もくり返すことになります...また、“存在確率マイナス1”など

という、異常な測定値も出て...非常に複雑になります。しかし、“量子コンピューター”内部

は、見ることが可能になるかも知れないのです」

「うーん...」マチコが、うなづいた。「そうした、次世代テクノロジーへの応用も、期待できるとい

うわけよね、」

  江里香が、マチコにうなづいた。

 

「まあ...」高杉が言った。「いずれにしても...

  “量子コンピューター”も、“量子通信”も、“弱い測定”も...まだ確立していない、開発中

の...“次世代テクノロジー”という事になります。

  しかし、それを、手に入れ...本格化して行けば...人類文明は、“文明の第3ステージ”

入って行くものと思われます。

  何度も言っていることですが...ホモサピエンスの社会性は、“文明の第1ステージ/農耕・

文明の曙”に始まり...“文明の第2ステージ/エネルギー・産業革命”と続き...今、“文明の

第3ステージ/意識・情報革命”入口に到達しています...本格化は、これからになります」

「はい、」マチコが言った。

「現在は...

  生命潮流の中で...“文明の第2ステージ/エネルギー・産業革命”に、“ストーリイ的な・・・

強力なバイアス(偏向)が、作用している様子です。“ストーリイ的”というのは、【ストーリイの・・・

原型的なもの、があると仮定しているわけですが、証拠があるわけではありません...

  しかし、その一方で...“文明の第3ステージ/意識・情報革命が...その“バイアスのか

かった・・・空きニッチ(空の生態系的地位)に...爆発的にスタートしている様子は...ありありと分

かるわけですね...」

  江里香が、無言でうなづいた。

 

「ええ...」高杉が言った。「...《危機管理センター》の、響子さんに依頼されているので...

再度、指摘しておきましょう...」

「あ...」マチコが、顔を和ませた。「はい...」

「まあ...“人類文明史的・・・観点”から...眺めて...

  “エネルギー・産業革命”象徴...“核爆弾/原発/・・・原子炉”などは、すでに、無用

ものとなりつつあります。この種の“巨大エネルギー施設”というものは...本来、生態系の中

には見られないものです。そういう意味においても、“極めて・・・不自然なもの”、なものです」

不自然...かあ...」マチコが、つぶやいた。

「そうです...

  “文明の第2ステージ”・・・“大自然の征服の時代”終息し...私たちは、これから、“文

明の第3ステージ”・・・“大自然との融合の時代”に向け...大きく開花して行くわけです。

  “核エネルギー施設”などは、未来社会にとって、“大きな・・・負の遺産”、になって行くこと

になります。今のうちに、“負の遺産”最小限にとどめておくべきです...」

「あの...」マチコが言った。「今...

  “原発/・・・原子力発電所”はさあ...世界中建設ラッシュになっているわよね...高速

増殖炉/“もんじゅ”も、14年ぶり再稼働を始めたし、」

「そうですねえ...」高杉が、手を組んだ。「いずれにしろ...

  “エネルギー・産業革命”ステージは、パラダイムとして、急激終息に向かうでしょう。“次

世代テクノロジー・・・意識・情報革命のステージ”では...“粗野で巨大な/熱運搬エネル

ギー”、は必要としていません。それこそ、無用の長物になります。

  今後は...“高度で微細な/情報運搬エネルギー”パラダイムが...急激拡大して行

くと思われます。また、そうでなくては、“21世紀・大艱難時代”は、超えて行くことができないで

しょう...」

「そうですね...」北原が、強くうなづいた。

次世代・キーワードは・・・ 生体ウエアー ?> wpeA.jpg (42909 バイト)   house5.114.2.jpg (1340 バイト)

                 

 

「さて...」高杉が言った。「新しい時代/未来社会は...

  “量子コンピューター”“量子通信”“弱い測定”などの、“次世代テクノロジー”で実現し

て行く流れですが...これだけでは、まだ、全体の構図は描けません...新時代の、方向性が、

定まりません...

  そこで...私が考えた、次世代・キーワードは...“生体ウエアー”です。“ハードウェアー”

“ソフトウェアー”に続く...“生体ウエアー”という新しい概念ですが...どうでしょうか?

  これは、ハードソフト中間に位置するかも知れませんが...全く新しい概念です。これは、

“工学的な・・・生体部品”のようなもの、と考えてください...」

「うーん...」マチコが言った。「生物体とは違うのかしら?」

生物体とは、違います...

  あえて言えば...“リンゲル液/生理的食塩水に浸した・・・人工的細胞”...に近いものか

も知れません。ハードソフトも含んで...“生体の基本チップ”のような、新しい概念です...

  ええ...これが、“生体ウエアー”ですが...どんなものが可能か...【茜・新理論研究所】

で、考察してもらいましょう。この“生体ウエアー”が、“文明の第3ステージ/意識・情報革命

の時代の...次世代・キーワードになって行くことを、期待しています」

「はい...」マチコが、うなづいた。「と、ユキちゃんの所で、考察するのかあ...」

 

「さて...」高杉が言った。「最後になりますが...

  “21世紀・大艱難時代”の中で、文明スタイルは...“機械科学の文明”から、“生体科学

の文明”へ...大きくパラダイム・シフトして行くことが予想され...また期待されます...

  しかし、これは、本来、非常に明確な流れです。私たちが、“存在している場所・・・知識を吸収

している対象・・・地球生態系”は...“非常に高度な・・・生体科学の・・・フロンティア”、だか

らです。私たちは、“野生の喧騒”から...“真の文明種族”に、脱皮して行くわけです...」

「うーん...」マチコが、口に手を当てた。「可能なのでしょうか...?」

“文明の折り返し”は、必至の状況です...

  “グローバル化/・・・大自然の征服”から...“人間の巣/・・・大自然との融合”へ、ステ

ージが大きくシフトして行くことが予想されます。そこで...“生体ウエアー”...という概念が、

広がりを見せるようになれば...“生体科学の文明”が、本格化して行くのかも知れません」

「はい...」マチコが言った。「そこでは、“原発”なんかは、無くなっているわけかしら?」

「そうですね...

  “はるかに・・・高度に変貌”して行くでしょう...社会形態/社会ステージそのものが、今の

ようなコンクリート金属のものから、より“生態系的・生物的”なものへと、進化して行くでしょう。

そして、その第1歩となるのが...〔人間の巣のパラダイム〕...だと考えています...」

  江里香が、うなづいた。

COP16(気候変動枠組み条約・・・第16回締約国会議。/2010年11月/メキシコで開催予定)では...是非、“この

方向性”を、打ち出して欲しいですね」

「はい、」マチコが言った。「もう11月は、アッという間に来てしまうわよね、」

「私たちの人類文明そのものに、期待してみましょう!」

「はい!」江里香が、両手を握った。

 

                         

「マチコです...

   “量子/開かずの扉”  は、【T/概論と・・・U/検証実験】のページ

になり、長い連載になりましたが、ご静聴、ありがとうございました。

  量子力学の最先端の領域なので、私たちも、ついて行くのが大変でし

た。でも、良い勉強になったと思っています」

「どうぞ...」江里香が、手を流した。「次の展開に、御期待下さい!」

 

 

 

 

  

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