My Work Stationgroup C最新・素粒子物理学の風景ハイパー・カミオカンデ

 〔ニュートリノ・物理学〕

            ハイパー・カミオカンデ  

              スーパー・カミオカンデの後継・・・ 第3世代超巨大施設の基本構想!

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トップページHot SpotMenu最新のアップロード                      塾長 / 統括責任者 :  高杉 光一           

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プロローグ   2010.11.11
No.1 〔1〕  ハイパー・カミオカンデ  へ至る道 2010.11.11
No.2      <3つの研究施設と・・・走り出した、2つの新プロジェクト! 2010.11.11
No.3      超新星・背景ニュートリノ ・・・ とは? > 2010.11.11
No.4      <スーパー・カミオカンデ・・・ 改造計画とは? 2010.11.30  
No.5 〔2〕  ハイパー・カミオカンデ   CP対称性の破れ・・・の探索! 2010.12. 9 
No.6            原子炉を用いた・・・ニュートリノ混合角 θ13 の精密測定 2010.12. 9
No.7            < ハイパー・カミオカンデ ・・・ができれば   2010.12. 9

         

   参考文献   日経サイエンス /2010 - 08   

                      ハイパー・カミオカンデ構想

                                 中島林彦 (編集部)

                                     協力: 東京大学宇宙線研究所

                          日経サイエンス /2010 - 06   

                      総力戦で初期宇宙に迫る

                                    中島林彦 (編集部)

                                    協力: 東京大学宇宙線研究所  東京大学数物連携宇宙研究機構

                          日経サイエンス /2010 - 10   

                         茂木健一郎の科学のクオリア

                     日本を横断するニュートリノ

                                    茂木健一郎 (ソニー・コンピューターサイエンス研究所/シニアリサーチャー)

                                    小林隆 (高エネルギー加速器研究機構/素粒子原子核研究所・教授)

 

プロローグ   house5.114.2.jpg (1340 バイト)       wpe8B.jpg (16795 バイト)

 

二宮江里香です...

  このページは、《ニュートリノ望遠鏡の始動》続編となります。ニュートリノ検出器/ニュー

トリノ望遠鏡は、初期世代/“カミオカンデ”...2世代目/“スーパー・カミオカンデ”に続き、

3世代目/“超巨大施設/ハイパー・カミオカンデ”が...構想の俎上(そじょう: まな板の上)に上

り...基本設計案検討に入っています」

 

“スーパー・カミオカンデ”は...

   5万トン“超純水”を使用しましたが...“ハイパー・カミオカンデ”では...100万トン/

50万トン・タンク・2基で構成されるようですわ。ええ...“超純水”の量で、20倍の規模になる

ようですよ。

  高性能光センサー/光電子倍増管は...“スーパー・カミオカンデ”では、直径50cmのも

のを、約1万本使用していますが、ここは高性能・低コスト新型センサー開発されているよう

です。

  建設候補地は...神岡鉱山/栃洞坑内です。ボーリング調査で、建設場所を絞り込むそうで

す。詳しくは...これから、皆さんに、考察していただきます。どうぞ、ご期待下さい!」

 

  〔1〕  ハイパー・カミオカンデ  へ至る道! wpeA.jpg (42909 バイト) 
  

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  <3つの研究施設と・・・走り出した2つの新プロジェクト・・・!>
  

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日本は...」高杉が言って、スクリーン・ボードを眺めた。

  支折も、肩を回し、スクリーン・ボードを見た。江里香がリモコンを両手で持ち、画像を操作し

ている。そこには、神岡鉱山一帯の山々が映し出されていた。その上空から撮影された俯瞰(ふ

かん)画像の上に、文字や記号やイラストが細かく描かれている。

本州の...」高杉が、画像を眺めながら、ひとり言のように続けた。「ほぼ中央部ですね...

  やや日本海側に寄っていますが...岐阜県/飛騨山中/神岡鉱山の地中深くに...3つ

ニュートリノ研究施設を建設し...この分野では日本が、世界をリードしてきました...」

「はい...」支折が、スクリーン・ボードを見ながら言った。

  淡島も、モニターから顔を上げ、スクリーン・ボードを眺めた。神岡鉱山には、他の研究施設

多くあり、細かく書き込まれている。さらに、小さなイラストが埋め込まれていて、そこが窓口にな

り、詳しい情報が呼び出せる。

  俯瞰図を一通り眺めた頃、江里香が高杉の方を見た。高杉がうなづくと、彼女は俯瞰図の中

の、“スーパー・カミオカンデ”をクリックし...拡大した...

 

「ええ...」高杉が言った。「日本のニュートリノ研究をリードして来た、3つの施設のうち...

  @つ目は...初代/初期世代“カミオカンデ”です...この施設は、“超新星爆発による

ニュートリノを・・・初めて捕捉”しました。すなわち、“ニュートリノ天文学に・・・先鞭(せんべん)

つけた”わけです。

  Aつ目は...2代目/2世代目“スーパー・カミオカンデ”です...この施設は、“大気・

ニュートリノ(/宇宙線と大気との衝突で生まれるニュートリノ)と・・・太陽・ニュートリノ(/太陽の核融合から放射され

るニュートリノ)観測して...“ニュートリノの・・・質量を発見” しました」

「はい...」支折が言った。

「そして...

  Bつ目...“カムランド/KamLAND”...という施設です。これは、“カミオカンデ”

(東京大学/宇宙線研究所/附属神岡宇宙素粒子研究施設)跡地に建設された...東北大学/大学院/

理学研究科/付属ニュートリノ科学研究センターが管理する...“反ニュートリノ検出器”です」

東大の施設の跡地を、東北大で活用したわけですね、」

「そのようですねえ...

  ちなみに、“KamLAND”は、直訳すれば、“神の土地”の意味だそうです。まあ、神岡も神の

土地なのでしょうが...」

「はい...」支折が、うんづいて顔を上げた。

「さて...この“カムランド”ですが...

  この実験施設は...“原子炉からのニュートリノを測定して・・・ニュートリノの質量の存在

を検証”、しました。また、“地球深部からの・・・ニュートリノの観測”、にも成功しています。こ

れは、最近のニュースですね」

「はい...そんなニュースがありました」

「これらの...

  3つ“ニュートリノ・検出器”が...それぞれにニュートリノに関して、“パイオニア的な成果”

を上げてきたわけです。一般的なニュースとしても...私たちの耳に入って来ているわけです」

「はい...」支折が言った。「そして...3代目/第3世代になる...

 “本格的/ニュートリノ望遠鏡が・・・超巨大施設/ハイパー・カミオカンデ”...というわ

けですね?」

「そうですね」

「ええと、塾長...」支折が、髪に手を当てた。「“カムランド”については...別途、詳しく考察

するわけですね?」

「そうです...」高杉が、うなづいた。「“カミオカンデ”を詳しく考察したからには...

  神岡鉱山他の研究施設も、一応、考察しておく必要があるでしょう。“カムランド”の他にも、

“エックスマス/XMASS”(/東京大学)や...“ニューエイジ/NEWAGE”(/京都大学)や...

“キャンドル/CANDLES”(/大阪大学)があります。

  それから...“重力波天文台=重力波望遠鏡・・・クリオ/CLIO”(/東京大学・国立天文台・高エ

ネルギー加速器研究機構)が、開発の大詰め段階にあります...概略は、その折に説明します...」

「はい...」支折が、耳の後ろに髪をなでた。「楽しみにしていますわ...」

  高杉が、うなづいた。

「ただ...

  “重力波望遠鏡”が...重力波/重力子(グラビトン)を...捕捉するということは...また別の

話になります。“ニュートリノ・望遠鏡”の場合は、曲がりなりも、すでに相当数ニュートリノ

捕捉/観測されています。

  しかし、重力波/重力子(グラビトン)は...この“重力波望遠鏡”によって、初めて...“重力

のさざ波”を、観測しようというものです。さあ...重力というものを、量子力学的捕捉できる

のでしょうか。いや、できるはずなのですが...これは、これで、大変な挑戦なわけです」

「はい...今後は、天文学が面白くなってきそうですね...素粒子物理学も、ですが...」

「その通りです...したがって、今から基礎を、しっかり学んでおこうというわけです」

「はい!」支折が、強くうなづき、口元に笑みを浮かべた。

        

「次に...」高杉が言った。「現在...神岡鉱山では...

  ニュートリノに関して、“2つの・・・新たなプロジェクトが・・・走り始めている”、と言います。

“走り始めている”という表現が...いかにも、そのエネルギッシュな状況を感じさせます...」

「はい、」

「まず...

  @つ目が...“既存の・・・スーパー・カミオカンデを・・・改造”するプロジェクトです。これ

によって、“超新星・ニュートリノの検出感度を・・・引き上げる計画”です。現在、そのための、

“実証試験装置”建設が進んでいます。

  Aつ目が...“第3世代/超巨大施設・・・ハイパー・カミオカンデの構想”です。これは、

“超純水”の量で...“スーパー・カミオカンデ”5万トン20倍...つまり、100万トンで、

50万トン・タンク×2基で、構成されるようです」

「うーん...」支折が、スクリーン・ボードの象像図を眺めて、腕組みをした。50万トンの巨大な

“超純水・タンク”が、スキューバ・ダイビングの2本の圧縮空気のボンベのように並び、連結され

ている。

「これも...」支折が言った。「独特の形ですね...

  スペースシャトル打ち上げ時のシルエットのように...形そのものが...何かを示すような、

明確な意思表示のあるデザインですね...」

「そうですねえ...」高杉が、うなづいた。「はは...支折さんは、デザインについてはウルサイ

だというだけありますね...なるほど...」

「つまり...いいデザインだと、言いたかったのですわ」

「ふむ...

  最先端の施設には...そうした宣伝効果という意味も...不可欠な要素かも知れませんね

え...夢を持たせるような...」

「はい...」支折が、細い指を組んだ。

「しかし...

  この“ハイパー・カミオカンデ”は...まだ構想段階です。まず、基本設計をまとめるための、

設置予定場所地下構造探査や、観測システムの検討が、本格的に始まっているという様子

ですね」

「うーん...

  いずれにしても...完成すれば...“本格的な・・・ニュートリノ・望遠鏡”...ということで

すね?」

「まあ...そうでしょう...

  素粒子湯川秀樹・博士以来...日本が得意としている、基礎科学の分野です。しかもニュ

ートリノは...“日本が・・・世界をリード”してきたフロンティア(最先端)です。現在...色々言わ

れている日本ですが...ここは、としても、力の入る所でしょう...」

「そうですね...」支折が、微笑した。「2位ではなく...世界1で...努力すべきところですわ」

「まあ...」高杉が言った。「これらの、2つ新プロジェクトが実現した暁には...

  ニュートリノ天文学でも...ニュートリノ物理学の分野でも...革新的な成果が上がるのは、

確実でしょう。最近は日本以外でも...《ニュートリノ望遠鏡の始動》で紹介したように...

界中でユニークノ観測施設が、続々と建設されて来ています...楽しみですね...」

「はい!」支折が、コクリとうなづいた。「ともかく、日本は...

  この2つ新プロジェクトで...“ニュートリノ天文学の黄金期”...を迎える、という事にな

るわけですね?」

「そうですね...2つの施設だけではないでしょうが...そういうことでしょう」


超新星・背景ニュートリノ・・・ とは? > wpe8B.jpg (16795 バイト)   wpeA.jpg (42909 バイト)     

     wpe4F.jpg (12230 バイト)           


「ええ...」高杉が、モニターをスクロールした。「まず...

  “スーパー・カミオカンデ・・・改造計画” ...を考察するするには、“超新星・ニュートリノ”と、

“超新星・背景ニュートリノ”について...説明が必要でしょう」

「はい...」支折が言った。「ええと...

  太陽恒星ですが...“超新星・ニュートリノ”は...“太陽ニュートリノ”とは...基本的に違

うわけですね?」

「違います...

  いいですか....《ニュートリノ望遠鏡の始動》...のページでも説明しましたが、“太陽ニュ

ートリノ”は、“水素の核融合反応”の過程で生まれて来る、電子ニュートリノです。

  つまり...【標準太陽モデル(SSM)によると、太陽は、“水素原子核(/陽子)4個”から、“ヘリ

ウム原子核(/陽子2個と中性子2個)1個”と、“電子・ニュートリノ2個”、及び“エネルギー”生成

る...核融合反応によって・・・輝いている/燃えている...ということです。

  この...核融合反応によって生成される・・・2個の電子・ニュートリノ”が...“太陽・ニュ

ートリノ”と呼ばれているものです。太陽からは、この膨大な量のニュートリノが、地球に降り注ぎ、

地球を貫通しています」

「はい、」

    

「一方...」高杉が言った。「“超新星・ニュートリノ”ですが...

  “超新星爆発”で放出される、全エネルギーの99%は...ニュートリノ説明が可能と言われ

ます。これも、《ニュートリノ望遠鏡の始動》で説明していますが...“太陽・ニュートリノ”とは、

全く別のメカニズムで放出されています」

「はい、」

「くり返しになりますが...今度は、少し詳しく説明しましょう」

「あ、お願いします」

「ええ...そうですねえ...

  といっても...太陽のように、高温のガス体で輝いている恒星と...地球火星のような

冷えた固体惑星と...また、その衛星や、氷の塊の彗星などがあるわけですね。

  今、問題にしているのは...質量の大きい核融合反応で燃えている恒星の方です。恒星は、

核融合の燃料がなくなり、燃えつきると、その星の一生を終わります。つまり、恒星としての誕生

から、活動の終息までを、星の一生に例えているわけです」

「はい、」

「さて...

  その一生を終る時ドラマですが、やはり人の死のように、劇的なものです。質量の小さな恒

は...例えば太陽もそうですが...太陽地球を呑み込むほどの、巨大赤色巨星となり、

やがて縮んで白色矮星(はくしょくわいせい)となり...後は、冷えて行くようです。

  ところが、大質量の星では...核融合反応が終わり...その爆発力による内圧が消えると、

恒星質量/重量を支える、支柱が消えてしまうことになるのです。がなくなると、は潰れて

しまいます。同じように、恒星支柱を失い、自らの重量で、星の中心へ落ち込んで行くのです」

  支折が、黙ってうなづいた。

 

「うーむ...」高杉が、頭をかしげた。「ええと...いいですか...

  まず...太陽系の形成を考えてみましょう。最初に、太陽に相当するような、膨大なガスが集

中して来るわけですね。すると、それ自体が、膨大な質量の塊になるわけです。つまり、相当な、

質量/重量になるわけですね。

  角運動量惑星の生成は、この際別にしますが...ともかく、大質量のガス体中心部は、

その全質量/全重量を受け...膨大な圧力になります。圧力が増せば、高温になります。

  これは...固体である地球でも同じことです。地球内部マントル対流があり、さらに内核

には中心部コア(地球の核)があります。そのコア圧力は、およそ400万気圧であり、温度は、

5000度〜8000度ぐらいの間と、推定されています...」

「はい、」

「しかし...

  地球よりも、はるかに質量の大きい太陽/恒星では、このぐらいではすみません。今、詳しい

データはここにはありませんが...中心部の温度約1億度に達すると...核融合反応に火

が付きます。

  そして、膨大な質量による外圧と...核融合反応/爆発力の内圧均衡し...安定した核

融合炉ができます...乱暴な説明ですが...これが、つまり...星/恒星誕生なのです、」

「うーん...」支折が、うなづいた。「それが...夜空いっぱいに輝いている、恒星ですね?」

「そうです...

  夜空を見た場合...太陽系の惑星だけは...近くにあるので太陽光を反射して見えますが、

その他は全て、自ら輝いている恒星や、その大集団である銀河です」

「はい、」

「さて...

  その...恒星が燃えつきた時...【一般相対性理論】によれば...それらは、白色矮星(は

くしょくわいせい)か、中性子星か...まあ、クォーク星というのも見つかっているようですが...あと

は、ブラックホールになるわけです。

  どれになるかは...太陽の質量を基準にした...“チャンドラセカールの限界質量/チャ

ンドラセカール限界”...によって分類されますが...詳しいことは割愛(かつあい)します。

  ともかく、白色矮星にならない場合...つまり、大質量の恒星は...核融合炉の灯が消える

と、“重力崩壊”を起こすわけですね。“重力崩壊して・・・爆宿するタイプ”で...いわゆる、“超

新星爆発”が起こるわけです。ここで、“ニュートリノは・・・重要な役割”、を担うことになります」

「うーん...爆宿ですか...」支折が言った。

   

「くり返しますが...」高杉が、脚を組み上げた。「が燃えつき...

  もう、燃える材料が無くなると...核融合炉の灯が消えます。すると、内圧で支えていた星の

質量/重量が...その支柱を失って...内部/中心へ向かって、一気に落ちて行きます。これ

が、“重力崩壊”であり、爆宿になります」

「あの...」支折が言った。「長崎に投下された...“原子爆弾/プルトニウム爆弾/ファットマ

ン”が...確か、“爆宿型”と言わなかったかしら?」

「その通りです...

  “爆宿型/爆宿レンズ型”です...これは、周りのTNT火薬爆宿で、プルトニウム核分裂

に火をつけます。それから、いわゆる核弾頭ミサイル核弾頭/核融合弾は...プルトニウム

・核分裂爆弾超高温で、1億度を達成し...核融合に火をつけるわけですね。

  つまり...よく言うところの“核弾頭=核融合弾”の内部は...プルトニウム・核分裂弾があ

り...それで、セットされている、核融合材料に点火するという...ワンツー・パンチになってい

るわけです」

「つまり、それは...核融合の方が、核分裂よりも、はるかに熱量が大きいわけですね...?」

「その通りです...」高杉が言った。「まあ、核爆弾と一口に言っても、色々あるわけです...

  “砲身型(ガンバレル型)ウラン爆弾...“爆宿レンズ型”プルトニウム爆弾...そして、プル

トニウム爆弾核融合を引き起こす、ICBM(大陸間弾道ミサイル)SLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)など

核弾頭があるわけですね...この辺りは...軍事・担当大川慶三郎が専門ですが...」

「あ、そうですね...」支折が、口元をゆるめた。

「ともかく...

  恒星爆宿では...内側/中心部に向かって潰れて行き...恒星コアが、原子核密度

/中性子星の状態に達すると...今度は、その固くなったコア反射・反発して...10〜15

秒間という短時間に、10の58乗個ものニュートリノが放出されます。

  これが、いわゆる、“超新星爆発”で...後に中性子星(パルサー: 秒またはミリ秒の、短い周期で電波を

放射する電波天体)が残ります。中性子星は、ほとんどが中性子だけからなる、超高密度の星です。

半径は10キロ程度/質量は太陽の1〜2倍/密度は角砂糖1個で10億トン...にもなります。

  つまり...大質量恒星の最後は、大量の質量を吹き飛ばし...その後に、中性子星が残

るわけです。もっと質量が大きければ、ブラックホールになるわけです...」

「うーん...その、吹き飛んだ方の...全エネルギーの99%が...ニュートリノということです

ね?」

「そうですね...

  それで、説明が可能ということです。それ以上詳しいことは、専門ではないので分かりません」

「はい...【エネルギーと質量は・・・等価(同値/同等)ですよね?」

「そういうことです...

  E=mc²/・・・エネルギー(E) = 質量(m)×光速度(c)の2乗/・・・特殊相対性理論、とい

うことですね、」

「うーん...」支折が、コブシを口に当てた。「エネルギーかあ...」

ブラックホールについても...」高杉が言った。「ついでですから、簡単に説明しておきましょう」

「あ、はい...」

がその一生を終えると...

  大雑把に言って...白色矮星か、中性子星か、ブラックホールになるわけです。ブラックホー

の場合は...中性子星固いコアでも...その全質量の、“重力崩壊”して来た重量を支え

きれなかった場合に起こります。

  中性子物質固いコアという支柱も崩れて...恒星の質量は、差に中心に落ちて行きます。

“太陽質量”の、およそ10倍以上の恒星が、ブラックホールになると考えられていますね...」

「それが...

  ええと...“チャンドラセカールの限界質量/チャンドラセカール限界”で...分かるわけ

ですね?」

「そうです...

  ええ...【一般相対性理論】による...重力半径(シュヴァルツシルト半径)周辺の現象や、内部

時空構造解などは、非常に面白いのですが、ここでは割愛します...ニュートリノに話を戻し

ましょう」

「はい...」

 

「ええ...」淡島が、ゆっくりと言った。「...そういうわけですが...

  ええ...ニュートリノ観測で...“超新星爆発”発生を検知できる範囲は...我々の天の

川銀河や、近傍銀河で発生した場合に限られます。距離で言えば、およそ100万光年の範囲で

すね」

「はい...」支折が、うなづいた。

「この100万光年の範囲内で...

  “超新星爆発”が起こるのは、数十年に1回の確率です。ちなみに 1987年に、“カミオカ

ンデ”が捕捉した...大マゼラン星雲内“超新星SN1987A”以来...“超新星爆発”は観

測されていないそうです。つまり、あれは、非常にラッキーだったと言うことですね」

「ふーん...」支折が、両肩をせり上げ、ゆっくりと下した。そして、両腕を絞った。

遠くの...」淡島が、体操をしている支折に言った。「“超新星爆発”を、検知できないのは...

  それだけ、ニュートリノ飛来数が少なくなり、その信号ノイズと分離するのが難しいからで

す。近くの太陽や、大マゼラン星雲“超新星SN1987A”の場合は...ニュートリノ放射状

に放出されても、地球まではかなりの密度でやって来るわけですね。分かりますか?」

「あ、はい、」支折が、両手を揃えた。

「しかし...

  ニュートリノは、物質をほぼ素通りするので...数千万光年どころか、数十億光年の彼方から

も、地球にやって来ます。したがって、発生源の特定は非常に難しくなります。“超新星・ニュート

リノ”は、常に一定数が・・・全方向から・・・地球を貫通している”...ものと考えられます」

「ても...」支折が言った。「 アイス・キューブ (IceCube) (/南極点/2011年に完成予定)完成

すれば、かなりのニュートリノの発生源を...特定できるということですよね...?」

                                     ・・・・・<稼働中/建設中の施設については、こちらへどうぞ>・・・・・

「まあ...」高杉が、顎に手をかけた。「そうですねえ...

  それなりに...全天の発生源の様子が...見えて来るのだと思います。しかし、光学望遠鏡

や、電波望遠鏡などの歴史的経緯もそうですが...それはほんの“入り口の話”なのだと思いま

す。

  これらの既存の望遠鏡の歴史が...“ニュートリノ・望遠鏡”発達展開を...示唆してい

るのではないでしょうか」

「うーん...そういうものでしょうか、」

 

「さて...」高杉が、もにたーをのぞいた。「最後になりましたが...

  “超新星・背景ニュートリノ”のことを、言っておきましょう。単なる“超新星・ニュートリノ”では

なく、“背景”という言葉が入ります」

「あ、はい...」支折が、微笑した。

「いいですか...」高杉が、モニターに肩を寄せた。「宇宙全体でみると...

  宇宙誕生から、現在までの137億年の間に...“10の17乗回の超新星爆発”があった、と

推定されます。宇宙全体では、およそ10の9乗個銀河があり、各銀河はおよそ10の11乗個

恒星を持ち...そのうちの、0.3%“超新星爆発”を起こしたと考えると、この数字になるそ

うです」

「はい、」

「これは、およそ...

  “1秒間に1回の割合”で...宇宙のどこかで...“超新星爆発”が起こっていた計算になるそ

うです。この、10の17乗回/1秒間に1回の・・・超新星爆発に由来するニュートリノが・・・

地球に雨のように降り注いでいる...と考えられるわけです。

  これを...“超新星・背景ニュートリノ”...と呼びます。飛来数推定で、1平方センチメー

トル当たり、“毎秒・・・数十個”...程度だそうです。ちなみに、“太陽・ニュートリノ”では、“毎

秒・・・600億個”...程度になるそうです」

“1平方センチ”ですよね...」支折が言った。「太陽からのニュートリノは...1秒間に、600

億個も...降り注いでいるのですか?」

「そうらしいですね...

  ただし...ほとんどは、風のように地球を貫通しているわけであって...検出器と相互作用

するのは、ごく稀なわけです」

「うーん...」支折が、高杉の方を見た。

「ま、そういう事です」高杉が言った。

 

「ええ...」淡島が、手を組んだ。「いいですか、支折さん...

  話は違いますが...宇宙に存在する重元素(研究内容によって具体的に指示する元素は異なる...この場合

は、“ 鉄/Fe”よりも、重い元素をさす...)は...“超新星爆発”によって生成されます。そして、“超新星

爆発”でまき散らされた物質によって...新たな星が生まれるのです...」

「はい...」

「それから...ええ...

  “超新星・背景ニュートリノ”の...“エネルギー別・飛来数分布/エネルギー・スペクトル”

調べることによって...“宇宙における・・・重元素合成星形成の歴史を...探ることがで

きるのだそうです。

  また...宇宙の大きさと・・・膨張速度”が...“時間的にどう変化して来たか...を知

る手がかりを得られるかも知れない、のだそうです」

「うーん...」支折が、ボンヤリと考え込んだ。「...宇宙の...“膨張速度”ですか...」

「そうです...

  ビッグバン以来の、“膨張速度”です。その、手掛かりを得られるかもしれないという事です」

「はい...」支折が、左右に肩を揺らした。

<スーパー・カミオカンデ・・・ 改造計画とは?     wpe8B.jpg (16795 バイト)  
 

   wpe5C.jpg (107387 バイト)         wpe4F.jpg (12230 バイト)     

 

「ええと、塾長...」支折が、高杉の横顔に声をかけた。「まず、1つ目の...

  “スーパー・カミオカンデ・・・改造計画”というのは...どのようなものなのでしょうか?」

「うむ...」高杉が、モニターから顔を上げた。「そうですねえ...

  “スーパー・カミオカンデ”は...もう少し、ノイズ・レベルが下がれば...“超新星・背景ニュ

ートリノ”を、捕捉できるのだそうです...」

「はい、」支折が、肩をかしげた。

「そこで...」高杉が、モニターに視線を戻した。「感度向上を目指した、改造計画が構想された

わけです...ええ...

  東京大学/数物連携・宇宙研究機構/ヴェイギンス(Mark Vagins)・特任教授と...東京大学

/宇宙線研究所/中畑雅行・教授らを中心に...日米の研究者が協力し、計画を進めている

ようです」

「あ...これは、日米が協力して、進めているわけですか?」

「そうですね...」高杉が、うなづいた。「ええと...

  改造のポイントは...“スーパー・カミオカンデ”の内部を満たす、“超純水”に...中性子

をよく吸収する性質を持つ・・・ガドリニウムを混ぜる”...ということのようです」

“ガドリニウム”...ですか?」

「そうです...

  これによって、超新星から飛来する各種ニュートリノのうち...“特に・・・反・電子ニュート

リノ(電子ニュートリノの反粒子)の信号を・・・ノイズと明確に区別できる”...のだそうです」

「はい...」支折が、うなづいた。「...“反・電子ニュートリノ”ですか...?」

「そうです...」高杉が言った。「これは、“電子ニュートリノ”反粒子ですね...

  何故...反粒子なのかは、“参考文献”では説明がありません...しかし、いずれ、理解でき

るでしょう...それが学問であり、科学であり...また、その面白い所です...」

「うーん...」支折が、静かにうなづいた。「はい...」

                        wpe8B.jpg (16795 バイト)       

「ええと...」淡島が、片手を上げた。「いいですか...

  その...“反・電子ニュートリノ”と、ノイズとを区別するメカニズムですが...このように説明

されています。

  まず...超新星から飛来する“反・電子ニュートリノ”が...“スーパー・カミオカンデ”の中

に飛び込み、水/Hを構成する陽子と衝突するわけですね...すると、“陽子が崩壊”して、

陽電子を放出し...中性子に変わります」

はい...」支折が言った。「つまり...

  “反・電子ニュートリノ”が、を構成する陽子命中/衝突すると...“陽子が崩壊”して、

陽電子と、中性子になるということですね?」

「これは...」高杉が、淡島を見た。「すると...“陽子崩壊”...の話になるわけですね?」

「そういうことです...」淡島が、高杉にうなづいた。「本来、それが出発点でした...

  ともかく...“陽子が崩壊”して、まず陽電子の方ですが、これは“水中を高速で走って・・・

光”、を出します。一方、中性子の方は、近くの“ガドリニウム・原子核”に吸収され...その原子

は、ガンマ線を放出します...」

「はい...」支折が、手をギュッと握った。

「この...“ガドリニウム・原子核”の放出したガンマ線によって...高エネルギー電子が生じて、

その電子が、“水中を高速で走って・・・光”、を出すわけですね...もちろん、全ては一瞬のこ

とです」

「うーん...」支折が、細い指で唇を押さえた。「すると...非常に短時間に、“2つの光”が出る

ことになるのかしら?」

「そういうことです...」淡島が、ゆっくりと満足の微笑を浮かべた。「くり返しますが...

  超新星から飛来する“反・電子ニュートリノ”が...“スーパー・カミオカンデ”に飛び込んで来

ると...稀に、を構成する陽子と衝突し...“陽子崩壊”を起こします。

  そして...その陽電子中性子に由来する...2つの発光が・・・ほぼ同時に/ほぼ同じ

場所で起こる”...という事です」

「ええと、それでは...現在の、“スーパー・カミオカンデ”では、何が不足なのでしょうか?」

「現在は...“陽子崩壊”陽電子発光しか...検出していないわけです...

  したがって、微量放射性元素による発光のノイズと、区別するのが難しかったわけです。しか

し、“2つの・・・同時発光”検出すれば、“反・電子ニュートリノ”の信号だと、明確に分かるわけ

です」

「はい、」

「飛来してくる“反・電子ニュートリノ”は...

  超新星・由来のものの他に...原子炉・由来のものと...大気/大気ニュートリノ・由来のも

のがあります。しかし、それらについては...いずれも、エネルギー・スペクトルが分かっている

ので...区別できるわけです」

太陽からのものは...」高杉が言った。「反粒子ではなく、“電子・ニュートリノ”なので...これ

除外できるわけですか?」

「そうです...」淡島が、うなづいた。「まあ、何にしても...

  “参考文献”だけでは、データが少な過ぎます。私にも、理解できない部分が多くあります」

  高杉が、うなづいた。

「その通りですねえ...しかし大筋では、間違ってはいないと思うのですが、」

「でも...」支折が、指を組んだ。「“電子ニュートリノ”“反・電子ニュートリノ”違いが、説明さ

れていない事が、ひっかかりますよね...」

「いや...」高杉が、口に手を当てた。「それが、つまり、“CP対称性”の話になるわけです」

「そうですね...」淡島が言った。「今回の考察は、全体のスケッチだと理解して下さい...

  これから、続々と、ニュートリノニュースが入ってくるでしょう。そこで改めて、考察を深めて行

くことにしましょう。その時のためにも、ここで、全体のスケッチを掴んでおいて欲しいと思います」

「はい、」支折が、大きくうなづいた。

           wpe8B.jpg (16795 バイト)   

「ええ...」高杉が、江里香が表示を切り替えた、スクリーン・ボードを見た。「これは...

  現在、建設中の、実証試験装置概略図ですね...“スーパー・カミオカンデ”の、改造型・

ミニ版です。この実験装置では、“200トンの・・・超純水”に...“400キログラムの・・・硫酸ガド

リニウム”を...溶かすようです」

「はい、」江里香が、コクリとうなづいた。

「ええ...

  この、装置を使って...実際に、ガドリニウム“超純水”に溶かし...中性子信号が、

どうりに検出できるかを検証します。

  それから、水の透明度変化の程度(/発光信号の検出感度に関係する・・・)や、観測装置が受ける

食の可能性等を、チェックする事になります」

腐食の可能性なんかも、あるのですか?」支折が聞いた。

「そのように、言っていますねえ...

  ともかく...今年/2010年の6月末にはタンクが完成し、光センサーなしでの実験を開始

いう事です。したがって、すでに稼働しているのでしょう。

  2011年からは全体を稼働させて...2012年/春には、評価結果をまとめるという事です」

「はい...

  それから、“スーパー・カミオカンデ”改造が始まるという事ですね。完成は、いつ頃なので

しょうか?」

「それは、明示されていませんが、それほど時間はかからないでしょう」

「はい」支折が、うなづいた。

  〔2〕  ハイパー・カミオカンデ      

             CP対称性の破れ・・・ の探索

wpe73.jpg (32240 バイト)    wpe5C.jpg (107387 バイト)  wpe4F.jpg (12230 バイト)     

 

「ええ...」高杉が、脚を組み上げ、モニターをのぞきこんだ。「さて...

  3世代目/“超巨大施設/ハイパー・カミオカンデ”の方ですが...これは、江里香さんが

最初に紹介して下さったように、“スーパー・カミオカンデ”20倍/100万トン“超純水”

使って、さらに研究を深めて行こうというものです。

  これは...日本主導するニュートリノ研究の...次期/大型国際プロジェクトとして...

京大学/宇宙線研究所を中心に、検討が進んでいるものです。実現すれば...“スーパー・カ

ミオカンデ”改造型でも...実施が難しい観測実験が...幾つもできるという事です」

「例えば、どんなことでしょうか?」支折が聞いた。

「うーむ、そうですねえ...

  まず、第1番に期待されるのは...“ニュートリノにおける・・・粒子と反粒子の振る舞いの

違い・・・CP対称性の破れ...の探索だそうです」

「はい、」

“CP対称性の破れ”というのは、最近、しばしば耳にする言葉です...

  これは...物理学/素粒子物理学において...その、“大前提となる・・・CP対称性に・・・従

わない事象”のことです。これは宇宙論においては、“現在の宇宙で・・・物質反物質よりも

はるかに多い...ことを説明する上で、重要なのだそうです」

「うーん...」

「まあ、ややこしい話ですが、出来るだけ説明して行きます」

「はい...“物質”が、“反物質(全てが反粒子でできている物質)よりも、はるかに多いわけですね。現在

の宇宙は?」

「そうです...

  私たちの周りにあるのは、“物質”だけです。“反物質”というのは、存在しません。もし、ほん

1粒でもあったら、“物質”と反応し、凄まじいエネルギーを放出して、消滅するでしょう。いずれ

にしても、最高に危険な物質ということになるでしょう」

「はい...」支折が、うなづいた。「それで...

  “CP対称性”というのは...どういうものかしら。何度聞いても、概念があいまいですわ」

「私もそうです...」高杉が、笑った。「何度も聞きかじっているからでしょうが、調べてみると、や

はり難しいですねえ」

「ふふ...」支折も、口を押さえた。

「ま...説明しましょう」

「はい!」

 

「ええと...

  “CP対称性の破れ”は... 1964年に、中性K中間子の・・・崩壊の観測”で...発見さ

れています。ジェイムズ・クローニンヴァル・フィッチは、その功績で... 1980年ノーベル

物理学賞を受賞しています。

  “CP対称性の破れ”の問題は、現在も...“物理学・素粒子物理学においては・・・最も積

極的な研究分野”1つ...になっています」

「はい...」支折が、髪に手を当てた。「それで、塾長...

  “CP対称性”というのは...そもそも、どういうものなのでしょうか?これも、何度も聞いている

のですが、すぐに忘れてしまいます」

「いや...」高杉が、首を振った。「これは私も、詳しく説明をしたことはないでしょう。難しい、とり

つきにくい概念です」

「そうだったかしら?」 

「ともかく...まず、“CP対称性”概念を、簡単に説明ししておきましょう」

「はい、」

“CP対称性”の...

  荷電共役変換(Charge Conjugation: 粒子を反粒子へ反転する)を意味し...パリ

ティ変換(Parity: 物理系の鏡像を作るを意味します。そしてCPは...2つ演算子

ります

「はい...CPの積ですね、」

そうです...

  いいですか...“自然界の4つの力/・・・電磁力・弱い力・強い力・重力”のうち、“電磁力

強い力は・・・CP変換のもとで不変...と考えられています。

  しかし...“弱い力による崩壊では・・・CP対称性が、わずかに破れている...ようなの

です。これは、実は、この世界の物理法則にとって、大変なことなのです」

「はい、」

 

「ええ...」淡島が言った。「ニュートリノという素粒子は...

  4つの力のうち...“弱い力/・・・核分裂や核融合”を介してしか、他の物質と相互作用をし

ないわけです。したがって、“全てを貫通/素通り”してしまうわけですね。このレプトン“対称

性の破れ”が...超巨大施設/ハイパー・カミオカンデ”で、見つかるかもしれないのです」

「はい...」支折が言った。「でも...

  どうして、“対称性”というものが、破れているのかしら?対称というのは、左右対称点対称

線対称面対称などというものですよね...それが、ここでは、“CP対称”ということですね。そ

れが...破れているというのは...?」

「まあ...」高杉が、顎に手を当てた。「簡単に説明するのは、難しいですねえ。徐々に、話して

行きましょう。私も、勉強しながら...」

「はい...」支折が、微笑した。「それで、おねがいします」

「そうですね...

  ちなみに、“CP対称性”は... 1957年ロシア/レフ・ランダウ(ノーベル物理学賞を受賞)によ

り、物質反物質の間の・・・真の対称性として、提唱されています」

“物質”“反物質”の間の...“真の対称性”...ですか...?」

「そうです...

  それは...1つの過程で・・・全ての粒子がその反粒子で置き換わったものは...もと

の過程の鏡像と等価である...ということの、ようですね。

  まあ...これだけで理解するのは無理です。徐々に説明して行きますから、一応、ここは聞き

流しておいてください...私も、もう少し勉強して説明します」

「はい...」支折が、うなづいた。「“参考文献”で....

  “反・電子ニュートリノ”について説明がなかったのは...ニュートリノと、振る舞いについて、

明確な区別曖昧だ...という事情があったからでしょうか?」

「うーむ...」高杉が、唇をこすった。「分かりませんが、そうかも知れません...

  ニュートリノは...まだ謎の多い素粒子です。 “ニュートリノ・望遠鏡” として、天文学活用

されると同時に...物理学/素粒子物理学としての研究も、これから本格化して行くのだと思い

ます」

「はい...それが、本格軌道に乗って来たということでしょうか?」

「本当の所は、門外漢には分かりませんが、そうした状況のようです」

  淡島が、うなづいた。

                 wpeA.jpg (42909 バイト)   wpe8.jpg (26336 バイト) wpe4F.jpg (12230 バイト)  

「さあ...」高杉が、モニターに目をやった。「ともかく、話を進めましょう...」

「はい、」

「ともかく、ニュートリノは...

  飛翔している間に...その種類が変わるということですね。つまり、ニュートリノ振動で...

レーバー電子・ニュートリノミュー・ニュートリノμ タウ・ニュートリノτに...振動

/変化するわけです。

  ここに...淡島さんが用意してくれた、インターネット資料があります。まず、これを紹介してお

きましょう。ええと、私の方でやりますか?」

「あ、お願いします、」淡島が、歯を見せ頭を下げた。


********************************************

                     <インターネット資料>   
  

 <原子炉を用いた・・・ ニュートリノ混合角θ13 の精密測定>

                            ・・・ より ・・・

    <電子・ニュートリノ = 電子型・ニュートリノ

    <ミュー・ニュートリノ = ミュー型・ニュートリノμ

    <タウ・ニュートリノ = タウ型・ニュートリノτ

 (この資料では...電子型/ミュー型/タウ型...となっていますので、ここに掲載しておきます)

 

  ニュートリノ振動が生じるためには...(Vμ (Vτ、といった状態が、

決まった質量を持つ状態の、重ね合わせになっていることが必要である。こ

重ね合わせの係数の大きさを表すパラメータ...混合角とよび、これも

3 種類あると考えられている。現在まで2種類ニュートリノ振動が確認されてお

り、3 種類のニュートリノ混合角のうち、2 種類がすでに測定されている。

  唯一、未だ測定値が得られずに、残された混合角θ13とよぶ。θ13の大きさは、

【素粒子の統一理論】を構築する際の、有用な情報であるのみならず、将来、

プトンにおける粒子・反粒子対称性CP対称性) の破れに関するパラメータδ の、

測定可能性に関わるなど、非常に重要である。そのための測定は、今後のニュ

ートリノ研究の、最重要課題1つとなっている。

                         (原文から抜粋・・・このページ風に加工しました)

             <インターネット資料・・・・・詳しくは、こちらへどうぞ> 

*********************************************

 

「ええ、以上ですね...」高杉が、顔を上げた。「さて...

  先ほどの話の続きですが...ニュートリノは...飛翔している間に...その種類が変わる、

ということですね。その、変化が起こる・・・頻度を定めるパラメーター(媒介変数)は・・・4つあ

...と言います。

  4つパラメーターのうちの...“3つは・・・混合角”で...残りの1つは、CP対称性の破

れに関する・・・パラメーター”、だということです」

「うーん...」支折が言った。「“混合角”というのも...今も、インターネット資料にもあったけど、

まだ、よく分からないわねえ...」

「まあ...」高杉が、頭を撫で上げた。「そうですねえ...

  我々は...実際に、計算をしていないわけですからねえ。まあ、何度も説明しますから、その

うちに慣れて来るでしょう。ともかく、“混合角”というのは、“それぞれの、振動の大きさの角度”

とか、“質量固有状態が、混ざり合った比率”などとも、表現されていますね。

  それから、インターネット資料では...固有質量の・・・重ね合わせ状態の係数”の大きさを

表すパラメータを...“混合角”と言っていました...

「はい...」支折が頭をかしげ、笑いをこぼした。「“重ね合わせ”というと、“量子の・・・重ね合わ

せ状態”のことですよね?」

「そうです、」

  高杉が、淡島の方を見た。淡島は、キイボードを叩き、何かの資料を真剣に見入っていた。

 

 wpeA.jpg (42909 バイト)  wpe8.jpg (26336 バイト) wpe4D.jpg (7943 バイト)  wpe4F.jpg (12230 バイト)         

 

ニュートリノ振動を...」高杉が、支折の方に顔を戻して言った。「もう少し説明すると...」

「はい...」支折が、うなづいた。

ニュートリノの...振動する“フレーバーの組合わせ”も、3種類あるようです...

  “電子・ニュートリノ ⇔ ミュー・ニュートリノ”振動...“ミュー・ニュートリノ ⇔ タウ・ニュ

ートリノ”振動...そして、“電子・ニュートリノ ⇔ タウ・ニュートリノ”振動の...3種類

です」

「つまり...

  “2つの型の間で・・・フレーバーが振動している”...るわけかしら?それで、3種類の組

み合わせがある、というわけですね?」

「そうです...」高杉が、うなづいた。「例えば...

  100%“電子・ニュートリノ”から、“ミュー・ニュートリノ”に変わって行くわけです。しかし、そ

れが、どのぐらいの間隔/頻度で移り変わって行くのか、もうひとつ分かりませんねえ。

  そして、それが、4つパラメーターであり...その内の3つ“混合角”で、1つCP対称

性の破れだ、ということですねえ...

  ともかく..最先端領域であり、情報量も多く、理解するのにもひと苦労です。まあ、それは仕

方の無いことですが...とんでもないことを見逃し勘違いしている可能性もあります。ビッグ・サ

イエンスを、素人がのぞいているわけです...その時は、ご容赦ください...」

  高杉が、インターネット・正面カメラに向かって、頭を下げた。

「その時は...」支折も、カメラに向かって頭を下げた。「分かりしだい、修正いたしますわ」

「そうですね...ま、そういうことで、話を進めて行きましょう」

「はい、」支折が、姿勢を正した。「よろしくお願いします!」

 

  高杉が、モニターを見た。

「ええ...それぞれのニュートリノ振動の大きさは...

  例の、“混合角”という角度で表されるということですね。このうち...“ミュー型 ⇔ タウ型”

“ミュー型 ⇔電子型 ”振動“混合角”は...“スーパー・カミオカンデの実験”や、“K2K

の実験”や...“カムランドの実験”、それに、“様々な・・・太陽ニュートリノの観測”などで、す

でに測定されています」

「はい...ええと、“K2Kの実験”というのは?」

「それは...

  “高エネルギー加速器研究機構(KEK/茨城県つくば市)で、“人工的に発生させたミュー・ニュート

リノ”を...250Km離れた岐阜県/神岡鉱山の、“スーパー・カミオカンデ”観測した実験

す...そんなニュースは、見たことはないですか?」

「はい、」支折が、微笑した。「ニュースで、何度か見たことがありますわ」

  高杉が、うなづいた。

「ともかく...“混合角”は、3つのうち2つは確定しているようです...

  残る1つ振動...“電子型 ⇔ タウ型”“混合角”は...その大きさが、“小さい”ことは

分かっているらしいのですが、はまだ測定されていないようです。それが、“インターネット資

料の・・・θ13というわけですね」

はい、」

                                     <・・・・・参考文献/ 「微かな」ニュートリノ振動 >

「そこで...

  3つ目“電子型 ⇔ タウ型”“混合角”測定するために...現在稼働している“スーパ

ー・カミオカンデ”と、茨城県/東海村にある“大強度陽子加速器施設・J−PARC”を使う

が、進んでいるようです。

  “高エネルギー加速器研究機構(KEK/茨城県つくば)から、神岡鉱山ニュートリノを飛ばす実験

を、“K2Kの実験”と言いますが...“J−PARC”から、神岡鉱山ニュートリノを飛ばす実験

は、“T2Kの実験”と言います。“T2K = 東海 to 神岡/295km”なのだそうです...はは、」

「はい...」支折が、笑って天を仰いだ。「うーん...東海村ですかあ...

  “東海発電所/東海原発は...原子炉解体プロジェクトが進んでいましたよね。それに...

“東海村JCO臨界事故(/事故の国際評価尺度・レベル4)/1999年9月30日/日本最大の原子力事

...があった所ですよね...」

                                           <・・・・・詳しくは、こちらへどうぞ>

「そうです...」高杉が言った。「ええと...

  いいですか...ともかくこれ等の実験で...3つ目の、“電子型 ⇔ タウ型”“混合角”

されれば...いよいよ残るのは、CP対称性の破れ・・・に関するパラメーター”、だけにな

るわけです。

  そして...この“パラメーターの値が・・・ゼロでないならば”...CP対称性の破れが存

在し・・・ニュートリノの粒子反粒子では・・・振る舞いが違う...ということを、意味するそ

うです」

「うーん...そもそも...それが、どうだというのかしら...?」

「うーむ...もう一度、“CP対称性”を、別の角度から説明しましょう」

「はい...」

「まず...

  “ニュートリノが・・・従う物理法則”と、“反・ニュートリノが・・・従う物理法則”は...そもそも違

う、と仮定します。現在の宇宙には、色々な“物質”がいっぱいあるのに、“反物質”はほとんどな

いわけです。

  こうした、非・対称性なことが起こるためには...基本的素粒子の法則の中に、“CP対称性

の破れ”が...組み込まれていることが、必要なのだそうです。

  “クォークでの・・・CP対称性の破れは・・・すでに確認...されています。しかし、これだけ

では、この宇宙“反物質”がないことの証明にはならないのだそうです。そこで、同じく...物質

を構成するレプトン/ニュートリノの...“CP対称性の破れ”が、注目されているということです」

「はい...」支折が口に手を当て、頭を横に沈めた。

“ニュートリノが従う物理法則”と...“反・ニュートリノが従う物理法則”が...本当に違うもの

かどうか...“パラメーターの値が・・・ゼロならば”...CP対称性の破れはなく・・・ニュー

トリノの粒子反粒子では・・・振る舞いが同じ...と言うことになるのでしょう」

「うーん...それでは、まずいわけですね?」

「まあ...“まずい”というのではなく、“アテが外れる”ということでしょう...

  “CP対称性の破れ”は...実は、【素粒子の標準理論】矛盾しているのだそうです...そ

れが、クォーク確認されたわけですね。そして、ニュートリノ“質量が存在”することも、【素粒

子の標準理論】矛盾しているのだそうです」

「ええと...?...」

“スーパー・カミオカンデ”で...

  “ニュートリノ振動”確認されたわけですが...“風味/フレーバーが振動・・・例えば、電

子ニュートリノが、ミュー・ニュートリノに変わる”...ということは...“ニュートリノに・・・

量が確認された...ということに、なるのだそうです...」

「つまり、それも...【素粒子の標準理論】矛盾している...ということですね?」

「そうです...」高杉が、難しい顔でうなづいた。

「うーん...つまり、どういうことになって行くのでしょうか?」

「はは...物理学者は、何を考えているのでしょうか...それを、じっくりと見て行きましょう」

「はい!」

ハイパー・カミオカンデ ・・・ができれば >    wpeA.jpg (42909 バイト)
 

      wpe5C.jpg (107387 バイト)  wpe4F.jpg (12230 バイト)        

「いいですか...」淡島が、支折に言った。「くり返しますが...

  クォークについては...“CP対称性の・・・破れの存在”は、確認されています。その理論の

提唱者は...“ノーベル賞を受賞した・・・小林誠・益川敏英の・・・両博士”...ということで

すね。

  ここで...ニュートリノでも...“CP対称性の・・・破れの存在”が、発見されれば、これも

きな成果になります」

「はい、」

「また、くり返しますが...

  ニュートリノは、自然界の4つの力のうち、“弱い力/弱い核力”を通してしか...他と相互作

をすることができないわけです。それで、“原子炉/核分裂施設”での、実験研究が進んでき

たわけです。また、太陽も核融合ですから、これも“弱い力”の範疇に入るわけですね」

「はい...」支折が、ゆっくりとうなづいた。「うーん...そういうことなんですね、」

「ただ...」淡島が、モニターに目を流した。「そうですねえ...

  “CP対称性”が破れていて...ニュートリノ粒子反粒子に...“振る舞いの違い”がある

としても...それは、“きわめて・・・わずか”と...推定されています。そして、それを、現実的

な実験期間検出するには...“超巨大施設/ハイパー・カミオカンデ”...が必要になるの

だそうです」

「うーむ...」高杉が、口に手を当てた。

「ええ...」淡島が、高杉の方を向いた。「いいですか...

  第3世代/“ハイパー・カミオカンデ”完成すれば...【“大統一理論(電磁力、弱い力、強い力を

・・・統一しようとする試み)が予言する...陽子崩壊検出実験も・・・従来にない規模で行うこと

が可能”...になるわけです。

  つまり、観測対象は...タンク/100万トンの・・・水を構成する陽子...ということにな

ります」

「うーむ...」高杉が、うなづいた。「つまり...

  その莫大な陽子を...“ハイパー・カミオカンデ”で、精密監視していれば...一定の実験

期間内で、最新理論検証できるわけですか...?」

「まあ...」淡島が、白い歯を見せた。「そうかと...私に聞かれても、見当もつかないことです。

まあ、第一線の研究者たちは、そうした見通しを立てているということでしょう...」

「そうですね、」高杉も、肩の力を抜き、顔を和ませた。

  高杉が、窓の方を眺めた。冬枯れした草原に、淡い陽光が散っていた。灌木が、まだ黄葉を残

し、冬の到来にはまだ間があるようだった。

   

「さて...」高杉が、江里香の横のスクリーン・ボードを見上げた。「最後に...

  “ハイパー・カミオカンデ”建設予定地ですが...現在/稼働中の、“スーパー・カミオカ

ンデ”がある、神岡鉱山/茂住坑(もずみこう)約8km南にある、栃洞坑(とちぼらこう)のようですね。

二十五山(/標高1156m)の、山頂下/約700mの地下だそうです。

  ええと...スクリーン・ボードの地図でも分かるように...正確に言えば、“スーパー・カミオ

カンデ”があるのは...茂住坑栃洞坑との間に位置する、跡津坑(あとずこう)にあるわけです。

私は、行ったことがないのですが...茂住坑栃洞坑が...特に大きいようですね」

「私も...」淡島が、ネクタイを押さえた。「残念ながら...

  飛騨・高山岐阜県/高山市までは...何度か行っているのですが、飛騨市/神岡町へは

行ったことはないのです...しかし、観光客もかなり入っている様子です」

「そうですか...

  ともかく...“ハイパー・カミオカンデ”の方も、“スーパー・カミオカンデ”改造と同様に、

2012年春をめどに...掘削プランを固め、タンク観測システムの、基本設計案をまとめるよ

うです...“重要なのは・・・工期と費用”...だそうです」

「はい!」支折が、唇を引き結んだ。「ええ...

  日本主導しているニュートリノ研究です!計画が、順調に進むことを期待しています!」

 

     house5.114.2.jpg (1340 バイト) wpe8B.jpg (16795 バイト)   


二宮江里香です!

  長い間、ご静聴ありがとうございました。これで、ニュートリノについては、相当に

詳しくなったのではないでしょうか。私も、近くで聞いていて、ニュートリノについて、

少しは分かって来たと思っています。

 

  次は...神岡鉱山にある、他の研究施設を紹介する予定でしたが...参考文

7ヵ月以上たってしまい、古くなってしまいましたので...《企画室》で、取り止

めが決定されました。申し訳ございません。ニュートリノで、予想以上に時間がか

かってしまったとのことです。

  神岡鉱山他の研究施設については、今後も登場して来ますので、その折に、

考察して行くそうです。現在は、すでに相当に建設研究も進み、成果が上がって

来ているのかも知れませんね...どうぞ、次の展開に、ご期待下さい!」

 

 

 

 

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