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「失われた名前―サルとともに生きた少女の真実の物語」マリーナ・チャップマン(著)宝木多万紀(訳)(駒草出版 2013年12月)

■サルと暮らした少女は人間界に戻った■

この本は、1950年頃に南米のコロンビア付近で生まれ、おそらく誘拐される途中でジャングルに放り出された、当時5歳直前の少女の実話を、ゴースト・ライターの手でまとめたものです。14歳までの話となっており、続編が予定されています。

私がこの本に興味を持ったのは、サルと暮らしていたときの記憶を持ちながら人間界に戻ってきた女性の口から、サルと暮らしていたときの様子を聞くことで動物的な暮らしは快適であるかどうかを知ることができるかもしれないと考えたからでした。

いったんサルと行動を共にしながら人間界に戻ってそのときの経験を語るという奇跡的な出来事は、さまざまな偶然が重なって現実化しているようです。

誘拐されたときが5歳近い年齢である程度は人としての生活ができるようになっていたこと、他方ではまだ幼いためにサルたちから受け入れられやすかったであろうこと、さらに、出会ったサルが石を使って木の実を割るなど高い知能を持つオマキザル属のサルであったこと、人間界に戻ったのが10歳という比較的早い時期であったこと、サルたちと暮らしていたジャングルがインディオの村に近かったこと、ハンターも訪れる場所だったことなどです。

残念なことに、サルと暮らしていたときの様子についてはあまり詳しく書かれていません。数十メートルの樹上まで登った話など少し大げさな感じもします。ただし、サルの群れと一緒にいることで果物を主とする食べ物を得られたことや、サルの行動を見て苔をトイレットペーパー代わりにしたことなど、一緒に生活をしていたからこそわかるであろう内容もちらほらとあり、人間界に戻るまでの部分は一気に読めました。
人間界に戻ってからは、治安の悪いコロンビアならでは過酷な経験が待ち受けており、この部分は別の小説のようにも感じるほどです。

私の知りたかった内容はあまり記されていませんでしたが、他の動物たちとの関係など、サルと暮らしていたときの記述は興味深い内容になっています。

主人公の女性は、今はイギリスに移住し、孫もできて幸せに暮らしていらっしゃるようです。

特に面白いなと思った部分


サルたちはとにかくよく食べた。何をしていても、食べ物を休みなく口に運んでいた。 - 36ページ


[引用注:サルたちが食べる種、木の実、果物は]棘があったり、苦かったり、自分の好みの味でなかったりもしたが、たいていはおいしかった。 - 39ページ


群れと行動を共にするようになって最初の数日間、私は一日の大部分を空腹を満たすために費やした。ジャングルは求める者には惜しみなく与える。バナナやイチジク、ナッツ類など、あらゆる種類の果実を手にすることができた。 - 41ページ


彼らは木の葉や、昆虫や芋虫を食べることもあった。私は虫は苦手だったが、アリだけは例外だった。食べてみて驚いた。シャリシャリした食感でおいしいのだ。 - 41ページ

第6章『グランパ』には、サルたちとの暮らしのなかでも最も興味深いエピソードがつづられています。
言葉を失いかけていた5〜10歳という子供のころの出来事なのでボリュームが少なくなるのはやむをえないかもしれませんが、完全に孤立してサルと暮らすという数奇な体験をしながら、この部分の記述が少なく、人間界に戻ってからのほうに多くのページが割かれていたことは残念でした。

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「ルビリン」は東山動物園にいたアムールトラの名前です。土手で出会った子猫を迎え入れ、「るびりん」と命名しました。

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