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「トンガの文化と社会」青柳まちこ(著)(三一書房 1991年11月)

→目次など

■南太平洋の小さな島国は、トンガ帝国とも呼ばれる海洋国家を作り、強大な権力を持つ王がいた■

トンガはフィジーの東にあり面積は700平方キロメートル程、佐渡島にも及ばない。

トンガ、ニュージーランド、ハワイなどポリネシア人が太平洋の島々に住み始めたのは意外に新しいことで、故地は台湾であるようだ。縄文人から伝わった優れた航海術が台湾に伝わり、海に進出したのではないかと推測する人もある。また、このとき、縄文人が台湾から女性を連れ帰って日本語にポリネシア的要素が入ったのではないかともいう。本書では、海のモンゴロイドであり、イモを主食として、かつては帝国とも位置づけられる広大な影響圏を築いたトンガの文化と社会が紹介されている。

本書は、著者の長年にわたるオセアニア研究の初期に書かれた論文を中心にして編まれた書であり、特に「余暇」と「子育て」という著者独自の視点が本書を出発点としていることは注目に値する。

狭い土地と温暖な気候の中で人々が築いた社会や、たどった歴史は、同じように太平洋に位置して遅くに侵略の対象となった日本の社会や歴史と重なる部分も多くある。たとえば王によってすべての土地が所有されていたことは、律令制度によって天皇が全土を所有した日本と重なる。たとえば、19世紀に内乱を経てキリスト教徒でもある王がこれを平定し、その後イギリスの所領となった歴史は明治維新の日本と重なる。航海カヌーを操る海洋国家としてのトンガは騎馬民族のモンゴルと比較することも可能だろう。

このような歴史を踏まえて本書を読むと、興味深い内容が記されている。西洋との接触前後の伝統社会は封建社会といわれ、王の食べ物とされる鳩を平民が食べると死にいたるまで鞭打たれることもあるなど、平民は完全に王に従属していた。首長の健康回復を願って、平民の子の指が切られたことや、人身御供も行われていた。しかし、同時にゆったりした暮らしも存在していた。食事中に道を通るものがあると、知らない人であってもお腹は減っていないかと聞き、たべかけのバナナを半分に折って差し出したのだ。

この温暖で小さな南の島に暮らしていても、絶対的な王を産んでしまうのが人である。それは農耕を選び、科学技術を発達させて、狭くなる世界の行き着く先が、同じような封建社会であるということを示しているようでもある。そのような見方をすれば、遠い島国の暮らしは他人ごとではなくなるのである。

内容の紹介


第VIII章 余暇観 5 生活時間と余暇
  朝は早い。周年温暖な気候に恵まれ、低緯度のため日の出日没時間の変化も際立っていないので、生活のリズムは年間を通じてほぼ一定している。 夜が明けはじめると人々は起き出し、身のまわりの雑用をすませると、そのまま畑に行く。 現在は学童が朝食をとるようになったので、大人の中にも茶を一杯飲んだり、パンを一切れ食べる人が出てきたが本来は一日二食である。
  女たちは一〇時ころから、食事の仕度を始める。 毎日の食事はバナナや芋類の水煮が主であり、一升だきほどの鉄鍋に湯をわかし、長い小刀で多量のバナナや芋の皮をむいてこの中へ入れるだけである。 しかし乏しいマッチを探したり、近所へ火をもらいにいったり、薪にするココ椰子の殻を探しに行ったりで、火を一つつけるにも能率はきわめて悪い。 芋の皮をむくのでもくわえ煙草で、どっかりと坐り、器用でない手つきでやり始める。 途中で火が消えたり、煙草がなくなったりすれば、また立ち上がって探しに行くので、時間のかかることはおびただしく、これだけの用意でも二時間ほどかかる。 やがて畑から帰った男たちも交え昼食となる。 午後から男たちは畑仕事にいくこともあれば、家の修理、海に漁に行くなどの場合もあろう。 女たちは樹皮布作りに一日を費やすことが多い。 洗濯、掃除、海岸での貝拾いもするがこれらはいずれも短時間である。 暑い日には昼寝をする人もある。
  午後の日は長く、暗くなっても人々はまだ外で何かをしている。 闇がたちこめるころ夕食が始まる。 夕食は昼食の残りが主なので、仕度にそれほど時間はかからない。 空缶にろうを入れ芯にぼろ布をさしこんだ手製のろうそくのほの暗い灯火のもとで、視覚的楽しさもなく食事が始まる。 食後にはカトリックの熱心な信者が、教会へ行ったり賛美歌の練習をしたりするほかは、まったくの自由時間となる。 - 192ページ

これは近年の暮らしですが、封建時代の暮らしもこれと大きな違いはなかったのではないかと思われます。


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「ルビリン」は東山動物園にいたアムールトラの名前です。土手で出会った子猫を迎え入れ、「るびりん」と命名しました。

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