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「食べられるシマウマの正義 食べるライオンの正義―森の獣医さんのアフリカ日記」竹田津 実 (著)(新潮社 2001年6月)

→目次など

■賢くたくましい人々と、それぞれの生き方で生きる動物たちを育む確かなアフリカを知る■

「オホーツクの道ばたでキツネの脈をとって生きられる」と表現されるようになった森の獣医さんは、子供の頃、山川惣治作の「少年王者」を読み、ゾウの背に乗り、ライオンやゴリラと共に正義のために悪を倒す夢を描いておりました。

こんな少年が紆余曲折を経て動物たちの医者になり、講演活動や写真家としても活動するようになりました。アフリカゾウの背に乗る夢はかないませんでしたが、夢の続きとしてアフリカに通い、こうして文章と写真でアフリカの動物や人々について教えてくれました。

天と地が交わって動物たちが生まれるアフリカの大地。マサイ族は、動物たちを管理するために神によってマサイ族が作られたと考えているそうです。家畜を飼うマサイの観念は、クマを友と考えていた北方狩猟民たちの観念とは違っているようです。

私たちは私たちのような知能も持たず、毛むくじゃらで、泥水を平気ですすり、なんでも生で食べてしまう動物たちのことをどう考えればよいのでしょうか。

この本の最初の章は「カバの王国」と名付けられています。読み終えてみると確かに「王国」と表現したくなっています。そしてまた、その王国が微生物にあふれる場所であるが故の意外な清潔さも知ることになります。

俯瞰する大平原の中に小さく撮影されたゾウの群れは、かえってゾウの存在の大きさを感じさせます。

見なれた乾燥した風景ではなく、緑の中で採食するキリンたちは、これが現実にある風景であることを疑わせるほど、豊かな世界に見えます。こうしたキリンを獣医の目から見ると、心臓の大変さを思うと記されていて、高い木の枝葉をエサとするところに一つの挑戦があったことを知ります。

一方で、可憐な姿をしたインパラやセグロジャッカルもまた、アフリカの大地に生きる動物です。こんなにも美しい動物たちが、ライオンや、凶暴なカバや、ゾウ、キリンたちとともに生きている。それが、ヒトの知恵や価値観とは相容れない、生物界の不思議であり、素晴らしさであることを思います。

数百万羽のフラミンゴが住んでいたナクル湖では、下水処理の終末水の流し込みと人為的なテラピアの導入によってフラミンゴが激減しています。一方で、「交尾の丘」に建てられてしまったロッジの周りでは、季節になるとレイヨウたちによてうんざりするほどの交尾が繰り返され明日のアフリカが造られてもいます。

この本の魅力のもう一つは、描かれているアフリカの人々の知恵とたくましさです。ヤギ肉の続くキャンプの食事を楽しくさせる知恵は、食べ物のないとき、ごちそうの話をして過ごすほうが餓死を免れるという話を思い出させてくれました。マサイ族とピグミー族の話もそれぞれの暮らしの中でそれぞれの強さ賢さを身につけているという点で、多様な動物が暮らすサバンナの在り方に通じるものを感じます。ピグミー族からは、毒蛇を恐れて長靴を履くことで失っているものに気づき、不要に恐れることの馬鹿らしさを教えられます。自然との接し方は、北米のインディアンたちによる自然との接し方と共通してもいます。

さて、「食べられるシマウマの正義 食べるライオンの正義」とは何でしょうか。詳しい内容には触れませんが、伝染病が蔓延しない理由と関連づけて独自の仮説が展開されています。私は、この書評を書きながら、猟師たちも獲物が自ら命を差し出すと言っていたことを思い出しました。

多様な生命とは切り離された文明社会の価値観。そのような価値観に惑わされない目を持てば、こうした確かな命の世界を取り戻すことができると、私は希望を感じました。

内容の紹介


2週間前に日本に帰った娘夫婦のだんなは、ヌーが大好きな男だった。ヌーの好きな男を私は知らない。ウシなのかカモシカなのかわからないと言って「ウシカモシカ」なる和名をもった動物である。決して見た目に美しいとは思えない。第一に数がウジャウジャいる。ウジャウジャのものは、日本人は無視する。だが、彼は顔がいいというのだから仕方がない。 - 109ページ


私たちは、ンゴロンゴロのクレーターの中で、ブチハイエナを追っていた。
スカベンジャーの代表選手みたいに言われるハイエナだが、研究者の報告によると、ライオンなどと同じ程度の狩をやっているという。また、セレンゲティの公園内での調査では、草食哺乳類の死亡要因の中で、捕食によるものは全頭数の3分の1程度だとわかった。残りは病死か餓死だと言うのだから、死体は肉食哺乳類の主要な餌であると考えられるというのだ。 - 138ページ


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「ルビリン」は東山動物園にいたアムールトラの名前です。土手で出会った子猫を迎え入れ、「るびりん」と命名しました。

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