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「彗星パンスペルミア」チャンドラ・ウィックラマシンゲ (著), 松井 孝典 (監修), 所 源亮 (翻訳)(恒星社厚生閣 2017年5月)

→目次など

■地球という限られた空間よりも、広大な宇宙のほうが生命誕生の場としてふさわしいのかもしれない。そして宇宙は同じ起源を持つ生命にあふれているのかもしれない。■

2014年にヨーロッパ宇宙機関 (ESA) の探査機ロゼッタがチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星の周回軌道に到達し、着陸機フィラエによる世界初の彗星着陸が行われました。Wikipediaのチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星の項を見ると、次のような記述があります。

地球外生命の可能性
チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星の物理的特徴については、彗星表面下に生存する微生物の活動に由来するものだとの仮説が提唱されている。ロゼッタの観測では、複雑な有機物質が発見されているが、この説ではそれらを生物由来と推測しており、微生物の活動によって地下に高圧ガスを含んだ空洞が形成され、これが割れることで有機物質が表面に供給されているとしている。彗星が太陽に近づくにつれ、表面の氷は融け雪のような状態となるため、この微生物は液体の水を用いている可能性がある。

本書を読むと、これに限らず、金星や火星、木星と土星の衛星からも微生物の存在を示す可能性のある観測結果が得られていることがわかります。

どうして、こんなにも多くの場所に生物が存在する可能性が生まれるのでしょうか。

生命が地球上で誕生したと仮定するなら、これらの場所でも生命が別々に誕生することを仮定しなければなりません。それは現実的でしょうか。

本書で扱っている、生命は地球外で誕生したという説を以前聞いたことがあります。そのときは、地球上でさえ生命が誕生しにくいのに、どうしてもっと条件の厳しい宇宙で誕生することなどできるのだろうかと受けとめました。しかし、本書を読むと、地球上よりも宇宙で生命が誕生して地球に降下したと仮定するほうが可能性が高いことが理解できます。

本書では、ビッグバンから30万年経過した時点で、互いに近接する地球質量の原始惑星が10の80乗個も生まれ、有機合成を加速する環境ができました。この状態が1000万年も続く中で生命が誕生したのです。その後、原始惑星が冷えて凍結し巨大彗星となりました。そして彗星が生命の分配と増殖の役割を果たして、新しく誕生する惑星に生命を届け、宇宙全体に生命が広がっていきました(著者は、このような想定によってもまだ生命の誕生する確率を考えると不十分であり、定常宇宙論や著者の周辺でしか語られていない宇宙論を取り込む必要があるとも指摘しています)。

こうした想定の下、宇宙から地球に届く微生物をとらえようとする実験も繰り返されています。本来微生物の存在するはずのない上空で微生物を捕獲しようというのです。

本書を読むと、彗星によって微生物が運ばれていると想定して探査計画を立てたり、宇宙由来の生物と地上の生物は区別が着かないのだと想定して観測することで、これまで見えていなかった事実が明るみに出る可能性の高さを感じます。いずれにせよ、この説が正しいのであれば、彗星の内部や地球上空から、はたまた太陽系の他の惑星や衛星から微生物が発見されるのはそんなに遠くない未来のことになりそうだと私は感じています。

本書では知的生命体とのコンタクトを試みるSETIプロジェクトにも言及しています。当然、現在までにコンタクトは成功していません。それは、本書にもあるように、宇宙空間に電波を飛ばすことができるまで発達した文明は間もなく終焉を迎えることになるためであるのかもしれません。いずれにせよ、生命は我々が考えていたよりも広く存在しているようであり、それにも関わらずコンタクトできないという点が重要になってきそうです。

本書は、著者の記述を訂正する訳注が付されている一部分を除けば、しごくまっとうな内容を記した本であり、生命の起源に関する見方を大きく変えてしまう可能性があります。もっとも、本書とは別の説明によるパンスペルミア説も当然ありえます。

本書には面白いテーマがいくつも含まれています。
・ウイルスに感染することによる飛躍的な進化
・一方で太古からほとんど姿を変えない生物が存在する不思議
・彗星の衝突がもたらしたかもしれない間氷期
・文明と彗星の関係
・天然痘、HIVなどの伝染病が宇宙由来である可能性
・ピラミッドはシェルターとして作られた
・インフルエンザが北半球・赤道・南半球で流行する季節が異なるのは上空から吹き下ろす気流の季節を示しており、すなわち上空を漂う宇宙由来の生物を示している
・地球から地球外に生物が運ばれる可能性
・極めて厳しい環境(高温、低温、放射線被ばく、圧力)で生き残る微生物が存在する不思議

こういった内容を含め、人類や生命、文明、宇宙について考える上で役立つ情報に富んだ面白い本でした。事項索引と人名索引もしっかりと整備されています。

付記
私自身は、言葉や生物の本質について考える中で、生物は言語に頼ることによって聡明な存在になどなることは不可能であり、むしろ言語を抑制し、身体に頼った動物的な生き方をすることでのみ長く存続できる存在になることができると考えるようになりました。SETI計画で信号を受信できないのは、これに気づいた知的生命体が文明を捨てたからであると考えています。

内容の紹介


微生物は大気圏突入に耐える
  たとえ, 実際にウイルスや細菌が宇宙に存在しているとしても, それが生きたまま地球に潜入することはありえない, という批判を繰り返し耳にする. つまり, そういう微生物でも, 地球の大気圏に突入するときの熱によって, 死滅してしまうだろうというわけだ. だが, それが誤りであることは証明できる. 細菌が, 大気圏突入時の急速な加熱に耐えられるかどうかに関する室内実験は, 1980年代に実施されており, 乾燥状態の細菌を数秒間で絶対零度から1,000度を加えて加熱していっても, 生存可能性がまったく失われていないことがわかっている(Al-Mufti et al., 1983). 大気圏に再突入する宇宙船は, その表面にいる菌が死滅する温度まで加熱されると思われる. また, 大きさが1mm程度の流星物質など, ある種の宇宙粒子は, 摩擦による加熱で破壊されてしまうのは確かである. しかしこの現象は, 突入角度や, 侵入してくる粒子の大きさや成分, 柔らかさの程度によって微妙に変わってくるのである。 - 104ページ


1976年の火星生命否定の再検証
  1976年, そして2012年に再度, 1976年に収集されたデータの全てが, 注意深く再検証された. その結果, 驚くべき(しかし, ほとんど公表されていない)結論が導きだされた. バイキング計画の結果は, 火星の地表のすぐ下の特定の領域に, 原始的な生命が存在する可能性が高いことを示していた(Bianciardi et al., 2012)かもしれないのだ。疑う余地のないほど確かなのは, 1976年のバイキングの実験で得られた結果は, 火星に微生物が存在していることを, はっきりと支持しているという点である. - 123ページ


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「ルビリン」は東山動物園にいたアムールトラの名前です。土手で出会った子猫を迎え入れ、「るびりん」と命名しました。

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