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「性風土記」藤林貞雄(著)(岩崎美術社 1967年4月 1995年6月新装)

■性を当たり前に組み込んだ生き方■

日本は処女性が重視される国であり、男女七歳にして席を同じくせずといわれるほど男女交際にうるさい国であると思い込まされていた先入観がこの本でふっとびました。

嫁入り支度として女になっておくことが当然と考えられていたり、結婚しないで試しに一緒に暮らしてみることが当たり前にされていたり、親子関係が複雑すぎて簡単にまとめることができない島があったりと、かつてのこの国では、家族や結婚、性交渉に関する観念が、現実に合わせてゆるやかに運用されていたことがわかります。

性を異様に取り締まり、子どもを性から遠ざけ、性的な関心を持つことを罪悪視させたい人々が、忘れさせたい本当の日本人がこの本に描かれています。

本書から


また、熊野の三個の最難所といわるる安緒ヶ峯に、四十余日、雪中の木小屋に住み、菌類採集中、浴湯場へ十四、五の少女、小児を負うて来るが、若き男を見ればとらえて、「種臼切ってくだんせ」とせまる。何のことかわからざりしが、女陰を臼にたとえしことは、仏経にも多く例あれば、種臼とは子を播く臼ということを悟り申候・・・』――南方熊楠全集第八巻―― - 6ページ


しかし、こうした考え方、嫁入前に処女でなくなった娘は傷者だという思想が、上流や一部の旧家や特権階級にあった一方、その下の基層社会では、これまでのいくつかの例をみてもわかるように、処女は神に捧げるものだ、一人前の女になってからでないと、結婚には不都合だといった信仰から出た倫理観が、ずーっと続いてきたということになります。古い考え方と新しい考え方が、併存していたわけです。 - 14ページ


旧暦小正月の賽ノ神祭に男根を祭る地方も少なくありませんが、これを青年たちばかりでなく、男の子たちが司祭するという習俗は、性教育流行の昨今ながら、おとなたちは逆に困った顔をしていることでしょう。 - 39ページ


・大分県日田郡には、月おくれの盆の十五日の夜に村内の男女が綱引きをする行司があり、毎年十四歳になった少女が村の若者に成女にしてもらう習俗があった。(79ページ)

・青ヶ島では形式上は一夫一婦制だが、戸籍と実際がかなり違っており、女性の少なさから夫を取り替えることが割合自由なため、夫や妻が二、三回は変わっており、ヤンゴと呼ばれる私生児も多い。(96ページ)

・対馬では嫁が背負籠を背負い夜具をかついて母親とふたりで婿の家にいき、一緒に食事をするだけでもう嫁として婿の家に寝泊りする安直な嫁入り形式があった。(106ページ)

・この場合、気に入らなければ出もどることも一般的で、五回出戻る嫁もめずらしくなかった。(107ページ)

・八重山では外来者と島の女性のあいだに生まれた私生児や庶子をグンボーと呼んでおり、軽蔑されるどころか一種の優越感さえもたれていた。(112ページ)

・大正時代の関東大震災のとき、東京の街々で飛火を避けるために屋根高く赤い腰巻が振られた。名瀬の火災では、真裸になってふる女性もいた。(148-149ページ)

・一般に男が産屋に入ることはタブーになっているが、逆に夫が一生懸命に妻の分娩を援助するような習俗もある。(214ページ)

貞操観と信仰倫理

その地方生活をしている人たち―国民大多数といってもよく、庶民といっても、プロレタリアといってもよく、下町階級といってもよいような人たち―のなかには、さらに古い時代の倫理観のひとつとして、「結婚する前には処女は捨てるものだ」という考えが後をひいているのです。

(中略)

ひと昔前ならば、こんな習慣も「無知蒙昧、無学低級な田舎者の陋習」などと片づけられたでしょうが、いまは、そういう見方は流行おくれになってしまいました。

そんな生活をしていた人達の子や孫が私達なんだ、と言う事実に気がついたからなのです。 - 225-226ページ


地方生活に残っている古い暮らし方を見たり聞いたりして、あきれたり驚いたりするのは、パリのモードや、アメリカ映画や野球ばかりに気をとられて、同胞の生活史などは、ちっとも知ろうとしないからではないでしょうか。ともかくも性道徳とか純潔教育を考えたり、貞操問題などを論ずるときは、ただ、こうあるべきだ、私はこう考える、といったふうな観念論だけではなしに、日本人大衆はどのように暮らしてきたのだったか、現実はどうなのか、ということをまず知り、吟味してから、はじめて意見なり計画なりを立てるという、実証的な訓練をつむべきだと思います。 - 227ページ



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「ルビリン」は東山動物園にいたアムールトラの名前です。土手で出会った子猫を迎え入れ、「るびりん」と命名しました。

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