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「ボルネオ 熱帯雨林 ペナン族──失われる環境と人間」秋元健治(著)(第一書林 1997年10月)

→目次など

■ボルネオの狩猟採集民ペナン族に関する貴重な情報は得られる■

熱帯雨林が失われていくことに対して問題意識を持つ、著者の意気込みは評価できる。しかし、多くの人々が陥るように、問題の本質を探る代わりに、問題を生んでいる側が用意して「これが原因だよ」、「これが解決策だよ」と示唆する原因や解決策 をそのまま受け入れてしまっているとしか言えず、その意味では残念な本でした。
具体的に言うと、ペナン族の暮らしや世界観をそのまま肯定できず、外部からの価値観を持ち込んで、教育や経済活動の支援によって改善を探ろうとする点です。このようなあり方は、決して問題の解決にはならず、むしろ、人間のロボット化に手を貸し、熱帯雨林の破壊を進めるだけであるということを 世界の歴史は示していると私は考えます。

ペナン族の暮らしについては比較的多くのページを割いてあり、新しい知識を得ることができそうです。

内容の紹介


一般的にペナン族は温厚でどちらかというと臆病な気質と考えられている。とくに東ペナン族は、西ペナン族よりもそうした傾向 が強いといわれている。過去において首狩り族として名を馳せ、恐れられていたボルネオ島の先住民族カヤン族やケニャ族、イバン族などとちがってペナン族はそうした残酷な行為をしたという記録はない。それどころかペナン族は好戦的性格にはほど遠く、なんらかの危険が迫った場合、 すぐさま退散したという話が伝わっているくらいである。 - 28ページ

・カヤン族らは焼畑を利用した稲作栽培を行っており、首狩りを行うのは、やはり未開農耕民であるようです。
・昔の漫画で首狩り族として描かれた人々が未開農耕民というよりは狩猟採集民を思わせる外見であった点は、ミスリードであったといえそうです。


彼らの古くからの精霊信仰や神話は常に森のなかにその起源がある。ペナン族は、大きな樹木を切り倒すことをしない。それは大木には人びとに災いをもたらすバレと呼ばれる精霊が宿る と信じられていて、木を切り倒すことでバレがこの世に解き放たれることを恐れるからである。 - 29ページ

・精霊信仰を持つことで自然を守ることができるという構造がある中で、精霊信仰を否定する一神教の侵入は破滅的な効果を持つことでしょう。


ペナン族は、強い太陽の陽射しを受けることを嫌う。長時間、強い陽射しを浴びることは肉体的に悪い影響をもたらすと彼らは信じている。 実際、熱帯の強い陽射しは、日射病などの健康の障害を引き起こすわけであるが、迷信を信じるような感覚で彼らはそれを忌み嫌う。 このことはペナン族が、強い陽射しのもとで長時間労働をつづけることを妨げ、農業を営んでの定住生活するうえでの精神的な障害となっている。 - 30ページ

・強い陽射しのもとで長時間労働を行わなくても暮らしていける従来の生活のほうが人間的であると思えます。


神と精霊の森を歩くことは、地上の楽園を歩くということである。その世界では人間と 神秘、物質と非物質、自然と超自然とのあいだの乖離は存在しない。そして森の恐ろしさをも十分に知る彼らは、常に注意深く行動する。 森のなかで毒蛇に噛まれないよう、熱病にかからないよう、朽ちた樹木の大枝が頭上に落下してこないよう、森のなかでは用心深い。 またペナン族は野営地から狩猟に出かけるとき、その行き先を仲間同士でもはっきりと口にはださない。 というのは、すべての動植物に宿ると信じられる精霊がそれを聞きつけ、森にそのことが伝えられて獲物が逃げ去ると、どう考えるからである。 - 31ページ

・人にとって精霊は現実であるということと、森は危険な場所でもあるためにむしろ賢く生きることができるということがいえそうです。


ペナン族は特定の小集団をなして生活している。二、三家族が食糧をもとめて移動するが、 その近い血縁関係をもつ集団に一定の場所で合流するのが常である。 そのなかで中心的な集団は、他の場所にあまり移動せず、一定の場所にとどまる。
  彼らの熱帯雨林で居住地を移動する範囲は広く、半径およそ五〇キロメートルであるといわれているが、 四つか五つに別れた小集団は一年に一度、一〇月から一月の「果実の季節」と呼ばれる期間に再会する。
  この時期にはフタバガキ科などの植物が大量に開花、結実する。こうした一斉結実はイノシシや シカなどの種子捕食動物を引き寄せるため、「果実の季節」はまた「動物の季節」とも呼ばれている。 - 42ページ

・移動距離、比較的移動しない集団、結集期間。


非定住生活をする世界の他の種族と同様、ペナン族も争いを好まず、 協力し合い助け合うことを知っている。共同体内の人間関係は単純で、階級などの複雑な社会構造をもたない。 彼らの社会ではわずかの例外をのぞいて特定の人びとに特定の役割を独占させない。 階層社会は典型的には、土地やものの排他的所有を基礎として形成されるが、ペナン族はそうしたものからもっとも隔絶した 社会をもっている。ペナン族は森で生活する能力、狩猟や採取のための知識を、男女の差異はあるものの、 基本的にはすべての者が身につけていなくてはならない。 - 43ページ

・非定住生活と、排他的所有がないことが階級社会を作らない条件。狩猟採集生活の要員は高い能力を要求されるようです。


キリスト教が普及する以前、一人の夫は二人以上の妻をもつことが許されていたし、逆に一人の 妻が二人以上の夫をもつことも許されていた。つまり一夫多妻と同時に一妻多夫が混在していた。 彼らは家族計画という意識が希薄なため、あるいはそれ以上に避妊の方法が一般化していないため、 結婚した夫婦は若いうちからたくさんの子どもをもつようになる。しかし熱帯雨林奥地では乳児死 亡率が高いため、子どもの数はそれほど多くはならない。養子縁組もよくあることである。子ども のない婦人は、たくさんの子どもをもっている女性から養子をもらい自分の子どもとして育てるこ ともよくみられる。 - 45ページ

・妊娠期間を開けるブッシュマンとも、新生児を精霊として天に返すヤノマミとも異なっているのでしょうか。

・一妻多夫と一夫多妻の混在も気になります。


ペナン族のもっとも重要な食糧は狩りによる獲物にくわえ、六種類の野生のサゴヤシの髄からと れるデンプンである。サゴヤシは淡水化物の主要な供給源として重要な意味をもつ。 - 51ページ

・日本でも縄文時代の主食はヤマイモだったのではないでしょうか。


ペナン族、おとな一人が一週間に食するサゴヤシの量は平均約三・五キログラムという調査結果 がある。ペナン族がいうには、米の食事は一時間ほどですぐに空腹を感じるようになるが、サゴー の食事は腹もちがよく何日も空腹を感じさせない。稲作の作業は非常に骨の折れることであるし、 収穫まで何カ月も待たなくてはならず、永久的に定住生活をしなくてはならない。こうしたことか らペナン族は従来の生活、非定住生活の方を選択するという。そういう話をペナン族の集落で聞 いた。 - 52ページ

・定住生活は、楽だというわけでも、人類が必ず選択する生活でもないといえそうです。


歌や踊りはペナン族の生活を豊かにする精神的に不可欠な要素であるが、音楽それ自体は非常に 素朴なもので洗練されてはいない。踊りのかたちはカヤン族やイバン族の踊りと似ているが、ペナ ン族は鳥の羽をあしらえた衣装や装飾品で飾りたてることはない。歌に加えて彼らは、何種類かの楽器を演奏する。 - 53ページ

・世界各地の狩猟採集生活において歌と踊りは重要な要素であるようです。


86ページからの「ブルーノ・マンサー」は、元は自然愛好家であり、過激な環境テロリストとして警察に追われるようになったスイス人活動家 ブルーノ・マンサーが紹介されています。ペナン族のために闘う白人の英雄として、ボルネオ島の先住民族の森林伐採反対運動を取り上げたヨーロッパのメディアを 通じて世界に知られるようになったとのことです。
メディアを支配している人びとの存在を知り、グリーンピースの正体を知った今となっては、一方で旧植民地を実質支配し続け森林破壊を進めながら、 他方でこのような白人を配置して世界の人びとに白人の価値観の正しさを広めようとする動きの中で、この人物が登場しているのではないかと 考えざるをえなくなっています。この視点を持たない限り、森林破壊を食い止めることはできなさそうです。


政治家や官僚は、ペナン族の定住化促進を強く主張するが、 この背景には先住民族が伝統的に有してきた森という財産の収奪が画策されていることはまちがいない。 このことに十分に注意しながらも、やはり私たちの過去の歴史からも近代化への方向性は不可避であるのだろう。 - 136ページ

・先入観を排してみれば、非定住生活のほうが人間が生物として幸せであり、自然破壊ももたらさない生活であることがはっきりするのではないでしょうか。

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「ルビリン」は東山動物園にいたアムールトラの名前です。土手で出会った子猫を迎え入れ、「るびりん」と命名しました。

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