るびりん書林 別館



こちらは旧サイトです。
関連書評などの機能の追加されている新サイト(https://rubyring-books.site/)に順次移行中です。
ぜひ、新サイトをご利用ください。

「未開人のエロス」白川竜彦 (著)(大陸書房 1968年8月)

→目次など

■私たちに性についてもう一度考える機会をくれる、広く世界中から取材され、独自の情報も多いが、少し怪しい本■

少しふまじめな印象の題名の本書を出版している大陸書房は、ムー大陸からその名前をとっているそうです。怪しい情報を扱っていますよと主張しているのかもしれません。本書の著者は、この名前での出版は本書のみのようです。経歴は一切記されていません。

未開人のエロスということで、世界各地の未開とされる人々の性生活を中心としていますが、成人儀礼や生活の様子なども記されています。特に、多数の民族が収録されている点に価値があると感じます。たとえば、ニューギニアのモゲイ族に伝わる避妊薬とそれによる出産制限、女性だけで構成されるアマゾンの種族、ネグリトと呼ばれる、世界でわずかに残る狩猟採集者に属するインドの未開種族など、あまり知られていない情報を多く含んでいます。ショッキングな話題としては、アマゾンのヒバロ族による乾首作りの章があり、10ページにわたる分量になっています。

本書に出会うまで、『豚と精霊』などの記述から狩猟採集者たちの成人儀礼は、農耕民と比べて割と苦痛の少ない方法が多いのかと考えていました。しかし、本書によるとオーストラリアのアボリジニは尿道割礼という非常に苦痛の多い方法をとっていたとありました。初耳だったので調べてみたところ、詳細な手法は本書の記述とは異なるものの、確かに行われていたようです。本書と出会わなければ知らなかったことの一つです。

ピグミー族は女がだいたい十歳、男が十三歳頃に結婚し、平均15人から20人の赤ん坊を生むという記述があって、「ウソだろう」と調べてみました。すると、これも事実に近いようです。15歳まで生き延びる割合は3〜5割しかないとのことです。ピグミーではありませんが、アマゾンには13〜14歳で結婚し、30代後半まで毎年子どもを生み続ける種族もおり、20人もの子どもを生むそうです。乳幼児死亡率の高さが多産を必要としていたとのことです。

このほか、人口を増やさないために、若い女性には年取った夫を持たせ、若い男性には閉経を過ぎた女性をあてがう部族がいたり、アラブのトアレグ族の娘たちは婚前に自由奔放な性を楽しむが、秘法が伝わっているため妊娠することはなく、性病も皆無であると記されているなど、いちいち検証は必要になりますが、とにかく情報量の多い本です。

本書を元に検索をかけると、結局本書からの情報しかヒットしないこともあるくらい、独自の情報があふれています。

私たちの生活は動物的な生の営み以外のために消費する時間が多くなってしまっていることを再確認したり、人口の増加はどうやって抑えられていたのかという視点から読んだりすることもできそうです。未開とは言えない民族も収録されています。

内容の紹介


むろん南米にはまだ知られない奇妙な種族が多数いることはたしかである。 たとえば、エクアドルのアウカ族、彼らは自分たちの土地にはいりこもうとする白人は、それがどんな人間であろうと必ず殺してしまう。 数年前、布教に出かけた五人のプロテスタント宣教師を虐殺したのもこの連中であり、その実態はほとんど不明のままである。
  また全裸で生活するアマフアカ族は、一ヵ所に定住せず、あてもなくジャングルのなかを彷徨しているが、空腹になるとバッタをはじめ、ありとあらゆる昆虫を手当たりしだいに口に入れる。 そして、どうしても昆虫類が見つからないと、仕方なく、ワナや槍で魚や小鳥をとって飢えをしのぐ。 その生活は石器時代を一歩も前進していないのである。 - 172-173ページ

「エクアドルのアウカ」で検索してみたところ、その後、布教に成功したという記事が見つかりました。 アウカとは外部による呼び名で、ワオラニと自称していたそうです。 歴史を見ると、布教を受け入れることは、大きな集団に呑み込まれ、一番重要なことを自分たちの意志では決められなくなることを意味しているようです。


本書の困ったところは、「こんなのウソだろう」と思われる内容でも、部族の写真が掲載されていたり、調べていくと嘘か本当か決めかねる事実が見つかったりすることです。

たとえば、「無残な熱砂の刑」には、モロッコのシジ・モハメッド・ベン・ユーセフ五世のハレムで、隋一の美貌を謳われたナウア・エス・サバが逃亡を計って全裸、素足で熱砂の地に住む蟻の中に捨てられるという処刑を受けたとして、砂漠に倒れたサバは赤い蟻に覆われて半日とかからずに白骨化したとされています。

サバであるとする女性の写真が掲載されており、ユーセフ五世も実在の人物です。蟻の中には人間や動物を襲う蟻もおり、ボリビアでは酔っ払って寝ていた人が蟻の集団に襲われたという記事も見つかります。モロッコやサハラの蟻を調べようとすると、中には気温が上がって他の生きものたちが活動しなくなってから捕食に出かける蟻がいたりもするようです。 こうして調べていくと、おおげさな表現かもしれませんが、完全にうそだともいえなくなってきます。 また、調べるなかで、たとえば、モロッコにはアリの出す音を真似てアリを捕食する昆虫がいることを知ったり、体に生えた毛によって体温を下げている蟻がいることを知ったりと、新しい知識と出会ったりもします。

評価に困る本です。



トップへ

お問い合わせ:

お気軽にお問い合わせください。

サイト内検索:

るびりん

「ルビリン」は東山動物園にいたアムールトラの名前です。土手で出会った子猫を迎え入れ、「るびりん」と命名しました。

neko to hon

書評

書評

書評

書評

書評

書評

書評