るびりん書林 別館



こちらは旧サイトです。
関連書評などの機能の追加されている新サイト(https://rubyring-books.site/)に順次移行中です。
ぜひ、新サイトをご利用ください。

「マサイ族の少年と遊んだ日々」デーヴィッド・リード(著)、寺田 鴻(訳)(どうぶつ社 1988年3月)

■1920〜30年代にマサイ族と遊んだ白人少年による当時のマサイ族とアフリカの記録■

カバーに記されている紹介文を引用します。

舞台は―東アフリカ、セレンゲティ大草原。一人の白人少年と、勇敢なマサイ族の少年との深い友情の物語

・・・・・・時は―激動の1920〜30年代。ヨーロッパの植民地政策に直面してアフリカは、伝統と近代のはざまにゆれていた。・・・・・・マサイ族は、放牧生活を送りつつ他の部族との熾烈な戦いに打ち勝って、この広大な地に特異な文化を確立してきた。彼らは、もっとも誇り高い民族である。

・・・・・・一方で、一攫千金を夢見てやってきた白人たち。だが、彼らの生活もまた、苦難に満ちていた。
夢破れて、この地を去った人々は多い。・・・・・・激動の時代を生きた人々。さまざまな民族の人たちが織りなす悲喜こもごもの人生模様。・・・・・・

そのなかで、一人の白人少年は
あたかもマサイ族の少年のように
大草原を裸足で走る
許されて、神秘の儀式に立ち会い
マサイ族の真実の生活にふれる・・・・・・
これは 誇り高く生きる民族の心に接した
貴重な体験の記録である
生きたアフリカの記録でもある


本書には、最近、旧弊として問題視する報道の多い、女性の割礼についても詳しく述べられていた。男性の割礼もさらに詳しく述べられている。

確かに、強い痛みを伴い、自分が当事者であれば、できれば避けたいと思う習慣である。しかし、本書を読むと、マサイ社会がこれを必要としているということがうっすらと見えてくる。

マサイ族は他の部族にくらべて優勢であり、勇敢で、肉体的な痛みをものともしないたくましさをもっている。このたくましい部族をたくましくしておくために、人々は、さまざまな規則に従って生きている。

社会が社会の都合から個人的な感情とは相容れない行動を個人に要請するという点で、マサイ族の割礼と、予防接種や、会社組織におけるさまざまな行動の強制は同一視してよい。
会社の活動にしても、本当に必要であるかどうか、社会の役に立っているかどうかはわからないという点に着目すれば、マサイ族が戦闘的な部族であることを罪悪視してみても始まらない。
伝統的なマサイ族は、生涯を通じて、厳格な規則や習慣に従っている。これによって、行動、態度、社会的身分が規制される。
一方、私たちも、さまざまな条件によって、行動を規制されている。子どもには勉強が課せられている。青年期は長期化してなかなか大人になれない。一生にわたって住宅ローンと学費の支払いが続く。これを支払うために、心に反するさまざまな行動や考えを受け入れなくてはならない。

さらに、マサイ族の割礼が、マサイ族の自尊心につながっている一方で、私たちの長時間労働、長い青年期、高い教育費などは、私たちの自尊心に必ずしもつながっていない点も指摘しておきたい。

本書によると、マサイ族は15世紀以降、原郷のスーダン南部を去って、17世紀初頭に北タンザニアの草原地帯に到達し、この移動の過程で独自性を確立したらしいという。
マサイ語を話す人々(オルマー)は約45万人おり、そのうち23万人がマサイ族であって、専業牧畜で暮らしている。

このように、人間は、短期間のうちに、集団の分裂を繰り返し、独自性を確立していく存在であるらしい。
牧畜専業のマサイ族と、狩猟生活のドロボー族。ニューギニア高地のモニ族とダニ族。
おそらくは、土地の様子や、個人の体質などによって、人々は分裂し、集団を維持するためのさまざまな規則ができていく。
割礼がどんなに野蛮で人権侵害に見えても、独自性を維持するために必要なのであれば、部外者が強制的にやめさせることはできない。

陰謀論的な見方をするなら、さまざまな理論をでっちあげて割礼禁止を正当化し、独自の生き方を断念させて、グローバル経済の中でロボットのように生きる人間に変えようとしているということができる。



本書にも、初潮を迎える前の少女たちの性行為が描かれてた。また、オルゲシェルと呼ばれる、戦士が長老になる儀式(35〜45歳くらい)では、儀式に参加した多くの人々の前で性行為を行い、女性の太ももを伝う精液で性的能力を証明するという場面も紹介されてる。
人間は、長い歴史を、合理性や倫理観で生きてきたのではなく、状況に応じて対応しながら全体として破綻のない生き方を探って生きてきたのであるという見方が必要であると思われる。


トップへ

お問い合わせ:

お気軽にお問い合わせください。

サイト内検索:

るびりん

「ルビリン」は東山動物園にいたアムールトラの名前です。土手で出会った子猫を迎え入れ、「るびりん」と命名しました。

neko to hon

書評

書評

書評

書評

書評

書評

書評