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「平等と不平等をめぐる人類学的研究」寺嶋 秀明 (編集)(ナカニシヤ出版 2004年4月)

→目次など

■人類学者が平等性を考えるとき、金持ちに対する陰口や噂は、金持ちの身勝手な行動を抑制するための重要な要素となるのだ。■

平等ということについて考えるとき、私たちは死者の怨念について考えたり、貧しい者から富める者への分配について考えたりするだろうか。本書は、人類学者の視点から平等というテーマに的をしぼって編集された貴重な本である。

本書が取り上げている平等性の視点は、私にとって普段考える平等性の視点とは大きく異なっていた。

第2章のピグミー社会における食物分配と平等では、一方的な贈与を避ける心理が指摘されている。つまり、常に、優秀な狩猟者から狩猟の下手な者や一般に大型獣の狩猟に取り組まない女性への分配だけが行われる結果として生じる主従関係の心理を避けるために、一旦分配された食物をさらに分配することや加工して再分配することで、双方向性を組み込むといった工夫がなされているのである。

第3章ではジャワの農村という不平等社会における平等性が問われている。ここでは、同じ村に暮らす者として、富者に対する噂・陰口などの形をとる暗黙の厳しい駆け引きが、富者に対する心理的圧力となって、落ち穂拾いや参加に開かれた稲刈りなど不平等への保障作用を生み出していると指摘されている。

第4章ではザンビア北部の村が村民の対立によっていったん消滅し、10年後に復活する様子が描かれている。村をいったん消滅させることによって、権威の継承が回避されているのである。

第5章ではキリバス南部の物資の乏しい島における人々の価値観が描かれている。「持たざる者」による「持つ者」への懇請は当然とし、食料やタバコを一方的にもらう人物を「強欲」とする一見平等主義的な価値観を持ちながら、「自らが窮乏に陥ることを回避する」という軸に沿った行動のなかでの平等性の強調が頻出するのである。つまり、平等性は、理想主義からではなく利己主義を背景としていると分析されている。

第6章では日本の民衆宗教史から死者たちによるねたみの力が平等性の視点に沿って考察されている。不遇な人生を送った死者たちのねたみを恐れるとき、または神として祭るとき、私たちは平等性を問題にしてもいるのである。

第7章では平準化システムとしての総有論が語られている。総有とは「農業―漁業共同体に属するとみなされる土地(牧場・森林・河川・水流等)をその構成員が共同体の内部規範により共同利用するとともに、同時に共同体自身がその構成員の変動をこえて同一性を保つつうその土地に対し支配権を持つところの、共同所有形態)」と一般に定義されている共同所有の形態である。ここでは、明治期に整備されたヨーロッパ流の民法による位置づけの見直しが問われている。

第8章では『人類史のなかの定住革命』の西田正規さんによって、霊長類学にまでさかのぼって家族社会の進化と平和力について考察されている。家族というきわめて特徴的な社会構造を進化させた人類は、空間的分離によって平和力を高めていたという側面と、文明の進歩が高度な武器や組織力を発達させて暴力的になったという側面を持つ。高密度に暮らす社会が強力な武器の開発や兵力増強を呼び、人口爆発や核ミサイルを生む。その一方で、人工的な社会は生物の温和な性質を促す側面も持っている。この先、果たしていずれの方向へと進むのだろうかと問いかけるのである。

いずれの指摘も、平等性や法的根拠についての再考を促してくれるものばかりであり、世界が一見理想主義的な単一の価値観によって統合されていこうとしている時代において、その方向性の誤りを鋭く指摘する事実の提示になっている。

内容の紹介


ウッドバーン(1982)が、即時リターンシステムの特徴と平等主義のつよい関連について強調するのは、個人の行動と自由と、財からの自由である。 居住集団はつよい移動性と柔軟性をもつ。 個人は特定の集団や特定の土地、特定の資源に縛られることはない。 個人の移動の自由は、権威や権力の確立をさまたげる。 食物、水、その他の自然資源については、誰もが平等な権利を持つ。 集団の輪郭とテリトリーは柔軟であり、地域間の富の偏りによる差異を最小化する。 個人的所有物の蓄積は、社会的に拒絶される。 狩猟採集民は一般に持ち物が少ないが、それはたんに移動に不便という消極的理由だけではない。 そしてハッザ社会にはリーダーはいない。 いたとしても、権力を行使したり富や威信を蓄積することのないように制限されている。 むしろ平等主義を強化するようなリーダーである。 - 28ページ

「即時リターンシステム」とは、生業活動によるリターン(報酬)が直接的で即時的な生産システムです。食物の保存や加工を行いません。


民俗学者であり社会学者である鳥越皓之は、川本彰の総有論を支持し、日本における「土地所有の二重性」について明確に論じた。 鳥越は、村落内の土地(共有地も含む)の基底に潜在的に存在する総有にかんして、以下のように解説する。

私有地であれ(共有地であれ)、それが村落内の土地であれば、その私有地に総有の網がかぶされているというのである。 つまり、その私有地は所有者個人の判断でまったく自由に売買できるものではなく、村落にお伺いをたてるのが筋という性格のものだというのである。 あるいはじぶんの所有の田を村落にだまって、とつぜん宅地にするのはマズイ、と村落内では一般に考えられているというようなことをさしているのである。(鳥越 1985:99)  - 257ページ

他人に庭や土手が通路として利用されていたかつての村落においては当然のことであり、これを認めない法を作りあげていくところに、西洋文明の悪意を読み取るべきであろうと思います。


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「ルビリン」は東山動物園にいたアムールトラの名前です。土手で出会った子猫を迎え入れ、「るびりん」と命名しました。

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