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「ぼくはお金を使わず生きることにした」マーク・ボイル(著)吉田奈緒子(訳)(紀伊国屋書店 2011年11月)

■問題は文明生活にあるのではないか■

後述するように、本書は多くの有用なキーワードを与えてくれる。西洋文明の精神的貧しさに気付き、お金を使わない生活を実践したという点においても尊敬に値する。

しかし、狩猟採集生活を送る人々の世界を知り、陰謀論を知った私にとっては、文明化された生活と持続可能性のある生活を両立できるという考えがどうにも腑に落ちない。

世界中でカネなし生活を続けてきた人々の世界が文明、特に西洋文明によって滅ぼされたのは、カネなし生活を続けてきたからこそであった。つまり、自然資本を売り払わない生き方は自然資本を売り払う生き方に負けてしまうのであった。

支配者が文明を作り、自然資本をより多く消費する文明がその他の文明を滅ぼしていった結果が現在の世界であって、遊園地の乗り物から降りるような小手先の対処では変わらないのが現実の世界である。

私たちに今必要とされることは、文明が私たちを幸せにしてくれているという思い込みを排して、人間に本来許されているのはどのような生き方であるのかをもう一度考えなおすことであって、「おカネなしで生きる」という程度の耳障りのよい言葉に酔うことではないと私は考えるのである。


以下に読書メモを示します。括弧内はページ番号です。


・銀行家が人びとに金を教えて利息をとることから金が始まった(14-15)

・オーガニック食品の仕事を6年続けて、持続可能性を体現した楽園ではないことを知った(16)

・大きな原因は、消費者と消費される物との間の断絶(17)

・2002年から2008年の6年間に「ケルトの虎」と呼ばれたアイルランドはすっかり経済的に成長し、ほとんどの人は私有財産の形成と出世のはしごにしか関心を持たなくなってしまった。(25)

・われわれはこの星の自然資本を売り払って、それを収益と呼んできたのだ。(27)

・どんなに倫理性を標榜する銀行でも、限りある地球上で限りない経済成長を追求している存在である(28)

・フリーエコノミー的生活に入りこむ難しさは、現代の西洋社会が安楽な生活にすっかり慣らされていることに加えて、先人の知恵の多くが失われたことにある(41)

・アフリカの国々などに見られる物質的貧しさの原因は、多くの場合、西洋の精神的貧しさである(42)

・ぼくはパーマカルチャーの信奉者だ。パーマカルチャーでは人間の居住環境と食料生産体系を、自然の様式に似せて設計し、作りあげる。(45)

・コンポストトイレは健全な精神と、ぼくらを取りまく環境への尊敬の念とを体現している(50)

・不用品を持っている人と使いたい人をマッチングするサイト www.freecycle.org および www.ilovefreegle.org(52)

・スカイ・ニュース・ラジオからの電話でインタビュー録り。ぼくの実験が過激だと言われることに対して「この国のニュースメディア界があれほど少数の人物に牛耳られている現実とくらべたら、足元にもおよびません」なんてコメントしたけれど、たぶんカットされるだろうな(78)
(衛星放送大手のスカイは、英国の高級紙『タイムズ』やタブロイド紙『サン』とともに、「メディア王」ルパード・マードック率いる国際メディア企業ニューズ・コーポレーションの傘下にある。)(79)

・一日をしめくくるインタビューは『ウォールストリート・ジャーナル』だった(90)

・サボンソウは天然のせっけんだ。(95)

・ろうそくの明かりで読書の時間。ビル・マッキベン『ディープエコノミー』、ヘンリーDソロー『森の生活』、カリール・ジブラーン『預言者』(101)

・いらなくなった本と読みたい本を交換 www.readitswapit.co.uk および www.bookhopper.com
また www.bookcrossing.com は楽しい。(112)

・お金がなければシンプルな遊びをするしかない。海沿いの散歩、森の探検、ビーチテニス。(126)

・肉と乳製品をやめて以来、自分の体のにおいが全然ちがった。(128)

・自然に囲まれて暮らしていると、季節の移り変わりに敏感にならずにいられない(149)

・ドイツ人女性ハイデマリー・シュヴェルマーは十三年間ほとんどお金を使わずに暮らしており、カネなし生活について本もかいている(『食費はただ、家賃も0円!お金なしで生きるなんてホントは簡単』(映画は『お金なしで生きる(Living without money)』(173)

・ダニエル・スエロはユタ州モアブの洞窟にすむ48歳のアメリカ人男性。2000年以来完全なカネなし生活を続けている(175)

・始めてダニエルの存在を知った日、たまたまアメリカ先住民スー族のジョン・レイム・ディアーの言葉にも出会った。白人によって、お金を使うように「文明化」させられた経験について、次のように述べている。
白い兄弟たちがやって来て、わしらのことを「文明化」する以前には、わしらの世界には「留置場」だとか「刑務所」だとかいうものは存在していなかった。
だから当然「犯罪者」もいない。 牢屋がなければ、犯罪者もいらないのだ。 錠前だとか鍵だとかいうものもなかったので、泥棒もいなかった。(177-178)

・「おむつなし育児(www.nappyfreebaby.co.uk)」または「排泄コミュニケーション(EC)」と呼ばれる方法では、赤ちゃんの「排泄したい」というサインや気配を親や保育者が読み取って、おまるやトイレい連れて行く。おむつの山が大幅に減るだけでなく、わが子の気持ちを理解する力も身に付く。(250)

・お金のかからない月経処理の方法としては「ムーンカップ」がある。(254)

・企業の敷地内では、ハグですら無料で配ることを許されなかった。今日の大量消費文化において許されている(それどころかむしろ推奨されている)のは、一人の人間が実際に必要とするよりもはるかに多くの地球資源を消費することであって、消費の場へ向かっている人をハグしようとすることではないらしい。(260)

・伝説的なコメディアン・ビル・ヒックスが言ったとおり、「この世は遊園地の乗り物にすぎない」(261)
(ビル・ヒックスは、1994年に32歳で没した米国のスタンダップコメディアン。ここに引用されているのは、強迫観念にかられて蓄財や保身に励む人間に対し「おれたちが現実だと思って怖がっているのは本当の現実じゃない」と覚醒をうながした有名なセリフ。)(262)

・M・スコット・ペックは『愛すること、生きること』の中で、「人生は困難なものである(中略)いったん人生が困難なものであると(中略)理解して受け入れる(中略)ならば、人生はもはや困難ではない」(創元社14ページ)(263)

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「ルビリン」は東山動物園にいたアムールトラの名前です。土手で出会った子猫を迎え入れ、「るびりん」と命名しました。

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