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「アイヌ―歴史と民俗」更科源蔵(著)(社会思想社 1968年5月)

→目次など

■日本の狩猟民アイヌの伝統的な生活を概観できる良書■

私がこの本を読んだ動機は、世界でもわずかしか残らない狩猟採集民と同じように、狩猟生活を送ってきた伝統的なアイヌの暮らしを知りたいと考えたからでした。特に、狩猟採集の暮らしが失われていく時期の早かった温帯地方に近い場所で、人びとがどのように暮らしていたのかを知りたかったのです。

その意味で、本書は十分期待に応えてくれる内容でした。

著者、更科源蔵氏は、弟子屈町生まれで子どもの頃からアイヌとの付き合いがあり、詩人でもあると同時に、アイヌ関係の多くのすぐれた著書を残しています。

本書では、アイヌとはどのような人びとであるのかから始まり、信仰、狩猟、漁労、巫術、衣食住、女性の座、闘病、死の世界、社会、自然、天体気象、芸術、歴史という多様な分野の話題が、多くの写真、伝説、証言などを交えて適度な分量でまとめられています。 その結果、本書を読むことによってアイヌの伝統的な暮らしぶりを推測できる内容になっています。

人類史のなかの定住革命』にある水産資源の利用や貯蔵が定住を促し、その結果栽培が行われるようになったという仮説に当てはめると、このそれぞれの段階に当てはまるような状況が、アイヌ社会の中に存在していることが読み取れます。
・内浦湾では水産資源を盛んに利用
・日高地方は冬に鹿の集まる地域であり、人口が集積し、定住化の影響が色濃く見える
・先祖代々を記憶する西方人と忘れてしまう東方人のあり方にも、定住化の影響を感じる
・アイヌ名を持つ作物は粟、稗、稲黍、仙台蕉のみであり、十勝より奥には入っていない

鹿と鮭が豊富にとれる食べ物であることや、毛皮を着ていたこと、肉は生で食べることなど、イヌイットに似た生活をアイヌが送っていたこともわかります。

・寒さの厳しい北海道で、冬の山に連泊しながら獲物を追うこともあったというアイヌの人びと。
・砂の上に文様を描いて練習をしたアイヌの人びと。
・住んでいた家を燃やして死者に送ったアイヌの人びと。
・子どもをわざと汚い名で呼んで病魔を遠ざけようとしたアイヌの人びと。
・丸木舟に乗って菱の実を取る女性たち。
私は、本書を読んで、アイヌの暮らしがかなり見えてきました。

内容の紹介


冬の間毎日雪山で生活した昔のアイヌの人達に、冬山遭難の話はない。 自然を知り無理をしないからである。 吹雪に逢っても方向を失ったり道を迷うこともない。 吹雪になたら手の感覚のあるうちに焚火の用意をする。 雪を踏みつけた穴に燃えにくいななかまどなどの木を敷く、燃えにくい木のないときは川砂をかぶせるか、桂の皮を焚いて灰をつくり敷いた木に火がふれないようにして、 ロストルをつくり、その上で燃やす木は枯木だけでなく、いぬこりやなぎ、あをだも、いたや、やちだもは生木でよく燃えるし、枯木の(おき)は直ぐ灰になるが、 生木の熾は容易に灰にならないから、夜中に焚木を加える必要がない。
  狩小屋は山中いたるところにあったことが、詞曲(ユカラ)の中にもよく見えているが、 雪穴で火を焚くと、別に特別な 狩小屋などはそれほど必要でもなかったようで、ひどい吹雪のときだけ風よけにとど松の枝で囲った蝦松枝小屋(フツテキ・チセ)をつくったというし、 はじめからとど松やえぞ松の下で野営することが多かった。 永い間山の中を泊り歩くときは狩家莚(クチャ・キナ) という、蒲で編んだ莚を持って歩き、棒を五、六本立てて莚を 巻きつけて小屋にしたし、熊をとると熊の皮を張った枠をたて合わせ、合掌小屋のようにして熊の皮を乾しながらそのしたに寝泊まりした。- 37ページ


北海道各地に鹿のおりる山(ユクランヌプリ)鹿のいつもおりるところ(ユクランウシ)という地名がある。 そこは天上で鹿の行動を支配する神が、鹿の骨のいっぱいつまった網袋を投げおろすところで、この山に大きな音がすると、ピカピカ光る新しい角を振りたてながら、 人里の方へなだれをうっておりてくるという。
  昔の生活に関係のあるものは虫のはてまで神であるのに、重要な主食である鹿と鮭とは神の存在がはっきりしないのはどうしたわけか、 鮭も天で魚を支配する神の手に握られる編袋から、海上にばらまかれるというのである。 天の神がばらまくのでなければ、空気や水のように多いはずがないと考えたかもしれない。鹿(ユク)という言葉は元来獲物という意味だったという。 - 42ページ


鹿は鍋をかけてから獲りに行ってもよいほどいたといい、日高のように雪が少なく北海道中の鹿が冬に集まる地方では、あまり肉を貯蔵する必要もなくいつも新鮮な肉が 得られたが、雪の多い地方は冬には鹿が移動するので、鹿の乾肉をつくる必要があり、焚火の上にとど松の枝をひろげて、その上に鹿肉をあげて燻製にもしたという。
  野獣の油は脂肪を煮てさまし、凝固したところを取り出し縄につるして庫にさげ、脂肪の少ない魚や穀物を炊くとき、黒百合や姥百合の鱗茎とか菱の実などと一緒に入れ、 油飯をつくった。木立の割れる寒波に耐え抜くには、多量の脂肪分が必要だったのである。 - 89ページ


・獲物は森の精霊からの贈り物であると考えるピグミー。
・死んだ人のことをできるだけ早く忘れることがよいことだと考えるブッシュマン。
・数年すれば流されてしまうような場所に死者を埋葬するピダハン。
・獲物を追って移動するエスキモー。

本書は、多くの狩猟採集民と共通するアイヌの特徴を読み取ることと、定住化の影響を読み取ることが同時にできる貴重な本です。

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「ルビリン」は東山動物園にいたアムールトラの名前です。土手で出会った子猫を迎え入れ、「るびりん」と命名しました。

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