親子間の土地使用貸借契約の解約
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2017.11.16mf更新
弁護士河原崎弘
相談(不動産)の概要:二世帯住宅をやめたい
平成20年2月、ある老夫婦が法律事務所を尋ね、弁護士に次のような相談をしました。
平成5年、私は、所有地上に建物を改築しました。そのとき、子供2人がいる長男夫婦がマンション住まいでした。そこで、私と長男は、共同して建物を建て、2所帯住宅を建築することにし、長男10分の7、私10分の3の持分で登記しました。
建築後、私達(私と妻)は1階に、長男夫婦は2階に住むようになりました。台所と風呂は1階にしかありませんので、台所は、時間で分けて使い、 長男夫婦と子供達は1階に来て風呂に入ります。
一緒に住んで半年くらいしてから、私達と長男夫婦の生活の違いを感じるようになりました。長男の嫁は、私の妻に対し、「台所の使い方が悪い、使った後が汚い」と言ったり、洗濯機を使った後の「片付け方が悪い」と言ったりするのです。そのため、 妻が身体の具合が悪くなり、2ヶ月ほど入院してしまいました。
妻が入院している間、私は、長男の嫁から食事の世話をしてもらいましたが、朝飯だけで、それも塩握り飯が1つだけ置いてあるだけとの状態でした。私はいつも食事は1人でしていました。私も不愉快な気持ちになり、自分で、コンビニで弁当を買って食べるようになりました。
その後、長男の嫁、子供たちは、私達を無視し、口をきかなくなり、ボランティアが訪問してくるのを拒否したりするようになりました。
その上、長男の嫁は、妻から私の年金が入る預金通帳を取り上げたのです。これは、私が強く言って取り返しました。しかし、これから、身体が弱くなったら、どうなるかと心配し、平成19年、夫婦で老人ホームに入りました。
しかし、老人ホームに入っても、お金が必要で必要ですので、私は、長男夫婦に家から出てもらい、2世帯住宅を取り壊し、土地を売却したいです。
訴えの提起
弁護士は、すぐ内容証明郵便にて、長男に対して、建物収去土地明渡しを求めました。長男からは返事がありませんでした。
平成20年3月、弁護士は、建物収去土地明け渡を求めて、訴えを提起しました。原告が親、被告が息子(長男)の裁判です。
長男は、「生活費の補助として月額10万円を支払うこと、地代と家賃を相殺する約束があった」して、賃貸借契約があったと主張しました。
途中、2回ほど、和解(話合い)期日が持たれ、原告は立退き料として500万円ほどを提供する案を提示しましたが、被告は、これを拒否しました。被告の弁護士は、「まさか、裁判所は解除を認めないだろう」と考え、油断している様子がありました。
判決:使用貸借契約と認めた
平成20年12月、「建物収去土地明渡し判決」がありました。判決理由は次の通りです。
本件は、親子の情誼を背景にし、親が持てる資産たる土地を提供し、子が親と同居し、その面倒を看ることを実質的目的とした使用貸借契約である。
原告らは、被告及びその家族に不信感を募らせ、老人ホームに入居し、原告と被告間の信頼関係は破壊され、親子の情誼に基づいた共同生活の継続は不可能となった。
そうすると、本件土地の使用貸借契約の実質的目的は達成不可能となった。原告が被告に本件土地を無償で使用させる実質的根拠は失われたと評価できる。原告は、民法597条2項但書きを類推適用して使用貸借契約を解除できる。
裁判所は、建物収去土地明渡しを認めたのです。
訴え提起から判決まで短期間で終わりました。それは、原告の弁護士が(土地を売りたいので早く裁判を終わらせたいとの依頼者の希望を入れ)、証拠(甲号証)と人証申請書など、原告が提出すべき書類を、ほとんど全て、訴え提起時に、提出したこと、被告も、被告側の弁護士も、(理由は不明ですが)裁判に熱心でなかったことなどを挙げることができます。
その後(控訴、和解)
長男は、控訴しました。半年後、東京高等裁判所において、父親が長男の建物を買取るとの和解が成立し、長男は、土地を明渡しました。
解説
使用貸借契約は、無償で目的物を借りる契約です。土地使用貸借契約は、借地借家法の適用はなく、借主(使用借権者)の保護は弱いです。土地建物の賃借人の権利は強く、居住権などといわれますが、土地建物の使用貸借での借主には、その意味での居住権はありません。
使用貸借契約は、次の時点で終了し、借主は使用貸借の目的物を返還しなければなりません。
返還時期が決められている場合は、返還時期
土地建物賃貸借契約のような、法定更新はありません。
契約の目的に従った使用収益の終了
使用収益が終わっていなくとも使用収益をするのに足りる相当な期間の経過
これは、契約締結後の事情の変更により、契約で定められた使用収益の目的の達成が不能と なった場合や、契約の基礎、または前提となった当事者間の信頼関係が破壊されるなどして、貸主が借主に対して目的物を無償で使用させるべき実質的な理由が欠けるに至ったような場合にも、類推適用すべきであるとの趣旨です。
具体的には、離婚、看護の放棄などで、信頼関係がなくなった場合です。
使用貸借契約締結(同時に建物新築)後の期間も重要な要素です。しかし、使用貸借契約締結後4年の時点での解約を認めた事例(下記平成3年の判決)、10年の時点で解約を認めた事例(昭和61年の判決)もあります。
ただし、38年経過しても、解約を認めない事例があります(平成2年の判決)。これは、借主が土地に対する固定資産税を負担し、賃貸借契約に近かったからでしょうか。
借主の死亡したとき
賃貸借契約のように、借主の地位は相続されません。
重要な判断基準は、貸主と借主の信頼関係が破綻したかです。
使用貸借契約は、貸主と借主間の信頼関係に基礎をおく契約ですから、信頼関係が破綻していると、解約が認められます
。
下の判例を参考にしてください。
参考条文
民法第597条(借用物の返還の時期)
@
借主は、契約に定めた時期に、借用物の返還をしなければならない。
A
当事者が返還の時期を定めなかったときは、借主は、契約に定めた目的に従い使用及び収益を終わった時に、返還をしなければならない。ただし、その使用及び収益を終わる前であっても、使用及び収益をするのに足りる期間を経過したときは、貸主は、直ちに返還を請求することができる。
B
当事者が返還の時期並びに使用及び収益の目的を定めなかったときは、貸主は、いつでも返還を請求することができる。
使用貸借についての 参考判例
東京地方裁判所平成27年6月23日判決
本件使用貸借契約には,返還時期の定めがないところ,上記(2)の認定事実によれば,原告らと被告との間には,財産や会社の所有,経営をめぐって深刻な 対立があり,本件使用貸借契約の開始時とは,貸主である原告X1と借主である被告との人的つながりの状況は著しく変化していること,Cは事業を縮小して,一定の 賃貸収入を得るのみとなっていること,原告X1は高齢で身体活動は妻である原告X2の介助を要する状況にあり,その月額収入は,月額支出を控除するとさほどの余 裕はないが,他方,被告は,Cの代表取締役として安定した収入があるほか,家族の就労による世帯収入には一定の余裕があると推認され,今後の生活における本件不 動産を必要とする緊要度は,原告らが被告を上回るものと考えられる。そして,本件使用貸借契約に基づく被告の使用期間が,本件口頭弁論終結時までの間に,
使用開 始から20年以上経過していることを踏まえると,本件使用貸借契約においては,民法597条2項ただし書の使用をするに足る期間はすでに経過しているものと認め るのが相当である
東京地方裁判所平成27年5月22日判決
そこで,当該使用貸借契約が終了したか否かについて検討する。
(2) 原告及び被告らは当初本件建物に一緒に居住していたこと及び弁論の全趣旨からすれば,上記使用貸借契約の目的は,生活の本拠として居住するものであ ったことが推認される。しかるに,被告らは,いずれも,本件建物には居住していないのであるから,被告らがそれぞれ居住しなくなった時点で,「目的に従い使用及 び収益を終わった」(民法597条2項本文)といえ,上記使用貸借契約はそれぞれ終了したといえる。
東京地方裁判所平成23年5月26日判決(判例時報2119号54頁)
原告(妻の父親)は、平成18年に至って、被告(夫)が丁原との不貞行為により梅子と春夫をもうけたことを知った。
これらの事実によれば、被告は、本件使用貸借契約の締結に先立って、一江(妻=原告の娘)及び太郎らに秘して丁原との不貞行為を続け、梅子及び 春夫をもうけていたが、更に、これらの事実を秘したまま、一江・被告夫婦の関係が円満であると誤信していた太郎から、一江・被告 夫婦の関係及び被告と太郎の関係が良好であり、かかる関係が将来も継続するとの前提で、本件土地について使用借権の設定を受けた もので、そもそも
契約の前提となる信頼関係が存しなかった
ものであるところ、一江が被告の不貞行為を知らないままに死亡すると、 その翌年には梅子及び春夫を認知し、次いで、梅子及び春夫の住民登録を本件建物一で行い、その後、春夫と顔を合わせた原告に対し て、「交換留学生を預かっている。」と虚偽の説明をし、原告は、平成18年に至って、被告の不貞行為等を知ったというのであるか ら、原告は、民法597条2項ただし書の類推適用により、本件使用貸借契約を解除することができるというべきである。
(3) よって、争点(2)に係る原告の主張は理由があり、原告は、被告に対して、本件使用貸借契約の終了に基づき、本件各建 物を収去して本件土地を明け渡すことを求めることができる。
東京地方裁判所平成17年1月21日判決
2 争点(1)(使用貸借契約の成立)について
上記認定事実1の(1)に照らすと,本件建物建築時に,亡Aと被告との間で,親子間の情誼から,本件建物建築を目的とした本件土地の使用貸借契約(以下 「本件使用貸借契約」という。)が成立していると推認することが相当である。 本件使用貸借契約の負担について検討すると,契約時に亡Aと原告夫婦は,本件土地に隣接していた自宅建物に居住し,被告とは別居しており,直ちに原告と同 居して原告を扶養することを使用貸借に伴う負担とすることが明確に合意されていたとは認められない。
しかし,被告が長男であり,亡A及び原告夫婦の自宅に隣接した本件建物に居住し,被告が本件建物においてKを経営し,亡Aから家業を継いだとみられること, 従前被告が本件建物全体を管理し,賃料を受領することについて,被告と共に本件建物の名義人であったE及びその相続人Jから被告に対し異議が述べられたことは窺え ないことなどを総合的に考慮すると,亡A及び原告夫婦の将来的な扶養の期待が存在したことは否定できないと思われ,更に,生前亡Aが2室分の賃料を自ら受領してい たことに照らすと,亡Aが死亡した後は,被告が原告を扶養するか,少なくとも本件建物全体について2室分の賃料を原告の生活費等として確保することが本件土地の使 用貸借の負担として付帯することとなったものと評価することが相当である。
3 争点(2)(使用貸借契約の解除)
争いのない事実及び上記認定事実に照らすと,被告は,原告が強制競売により自宅建物を退去した平成11年12月から約1年間,被告の自宅において原告と同 居し原告を扶養したと認められるが,平成12年12月以後,原告が老人ホームに入所してからは,本件使用貸借契約に付帯すると認められる上記負担について何ら顧慮 することなく,漫然と本件土地を使用し,更に被告は亡Aが生前賃料を取得していた本件建物の一室を賃貸し,その賃料を取得していたものである。
このような状況に照らすと,
本件土地所有者である原告と被告との間の本件土地使用貸借契約の存立の基礎となる親子間の情誼に基づく信頼関係は被告の責めに より破壊されたものと評価することが相当であり,原告からの解除が許されると考えるべきである。
そうすると,本件使用貸借契約は,原告が,被告に対し,平成13年12月19日到達した「再通知書」(甲14の1・2)により,再度本件土地の使用料を支 払うよう催告し,使用料を支払わないのであれば,本件建物を収去して,本件土地を明渡すよう請求したことをもって,上記負担の履行の催告と履行がなされない場合の 解除の意思表示がなされたと認められるから,遅くとも平成13年12月末日までには解除の効果が発生したと認められる。
被告は,担保保存義務に反するということ及び権利の濫用であると主張するが,前者の点は主張自体理由がなく,後者の点は,被告の主張を考慮しても原告の被 告に対する本件建物収去土地明渡請求が権利の濫用にあたるとは認められない。
東京地方裁判所平成16年7月21日判決
しかしながら,A及びその地位を承継した原告からすれば,B夫婦及びその家族全体の住宅用地として貸したものではあるが,本件使用貸借契約においては,やは り実子であるBがそこで生活するということが決定的な要素であること,言い換えれば,Bと被告の婚姻関係が破綻し,Bが出ていった本件土地に被告が残るというのは 本質的な事情の変更であることは否定できない。
そして,本件建物の建築資金のうち,被告が支出したのは約4分の3であり,残りの約4分の1はAが支出していること, 平成2年以降これまで約14年の期間が経過していること,旧建物についてもAが費用の一部を支出していること,本件土地上に旧建物の存在していた期間が約24年間 あり,その期間を含めると
被告は本件使用貸借契約により既に応分の利益を得ていること,Aないし原告と被告との関係は契約締結当初とは大きく変化し,現在では使用 貸借契約という無償契約を継続するにふさわしい人的関係は完全に失われていること等諸般の事情を総合的に考慮すると,本件土地の使用状況が客観的にみて契約の目的 に反するものとなった以上,その点について必ずしも被告の責に帰すことのできない面があったとしても,なお解除原因が存在する
と見るのが相当である。
最高裁平11年2月25日判決(判例時報1670-18)
木造建物の所有を目的とする土地の使用貸借につき、契約締結後約38年8か月を経過し、建物がいまだ朽廃に至っていないこと、本件建物以外に居住すべきところがないことをもってしても、使用収益をするのに足るべき期間の経過を否定することはできない。
大阪高裁平成9年5月29日判決(判例時報1618-77)
借主(子)は親から借りた土地に建物を所有し他に賃貸していた親子間の土地使用貸借についての事例です。1審では、解約を認めなかった。
2審では、親子間の土地の使用貸借契約において扶養、監護の放棄という使用借人の行為によって当事者間の信頼関係が完全に破壊されたとして、貸主(親)から借主(子)に対する解約申入れが効力を生じたと認められた。
右使用貸借契約の目的は、被控訴人甲野(子)に本件土地使用の利益を与えることのみに尽きるものではなく、むしろ被控訴人甲野が得た収益から、控訴人(親)を扶養、監護し、本件土地の固定資産税等の費用に充てることにあったものである。
ところで、《証拠略》を総合すると、本件訴訟提起当時以前の時期において、被控訴人甲野は、従前控訴人に対して行ってきた扶養、監護を打切り、これを放棄した。その後、被控訴人甲野は、控訴人に対する仕送りなども一切していない。このため、控訴人は、他の子供の世話になるなどしているものの、その生活は著しく困窮している。本件土地の固定資産税の支払も滞納している。一方、被控訴人甲野はその経済状態からみて、控訴人に対する仕送りが困難な事情にあるとは到底いえない。
そうであるとすると、本件土地使用貸借契約の当事者である控訴人と被控訴人甲野との間の
信頼関係は、被控訴人甲野によって完全に破壊されたものというべきである。このような場合、控訴人は、被控訴人甲野に対し、民法597条2項但書を類推適用し、右使用貸借契約の解約申入れをすることができる
(最判昭42年11月24日)。そうであるから、右使用貸借契約は、右解約申入れにより平成7年8月12日に終了した。
東京地方裁判所平成3年5月9日判決
以上のような事実関係の下において、原告が本件訴状によってした本件使用貸借契約の解約の適否について検討すると、そもそ も本件使用貸借契約においては、原告と被告とが契約当事者となってはいるものの、前記のような契約締結の事情に照らすと、当事者 が本件使用貸借契約を締結した基本的な動機ないし目的は、単に被告に一定の期間にわたって本件使用借地を無償で使用させること自 体にあるというよりは、原告において本件原告所有地及び本件原告居宅を長女の道子に相続させ跡を継がせることを前提として、あら かじめ被告及びその家族が原告夫婦と同一敷地内に居住し、原告夫婦の老後の面倒をみるなど、親族として相互に援助し合うというこ とにあったことが明らかである。
ところが、当事者の意図した右のような目的は、道子の病死という不幸な事態によって逐に果たすことができなくなったものである。 そして、遺された被告と原告夫婦は、いずれか一方の責めに帰すべき事由によるものというよりは、右のような不幸な事態に直面して の互いに相手の立場を思いやる配慮に欠けた言動の積み重ねによって相互に不信を募らせ、既にその間の信頼関係は破壊されてしまっ ているのであって、このような状況下においては、被告が真哉や妻弘子とともに本件建物に入居し、原告夫婦と相互に援助し合うとい うこともおよそ期待し難いものといわなければならない。
以上のような事情に照らすと、
当事者が本件使用貸借契約によって実現しようとした目的の到達は不能となったか又はその基礎若し くは前提となった当事者間の信頼関係は既に破壊され、原告が被告に対して本件使用借地を無償で使用させるべき実質的な理由はなく なったものというべきであるから、民法597条2項但書の規定を類推適用して、本件使用貸借契約は、原告のした前記の解約の意思 表示によって、終了した
ものというべきである。
名古屋地方裁判所平成2年10月31日判決
2(本件貸借契約締結後の経過)
被告吉沢は、本件貸借契約から約半年後に本件土地のうちその西側部分を除く部分に本件第一建物を建築した。被告吉沢は、本件土地に賦課される税金額について、こ れをかんまたは皇に尋ねて、あるいは自ら役所に赴いて税金額を確認するなどして、
税金額にほぼ相当する金額を地代として支払い、税金額が増加した場合には、それに 応じて地代を納めていた。
(証人服部皇、被告吉沢)
3 以上の事実によれば、かんと被告吉沢との間では、昭和二五年頃、被告吉沢がその居住用の建物を所有する目的で、期間の定めのない使用貸借契約(以下、本件 使用貸借契約という。)が締結されたものと認められる。 被告らは、本件土地の利用契約は、それにかかる税金額に相当する金員を賃料とした賃貸借契約であると主張する。
しかし、本件貸借契約が賃貸借契約と認められるためには、右地代が本件土地の利用の対価としての性格を有していなければならないが、貸借目的土地に賦課される租 税はその通常の必要費に過ぎず(民法595条1項参照)、しかも本件貸借契約は当初は無償とすることとされていたものが、被告吉沢からの申し出により、税金相当額 を支払うことになったものであることからしても、右地代が本件土地の利用の対価としての性格を有していたものとは認められない。
<<中略>>
しかしながら、
借主の居住用建物の所有を目的とする使用貸借契約において、契約に基づき建築された建物が存続し、それに借主が居住している場合には、使用貸借契 約が一時の利用目的で締結されたとか、借主が他に居住可能な建物あるいは土地を所有するに至ったなどの特別の事情がない限り、契約に定めた目的に従った使用をなす に足りるべき期間を経過したものとは認められない。
本件においては、被告吉沢は現在も本件第一建物を所有して居住しているものであり、右に述べたような特別の事情も認められないから、契約に定めた目的に従った使 用をなすに足るべき期間が経過したものとは認められない。
最高裁昭42年11月24日判決(判例時報506-37)
父母を貸主とし、子を借主として成立した返還時期の定めがない土地の使用貸借であって、使用の目的は、建物を所有して会社の経営をなし、あわせて右経営から生ずる収益により老父母を扶養する等の内容のものである場合において、借主は、さしたる理由もなしに
老父母に対する扶養をやめ、兄弟とも往来を断ち、使用貸借当事者間における信頼関係はなくなるに至った等の事実関係があるときは、民法597条2項但書を類推適用して、貸主は借主に対し使用貸借を解約できる
ものと解すべきである 。
最高裁昭34年8月18日判決(ジュリスト190-2)
他に適当な家屋に移るまでしばらくの間の一時的住居として使用収益することを目的として結ばれた建物使用貸借契約においては、適当な家屋を見つけるのに必要と思われる期間を経過した場合には、たとえ
現実に見つかる以前でも、民法597条2項但書により、貸主において解約告知することができる
。
東京都港区虎ノ門3丁目18-12-301(神谷町駅1分)河原崎法律事務所 弁護士河原崎弘 電話 03-3431-7161