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2023.7.2mf更新
弁護士河原崎弘

背任、詐欺に当たると指摘し、リベート分を返還させた

税務調査

酒井さんは、小さなS広告会社を経営していますが、この1、2年、顧客の薬の安売り会社からのチラシの注文が急激に増え、注文の処理に追われた毎日でした。デザイナーを入れ、大量に応じられる大勢ができ、売上げが伸びたこともあり、酒井さんも接待の毎日で、銀座で遊んでおりました。
ところが、そんなある日、税務調査が入りました。これは、税務署には、修正申告し1000万円ほど税金を払って終わりましたが、調査の途中で、税務署から、「下請に対する代金の支払いがおかしい」との指摘を受けたのです。

支払いの単価が高い

会社にきた請求書を調べた酒井さんは、従業員(営業)の有本の担当している下請の長島印刷からの印刷代が、他の人の分より高いことに気がつきました。それも、単価が統一されていないこと、請求書の単価が2年前から、1割から1割5分ほど高くなり、その頃から、長島印刷に対する下請金額も急激に増えているのです。有本が、最近、金回りが良くなったとの噂も、酒井さんの疑いを強めました。
酒井さんは、長島印刷が同業者に出している請求書の単価を調べたところ、長島印刷は、酒井さんの会社へは、約1割高く請求していることが判明しました。酒井さんは、長島印刷の社長を呼んで、「うちには、高く請求している。ひどいじゃないか」と言いますと、長島印刷の社長の長島さんは、「そんなことはありません」と、否定していました。

水増し請求/リベート

しかし、酒井さんが同業者に対する 請求単価を調べたことを話すと、長島さんは、あっさりと、「実は、お宅の有本さんに言われて水増し請求し、水増し分は、リベートとして有本に支払った」と、水増しを認めたのです。
酒井さんは、請求書をひっくり返し、水増し分を調べましたところ、水増し分は、合計で600万円ほどあり、そのうち500万円がリベートとして、有本が受け取っていることがわかりました。有本に問いただすと、有本もこれを認めたのです。
酒井さんは、弁護士事務所を訪れ、弁護士に相談しました。弁護士は、酒井さんに、これは犯罪(背任罪、詐欺罪)だから、「お金を長島さんと有本から返させるように」勧めました。

合法なリベート

リベートは、長島印刷から酒井さんのS広告会社に入金されていれば問題はありません。このリベートは正常な商取引です。

違法なリベート/背任

ところが、このケースでは、リベートは、長島印刷から有本個人に入っています。この場合、「有本が自己の利益を図る目的でS広告会社に損害を与えた」、すなわち、背任と認定できるのです。 弁護士は、このような場合、有本は背任罪、長島さんも背任罪の共犯、または詐欺罪にあたると、長島さんと有本に説明しました。

リベート分の返還請求

そこで、酒井さんは、有本と長島さんに、水増し分を返済しなければ告訴すると伝えて、600万円について「有本と長島さんの二人が連帯で、酒井さんの会社に返済する」旨の公正証書を作りました。
酒井さんは、有本を直ちに解雇しました。その後、有本が200万円ほど返した段階で返済が滞ったので、長島さんの希望もあり、酒井さんは、公正証書に基づき有本の預金を差押えました。このとき、15万円ほど入金がありました。その後有本は、行方がわからなくなりなりましたので、その後の分は、長島さんが返済しています。
酒井さんとしては、会社が急成長した時期で忙しく、顧客の接待に追われ、経理、特に下請に対する支払分まで目が行き届かなかったことなど、やむをえない面があるのです。しかし、営業活動も重要ですが、会社の内部体勢の整備も重要であることが、十分わかったのです。税務調査にも思わぬおみやげがあったのでした。
社内の横領、背任などの不法行為は、税務調査の際に発覚することが多いのです。したがって、税務調査がなければ闇から闇へ埋もれてしまう犯罪も多いのであり、それが会社の運命を決するときもあり、経営者としては、気をつけるべきことです。

公正証書

酒井さんは、公正証書 を作りました。公正証書を作っておけば、支払がない場合には、直ちに差押ができるからです。裁判手続きが省略できるのです。公正証書を作る費用は、それほど高くはありません。公証役場 で作ります。

刑法

第247条(背任) 
他人のためにその事務を処理する者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えたときは、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

言葉の説明/リベート(rebate)

リベートとは、売手が支払を受けた金額の一部を買手に払い戻すこと、および、その払い戻されたものをいいます。割戻しなどともいいます。
長期契約や大量契約をしてくれた買手に対する割引制度の一つとして、通常の商取引であり、契約書に書かれることも多いです。
(a)リベートを受けるのが支払った人ではなく、仲介者などの場合にも使います。土産店に観光客を連れて来た旅行業者が、店舗から、観光客が支払った金額の一定割合を受け取るような例もある。
(b)売手が購入者側の組織の特定の人に対して、受取った金額の一部を提供する場合にも使う。例えば、病院に薬剤を売った製薬会社が、その病院の購入担当者に、現金を贈呈するような例です。特定の個人が代表者(社長など)の場合もあります。
この(a)と(b)のリベートは、価格の割引という性質はなく、売買で世話になった個人に対する特別の謝礼です。
(a)と(b)のリベートでは、買手側がリベート相当分だけ高い価格で支払う結果になったり(通常の価格にリベートを上乗せした価格で買うこととなる)、また、品質について公正なチェックされずに購入が決定される可能性があり、この点からリベートは悪いイメージをもった言葉として使われることも多い。
この場合、贈収賄罪(公務員の場合)、あるいは、背任罪の対象となる。

日本ではリベートが多く、慣行化し、商品の価格がゆがめられています。建設業界では、社長個人、担当者個人が下請け業者から高額なリベートを取る例が多いです。
リベートは、支払った側が隠し、受取人の個人(通常、社長)も隠し、税務調査などで発覚することも多いです。その場合には、受取った個人が属する会社に支払われたこととし、それを個人が支払を受け、使った、あるいは、勝手に使ったこととして処理することが多いです。支払った側が経費として処理したいからです。しかし、受取った側が公務員である場合は、このような処理はできません。                      

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