弁護士(ホーム) > 弁護士による交通事故の法律相談 >
Last updated 2024.11.4 mf
弁護士河原崎弘
2回目の交通事故による損害額の算定
質問:2回目の事故
私は、客としてタクシーに乗車中、連続して、2回も高速道路で 交通事故 に遭いました。二重の事故です。1回目の事故の3か月後に2回目の事故の遭いました。
二回とも、私は後部座席で寝ていて事故に遭いました。
事故原因は、運転手の不注意でのスリップ事故です。時速110kmでの走行中の事故です。私は、1回目の事故によるむち打ち症(頭重感、右肩から右手にかけてのしびれ感)が直らないまま、通院中、2回目の事故で、さらに症状がひどくなりました。
この場合、賠償金額は、どうなるのでしょうか。
対応のかなり乱暴な1回目の事故のタクシー会社の事故係は、「1回目の事故を示談して終了しないと、2回目の事故の話が前に進まない」と言うのです。1回目の事故で受けたむち打ち症は、3か月で直ったと判断されてしまうのでしょうか。
自分の運の悪さを嘆くしかないのですが、周囲に相談できる人もなく、考え込んでしまいました。タクシー会社のヤクザみたいなプロの事故渉外係の話は本当なのですか。
相談者は、日弁連交通事故相談センター電話相談 で、弁護士に相談しました。相談料は無料でした。
回答:各事故の寄与度を考える
2度(2度,2回)目の事故の場合、従前、裁判所の 判決 は、それぞれの加害者に全損害を認めることがありました。
しかし、最近は、傷害の部位によって、加害者の責任を分けたり、損害発生についての加害者の寄与度に応じて責任を認める傾向にあります。第2の事故の加害者の責任を、全損害(休業補償、治療費、 慰藉料 )の9割と判定した判決があります。
裁判所は、第1の事故の加害者に対する損害賠償額は、全損害額から、第2事故によって生じたと考えられる損害額を除いて判定するのです。
同様に、第2の事故の加害者に対する損害賠償額は、全損害額から、第1事故によって生じたと考えられる損害額を除いて判定するのです。
要するに、何らかの基準で、2つの事故の損害を分けるのです。
要するに、裁判は、2つの事故を比較し、車の速度などを基準に、損害に対する寄与度を決め、寄与度に応じて損害を分けて、それぞれの責任を認めています。
寄与度を分けることができない場合は、共同不法行為として、それぞれに、全損害につき連帯責任を認めています(民法719条1項後段)。
相談者の場合、第1の事故の加害者に対する損害賠償請求金額が3か月の傷害分のみとは判定されません。
タクシー会社の「1回目の事故を示談して終了しないと、2回目の事故での話が前に進まない」との話はおかしいです。
被害者としては、自分の判断で、全損害金額を2つに分けて、2つの会社、2人の(自動車)運転手に対し、それぞれ損害賠償請求をしたらどうでしょうか。
加害者が不誠実なら、加害者を業務上過失傷害罪で 告訴 したらどうでしょう。そうすると、警察に捜査義務が生じます。 示談 にも良い影響があるでしょう、
- 東京地裁昭和47年5月17日判決(判例タイムズ278-225)
2度の交通事故により二重の頭部外傷を受けた被害者のケースでは、第2事故の加害者に対する請求につき、第1事故によつて生じたと認められるものに限つて相当因果関係を否定し、第2事故による損害のうち1割を控除した
ここでは、2つの同種不法行為につき、共同不法行為による連帯責任を否定した。
- 名古屋地方裁判所平成4年9月7日判決(判例タイムズ811号177頁)
頸椎等の疾患のある女性が二度の交通事故により脊髄損傷の傷害を負った場合、二度の交通事故と身体的素因が寄与しているとし、第一次事故の寄与割合を5割5分、第二次事故の寄与割合を2割5分、身体的素因の寄与割合を2割としました。
- 大阪地裁平成7年6月30日判決(交通民事判例集28巻3号951頁)
走行中の被害車AにB車が追突し、停止中のところにCが追突した事故において、玉突二重衝突の最先端の被害車A車に搭乗の被害者の損害について、B車、C車の所有者に連帯責任を認めた。
- 東京地方裁判所平成16年1月19日判決
第1事故は平成11年5月19日午後8時ころ,原告運転の原告車が交差点を右折のため,片側3車線道路の中央寄りの右折車線で停車していたところ,被告A運転のA車に追突され,原告は腰痛及び頸部などの傷害を負った。
第2事故は平成11年10月20日午後7時ころ,被告BはB単車を運転して,原告車に追従して時速30キロで進行してたが,原告車が停止したのに気付き,急ブレーキをかけたが間に合わず,原告車にB単車の前部を追突させ,原告に頚椎捻挫等の傷害を負わせた事案で,裁判所は,被告Aに対して426万余円を,被告Bに対して221万余円の支払いを命じた
- 東京地方裁判所平成17年3月24日判決(判例時報1915号49頁)
後遺障害の程度及び第一事故及び第二事故の寄与度
(ア) 以上によれば、外傷性頸部症候群による前記イの症状が後遺障害として残存したといえるところ、その症状の内容や症状
固定後も平成16年現在まで星状神経節ブロック注射を受けていることなどに照らせば、その症状は今後もなお相当期間は緩解し難い
状態にあるといえ、原告甲野の後遺障害は、12級12号(局部に頑固な神経症状を残すもの)に該当するというべきである。
そして、
原告甲野の後遺障害の内容・程度や、後記(イ)のとおり、心因的な要素も関わっていることも考慮すると、原告甲野は、症状固定時
から10年間にわたり、労働能力を14%喪失したと認めるのが相当である(なお、前記のとおり、原告甲野の平成7年事故による後
遺障害による症状(別件判決において、12級12号に該当すると認められている。)は、ある程度軽減していたところ、それを超え
る症状が生じたことは前記のとおりであるから、現在の症状は12級12号に該当すると認めた上で、第一事故前の症状を後記(イ)のとおり寄与度として考慮することとする。)。
(イ) 他方、原告甲野は、前記のとおり、第一事故直前まで、軽減していたとはいえ、なお平成七年事故の後遺障害のバレー・
ルー症候群の症状が存在していたのであるから、第二事故後も同症状が継続していたとみるのが自然である。また、原告甲野は、前記
の治療経過をたどっているが、外傷性頸部症候群の治療としては長期間を要し、治療が遷延化しており、主治医である金医師も原告甲
野の心因的要素を肯定していることからすると、その治療経過には心因的要因も影響しているといわざるを得ない。
これらの事情からすれば、第二事故後の原告甲野の症状には、第一事故前からの症状や、原告甲野の心因的要因による症状悪化が相
当の割合を占めるというべきであり、その寄与度は50%を下らないとみるのが相当である。
また、前記(3)アのとおり、第二事故後の症状には、第一事故による症状が影響を及ぼしていたというべきであるから、第一事故
による症状は後遺障害にも影響を及ぼしていると考えられるところ、前記一認定のとおり、第一事故と第二事故の衝撃を比較すれば、
第一事故の衝撃の方がはるかに軽微であったものと認められることや、前記認定の治療経過や第一事故後と第二事故後の症状に照らせ
ば、第二事故後の症状及び後遺障害に対する第一事故と第二事故の寄与度は、10対90と認めるのが相当である。
よって、第一事故前からの症状及び心的要因による症状悪化の寄与度50%を除いた原告の第二事故後の症状等に対する第一事故の
寄与度は5%(50%×10%)、第二事故の寄与度は45%(50%×90%)と認められる。
- 東京地方裁判所平成23年2月28日判決
被告が運行供用者責任を負う第1事故(先行車両に被告タクシーが追突)で,被告車に乗車して負傷した被害者Aが,原告が運行供用者責任を負う第2事故(同Aが乗車するタクシーに原告タクシーが側面衝突)により更に負傷し,その損害を原告及び被告との間で締結していた自動車保険契約に基づき,損害保険会社が損害を填補したところ,原告及び被告が,相互に,共同不法行為者間の求償権を主張し、填補額の一部支払を求めた事案であるが,裁判所は,被害者の傷害に対する第1又は第2事故の寄与度は,いずれも50パーセントが相当とし,自賠責保険金は、被保険者の損害賠償債務の負担による損害を填補するものであるから,共同不法行為者間の求償関係は,被保険者の負担部分に充当すべきであるとして,原告の請求を認容し,被告の請求を棄却した
-
東京地方裁判所平成28年4月26日判決
原告は,本件事故が発生した日の翌日である同年5月18日,△△整形外科クリニックの医師に対し,本件事故により別件事
故による症状が増強したと訴えていること(乙4)からすると,原告は,本件事故が発生したとき,別件事故による症状がまだ残存しており,家事等の労働に一部支障
があったと推認されるから,本件事故による休業損害の算定に当たっては,基礎収入を前記350万2200円とするのではなく,その9割である315万1980円
とするのが相当である。
法律
民法第719条1項
数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも、同様とする。
参考:損害賠償算定基準2016(赤本)下巻
登録 Feb. 4, 1998
神谷町 河原崎法律事務所 弁護士河原崎弘 03−3431−7161