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2013.3.7mf更新

刑事・民事の時効が完成したように見える場合の加害者に対する責任追及

弁護士河原崎弘

質問

今度の北朝鮮による拉致の場合、ほとんどのケースで、拉致から 20 年以上経過しています。多くの人が死亡ということです。国内の拉致の協力者は、一部、住所、氏名が判明しています。
やはり時効によって、遺族は、実行行為者ないし北朝鮮に対し、告訴、ないし、民事で損害賠償責任を追及する裁判はできないでしょうか。
相談者は、東京の弁護士会の電話法律相談で、相談しました。

回答

国内に拉致の協力者は、刑法上は幇助犯として刑事責任があり、民事上は共同不法行為者として損害賠償責任があります。しかし、時間が経過しました。

犯罪の 公訴時効 が完成すると検察官は犯罪者を起訴できなくなり、その結果犯罪者を処罰できなくなります。
拉致は、国外移送目的で誘拐または略取した罪にあたり、法定刑は、「 2 年以上の有期懲役」です(刑法 226 条)。公訴時効期間は 7 年です( 刑事訴訟法250条 3号)。
ここまでは普通の考え方です。拉致被害者はこの後、北朝鮮から出国できなくなります。これは監禁罪(刑法220条)でしょう。国外移送目的で誘拐または略取した罪と監禁罪は、(両罪の犯人間に意思の連絡があれば)牽連犯として1罪として扱われます(判例)。公訴時効の起算点は、監禁罪が終了した時点です(被害者の死亡時あるいは生存者については解放された時=現在も監禁罪は続いている)。
このように考えると、犯人が国内にいても公訴時効が完成していない場合があります。
それにしても、公訴時効は短いですね。命にかかわる重大な犯罪の場合、法律を改正して公訴時効期間を伸ばす必要があります。

公訴時効が完成すると、犯人を逮捕ができないし、例え起訴しても(初めから公訴時効期間満了がわかっていれば、検事は起訴しません)、判決は免訴です。
国内にいる拉致の協力者については公訴時効は完成している場合もあるでしょうが、被害者のその後の状況がわかりませんので、公訴時効が完成したか、正確にわかりません。 そこで、告訴告発 して捜査権を発動させることが、事実の解明、被害者の救済、再犯の防止になります。

犯人が国外にいる場合、その期間は時効は停止します( 刑事訴訟法255条 1 項)。従って、国外にいる拉致の実行犯、協力者(幇助犯)については、公訴時効は完成していません。
但し、拉致が国外で、外国人によって実行された場合は刑法の適用はないので追求できない(国外犯、刑法 2 条)。

不法行為に基づく民事の 損害賠償請求権の時効消滅 期間は、被害者などが、損害および加害者を知ったときから 3 年、あるいは、不法行為時から 20 年です(民法 724 条)。20 年は除斥期間ですので、中断がありません。拉致から 20 年を経過すると、損害賠償請求はできないのです。
しかし、「不法行為時」とは、不法行為がおこなわれたときですが、不法行為の後に損害が発生した場合は、損害発生時とされています。
北朝鮮で、死亡した被害者は殺された蓋然性が高く、北朝鮮は恐怖政治をおこなっているテロ国家ですから同国へ拉致することは危険であり死に結びつく蓋然性は高く、拉致と死亡の間に相当因果関係はあると考えられます(平成14年10月2日、拉致調査団の発表では、殺されたとの証明は困難です)。国外にいる加害者を訴える場合で時効の起算点を損害発生時(死亡時)とすると、未だ民事上の時効は完成していません。
さらに、上述のように拉致と監禁の間につながりがあれば、監禁は損害と考えられます。そうすると、(生存者については、監禁行為が継続中であり)時効の起算点はさらに後になります。

現時点では、遺族である法定相続人(民法 887 条 - 890 条)は、拉致の実行行為者(犯人死亡の場合は相続人に対し)、協力者、北朝鮮に対し、民事で損害賠償請求をすることができる可能性があります。管轄裁判所は(被告の住所地の裁判所の他に)、次の通りです。 「日朝国交回復は歴史的な重大事であり、10 人ほどの命のためにこれを妨げることはできない」と、考えているのが外務省です。しかし、国民の保護も外務省の仕事です。日本国として拉致による被害賠償請求を北朝鮮に求める話もあります。被害者は、いずれ歴史の大きな流れの中に埋没します。
そこで、国内にいる拉致の協力者に対し、共同不法行為についての損害賠償請求の訴えを、国内の裁判所に提起することが現実的な方策でしょう。その場合、(実効性があるかは別として)国外にいる犯人などに対する訴えを併合して提起する方法もあります。

金正日は、北朝鮮がテロ国家であることを認めました。これで、朝鮮総連などが金正日体制から離れ、金正日体制の崩壊につながる可能性がありますね。
現在の外務省も一度壊して、国会議員と官僚を接待することを目的とする省と、外交と邦人保護を目的とする省を別々に作るとよいです。
10月15日には生存者が一時帰国しました。しかし、歴史の流れとしてみても、これで日本の安全が保障されたわけではなく、安易な経済援助は危険です。
しかも、これら全ての変化の流れは2001年9月11日以降のアメリカのテロ国家に対する強行態度に基づくものです。その点からも、安易な人気取りの経済援助は避けるべきです。
2002.9.28