弁護士にとって危険な依頼者/対処が難しい依頼者(依頼人)

河原崎法律事務所(ホーム)
2017.6.9mf更新

パーソナリティ障害

弁護士は、国から免許を受けていますが、公務員ではありません、民間人です。弁護士は、国から報酬を受けてはいません、依頼者から受け取ります。 ですから、弁護士は、依頼者の利益のために行動します。

ところで、公務員と同じように、弁護士に、事件を引受ける義務があると考えている人がいます。さらに、弁護士は依頼者の要求を何でも受け入れる義務があると考えている人がいます。
しかし、弁護士は、受任にふさわしくないと考えた事件は、受任しません。不当な目的(例えば、相手を苦しめるだけの目的)の事件は、受任しません。後でトラブルになりそうな事件もそうです。

強引に独特な自己主張をしたり(自己の考えに固執する)、 自分で書いた膨大な書類を持ち込んで、「読んでくれ。証拠として提出してくれ」と要求したり、裁判所に直接電話をして、事件内容につき、「文書は偽造だから、鑑定してくれ」など、唐突な要求をする依頼人がいます。裁判所は、通常、「代理人がついているのですから、代理人を通して連絡してください」と答えます。
弁護士は、このような独特な主張をする依頼者の意味のない要求に応じることは、できないでしょう。弁護士は、自分の専門的知識に基づき独自の判断で事件を処理します。そのため、依頼者を説得します。
だが、この説得に応じない依頼者がいます。 依頼者が、「それなら、弁護士会に苦情を出します」と言うことがあります。実際、弁護士会に対し、このような苦情相談があります。しかし、弁護士会は、具体的な事件処理について弁護士を指示、監督する事はありません。

このような 誤解に基づくトラブルの多くのは、話し合いで解消できます。しかし、話し合いをしても誤解が解消できない場合もあるのです。 弁護士が、事件の引受けを断わるケースは、このように依頼者がトラブルを起こしそうな場合(異常な場合)です。
このような病的ないし病気の依頼人(特徴は、自己中心の考え)は、病院では、多くは、パーソナリティ障害と診断されています。かっては、精神病質あるいは性格異常、次には、人格障害と呼ばれました。 専門の医師の説明によると、患者自身は、そのような病名を使用せず、「うつ病」と自称する場合が多いようです。真実は、うつ病ではなく、人格障害です。 そのような ネット記事もあります。

このような人は、常に周囲とトラブルを起こしています。誠実な人に対しては、攻撃的で執拗な行動にでるのです。弁護士会の苦情相談においても、このような申立人が、時々、います。
このような依頼人がいることは、弁護士が国民の広い範囲に浸透していることが原因でもあるようです。今までは弁護士に縁がなかった人も弁護士に頼めるようになったのです。よいことですね。しかし、弁護士も、そのような依頼人(モンスター)がいることを理解して対処する必要があるでしょう。

弁護士の基本的対処方法

相談の場合

ポイントは下記3つです。 自分の事務所で、モンスター相談者から相談を受けた場合、基本は、丁寧に、話を聞いてあげることです。30分の時間があるなら、半分以上、6割くらいの時間は、話を聞く時間にあてます。 そして、「そのようなことなら、大変ですね」と、まず、共感してあげることです。相談者の言うことを否定しないことです。
「電波で、Aさんが自分をコントロールしている」のような相談なら、「そうですか。大変ですね」と相槌を打ちます。 「そんなことはありませんよ」等と答えて、相談者の言うことを否定すると、相談者を怒らせます。このような回答は避けるべきです。
依頼者に対しては、弁護士は、公平、公正な立場で対応すべきではなく、依頼者の立場に立った対応を要求されています。有罪かも知れない被疑者、被告人について、有罪と主張するのではなく、無罪と主張することを要求されているのです。

忙しい弁護士が、気を遣いながら、このような対応をすることに、どれほど意味があるかは、疑問もあります(本来は、医師の仕事です)。しかし、モンスターに対しても、1人の人間として対応することが、必要でしょう。聞いてあげることで、相談者の悩みが 解決することもあります。
相談者の話を否定しないで聞き、最後に、「この問題は、あなたが一番信頼できる人に、まず、相談すると良いですね」と、柔らかな回答が必要です。
市役所、区役所など外部の法律相談所において、この種の相談者が来た場合は、さらに、相談所に迷惑をかけない配慮が必要でしょう。やはり、基本は、話を否定しないで聞いてあげることです。

ほとんどの弁護士は、相談カードに、相談者に問題があることを記載しません。後で、個人情報開示請求され、相談カードの記載を見た相談者から苦情が出て、トラブルになるからです(個人情報の保護に関する法律25条1項)。真実ではなく、相談者の立場からの記録でよいのです。
なお、女性の相談者の場合には、セクハラにならぬよう注意が必要です。

事件の受任

相談を受けた際、トラブルになりそうな依頼者とわかっていたら、トラブルを覚悟で引受けるか、事件を引き受けないかを決断します。後でわかった場合は、辞任するか否かを、その時点で決断します。 これは事件の内容と関係します。依頼人の被害妄想的な事件の場合は、誰でも受任を断るでしょう。通常の事件の場合は、難しい問題ですが、弁護士が依頼人と 協力して事件を、処理することは難しいです。
事件を引受ける場合は、事件処理に手間がかかること、最後には、依頼人は、弁護士を攻撃してくる可能性があることを覚悟する必要があります。要するに、自己犠牲(簡単に言えば、我慢)の覚悟が必要です。紹介者(個人の紹介者あるいは弁護士会など)には、詳細な報告が必要です。

説得は無理であることを前提に、弁護士としては、表面上は丁寧な態度で、内心は、(やってあげるとの心理状態は、思い上がりの気持ちを生じさせる危険があることに気をつけて)、あくまで、誠実に対処する必要があります。
質問に答える場合も、気軽に答えず、用心深く、きちんと調査した後に、正確に答える必要があります。答えは、 全て、原則を答える。めったにない例外的事柄を説明すると、誤解されます。冗談は、誤解されるので、禁止です。相手は、正常ではありません。油断してはいけません。隙を与えては、いけません。
これらは、トラブルを引き起こさないために大切なことです。
和解をすると、後から、「意に反する和解」とのクレームが出ます。原則として、和解をしないで、判決をもらうことです。
本人訴訟を勧めるとの方法もあります。

市民のための法律事務所

市民のための法律事務所でありたいと 理想を持ち、実行している事務所があります。受任を断らない方針です。多くは、1事件を弁護士2人で受任しています(この方法は、メリットもありますが、安い弁護士費用で引受けると、弁護士は、多くの事件を抱え、忙しく時間的余裕のない状態に陥ります)。理念は 良いでしょう。
ところが、続けて、モンスター依頼人から、クレームが出ました。

遺産分割事件で、遺産の金額が大きいので、弁護士は、税理士を紹介しました。しかし、依頼人は、税理士に相談しましたが、相続税申告の依頼はしませんでした。心配した税理士は、相続税の申告期限の直前、弁護士に注意の電話を入れました。しかし、忙しい弁護士は、聞き流してしまいました。
その結果、依頼人は、申告期限を徒過し、 無申告加算税約800万円、延滞税約300万円を課税されました。
相続税申告の件は、当初の委任契約書に入っていないので、弁護士に責任は、ないケースでした。しかし、モンスター依頼者のため、弁護士は、 紛議調停、懲戒手続き、損害賠償金請求裁判に煩わされ、ますます、忙しく、時間のない状態に陥りました。

さらに、この弁護士は、別の損害賠償請求事件で、裁判期日前に、打ち合わせをし、依頼人の同意を得て和解したのですが、和解の席に依頼人を立ち合わせなかったことがありました。
和解内容は、ほぼ、事前の打ち合わせの通りでした。依頼人を和解の席に呼ばなかったため、裁判終了後、依頼人から、紛議調停、懲戒申立、損害賠償請求訴訟が提起されました。弁護士が依頼人に隙を与えてしまったのです。この依頼人の目的は、報酬支払い回避です。依頼人は、調停の席で、調停委員に対し、「弁護士費用を請求し続けるなら、雑誌に記事を書くと伝えてくれ」と言っていました。
これらの依頼人は、モンスターであることは、すぐわかる人でした。しかし、依頼を断らない旨を理想としたこの事務所は、続けて、大変、無駄な時間を使わされる状況に陥りました。
受任を断らない場合は、後に発生するトラブルについての覚悟が必要です。

控訴事件の受任

気をつけねばならないことは、控訴審です。このような依頼人は、判決に不満です。控訴を希望します。控訴審は、ほぼ、最終的な裁判所です。しかも、弁論期日は、原則として、1回しかありません。控訴審で一審判決が取消される可能性は2割前後です。 通常の依頼人の場合でも、このことを、十分、知らせる必要があります。 受任契約書の中に、弁論期日が1回しかないことを記載する必要もあります。
依頼人は、2審判決に対しても不満を持ち、次には、担当した弁護士を的に、 紛議調停申立、 懲戒 申立、損害賠償請求の訴を提起します。巻き込まれた弁護士は、意味のない無駄な時間を遣わされます。

統合失調症の例

ある公益法人からの紹介で56歳の女性が法律事務所を訪れ、離婚訴訟を依頼しました。夫も離婚を望んでいましたので、財産分与と慰藉料額が争点でした。財産としては太洋村にある1000万円ほどの家がありました。
女性はこれを「全部欲しい」と主張していました。離婚に際し、婚姻生活で得た全ての財産を取得するのは難しいです。依頼人の主張は、不可解でした。理解できないので、弁護士が、「あなたの主張を準備書面にしてまとめるので、紙に書いてきてください」と言いました。すると、女性は公益法人へ行き、「弁護士が話を聞いてくれない。親切ではない」と訴えました。

公益法人の担当者も、女性に手を焼きました。担当者は女性の言っていることが理解できません。担当者は、女性が、病的で、自己の考えに固執し、わからない人だと気が付きました。担当者は、弁護士に対し、「私もあの人が何を言っているかわかりません。先生が、『紙に書いてください』と言った気持ちがわかります。この人の場合、和解をすると苦情が出ますで、判決で事件を解決してください」と、アドバイスしました。
たとえ裁判上の和解に、依頼者が立ち会っていても、依頼者が弁護士に対し、和解につき苦情が出ることがあります。依頼者が、紛議調停申立をすることもあります。和解をすると、「勝手に和解した」と苦情を申立てられることがあるのです。そのような場合は、できるだけ(裁判上でも)和解は避けるべきでしょう。
裁判では、女性は、毎期日ごとに、自分が書いたメモを持参し、証拠として出すよう弁護士に要求しました。
女性は、和解の席でも、裁判官と(怒鳴りあって)言い合いをする始末でした。

結局、和解をするどころではなく、判決が出ました。離婚及び財産分与は認められましたが、慰藉料は認められませんでした。もちろん、判決が女性に認めた財産分与は、太洋村にある家の持分は 1/2 だけでした。 なお、元夫の準備書面には、この女性には、統合失調症の病歴があると記載されていました。
弁護士は、面倒なのと、どうせ払わないと考え、トラブルにまきこまれるのを嫌って、報酬の請求もしませんでした。
6年ほど経過してから、女性は弁護士会へ「悪い弁護士がいる」と言って、苦情の申立に来ました。しかし、その日は、「時間がないので、後日、また来ます」と言って、帰りました。帰り際に、「私は天皇陛下の親戚なのです」と言ったそうです。
もちろん、天皇陛下の親戚ではないでしょう。
弁護士としては、もっと早く、女性の態度に気が付き辞任すべきでした。弁護士が、「何とか、うまく処理してあげよう」と考え、善意の気持ちがいけなかったのです。このような依頼者の場合、行動が直ることはありません。辞任をしないと、トラブルが発生し、後で、無駄な時間を使うことになります。
幸いなことに、この女性は、その後、弁護士会には来ませんでした(入院したと推測しています)。

このような自己の考えに固執して譲らない依頼者は、結構、多いです。弁護士としては、初めから受任を断るか、途中から、危険とわかった場合は、できるだけ早く、辞任する方法しかありません。
弁護士が自己防衛的な事件処理をすることに批判的意見もあるでしょう。しかし、このように対処が難しい人がいることも事実です。このような依頼者に対処することは、本来、医師の仕事なのでしょう。

コメント:弁護士は楽な仕事

民事の弁護士さんの仕事はサービス業の一つだと思うのですが、違うでしょうか。民事の場合依頼者は顧客だという感覚は弁護士さんにないのでしょうか。
受任拒否ができるというのはわかります。しかし、消費者から見れば消費者に不利な制度ですね。受けるか受けないか分からないのに弁護士事務所に行き、時間とお金を費やさなくてはならないシステムがよくわかりません。
時間とお金の無駄のうえに弁護士は商売しているのですか。いい商売ですねとしか言いようがありません。弁護士会が弁護士の数を制限しようとしているのも納得です。
2008.12.9

弁護士の仕事はサービス業

最近は、弁護士費用も弁護士の数も自由化されました。弁護士の数を増やし、競争させる流れにあります。これは、国民(実際は、官僚)が決めたことで、弁護士や、弁護士会が決めたことではありません。弁護士会は、国家の政策決定について、ほとんど力がありません。そのため、政策決定から廃除されまいと、弁護士会は、国家に擦り寄って、政策決定に参加しているのが実情です。
しかし、司法試験合格者を500名から一挙に3000名にすることは、机上の決定との感があります。戦争中、陸軍参謀が、机上の作戦を決定し、多くの兵隊を死亡させました(大部分は、餓死です)。急激に弁護士の数を増やした結果(平成25年現在、約2200名)、法律事務所に就職できない弁護士も出てきました。政策決定者には現場についての認識が重要です。
弁護士の数については、増加に賛成する弁護士(会)もあり、それに反対する弁護士(会)もあり、一概に言えません。これも、国民が決めたことです。
自由な社会では、依頼者が委任するか、弁護士が受任するかは、本来、自由です。依頼者が弁護士事務所に行き、そこで、依頼人と弁護士が相談して依頼するかを決める以外に良い方法があるでしょうか。

弁護士の保有する個人情報の削除を求める苦情

現在は、個人情報と騒ぎすぎる風潮があります。元依頼人から、元代理人である弁護士に、依頼中に送ったpc中のメールや、ファックスの削除を求める苦情申立もあります。
紛議事件の相手方である弁護士は、「資料は、元依頼人から、訴えがあった場合、証拠が必要である」として断っていました。これなどは、濫訴に近い苦情申立です。
Jan. 24, 2002   メール