弁護士会の紛議調停は公平か

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2023,7.23 mf更新

相談

私は、土地明渡の裁判 を弁護士に依頼し、1審判決は勝ち、2審で和解しました。和解で、私は和解金1千万円を支払うことになりました。裁判は1年半ほどで終わりました。
事件は成功しましたが、私は、弁護士の事件処理に不満があります。和解の席で弁護士は、ほとんど、しゃべらなかったこと、陳述書を私たちに作らせたこと、私は、和解に反対ですが、弁護士が勧めるので、和解せざるを得なかったことなどです。

こんな事件処理なのに、弁護士は、報酬として268万円を請求してきました。
私は、不当な弁護士報酬と思いますので、弁護士会 へ紛議調停の申立を考えております。弁護士会の紛議調停では、弁護士が弁護士をかばうことはありませんか。紛議調停は公平ですか。

弁護士の質問

情報不足です。 この質問に回答するには、いくつかの点を明らかにして戴く必要があります。次の点を明確にしてください。

相談者の補足説明

弁護士の回答

あなたの弁護士の報酬請求額は妥当といえます。

和解の席で弁護士は、ほとんどしゃべらなかったと言っても、あなたが承諾した和解が成立したのですから、弁護士は必要な発言をしたのでしょう。
「陳述書を私(依頼人)たちに作らせた」とは言っても、1審で勝ったのですから、弁護士は放置したのではなく、必要に応じて手を入れたのでしょう。あなたが、和解に反対したと言っても、弁護士は、依頼者の意思に反して和解を成立させたとは言えないでしょう。
あなたの主張は、筋が通りません。しかし、この程度のことで、お金のために紛議調停の申立をする依頼人は多いです。マナーには反しますが、紛議調停の申立をすること自体は問題ないでしょう。
依頼人と弁護士間で弁護士費用(報酬)について紛争が生じたら、紛議調停手続きでこれを処理できます。 紛議調停は、法律(弁護士法 41条)に基づく制度です。 弁護士は、普通、紛議調停の申立をされることは不名誉と考え、解決に努力するでしょう。事件処理の不手際があったことでなく、そのような依頼者を持ったことを不名誉と考えるでしょう。さらに、弁護士会の規則により、弁護士は、月1回くらいの紛議調停期日に、出頭する義務があるのです。弁護士にとって負担です。この点でも、弁護士は、報酬を、若干、減額してトラブルを解決する努力する可能性があります。

紛議調停の申立も乱訴が多いです。極端な申立では、法律相談の回答が間違っていたとし、相談料5400円と請求のはがき代52円を請求した例がありました。
大雑把に言って、紛議調停申立のうち、5%位はまともな申立(弁護士に落ち度があります)です。申立のうち、20%くらいは、調停が成立し円満解決しています。成立した調停のうち、半分以上は、弁護士が、申立をされることは不名誉と考え、譲歩しています(最近の傾向として、おかしな弁護士が多いです)。紛議調停申立の多くは無理な申立であることを考慮すると、これは高い解決率です。
弁護士職務基本規程第26条には、弁護士と依頼者の間で「紛議が生じたときは、所属弁護士会の紛議調停で解決するよう努める」と定められており、弁護士が依頼者を被告として直ちに訴訟を提起することは慎重であるべきものとされています。
ある弁護士会における紛議調停統計は次のとおりです。

ある弁護士会における調停成立数
前年度からの継続数新規受付数調停成立数
2012.1.1〜12.31426023
2011.1.1〜12.31477123
2010.1.1〜12.31467829
2009.1.1〜12.31208525
2008.1.1〜12.31295926

調停成立取下げ不成立調停しない係属中
2016.1.1〜12.31321034228
2020.1.1〜12.31191232138
2020年の中に、この他に、「当然終了4件」があります。

調停成立取下げ不成立調停しない係属中
2022.1.1〜12.3120841523
2022年の中に、この他に、「当然終了1件」があります。

紛議調停が公正かとの点について述べます。紛議調停は3人の調停委員がおこないます。3人とも弁護士です。弁護士には仲間意識から、相手方となった弁護士をかばう気持ちがあるでしょう。しかし、この気持ちは、組織に属していて、組織を守ろう、仲間である公務員を守ろうとする公務員とは全く異なります。
弁護士は、互いに独立して仕事をしていますので、互いに競争相手なのです。弁護士も通常の人なのです。どんな偉い人でも、他人を妬む気持ちがあり、相手を競争相手と見る気持ちがあります。このため、紛議調停の申立をされた弁護士は、「紛議調停委員が『紛議調停の申立をされただけで、おかしな弁護士だと考えている』との偏見を持っている」と感じることがあるそうです。
弁護士には、上記2つの相反する気持ちがあります。
しかも、紛議調停には強制力がありません。不公平と感じたら、調停案を拒否すれば済むことです。
事件を担当した3人の紛議委員は報告書を書きます。この報告書に基づいて、月1回、20人ないし40人で構成する全体委員会で討議されますので、さらに、公平性が確保されています。紛議委員会での調停は公平と考えてよいでしょう。心配ありません。

紛議調停について関連質問

この紛議調停というものは、依頼者が相手となる弁護士の所属する弁護士会に対して申立書を提出した場合、「まずその弁護士会の会長がそれを見て紛議調停の必要ありと認めた場合に限って紛議調停委員会に指示をすることで動き出すものである」と某弁護士会から説明されました。
紛議調停の申立をすれば必ず紛議調停委員会に伝えられて、物事が進行していくものと思っていましたが、そうではないようです。
いかがですか。

回答

希に、そのような扱いがあります。
紛議調停の申立が極端に不適切な場合です。
明らかに嫌がらせ目的の申立や、業務妨害目的の申立の場合、調停を開始しません。
実例として、判決で権利が否定され、確定したにもかかわらず、その後、約7年の間に、約10回、紛議調停の申立をした例がありました。このような場合は、弁護士会は、調停するに適当でないとして、調停をしません。
不当な目的での紛議調停の申立ては不法行為になる場合もあります。

(第二東京弁護士会紛議調停委員会規則12条)
委員会は、事件が調停するに適当でないと認めるとき、又は当事者が不当な目的で調停の申立をしたと認めるときは、調停をしないものとして事件を終了させることができる。

判決


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2005.8.18