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2023.1.13mf更新
会社の債務についての取締役の個人責任
質問
前に勤務していた会社では、私は取締役でした。3年前に退職しましたが、現在も、取締役の登記は残っています。
最近、その会社が倒産するとの噂があります。代表者が集金した金を取り、不渡りを出すそうです。その会社は債務が約7000万円あるそうです。
会社が倒産した場合、私は取締役として責任がありますか。
相談者は法律事務所を訪ねました。
回答
相談に応じてくれた弁護士の回答は次の通りでした。
あなたは、法律上は、退任(辞任)したけれども、登記が残っている状態です。
会社は、取締役個人とは、法律的に別の存在(人格)ですから、取締役個人は、原則として会社の債務に責任を負いません。
しかし、取締役個人に悪意または重過失がある場合は、取締役個人は、第三者(会社の取引先など)に対して責任を負います(会社法429条)。
ここで言う悪意または重過失とは、取締役の会社に対する任務違反についてです。会社の重要な書類に虚偽事項を書いた場合は、これに当たります。責任があるのは、取締役、会計参与、監査役、執行役、会計監査人などです。名目的な(名前を借りただけの)取締役も、これに当たるとも判例もあります(下記判決)。
あなたのような場合は、会社に対し、内容証明郵便 で 、退任したことを伝え、(登記があると、退任したことを主張し難いですので)退任の登記をするよう求めて、退任したことの証拠を残しておくべきでしょう。
法律
(役員等の第三者に対する損害賠償責任)
会社法第429条
役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。
2 次の各号に掲げる者が、当該各号に定める行為をしたときも、前項と同様とする。
ただし、その者が当該行為をすることについて
注意を怠らなかったことを証明したときは、この限りでない。
一 取締役及び執行役 次に掲げる行為
イ 株式、新株予約権、社債若しくは新株予約権付社債を引き受ける者の募集をする際に通知しなければならない重要な事項についての
虚偽の通知又は当該募集のための当該株式会社の事業その他の事項に関する説明に用いた資料についての
虚偽の記載若しくは記録
ロ 計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書並びに臨時計算書類に記載し、又は記録すべき重要な事項についての虚偽の記載又は記録
ハ 虚偽の登記
ニ 虚偽の公告(第四百四十条第三項に規定する措置を含む。)
二 会計参与 計算書類及びその附属明細書、臨時計算書類並びに会計参与報告に記載し、又は記録すべき重要な事項についての虚偽の記載又は記録
三 監査役及び監査委員 監査報告に記載し、又は記録すべき重要な事項についての虚偽の記載又は記録
四 会計監査人 会計監査報告に記載し、又は記録すべき重要な事項についての虚偽の記載又は記録
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(登記の効力)
会社法第908条
この法律の規定により登記すべき事項は、登記の後でなければ、これをもって善意の第三者に対抗することができない。登記の後であっても、第三者が正当な事由によってその登記があることを知らなかったときは、同様とする。
2 故意又は過失によって不実の事項を登記した者は、その事項が不実であることをもって善意の第三者に対抗することができない。
判決
- 最高裁判所昭和63年1月26日判決
取締役を辞任した者は、その後なお積極的に取締役として対外的または内部的な行為をあえてしたとか、会社の代表者に対し辞任登記を申請しないで不実の登記を残存させることにつき明示的に承諾を与えていたなどの特段の事情がない限り、商法266条ノ3第1項に基づく損害賠償責任を追わないものと解するのが相当である。
- 最高裁判所昭和62年4月16日判決
一 株式会社の取締役を辞任した者は、辞任したにもかかわらずなお積極的に取締役として対外的又は内部的な行為をあえてした場合を除いては、特段の事情がない限り、辞任登記が未了であることによりその者が取締役であると信じて当該株式会社と取引した第三者に対しても、商法(昭和56年法律第74号による改正前のもの)266条ノ3
第1項前段にいう取締役として所定の責任を負わないものというべきである。
二 株式会社の取締役を辞任した者は、登記申請権者である当該株式会社の代表者に対し辞任登記を申請しないで不実の登記を残存させることにつき明示的に承諾を与えていたなどの特段の事情がある場合には、商法14条の類推適用により、善意の第三者に対し、当該株式会社の取締役でないことをもって対抗することができない結果、同法(昭和56年法律第74号による改正前のもの)266条ノ3第1項前段にいう取締役として所定の責任を免れることはできない。 - 最高裁判所昭和55年3月18日判決
株式会社の取引先の会社の代表者の地位にある者が要請によつて右株式会社の資本金の5分1に相当する株式を取得するとともに、株式会社には常勤せず、その経営内容にも深く関与しないことを前提とするいわゆる社外重役として名目的に取締役に就任したものであつても、同株式会社の代表取締役の業務執行を全く監視せず、取締役会を招集することを求めたり、又は自らそれを招集したりすることもなく、同人の独断専行に任せ、その間、同人が代金支払の見込みもないのに商品を買い入れ、その代金を支払うことができずに売主に対し、代金相当額の損害を与えた場合には、右名目的取締役は、商法266条ノ3第1項前段所定の損害賠償責任がある。
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登録 2009.6.17