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2015.6.12mf
弁護士河原崎弘
権利者が再婚した場合の養育費
相談:再婚すると養育費は
私は、2年前に離婚し、私が引き取った子供1人の養育費として元夫から月7万円をもらっています。今、私には、再婚話があります。再婚相手は、十分な収入がありますので、再婚したら、養育費はもらわなくてもいいと考えています。私の身内は、「子供は元夫の子供なので、元の夫は、再婚しても養育費を支払うべき」といいます。法律的にはどうなるのでしょうか。
相談者は、法律事務所を訪問し、弁護士に話を聴きました。
お答え:再婚相手と子供が養子縁組すると養育費に影響する
養育費を決めても、事情が変更した場合は、当事者は、養育費の増額ないし減額の請求ができます。
権利者(養育費を請求する者)が、再婚しただけでは、再婚相手に十分な収入があっても、義務者の養育費 支払い義務には影響しません。しかし、子供と再婚相手が養子縁組をすると、養父(再婚相手、養親)が第1次的な扶養義務を負い、実父は2次的な扶養義務者になります。従って、養父に扶養能力があれば、元の夫(実父)は、養育費の免除、減額を請求できます。話合いで決まらなければ、家裁に調停申立をします。
養子縁組成立で、自動的に実父の責任が軽くなるのではありません。
気を付けなければいけないことは、養育費の免除、減額の合意、調停の成立、あるいは、審判が確定するまでは、養育費支払い義務に変更はなく、実父には、従前の養育費を支払う義務があることです。
判例
- 東京地方裁判所平成16年12月27日判決
この点、原告は、本件債務名義成立後、本件養子縁組がされた以上、原被告間の子に対し、第一次的に扶養義務を負うのは養親
であり、このことは一義的かつ明瞭であるから、実体法上、本件養子縁組の日に被告の養育料請求権は消滅し、これが請求異議事由と
なる旨主張する。
しかしながら、原告の主張する理由は、親子関係が消滅したというような一義的な事由ではなく、母及び養父の資力いかんによ
り消滅ないし変更する裁量の余地があるもので、本件調停において定められた原告の原被告間の子らについての扶養義務は、家庭裁判
所が変更又は取消をする必要がある(民法880条)から、未だ実体法上消滅しているとはいえないものと考えられる。
原告が引用する文献の一つ(甲5)は、「変更・取消申立をなしうる事情の変更とは、先に扶養関係を定めるについてその基礎
となった当事者の身分・地位・資力・健康その他の事情であって、しかも、その事情の変更を勘案して扶養関係を変更・取り消す上で
裁量の余地あるものに限られる。」、「(裁量の余地のある)事情変更であっても、それによって扶養関係の実体は当然に消滅または
変更すると考えるとすれば、この場合にも請求異議の訴えによって債務名義の執行力の排除を訴求することができようが、それでも扶
養関係の実体それ自体の確定は本条による変更・取消の審判にまたなければならないであろう。」と記している。しかしながら、それ
は、何ゆえ当然に消滅または変更すると考え、かつ当然に消滅または変更した後に審判を必要とするのかその根拠が不明であるし、請
求異議訴訟が実体法上の事由に基づく訴訟であることを軽視し、請求異議訴訟を執行力をとりあえず止める手続かのように位置づけて
いるきらいがあり、しかも、家庭裁判所への申立てが手続的に確保されていない状態で、請求異議訴訟により、消滅ないし変更を求め
る側の家庭裁判所への申立てに向けた行為動機が消滅してしまうにもかかわらずその申立てを必要としている点で賛成できない。現に、
原告は、当裁判所が再三にわたって、家庭裁判所への申立てを促したにもかかわらず、これに応ぜず、最終的に、養育費の減免につい
て家庭裁判所に審判等を申し立てる考えはない旨表明した(当裁判所に顕著)ものである。
原告が引用する他の文献(甲6)は、「事情の変更が顕著な場合には、強制執行に対して請求異議の訴えで対抗することができ
ます。」と記しているが、民法880条の存在にもかかわらず、「顕著な場合」という一義的とはいえない基準を用いて、家庭裁判所
の関与を排斥することには賛成できない。
2 原告の主張(2)について
本件は、家庭裁判所への申立てをどちらに期待するのが適切かという制度設計に対する考察及び運用をふまえ、原告の掲げる事
由が請求異議事由足り得るか否かという法律問題であるから、被告の主張が信義則に反する旨の原告の主張は採用できない。
3 原告の主張(3)について
原告は、被告の申し立てた強制執行が原告の家計を逼迫する等主張するが、それは、差押禁止債権の範囲の変更の申立て(民事
執行法153条)において考慮されるべき事項であるし、かつ、被告の原告に対する債務名義としては、離婚に伴う慰謝料に係る本件
調停調書正本第4項があり、当庁平成16年(ル)第4016号は、その一部を請求債権として申し立てられており、本件訴訟によっ
て給料債権の差押えから免れられるわけではないから、理由にならない。
4 以上のとおり、現時点においては、本件債務名義に表示された給付請求権が消滅ないし変更したということができない以上、被
告が差し押さえた、本件養子縁組成立以降分に係る原告の給与及び賞与につき、被告に法律上の原因がないということはできない。
5 以上のとおり、原告の請求はいずれも理由がない。
- 神戸家庭裁判所姫路支部平成12年9月4日審判
以上認定の事実をもとに,申立人らの未成年者を養育する経済的能力について算定すると次のとおりになる。
なお,養子制度の本質からすれば,未成熟の養子に対する養親の扶養義務は親権者でない実親のそれに優先すると解すべき
であるから,申立人の分担額を決めるに当たっては,養父聡の収入・支出等も考慮することとする。
以上の認定事実によれば,申立人らは,住宅ローンがなければ未成年者に対し十分な扶養義務を履行できる状況にあるも
のと認められる。そして,既述のとおり,住宅ローンは平成10年の再婚後に組んだもので,申立人はこれが家計に及ぼす影響
を十分理解しながら,養父聡の収入をもってすれば返済可能であるとの自己判断に基づき負担したものであって,その後の経済
情勢の変化,養父聡の減収等によって見込が外れたからといって,これを相手方の負担に転嫁するのは相当でない。
とすれば,
相手方は養親及び親権者である申立人らに劣後する扶養義務を負担するに過ぎない以上,相手方には現時点で具体的な養育費の
負担義務は発生していないと言わざるを得ない
-
長崎家庭裁判所昭和51年9月30日審判
申立人両名は自己の直系卑属(孫)であり、未成熟子である事件本人を養子とし、一体的共同生活を営んでいるものであるか
ら、このような場合、事件本人の実母も申立人らと生活を共にしながら、事実上事件本人に対する監護権を代行しているとしても、通
常一般の縁組と同様、未成熟子である事件本人の福祉と利益のために、親の愛情をもつてその養育を、扶養をも含めて全面的に引受け
るという意思のもとに養子縁組をしたと認めるのが相当であつて、このような当事者の意思からいつても、養子制度の本質からいつて
も、事件本人に対する扶養義務は先ず第一次的に養親である申立人両名に存し、養親が親としての本来の役割を果しているかぎり、実
親の扶養義務は後退し、養親が資力がない等の理由によつて充分に扶養義務を履行できないときに限つて、実親である相手方は次順位
で扶養義務(生活保持の義務)を負うものと解すべきである。
また、家庭裁判所の許可を要せずして養子縁組をすることができるような場合に、もし養親たるべき者の養子縁組の意思が、未成熟
子の親権者となつていない実親からの扶養料を目当てにし、或いは実親の資力如何によつて左右されることがあるとすれば、それは養
子縁組の本質に反するものであるのみならず、親権者でない実親にとつても、資力が充分あつて家庭的、人格的諸事情にも欠けるとこ
ろがなく、しかも子を引取る意思を有しているのにかかわらず、養子縁組につきその意思を何ら問われることもないままに縁組が結ば
れて、養親と同順位で生活保持の義務を負うに至ることは不合理であつて、この点からも、実親の扶養義務は第二次的なものとするの
が妥当といわなければならない。
-
札幌家庭裁判所小樽支部昭和46年11月11日審判
実父母離婚後未成年子の親権者となつた一方が、再婚しないままその未成年子を他にいわゆる養子に
出した場合を想定するならば、この場合に同一の理が貫かれるべきことは当然であるとともに、その一方が再婚し、その配偶者が未成
年子と養子縁組した場合にはなお一層未成年子の保護は全うされることが期待されるのであるからこの場合に親権者とならなかつた実
親の他方の扶養義務が後退すると考えることは一層容易であるということができる。
のみならず前示認定事実にもみられるとおり、本件のような場合には、未成年子の親権者とならなかつた実親の他方は、その未成年
子の養子縁組についてはその意思を問われないのが通常であると考えらるし、また養子縁組をした再婚配偶者としては一般に税法上の
利益等をもうけるのであり、これらの事情は派生的、受働的なものではあるけれども前示の解釈を肯定すべき根拠とすることができる
ものといえる。
また未成年子の養子縁組の意思、とくに養親たるべき者の意思が、その未成年子の実親からの扶養料の有無、多少によつて左右され
るようなことがもしあるとすれば、そのことは一般に結局親子の愛情による結合と親の愛情をもつてする監護養育の実質の実現を損う
ことに通ずるものと考えられるのであり、この点からしても実親からの扶養は第二次的なもの、例外的なものとするのが妥当であると
いわなければならない。
登録 2007.11.19
東京都港区虎ノ門3丁目18-12-301 河原崎法律事務所 弁護士河原崎弘 電話 03-3431-7161