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2021.11.29mf更新
高額所得者の養育費、婚姻費用の計算式
弁護士河原崎弘
高収入(給与所得の場合、2000万円超、自営業の場合は、1567万円超)の方の養育費、婚姻費用は、算定表に書いてありません。
高額所得者の養育費、婚姻費用については、3つの考え方があります。
A 算定表の最高額2000万円の金額を上限とする考え、B 算定表の基礎収入の割合を、若干、減額する考え、C 公租公課(あるいは公租公課と特別経費)を具体的に計算する方法があります。
A 算定表の金額を上限とする考え
所得が2000万円(自営業では1567万円)を超えても、養育費、婚姻費用は、2000万円(自営業では1567万円)の場合と同じとの考えです。ただし、学費など特別な経費がある場合は、基礎収入割合に応じて、按分負担させます。その場合は、算定表の額を超えます。通常、算定表の額以上の、生活費は必要がないとの理由からです。養育費について、多くの裁判所は、この考えを持っています。
2千万円(自営業では1567万円)以上の高額所得者(高収入者)の場合の養育費が最高額であり、収入が上がっても、この例を使うのです。
しかし、
収入が多ければ、養育費の金額も多くなるのが、当たり前です。
算定表に2千万円(自営業では1567万円)以上の高額所得者(高収入者)が掲げてない理由は、単に、当時の家計調査年報に、高額所得者の職業費、住居関係費など特別経費の統計データがなかったからです(最高の収入階級として「1500万円〜」となっていた)。年収2千万円(自営業では1567万円)の人の例が、それ以上の収入のある方の養育費、婚姻費用ではないのです。
この考えは、採用し難いです。
高額所得者の場合、養育費が計算できないと考えて、計算を諦める裁判官もいます。そのような裁判官も、さすがに、1億円の高収入者の場合に、2000万円の例を採用することに気が引けるのでしょう。「2000万円の場合の2倍の養育費ではどうか」などの和解案を提示することがあります。下記 高額所得者についての実例 中の和解がそうでした。当事者は、弱い立場ですので、妥協してしまうのです。
B 基礎収入率を修正する考え
算定表の2000万円(自営業では1567万円)の
基礎収入率が38%(自営業では48%)です。これを、若干、低くする考えです。
当サイトの、高額所得者用の養育費自動計算機も同じ考えに基づき、収入に反比例して、基礎収入率を逓減しています。しかし、逓減率が急激過ぎましたので、これを改良しました。
この考えでは、基礎収入率の割合をいくらにするかが問題となります。およその基礎収入率を設定しても、その根拠が問題となります。
(例)
総収入3818万円の場合、基礎収入割合を32%とした(大阪高裁平成18年1月18日決定)
基礎収入率
算定表公表時に示された基礎収入(収入から税金、社会保険料などの公租公課、被服費、交際費などの職業費、住居費、医療費などの特別経費を控除した額)は、給与所得の場合、42%(25万円の場合と推定する)〜34%(2000万円の場合)です。所得が増加すると基礎収入率は、逓減します。
この場合、基礎収入率を算定する式は下記のとおりです。
給与所得の場合です
- 基礎収入率(2000万円以下)=0.42 − 0.08×(収入-250000)/19750000
裁判官の考えとは、若干、違うようですが、概ね、算定表と合っています。
- 基礎収入率(2000万円超)= 0.34 − 0.04×(収入-20000000)/19750000(0.2を最低に設定)
欠点は、所得が高額になると、基礎収入率がマイナスになることです。そこで、0.2を最低限としました。
収入が2000万円を超える場合は、2000万円以下の場合と同じ割合で、基礎収入率は逓減しません。2000万円を超えると(正確には、収入が増えるに従い)、逓減割合は緩やかになると推測できます。
給与所得の最高税率は、所得1800万円で、40%です(所得税法89条)。給与2000万円超の場合、公租公課の金額は増加しますが、率は高くならないのです。そのため、年収2000万円を境に、基礎収入率の逓減率はさがります。
収入が2000万円を超えた場合は、基礎収入率は上記計算で得られます。
以上の基礎収入率を使った 計算例 を下に挙げます。
これで年収1億円くらいまでの義務者の基礎収入を算定できます。基礎収入の概念は、婚姻費用、養育費について共通です(判例タイムズ1111,p292)。
概ね後記審判例に近似しています。
この式では、収入が9000万円前後で、基礎収入率が0.2を切り、
不都合です。そこで、旧計算機では、上記式を使い、基礎収入の逓減の限度を0.2と設定していました。
なお、エクセル搭載のツール(回帰分析、近似曲線)を使ってみたところ、対数近似曲線が比較的適正な予測値 を出しました。サンプル(データ)が少ないとの難点がありますが、こちらの方が現実に合っています。しかも、所得が増加しても、基礎収入率は、マイナスになりません。現在、当サイトにある計算機は、この計算式を使っています。
父親の給与1億2000万円、母親の給与1100万円、母親に引取られた子供(3歳)1人の場合
1 基礎収入率(割合)を計算
収入1億2千万円の場合
上記計算式で計算すると、マイナスになるので、基礎収入率を0.2とする。
収入1100万円の場合
上記計算で基礎収入率は0.35
2 養育費の計算
@ 基礎収入を計算
義務者:父親の基礎収入=1億2000万円 × 0.2
=2400万円
権利者:母親の基礎収入=1100万円 × 0.35
≒ 385万円
A 子の生活費を計算
62
子の生活費=2400万円 × -----------
100 + 62
≒ 918万円
B 義務者が負担すべき養育費を計算
2400万円
養育費=918万円 × --------------------
2400万円 + 385万円
≒791万円(年額)
≒65万9000円(月額)
C 公租公課などについては、具体的に計算する考え
所得税確定申告書を根拠に、公租公課などを具体的に計算し、基礎収入を算出する方法です。場合によっては、さらに、貯蓄率(e-Stat、勤労世帯、Exell、行番号:258)による貯蓄を計算し、収入から控除し、基礎収入を算出します。高額所得者は、収入の全額を生活費に使うことはないとの考えです。
基礎収入を計算する式は、次の通りです。
給与所得の場合
基礎収入(42〜34%)=給与収入−{公租公課(12〜31%)+職業費(20〜19%)+特別経費(26〜16%)}
自営業の場合
基礎収入(52〜47%)=所得−{公租公課(15〜30%)+特別経費(33〜23%)}
公租公課とは、所得税、住民税、社会保険料(健康保険、厚生年金、雇用保険)です。
職業費とは、サラリーマンの被服費、交通費、通信費、書籍費、交際費等です。
特別経費とは、家賃など住居関係費、保険・医療費です。
基礎控除からマイナスされる公租公課(場合によっては特別経費も)は、調停、審判にお
いて義務者から提出された所得税確定申告書に記載されています。
収入が2000万円を超える給与所得者は、申告義務(所得税法120条、121条)がありますので、確定申告をしているわけです。
確定申告書で、公租公課(場合によっては特別経費も)の個別的な計算が可能です。
職業費については、仕方がないので、19%(2000万円の場合の率)を使います。義務者にとって有利な割合ですから、義務者は不服を言えません。
- 公租、公課については具体的に計算
特別経費(収入により経費割合の変化が少ない)は、算定表で収入が最高額の義務者の割合を使う。貯蓄を控除。
義務者は、医院を経営する医師で、事業収入は4855万円の場合
(婚姻費用算出例) 家裁月報62.11.80より引用
大阪高裁平成20.6.9
義務者、 事業収入4855万円
権利者、 給料 250万円
義務者側、子供なし
権利者側、子供14歳未満2人
所得税、住民税、 1828万円
特別経費、 1116万円(住居関係費+保険医療費+保険金掛け金、算定表で自営業者最低額23%)
641万円 貯蓄分=可処分所得×平均貯蓄率(平成18年の場合、21.2%)
婚姻費用の計算
@基礎収入を計算
父親の基礎収入=4855万円-1128万円-1116万円-641万円
=1270万円(基礎収入率は≒26.1%)
母親の基礎収入=250万円×0.39
=97万5千円
100 + 55 + 55
A権利者世帯の婚姻費用= ( 641万円 +97万5千円 ) × ----------------------
100 + 100 + 55 + 55
=500万2742円
B婚姻費用の額=500万2742円-97万5千円
=402万7742円(年額)
33万5645円(月額)
- 公租、公課および特別経費(所得税申告書から医療費と生命保険料は推測可能)は具体的に計算し、職業費は19%(収入2千万円の例を使う。所得による変化が少ない)
(養育費算出例)
義務者、給料8000万円、配当収入3500万円、会社経営者
権利者、給料200万円
義務者側 子供14歳未満3人
権利者側 子供19歳2人
養育費の計算
@ 基礎収入を計算
父親の基礎収入=1億1500万円-6288万円-1520万円-1310万円
=2382万円(基礎収入率は≒20.7)
所得税3995万円 ¬
住民税2130万円 | 確定申告書より
社会保険料163万円 」
職業費1520万円(8000万円の19%)
特別経費1310万円(家賃1200万円 + 推定生命保険料100万円、推定医療費10万円)
母親の基礎収入=200万円 × 0.39
≒ 78万円
A 子の生活費を計算
90 + 90
子の生活費=2382万円 × ------------------------
100 + 55 × 3 + 90× 2
≒ 963万円
B 義務者が負担すべき養育費を計算
2382万円
養育費=963万円 × -----------------
2382万円 + 78万円
≒932万円(年額)
≒77万6666円(月額)
高額所得者に養育費、婚姻費用を請求する場合/相手方が対策を立てる危険
-
高額所得者の養育費は、計算可能です。そのことを裁判官をわからせる必要があります。
よくある例ですが、感情的な陳述書、準備書面を膨大に提出するように要求する当事者がいます。裁判官は、ざっと目を通すだけです。そのような無意味な書面のなかに、まともな計算方法を書いた書面は、埋もれてしまいます。
裁判官は、計算方法を理解せず、高額所得者の養育費は計算不可能と考え、最後に、算定表より若干高額な和解案を提案して和解を迫ります。このような事態は避けたいです。
裁判所は、基本的に、算定表を超える婚姻費用を認めますが、算定表を超える養育費は認めないのが現状です。算定表を超える養育費は、教育費が高い場合などに認められます。
-
高額な養育費、婚姻費用を
請求される側も必死です。契約の成立を遅らせるなどして収入を減少させる等対策を立てます(全く、合法的な対策です)。特に自営業者は対策をたてます。
そこで、請求する側が心がけることは、急いで、審判(申立人の住所地の家裁、法150条4号)、あるいは、調停申立(相手方の住所地の家裁、家事事件手続法245条1項)をし、対策を立てられる前に審判などの債務名義を得ることです。
法テラスでは、交渉と調停手続きを、別々の手続きとして費用を立て替えてくれます。まず、弁護士に交渉を頼み、次に調停などを頼むことができるのです。請求する側の心理としては、相手の愛情に期待して話合いをしようとします。しかし、このような悠長な方法は、得策ではありません。
法テラスは、巨大な組織で、国の補助金で成り立っています。自己の存在意義を示すため、事業規模を維持し、審査は甘いです。依頼人は、費用を立替払いしてもらい、安い費用で弁護士を依頼でき、得をした気持ちになります。しかし、後になって、大失敗に気付くのです。
高額所得者を相手に請求する場合は、迅速な手続きが必要です。交渉を省略して、すぐ、調停、審判申立をすべきです。以上は、鉄則でしょう。
高額所得者について、実務で採用されるだいたいの基礎収入の割合、基準(相場)がわかります。
基礎収入の考え方は、養育費と婚姻費用では同じです。
審判・和解年月日 | 裁判所 | 義務者 年収・万円 | 基礎収入率・% | 基礎収入・万円 | 参考 |
平18.1.18 | 大阪高裁 | 3817 | 32 | - | 婚姻費用事件・家裁月報62.11.80 |
平19.10.5 | 神戸家裁尼崎支部 | 3900
(給与所得1410 不動産所得2490) | 26.8 | 1045 | 婚姻費用事件・家裁月報62.11.80 |
平20.6.9 | 大阪高裁 | 4855
(事業所得) | 26.1 | 1268 | 婚姻費用事件・家裁月報62.11.80 |
平25.12.13 | 東京家裁 |
1億2000 (給与8000、 配当4000) | - | - | 父親(義務者)は、上場会社の社長 大学生2人の養育費56万円・和解/裁判官の提案に、権利者(母親)は、焦りと疲れで、妥協した |
平26.6 | 千葉家裁 |
1億超(自営) | - | - | 2歳の子の養育費月額20万円とする審判 幼児なので、20万円で養育に関する費用は足りるとの理由による。
|
平26.6.30 | 福岡高裁 | 給与収入 約6100) | 27 | - |
|
平26.7 | 東京高裁 |
1億超(自営) | - | - | 上記千葉家裁の事件の即時抗告
に対する決定(棄却)
|
平27.8 | さいたま家裁 |
5760万(給料) 1200万(不動産所得) | - | - | 養育費28万円(15歳) |
平28.4.20 | 東京家裁 |
114万(給料) 2159万(事業所得) | - | - | 調停婚姻費用47万5千万円(子1人11歳) |
平29.12.15
| 東京高裁 |
1億5千万円超 | - | - | 婚姻費用調停養育費75万円(子2人) |
令2.3.17 | 東京家裁 |
莫大(不明) | - | - | 調停養育費35万円(子1人3歳) |
判例
- 東京高等裁判所平成29年12月15日決定
一般に,婚姻費用分担金の額は,いわゆる標準算定方式を基本として定めるのが相当であるが,本件では,義務者である抗告人が年収1億5000万円を超える高額所得者であるため,年収2000万円を上限とする標準算定方式を利用できない。高額所得者については,標準算定方式が予定する基礎収入割合(給与所得者で34ないし42パーセント)に拘束されることなく,当事者双方の従前の生活実態もふまえ,公租公課は実額を用いたり,家計調査年報等の統計資料を用いて貯蓄率を考慮したり,特別経費等についても事案に応じてその控除を柔軟に認めるなどして基礎収入を求める標準算定方式を応用する手法も考えられる。しかし,抗告人の年収は標準算定方式の上限をはるかに上回っており,職業費,特別経費及び貯蓄率に関する標準的な割合を的確に算定できる統計資料が見当たらず,一件記録によっても,これらの実額も不明である。したがって,標準算定方式を応用する手法によって,婚姻費用分担金の額を適切に算定することは困難といわざるを得ない。
そこで,本件においては,抗告人と相手方との同居時の生活水準,生活費支出状況等及び別居開始から平成27年1月(抗告人が相手方のクレジットカード利用代金の支払に限度を設けていなかったため,相手方の生活費の支出が抑制されなかったと考えられる期間)までの相手方の生活水準,生活費支出状況等を中心とする本件に現れた諸般の事情を踏まえ,家計が二つになることにより抗告人及び相手方双方の生活費の支出に重複的な支出が生ずること,婚姻費用分担金は飽くまでも生活費であって,従前の贅沢な生活をそのまま保障しようとするものではないこと等を考慮して,婚姻費用分担の額を算定することとする。
養育費の計算式
当サイトには、次の6つの計算式が載せてあります。
アメリカの高額所所得者の例
Child support in high income cases
アメリカでも、日本と同じように養育費の表(Guideline)があります。日本と異なるのは、多くの州で、成人が18歳であるので、養育費も、原則として、18歳までであることです。
ケース | 母の年収$ | 父の年収$ | 子の数 | 養育費/月$ |
Rich v Rich, 967 A. 2d 400 - PA: Superior Court 2009
| - | 9,000,000-10,000,000 | 3 | 15,792 |
Brind’Amour v Brind’Amour, 674 SE 2d 448 - NC: Court of Appeals 2009
| - | - | 3 | 9,147 |
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登録 2012.9.23
東京都港区虎ノ門3−18−12-301 弁護士河原崎法律事務所 03-3431-7161