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更新2023.1.17mf
弁護士河原崎弘
私立学校の学費、塾の月謝は、養育費に含まれますか
相談:塾の月謝
私は、家庭裁判所で離婚調停中です。今、夫と養育費のことでもめています。私は、子ども(13歳)の塾の月謝などを含めて養育費を月額6万円要求していますが、夫は2万円と言い、塾の月謝は養育費に含まれないと言っています。
塾の月謝を含めて養育費を決めることができますか。
回答:塾の月謝は問題がある
父母の未成熟の子どもに対する扶養義務は、生活保持義務と言い、扶養義務者が自己の最低生活をさらに下げてでも負う義務です。子は親と同程度の生活水準を要求できるのです。
これは、父と母が離婚しても変わりません。父の生活程度が高く、例えば、子が父と同居していたならば、塾へ行くことができたとの状況なら、塾の費用は、養育費 に含まれると考えることができます。
現在では、通常、父親の収入、母親の収入、子供の数だけを条件にして、算定表によって、養育費を決めています。算定表の金額には(公立学校の)平均的な教育費が含まれます。
そこで、相手とあなたの収入を基に、算定表で、養育費がいくらになるか調べて下さい。教育費(学費)が、後述の公立中学校の学費(年13万4217円)を超えるなら、超える額(差額)について特別経費として請求できます(学費を、双方の基礎収入で按分した額を請求できます。)。
その結果、養育費の額が少ないなら、家庭裁判所に、養育費増額の調停申立をしてください。弁護士を依頼せず、自分でできます。不安なら弁護士に依頼してください。
教育費とは、正規の学校の費用であるとし、私学費加算は認められ易いですが、塾の費用を認めない裁判官もいます。塾の月謝についての審判例は、少ないです。学習塾・習い事の費用9万円の半分を婚姻費用として考慮し、これを基礎収入によって按分し、婚姻費用分担額を算出した例がありました(家裁月報62.11-74)
相談2:私立学校の学費
5年前に離婚し、前夫から月額9万円の養育費をもらっています。私が引き取った子供(16歳)が私立の高等学校へ進学しました。学費などが80万円かかかります。
前夫の給与は1100万円(年)、私の給与は320万円です。
この場合、適正な養育費は、どのように計算するのでしょうか。
回答:公立学校の学費との差額は考慮される
養育費算定表で決められた養育費の中には、子供の公立学校における学費が含まれています。文部科学省「子供の学習費調査報告書(平成8年、10年、12年)」によれば、公立高等学校教育費の平均は、
年額33万3844円です(新しい統計がありますが、養育費算定表が用いた古い統計を使用すべきです)。
養育費算定表では、以上の金額は考慮済みです。そこで、差額の46万6156円(80万円−33万3844円)を算定表の金額に加算することになります。
算定表を作成した裁判官は、以上のように発表しています(判例タイムズ2006.7.15、p11)。しかし、差額をそのまま加算するのではなく、差額を、基礎収入額に応じて、按分した額を加算するのでしょうね。
以上のことは、私立大学の学費についても当てはまります。
公立学校の学習費:平成8年〜平成10年の平均値
(判例タイムズ1111-294)
学校区分 | 公立幼稚園 | 公立小学校 | 公立中学校 | 公立高等学校 |
教育費/円/年 | 125,887 | 59,153 | 134,217 | 333,844 |
私立学校の学費を含めた養育費の計算例
【父親の年収1100万円】、【母親の年収320万円(両者、給与所得)
監護する子供16歳(私立高等学校の学費80万円)】のケース
- 基礎収入を計算:基礎収入率を乗じる
義務者(父親)の基礎収入
= 1100万円 × 0.40
= 440万円
権利者(母親)の基礎収入
= 320万円 × 0.42
= 134万円
- 子の生活費を計算
子の生活費=440万円×
85
100 + 85
≒202万円
- 義務者が通常負担する養育費
分担額=202万円×440万
440万 + 134万
= 154万8000円(年)
= 12万9000円(月) ← 算定表の金額
- 私学の学費との差額を算出し、按分する
学費の差額=80万円−33万3844円 ← 私立の学校へ行った場合と公立の場合との差額
=46万6156円
差額を基礎収入に応じて按分する
義務者の負担額
=46万6156円×
440万
440万 + 134万
= 35万7332円
= 2万9777円(月)
- 差額を加算した義務者の最終的分担額
養育費分担額
= 12万9000円 + 2万9777円
= 15万8777円
判例
- 神戸家庭裁判所姫路支部平成28年7月1日審判
(1)申立人の給与収入は、平成二七年においては、上記認定の平成二六年の収入により、年二〇五万〇三三二円、平成二八年においては、上記認定の平成二七年
の収入により、年二〇九万五四五一円とみるのが相当である。
相手方の事業収入は、平成二七年においては、上記認定の平成二六年の確定申告書により、五一八万二九六六円(=四、九七八、九五一−四四五、九八五+六五〇、
〇〇〇)、平成二八年においては、上記認定の平成二七年の確定申告書により、四三九万三三六五円(=四、一六八、四八五−四二五、一二〇+六五〇、〇〇〇)とみ
るのが相当である。
(2)これらを、上記算定方式に基づく算定表のうち「表二 養育費・子一人表(子一五〜一九歳)」に当てはめると、平成二七年においては「八〜一〇万円」の
枠の下域に、平成二八年においては「六〜八万円」の枠の下域に位置する。
(3)未成年者は、平成二八年四月、私立高校に進学した。その学費及び入学金については免除されているものの、寮費等に年間約八五万
五六〇〇円がかかる。相手方は、未成年者が同校に進学することに同意しているのであるから、学費及び入学金が免除されていることも考慮し
て、算定表において考慮されている公立高校の学校教育費相当額三三万三八四四円を超過する五二万一七五六円については、申立人と相手方と
で、基礎収入に応じて按分して負担するのが相当である。したがって、相手方は、三八万二三一三円(月額三万二〇〇〇円程度)を負担すべき
こととなり、これを上記(2)のとおり標準的算定方式の算定表への当てはめによって得られた養育費分担額に加算すべきである。
(計算式)
五二一、七五六×四、三九三、三六五×〇・五一÷(四、三九三、三六五×〇・五一+二、〇九五、四五一×〇・三九)
(4)そうすると、当事者双方の生活状況等、本件記録から認められる諸般の事情を考慮し、上記学費を加算して修正した養育費分担額は、平成二七年においては
月額八万円と、平成二八年一月分から同年三月分までは月額六万五〇〇〇円と、同年四月分以降は九万七〇〇〇円と定めるのが相当である(申立人は、平成二八年四月
五日付けの回答書において、養育費としては月額八万円を希望する一方、同月七日受付の書面において、学費等に関して別途支払うよう求めているので、平成二八年四
月分以降につき、上記(3)の点を考慮して八万円を超えて定めることとする。したがって、申立人が相手方に対して半分の負担を求める未成年者の高校入学時に要し
た費用については、算定表及び上記(3)の修正によって考慮済みである。)。
- 東京高等裁判所平成22年7月30日決定(家庭裁判月報63巻2号145頁
)
ア 抗告人(子)の1年間当たりの学費関係費用は,次の各金員の合計約65万円である(前記認定事実,一件記録)。
(ア)学費 53万5800円
(イ)交通費 8万2320円
(ウ)テキスト代 3万0000円
一方,抗告人が受領している奨学金は,1か月当たり4万5000円(年額54万円)であり,年額11万円(1か月当たり9166円(1円未満切捨て))
が不足する。
イ 他方,学費関係費用を除く生活費等の不足分については,抗告人が母C及びDと同居しているため,抗告人単独の分を算出することは困難であるが,便宜,従前の養育費(1か月当たり11万5000円)を基準とし,養育費算定に当たり学校教育費として考慮されたものと認められる学校教育費(15歳以上の子につき年額33万3844円)を控除すれば,上記不足分は,次の計算式により5万7179円である。
(計算式)
11万5000円(月額養育費)−33万3844円(年額学校教育費)÷12か月−3万円(抗告人の月額アルバイト収入)=5万7179円(1円未満切
捨て)
4 前示の諸点の検討に加えて,相手方(父親)が原審第3回及び第4回の期日において話合いによる場合との留保を付しつつも「1か月当たり3万円を限度として扶養料の支
払に応じるが,平成22年×月の前月である同年×月分までの過去分の支払意思はない。」旨の意向を有するものと認められることを併せ勘案すれば,本件の事実関係の
下においては,相手方は,抗告人に対し,上記学校関係費用の不足額9166円及び生活費等の不足額5万7179円の合計6万6345円のうち3万円を扶養料として
平成22年×月から抗告人がその在籍する大学を卒業すると見込まれる月である平成24年×月まで毎月末日限り支払うこととするのが相当である。
登録 Oct. 29,1998
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