悪意と悲劇について考える
voyagemerveilles
vogageMALICE MIZERの2枚目、インディーズとしては最後のアルバム、merveillsはメジャー初のアルバムです。



こういうことを書くと他のファンから槍が飛んできそうなのだけど、MALICE MIZERには弱点がある。
それは「詞」がどうしても弱いこと。今までの楽曲のほとんどの作詞をしていた前のヴォーカルGacktを責めているわけではない。彼は一生懸命考えて書いたと思う。
でもMALICE MIZER のようなコンセプトのバンドは曲に詞をつけるのは、ものすごく大変なのだ。

わたくしがどうして「詞」にこだわるかというと、「日本人で日本語が判ってしまうから」これに尽きる。英語圏のバンドは曲がよければ「詞」の部分はどんなにひどくても聞き流してしまう。正直言ってヒアリング能力は地べたを這っているので意味が耳に引っかからないし、言葉自体を曲の一部として捉えることができる。基本的に8ビートや16ビートは英語に合った、というか英語の為に生み出されたようなものだ。あ、MALICE MIZERの詞は「ひどい」と言っているのではないのよ、「弱い」の。ここは誤解のなきよう。

MALICE MIZERは中世ヨーロッパ、ゴシック(ステージにはイタリアン・ホラーが加味される)を使って人間の闇の部分に焦点を当てる、というのがコンセプトだから、詞もそういう風になる。平たく言えばロマンティック、美文。これで人を説得するのは難しい。だれでも堀口大学や澁澤龍彦、森茉莉のようにはいかない。
実際、現在出ている新曲「白い肌に狂う愛と哀しみの輪舞(ロンド)」はManaが作詞作曲だけど、「詞はちょっと…」と思うのよね。言いたいことはわかるんだけど。う〜ん、詩人は「生まれつき」という部分も非常に多いからねぇ。

で、本題の「voyage」と「merveilles」なのだが。
わたくしにとってmerveillesは最初から最後まで聴くことが出来るアルバム、vogageは好きな曲だけピックアップして聴いてあとは飛ばしてしまうアルバムといえばいいのかな。
これは、曲自体の「強さ」の差といえばいいのだろうか。先ほども述べたように、わたくしにとってMALICE MIZERの詞は全体に「弱い」。merveillesはそれを気にせずに全曲聴けてしまう。ハズレがないのだ。それほど、曲自体とアレンジ、構成がよく出来ている。
第2期MALICE MIZERはManaとKoziの二人がほとんどの曲を書いて、Gacktが詞をつけるという形をとっていた。Manaが中心のようにみえるが、Koziのセンスが随分反映されているように思う。二人とも相当マニアックなのだが、KoziはManaに比べてポップだ。
それが、おおよそ一般向けじゃないような楽曲でも楽々聴かせてしまうインパクトを持たせているのだと思う。merveillesはKoziのセンスが随所に活かされている。どう聴いてもMALICE MIZERだがポップなのだ。ちょっと詰め込みすぎかな、とも思うがこれだけ過剰なのが却って上手く作用しているのかもしれない。

voyageは「詞の弱さ」が曲を食ってしまっている部分が多々ある。インストゥルメンタルで聴くと面白い、と思う曲でもヴォーカルが入ると「う〜ん」と思ってしまう曲があるのだ。たぶんイメージはあるにせよ「作詞」を考えずに曲を作ってしまったのが原因なのかもしれない。作詞担当のGacktは苦労したと思う。第2期に入って自分達のやりたいことに向って走り始めた時期だから、曲も詞もリキが入っているといってよいかもしれない。
飛ばし聴きをするだの「詞が弱い」だの否定的なことを述べているようだが、このアルバムはわたくしの実に好きな世界を表現してくれている。1stアルバムではぼんやりとしていたものが、ここではっきりと形になっている。ただ、まだそれを上手く消化していないのだ。同じようなバンドが全く出てこない、ということから考えてもコンセプトが前代未聞に近いものだということが判るし、敢えて茨の道を選んだ当時の彼等に拍手を送りたい。彼等の「若さ」が弱点でもあるが、この後の飛躍を予感させてもいる。
インディーズ・バンドのアルバムとしては出色の出来であることは事実だ。それじゃないと、オリコン・インディーズ・チャートで1位にはならない。

わたくしはこの二つのアルバムを聴くと、初期のQUEENを思い出してしまう。まるで1stアルバムと「QUEEN U」のようなのだ。
当時のフレディー・マーキュリーは後年のマッチョな姿からは想像もできないような乙女チック文学青年だったから、実にロマンチックな歌詞を書いていた。他の欧米のロックバンドとは一線を画したお耽美追求路線だったのだ。

1stアルバム「QUEEN」は、はっきり言ってド下手だ。ドラムスはパタンパタン、ピアノはチャカチャカしていて、聴けるのはブライアン・メイのギターぐらいだ。「詞」も恥ずかしくなるほど乙女チックだ。全体的に気負いすぎて曲の出来の落差が激しい。当然得意の飛ばし聴きをしてしまう。反面その青さが愛おしかったりもする。
それが「QUEEN U」になると、全く別のバンドかと思うほど、曲、テクニック、構成に飛躍的進歩を遂げる。フレディーの詞は相変わらず(笑)「人喰い鬼」だの「妖精」だの「闇の女王」だの、それだけ目で追えば「うわ〜」なのだが、それを気にせずに聴かせてしまう「力」がある。(実はわたくしの一番好なQUEENのアルバムだったりする)

わたくしの勝手な考えなのだがvoyageからmerveillesへの流れも、似たようなものを感じてしまう。QUEENは更にステップ・アップして「A Night Of The Opera」に行ったのだが、果たしてMALICE MIZERはこれから何処へ行くのだろう。
QUEENはフレディーがこの世を去るまで結束が固かった。MALICE MIZERは「これから」というところで、Gacktが脱退し、Kamiが急逝している。そして彼等は「原点回帰」を目指しているようなのだが…。
8月に出されるアルバムで進む道が明らかになるだろう。果たして新たな展開をみせるのだろうか。
<2000.8.3>