戦地にありて、故郷を想う《第2章》



翌日・早朝、共同墓地──

ここ数日、天気は曇。晴れ渡るのはもう少し先だろうか。
いくつかの墓標の前に私は花を供える。
「こんなもので許してもらおうというわけではないけれど……。
せめて安らかに眠ってほしい」
海からの湿った風が吹く。
「御神さん」
私は声のした方を向く。
「陣内さん」
「やはりここに来るんですね」
「一仕事終えた後は一応。全員に同情しているわけではないですし、偽善かも
しれませんが」
「いや、その感性はしごく自然だと思うよ。まあ私の場合ここまで行動には
移さないけどね」
と言って、陣内さんは私が花を供えたいくつかの墓を見つめた。
「今回は日本へは?」
「帰ります。明日の便をとりました」
「そうか。次の任務は少し長くなるかもしれないしね」
「そうですね」
昨日までの仕事はいずれも細かい物が多かった。だが、数日前に起きた事件には
『龍』の匂いがする。勘でしかないが。
それを狩れることになるかどうかは、情報チームの力に期待するしかない。
「神経をすり減らす戦いに、なるでしょうね」


──翌日、午後
海鳴り駅前──

この街はいつも優しい光をその中にたたえていて、包まれると自分が何者であるかさえ
忘れそうになる。私は空を仰いだ。
十一月の澄んだ空はわずかな、すいたような雲を通して、透明な太陽の光をこの街に
届けていた。

「お久しぶりです、美沙斗さん」
「恭也君……久しぶり」
私の甥っ子が出迎えてくれる。
「今回は …短いんですよね」
「うん、大きな仕事に入る前の一休みだから」
私は荷物を持ちなおした。
「高町家は、みんな……元気かい?」
「相変わらずですよ。美沙斗さんから連絡があってから、かーさんなんかうきうき
しどおしで」
桃子さんが張り切って準備する様や、笑顔で迎えてくれる様子が目に浮かぶ。
そこに ひとかけらの嘘もないところが桃子さんのすごいところだ。
私は楽しい気分で、少し笑った。


──高町家

『あーーー美沙斗さん! いらっしゃーい!!』
私が玄関に入ると、桃子さんと娘さんのなのはちゃんが、早速綺麗なハーモニーで
迎えてくれた。声の違いがよけいに華やかな印象を作っている。

「美沙斗さん、いらっしゃい。今日の晩ご飯、鍋にしようと思うんですけど平気ですか?」
晶ちゃんが買い物カゴ(特大)を手に玄関に現れる。
「ああ、嬉しいな。…今日は晶ちゃんが料理の当番なのかい?」
「いえ、2人がかりです。カメはカメで何か仕込みを始めてますよ。
じゃ、師匠、俺 買い出しに行きますんで」
「なら、途中まで一緒に行くか?」
「あら。恭也どこかへ行くの?」
桃子さんが恭也君にたずねる。
「翠屋に行って、美由希と入れかわる。俺はもう十分話したから……
なのは、あとは頼む」
「うん、まかせて! みさとさん、こちらへどーぞー!」

なのはちゃんが前を立って案内してくれる。
「あー、美沙斗さん、よーこそー」
レンちゃんが台所から声をかけてくれる。

──こうして、私の滞在は始まった。



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