ヨーロッパ音楽紀行 2009年


ウィーンフィルハーモニー管弦楽団、 ズービン・メータ指揮 (パリ、シャンゼリゼ劇場) 2009年2月20日

ハイドン 交響曲104番「ロンドン」
ブルックナー 交響曲第9番

パリで聞く2度目のウィーンフィル。昨年のムーティでもハイドンとブルックナーの組み合わせだった。今度はハイドンが104番、そしてブルックナーは自分が一番好きな9番、と楽しみなプログラム。

小編成のハイドン。ハイドンの交響曲はやたらと数が多く、聞いたことがある曲も「疾風怒濤」期の数曲と88番以降をつまみ食い程度。幸いにこの104番はカラヤン・ウィーンフィルの廉価版CDを持っていたのでなじみのあるメロディだ。メータがステージの裾から出てきて観客席に一礼。さっと演奏に入り込む。堂々した序曲から、例の若々しく弾む主題へとうまくまとめており、品がよい。思わず体が動いてしまうような快感があった。速度感のある終楽章も楽しかった。

ブルックナー9番は、全9曲のブルックナーのシンフォニーの中でもっとも「重たい」曲かもしれない。・・・緊張感を強いられる旋律が手を変え品を変え反復され緊張が徐々に高まってくる。そしてその頂点で旋律は一瞬途切れ、一気に金管が全開し、リスナーは広大な宇宙の中にポーンと放り出されてしまう・・・。

特に独特の浮遊感を感じさせる第2楽章のピチカートでは鳥肌が立ってしまう。ピチカート後の爆発で(CDで聴きなれているジュリーニ・シカゴの演奏のように)低弦がもっとズシンと響いてくれると嬉しかったと思うのは贅沢かもしれない。いや、シカゴが暴力的過ぎるのかもしれないか、と強音でも決して破綻しない完璧なウィーンフィルの音を聴いて改めて感じる。第3楽章の荘重な音世界もじっくり聴くことができた。聴き終えてぐったり疲れてしまうのもブルックナーの持ち味?かもしれないが、さすがに生の演奏だけあって今日の疲労度は並ではない。言うまでもなく、満ち溢れた感じ、心地よい疲労だ。

メータは堂々とした体格とその風貌から押しとアクの強い演奏をするのかと思えば、丁寧で”ため”をとった演奏であった。ハイドンではそれが上品さに、ブルックナーではそれが深遠さとなってうまく出ていたのではないだろうか。メータのCDは数枚しかもっていなかったのであまり馴染みがなかったせいもあるだろう。

シャンゼリゼ劇場は円筒形のオペラハウスで古めかしく一方で格式を感じさせるのだが、いつも安い券しか買わないので席は一番上の階になってしまう。音が余りよくないな、と感じるのはそのせいかもしれない。(今回はコンマスのライナー・キュッヒルがよく見えるサイドのシートで良かったが) せっかくのウィーンフィルなのだからもっとまともなシートを買えばよかったのだが、やはり35ユーロの魅力には勝てなかった。


パリ管弦楽団 クリストフ・エッシェンバッハ指揮 (パリ、サル・プレイエル) 2009年10月22日

モーツァルト クラリネット協奏曲
ブラームス 交響曲第3番

パリに住んでいながら地元のパリ管を聞く機会に恵まれなかった。演奏会は無数にあるのだがプログラムの選り好みをしていたり、またWEBサイトではなぜかチケットが買えなかったり、といったこともあった。さて、今回はうまくチケットがWEBで買えた。常任のエッシェンバッハがもうすぐ退任するという。彼が作り上げてきたオーケストラを聴いておきたかった。

小編成のモーツァルトは生まれたてのような デリケートな優しさに包まれた音。
ブラームスでの木管の雄弁さと、これまたデリケートな弦楽器。特に好きな第四楽章、不安さから快活な主題に導かれ、ふたたび情熱と憂愁の世界へ、ゆっくりと幕が途切れるそのエンディングまで、絹のような音を出すオーケストラには正直驚いた。

フランスのオーケストラにブラームスは、と思っていたが”秋の夕暮れ”のようなロマン漂うブラームスの世界を素晴らしく感じさせてくれる。これがフランスのオケにありがちな変に明るく色彩感丸出しだと幻滅なのだがそこはさすがにドイツ人指揮者だけありがっちりとおさえている。そういえば確かにパリ管にはその昔ミュンシュ指揮の1番という、ブラームスの超定番があったことを思い出した。

エッシェンバッハの指揮はエキサイティングな力感にあふれ動きも大きくダイナミックなものなのだが、両曲ともオーケストラは力むこともなく艶やかな音を出す。なんと言う両者の関係。このオーケストラでフランス物を聴いたなら凄いことになるだろう。エッシェンバッハと言えば、自分にとっては若々しくかっこいいピアニストであった。大学生のころモーツァルトのソナタをLPで買ったのも確か彼の録音だったと記憶する。それがいつの間にかピアニストではなく指揮者に。プログラムのえり好みせずにもっと早く聴いておきべきだった、と後悔した。

サル・プレイエルは音も最高で、とても良いコンサートホールだ。


フィルハーモニア管弦楽団  クリストフ・フォン・ドホナーニ指揮 (パリ、シャンゼリゼ劇場) 2009年10月23.34日

ブラームス 交響曲第1番
ブラームス 交響曲第3番
ブラームス 交響曲第2番
ブラームス 交響曲第4番

昨夜のパリ管での感動が覚めやらぬ翌日から今度は2日続きでフィルハーモニア管弦楽団の演奏会。指揮者はドホナーニ。 2日間でブラームスの全4曲のシンフォニーを演奏するというチクルス。好きなブラームスを2日続きで(昨日のパリ管を入れると3日続きで)聞けるとは、嬉しいというか、疲れるというか。

フィルハーモニア管弦楽団の演奏は何枚かCDで持っているが余り記憶に残っていない。同じイギリスのオーケストラであればアバド時代のロンドン交響楽団のCDに愛聴版が多い。

初日は1番と3番。 1番。今までCDでは何度となく聴いてきたこのシンフォニーの生演奏に接するのは初めて。緊張と重量感にあふれさすがに感動した。3番はエレガントだった昨夜のパリ管とはずいぶんと違う。ずっと引き締まった演奏だった。バイオリンを対抗配置にしており音に立体感がある。2日間聴きとおして、全体に筋肉質な演奏は好感が持てた。まさに満喫したというべきか。一方で音に艶やかさがなく、粒だったような弦の響きがしたのが、パリ管の演奏が記憶に新しいせいもあるだろうが、大きな差となって聞こえた。

もしかしたら音質が悪いシャンゼリゼ劇場の、またまた例の最上階だったからかもしれない。


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