ニコンへの憧れ


そもそも一眼レフへの興味は中校生の頃だっただろうか。友達の中に写真部の仲間がおり、彼が自慢そうに手にしている銀色の金属の塊を見て、憧れを抱いたものだった。それは写真に対する興味というよりはカメラに対する興味、とも今思えば言えるかもしれないが当時の自分には金額的に全く無縁のものだった。

時は経ち社会人になってからふと思い立って中古の一眼レフを購入した。昔の憧れを今ここに、という感じだった。中学生の時の写真部の仲間が持っていたカメラが、又学生時代の悪友のSが持っていたカメラもそうだったからかもしれないが、当然ニコンの中古を買うつもりだった。がどういう訳か買ったのは違っていた。ニコンの中古は他社の中古に比べて総じて値段が高く、手が伸びなかった。手に入れたのはキャノンAV1。幾つかのバイクツーリングに同行してくれたカメラだった。が、やはり重い・でかい、という事からそれを山に持って行こうとは思わなかった。一眼レフ顔負けの機能を持ったコンパクトカメラさえあれば良い、そんな考えだった。いつしかAV1の出番は減っていった。

ところが最近になり山とは別の理由により一眼レフへの興味が再び大きくなってきた。もう一度手に持ってみようか、という気になった。最初は当然オートフォーカスの最新一眼レフでも購入しようか、と思っていたが入門機や普及機などをいくつか店頭で触ってみるとどれもプラスティックのボディで、機能はさておき質感が無くぱっとしなかった。中級機以上は質感はあれど今度は逆にとても重くてどうもぴんと来ない。それに差はあれどいずれもマニュアル機能の各種設定の仕方がファンクションボタンを押して使う、というやり方で、それはAV1に慣れた自分にはいまひとつだった。そんなおりオートフォーカス機の横に密かに置かれている数少ないマニュアル機に目が行った。ニコンNewFM2だった。まず手にした金属の質感。感触が違う。安っぽさはない。軽くはないが最新一眼レフの中級機などと比べると軽い。やはりマニュアル機だ。プラスティックのオートフォーカス機には気が進まない。そうなると今あるAV1で十分なのだがやはりニコンが欲しくなってきた。ニコンは自分の中ではカメラのブランドして絶対なものがある。確たる理由もないがニコンのカメラは質実剛健・頑丈だけど重いとい うイメージがある。だが本格的なカメラマンは皆ニコンユーザに違いない。ニコンのカメラを使っていれば誰でもいい写真が撮れるのだ・・。そんな一方的な思い込みが中学時代の仲間か悪友のSの影響かはわからぬが自分の中にはある。特にSのカメラはF2フォトミックで、触らせてもらったときのあの「ジャキーン」というシャッターの感触はその音とともに脳裏の中に今もって深く刻まれている。あれこそカメラだ。(余談だが後日彼のアパートは空き巣に狙われくだんのF2フォトミックは盗まれてしまった。学生の住むアパートなどどこも戸締まりはいいかげんで自分も彼の部屋もまさにそのとおりだったが、いかにも惜しい話。今彼はリコーのマニュアル一眼レフを使って奥さんと航空機写真を撮るのにはまっているという。)

そんな訳でニコンだ。昔から自分は欲しいものが出来るといても立ってもいられなくなってしまう性質で、まことに我ながら呆れてしまう・・。気づけばニコンの中古一眼レフを無意識に物色し始めていた。山に持って行ける軽い奴。性能は二の次で・・。とある中古店でシルバーのニコンFG-20がF2やF3などの名機の影に隠れるように地味にショウケースの奥に鎮座していた。ライトニコン・FG-20はボディ重量430g、当時のニコンのラインアップでは最軽量。入門機で人気機種ではなかったこともありとても安価だ。

こうしてとうとうニコンユーザーとなった。レンズも憧れのニッコール。廉価機のせいかF2のそれとは比較にならない安っぽさだけど少し軽い金属的でメカニカルなシャッター音。ミラーのショックが気持ち良い。と同時に欲しいと思ったものは何でも我慢せずに手に入れてしまうというこの自分の姿勢。子供の頃親からは「我慢しなさい」と教わったものだが。こんな事でいいのだろうか・・・?


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