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【斜体で書かれている部分】 はみくりんのコメントです。
早朝6:30、バスはビジャエルモッサに到着した。バスターミナルのテレビではメキシコ南部の洪水のニュースが流れていた。アカプルコ方面や、チアパス州南部では相当な被害が出ているらしい。昨日別れた一本釣りの彼は大丈夫だろうか?こちらでもそれほどではないが、やはり雨が降っていた。テオティワカンで雨が降ったのも、夜中バスが湖の中の一本道を走っていたように見えたのも、この異常気象のせいだったのだ。雨上がりの町に出てみると、隣に大きなスーパーマーケットがあった。その他の店はほとんど開いておらず、近くには食事ができて時間がつぶせそうなところはなかったのでしかたなく、唯一開いていたスーパーでコーンフレークやヨーグルト等を買い、朝食代わりにする。レジに行くと、なぜか小学生が立っており、レジの済んだ商品を袋に入れていた。「メキシコではこんな朝早くから小学生がバイトをしているのか」と思いつつそのまま袋を受け取り、出ていこうとすると、悲しげなまなざしでこちらを見ている。「何か悲しいことがあったのかな、もしや、このスーパーで無理矢理働かされているのでは?」などと思いつつ、そのときはそのまま行ってしまったのだが 、何のことはない、チップが欲しかっただけらしい。やはり日本人には、チップの習慣がどうも身に付かない。
バスターミナルのベンチで時間をつぶし、薬局が開くのを待つ。蚊除けのスプレーを買うためだ。何しろ、これから行くところはパレンケだ。そこはジャングル、マラリアに感染する危険性がある。薬局に入り、「No Moskito」と言って、腕にスプレーをかけるしぐさをすると、店員は「あぁ、あれね。」と言う顔をして奥に引っ込み、しばらくして出てきた。しかし、手に持っていたのは、どう見てもスプレーではなかった。どうもスプレーは品切れで、塗るタイプのものしかなかったようだ。まぁ、とりあえずこれで蚊除けのアイテムが手に入り、パレンケに向かう支度が整った。
パレンケ村はグァテマラに接するチアパス州にある。この州の政情は少し不安定で、南にあるサンクリストバル・デ・ラスカサスという都市では武装ゲリラで有名なサパティスタ民族解放戦線の中心に近いそうである。しかも、この地域にすむ先住民は写真を撮られると魂まで盗られると本気で信じているらしい。トラブルを避けるための大きな看板もあるそうだ。日本に帰ってきてから何日か後に、チアパス州の牧場の一家が何者かに銃殺されたとのニュースを見た。旅行者を巻き込んだ事件ではないが、まだ危険なところもあるようだ。しかし、パレンケ村はチアパス州の北に位置し、サンクリストバル・デ・ラスカサスとは山一つ離れたところにあり、ビジャエルモッサからバスで約2時間程の、どちらかというとタバスコ州に近い村である。有名のパレンケの遺跡がある村だし、それほど危険なところではないだろう。と自分に言い聞かせながら、8:10発のバスに乗り、パレンケを目指す。みくりんはこんなまことの胸中などつゆ知らず、相変わらず席に座ったとたんに眠り込む。天気はだんだん良くなってきており、辺りも明るくなってきた。まわりはだんだん木が多くなってきて、ジャング ルに近づいていっているようだ。ジャングルというと私なんかはどうしても熱帯雨林系の密林を思い浮かべてしまうのだが、この辺りのジャングルはただの雑木林という感じである。一番の違いは蔓植物や下草が少ないことだろう。先の見えない密林と違って、パレンケのジャングルはかなり先まで見通せるのである。ただその面積は日本では想像もできないくらい広がっている。
パレンケに到着したのは10時過ぎ、すっかり天気は良くなり日射しも強くなってきた。がっ、なにより湿度が高い。昨日まで涼しく、乾燥したメキシコシティにいたこともあり、この蒸し暑さに「ようやくメキシコに来たんだ」という実感が湧いてきた。ビジャエルモッサでも湿度が高いのは気になっていたが、雨のせいだろうと思っていた。しかし、晴れていても湿度が高い、とにかく「蒸す」のだ。この蒸し暑さはメキシコシティを離れてから、カンクーンまで続くことになる。
さてバスを降りた二人は、まず村の中心を目指した。中心といっても、中央通りの両側に店や食堂が並んでいるだけだから、通り沿いに歩いていくだけだ。蒸し暑さにめげているまことをしり目に、休養充分のみくりんは少し登り坂になっている道をずんずん歩いていく。目指す先は観光案内所だ。とりあえず今夜の宿を確保し、荷物を預けてから行動したい。テオティワカンのピラミッドで得た教訓である。まことがようやく観光案内所に着くと、みくりんはすでに観光案内所の職員と話をしていた。ここは英語が通じるようだ。メキシコシティのホテルが160ペソだったので、まず、150ペソくらいのホテルがないか聞いてみる。すると、ツインで120ペソというホテルを紹介してくれたので、即決する。
すぐ近くにあったそのホテルは「Kin」という名前である。日本ぽい名前で気に入った。「Kin」とはどういう意味なのか気になって辞書を引いてみたが、意味は載っていなかった。スペイン語にはKから始まる単語が驚くほど少ない。持ってきた辞書は小辞典だったが、全部で18語しかなかった。しかもそのうち大部分は「キロ」があたまに付く、「キロメートル」、や「キロリットル」などの単位であり、実質的に意味を持つ単語は「kepis:軍帽」、「kerosen:石油」、「kiosco:駅の売店」の3個のみで、後は「Kabul」、「Karachi」の地名が二つのみ、スペイン語には「K」から始まる単語はほとんどないのである。このことから、このホテルの名前は人名、もしかしたら日本人の名前から来ていることも考えられる。そう思うと何か親近感が湧いてきた。(実際には、日本語どころか、英語を話せる人も一人しかいなかったのだが。)語学的な解析はその程度にして、ホテルの話に戻ろう。壁は白く塗られており、こぎれいな感じで、4〜5階建ての結構大きいホテルだった。真ん中が吹き抜けになっており、それを部屋が囲むような作りになっていた。唯一不満な点は、エアコンがないことだった
が、郷に入っては郷に従えで、この暑さに慣れてこそ、メキシコに来た意味もあるのだろう。エアコンに慣れて外にでられなくなっては意味がない。
早速、部屋に荷物をおいて、ミソル・ハ、アグア・アズールツアーを申し込みに行く。パレンケ村で、遺跡以外唯一のツアーである。路線バスの停留所のようなツアーバスの発着所に行き、午後からのツアーを申し込む。ミソル・ハとは、村から18km離れたところにある落差のある大きな滝、アグア・アズールは、青い水という意味の川である。狭いワゴンに押し込められ出発した。日本でいうとボンゴくらいの小さめのワゴンになんと11人乗っていた。まこととみくりんの列には、他に女性が二人、並んで座っていた。と、言えば聞こえはいいが、身長180cmくらいあるたくましい白人のお姉さんだ。しかも、二人連れなのに全く口をきかない。ある意味、ちょっと怖かった。最初は遠慮して、肩や肘が触れないようにしていたのだが、そんなに気を使うこともなさそうだ。どちらにしてもこの狭さではどうしようもない。車にはもちろんエアコンなどは付いていない。窓は開けっ放しで、結構なスピードで走っているため、車内に風がびゅんびゅん入ってくる。たまに道路に向かって伸びている草にかすって、折れた茎や葉っぱが飛び込んでくる。さすが、現地発着のツアーだ。細かいことは 気にしないらしい。みくりんはというと、この状況でも、やはり寝ていた。うらやましい限りである。
しばらく走ると、とある駐車場で車は止まった。ミソル・ハに到着だ。滝の音が聞こえる。駐車場すぐ近くの小道を降りていくと、目の前に滝の姿があった。
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ミソル・ハ 落差のある大きい滝である。水が落ちてくるときに発生する風と水しぶきがすごい。滝の裏まで続く道もある。同じツアーのカナダ人らしき若者が果敢にも挑戦していたが、途中で引き返してきたにもかかわらず、全身に水をかぶったようになっていた。彼のカメラはどうなったのだろうか。 右下にいるのがまこと。その左隣がたくましい白人のお姉さん。 |
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ミソル・ハでは約40分の時間があったが、滝以外にはあまり見るものもなく、時間を持て余していた。駐車場のまわりをぶらぶらしていると、何かの筋が道を横切っているのに気がついた。よく見てみるとそれは、葉切りアリの行列であった。 |
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葉切りアリとは、植物の葉を丸く切り取って、巣に運び、中で発酵させ、そこから生えてくるキノコを食料にするアリだ。農耕を行うアリといわれている。本での知識はあったものの、実際に見たのは初めてだった。アリの巣を確かめようと行列をたどってみたが、列は以外に長く、数十メートル続いており、山の中へ消えていたため、残念ながら巣は確認できなかった。 |
次は、アグア・アズールに向かう。また狭い車に乗り込み、約1時間後に到着した。ここでは3時間ほどの自由時間があった。青い水というからには、きれいで透明な小川のせせらぎを想像していたのだが、そこには泥で茶色く濁った川が流れているだけだった。ここのところの異常な豪雨のせいだろうか。ちょっと落胆し、休憩所で時間をつぶそうかと思ったまことだったが、みくりんは上流に登ってみようと誘う。小さな滝の横や、水のたまったどろどろの道など、きつい道を登っていく。道は川沿いに、林の中を延々と続いており、小さな村をいくつか通り過ぎる。地元の子供が裸で走り回っていたり、木に登っていたりでのどかな風景だ。
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地元の子供。茶色い川の流れを眺めながら、なにを考えているのだろうか。 | この絵ではよくわからないが、道の真ん中に少女がしゃがんでいる。道の脇には、オジギソウが生えていた。 |
ズンズンとわき目もふらずに歩くみくりん。まるで、そこに道があるから歩くのだといわんばかりに歩いていく。だんだん二人の差が開いていく。歩き始めてから、1時間近く経っていた。帰りの時間も考えると、そろそろ引き返さなければならないのだが、みくりんはいっこうに止まる気配を見せない。残り時間はあと約2時間、帰り道は下りだから、1時間ちょっとで戻れるだろう、しょうがない、後30分ぎりぎりまで付き合うか、と半分あきらめてついていく。しばらくすると、みくりんが立ち止まっていた。そこには橋が架かっており、外人が泳いでいる。そしてその水を見ると・・・あっ青かった!!そこはメインの川の支流で、川幅は狭く、流れもそれほど速くない。そのせいかどうかはわからないが、青い水はそこに残っていた。
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苦労して登ってきたものだけが見ることができる、本当の青い水 |
一人ではきっとここまでは来なかっただろう。みくりん様々だ。そこへ、逆方向からカメラを持ったイギリス人風のおじさんが歩いてきた。みくりんが英語で声をかける。聞くところによると、この道の先から来たらしい。先には何があるのか聞いてみると、「何もないよ、魚釣りをしている人がいるだけさ。」とのこと。じゃあとりあえずそこまで行ってから引き返そう、ということになり、先へ進む。すぐ先にいた、魚釣りをしてる人に声をかけ、みくりんがたばこをあげる。これでもうアミーゴだ。また少し行くと、地べたに蝶が集まっていた。あまりきれいな蝶ではないが、日本ではあまり見られない光景だ。その先には、川の反対側に渡るための、手動ロープウェー?があった。このおじさんに写真を撮ってもいいかと聞くと、うなずいたので、みくりんが写真を撮った。すると、このおじさん、何か言っている。よく聞いてみると、「Cinco peso」・・チップの請求だった。うーん、ただで撮らせて、とは言わなかったからなぁ。まあ、5ペソくらいならいいか。しかし、このおじさん一日に何人の人を運ぶのだろう?仕事になるのか、人ごとながら心配になる。
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ここで引き返すことにする。帰りはやはり1時間ほどで済み、30分ほど休憩をとることにする。休憩所でジュースを飲みながら休んでいると、近くで遊んでいた小学生くらいの女の子が思いついたように、オレンジを売りにやってきた。年下の女の子を2、3人引き連れている。みくりんが一つ買ってみた。オレンジといってもオレンジ色ではなく、緑色っぽく、固い。皮をむくのに手間取っていると、見ていた女の子が皮をむいてくれた。そこでみくりんが、「ママ〜」と甘えた声を出すと、女の子は照れたように笑っていた。そのオレンジの味はというと・・・甘からず、酸っぱからずで、ほとんど味はなかった。オレンジではなかったのかもしれない。
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オレンジ売りの女の子たち。 遊んでいる時間の方が長いようだ。 |
川のまわりには所々に小さな十字架が立っている。川で事故にあった人達のものだそうだ。流れはそれほど速くはなかったが、もっと増水することもあるのだろう。毎年何人かは流されているそうだ。もし行って泳いでみようという方は注意して欲しい。さて、またキツキツのワゴンに乗って、パレンケ村に戻る。とりあえずまたホテルに戻り休憩だ。部屋に戻る廊下でイタリア人風の男が道をふさぐようにグデッとうつぶせになって本を読んでいた。その横には彼女らしき女の子が腰を下ろしている。そこを通らないと部屋まで行けないので、どうしようかと思いつつその彼の前まで行くと、彼女が先に気づき、彼をどかしてくれた。暑さで相当ばてていたのだろう、少しでも涼もうと床にへばりついていたらしい。ふと、昔家にいた猫のことを思い出す。やはり暑い日は床で同じようにグデッとなっていた。猫は本能で一番快適な場所を探し出すというが、猫もイタリア人も本能で生きているということなのだろうか?
夕方になり、だんだん暗くなってきたので、夕食を食べに行く。パレンケ村のメインストリートであーでもない、こーでもないと良さそうなレストランを探すが、なかなかおもしろそうな店は見あたらない。結局ふつうの食堂に入り、タコス、ワカモーレ、トルタスなどを頼む。今までの食事の中ではよい方だ。その後、テレホンカードを買い、実家の両親に無事を知らせる。
さて、部屋に戻ったまこととみくりんには、一つ気がかりなことがあった。それはみくりんのカメラのことである。今回の旅のために、義弟から借りてきた一眼レフのカメラだったが、なぜか、シャッターを押す度にカシャッ、カシャッと二回音がするようになっていたのだ。もともと人のものだけに、故障なのか、いつの間にかそういう設定になってしまったのかがわからない。故障でなければ、フィルムが2倍消費されるだけで済むのだが、何も写っていないと悲しいことになる。まことのカメラはというと、メキシコシティでもうすでにご臨終となっていた。もう10年近く使っており、ズームレンズのモーターがたまに引っかかることはあったのだが、しばらく使っていなかったので、そのことをすっかり忘れて持ってきてしまったのだ。そして、テオティワカンでついに動かなくなってしまっていた。
もともと楽天的なみくりんのこと、一応シャッターが切れているから大丈夫だろうということで、もし動かなくなったら、写るんですでも買えばいいという結論になった。そしてこのカメラは旅の終わりまで、シャッター音二回のまま動き続け、フィルムを2倍の速度で消費しまくっていった。日本に帰って現像してみると、旅の後半に行くにしたがってまともに写っている写真は少なくなっており、この日以降の写真はほとんど写っていなかった。さすがのみくりんもこの時ばかりはショックを隠せなかったのだった。
本 日 の 出 費 | ||
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項 目 | まこと | みくりん |
虫除け | 16ペソ | |
ビニール袋、セロテープ | 25ペソ | |
長距離バス代 ビジャエルモッサ〜パレンケ |
43ペソ | 43ペソ |
アグア・アズール、ミ・ゾルハツアー | 43ペソ | 43ペソ |
おやじ写真 | 5ペソ | |
女の子のみかん | 3ペソ | |
オレンジジュース | 7ペソ | |
コロナビール | 8ペソ | |
アイス | 5ペソ | 5ペソ |
夕食 | 50ペソ | 50ペソ |
テレホンカード | 80ペソ | |
合 計 | 228ペソ | 198ペソ |