タイトル 侍ジャイアンツ
放映年 1973〜74年
放映話数 全46話
「巨人の星」に続く梶原一騎原作の野球もので監督も同じく長浜忠夫。73年は巨人のV9の年で、本作はV9達成までの一年を描く。「巨人の星」の時間の流れに比べ、超ハイスピードな展開に心躍った

声の出演:富山敬、納谷六朗、武藤礼子、山田俊二(現キートン山田)ほか

やんちゃな蛮を弟のように見守る理香。幼い不二子ちゃんといったムードがイイ。バイクも乗り回すもんね

 ♪ずんたったた〜、ずんたった、ずんたったた〜、ずんたった/ダイヤモンドをつんざいて〜♪ と水木一郎アニキ(松本茂之名義)の軽快な歌で始まるOP。作画の力と楽曲の魅力が見事にマッチしたオープニングフィルムは何度見ても心躍る。何よりも野球の動きが申し分ない力感とスピード感たっぷりに描かれていて、野球小僧だった私にはとても嬉しく心底ワクワクしたものだった。主人公が投手にも関わらずタイトルバックはバッティングフォーム、しかもそのあと空振りでずっこける!という型破りで心底明るいOPは本来この作品が目指したところだったに違いない。しかし・・・そこは梶原一騎&長浜カントク。途中から蛮は悩み多き主人公になり、物語もどこか重いムードが漂うようになってしまったのは残念であった。
 作画監督は「ルパン三世」でおなじみの大塚康夫。子供心に「なんかルパンに似てるな〜」と思っていたが、後にその感想が正しかった事を知って妙にうれしかった。途中、大塚は長浜と意見が合わずに降板する(形の上では作画監督として最後まで名を連ねてはいる)のだが、さすがにシリーズ前半の作画には見るべきものがある。特に宮崎駿と小田部羊一が原画を描いた第1話はスピーディーで素晴らしい出来栄えで、アニメーターとしての宮崎駿の力を見せつける。東京ムービー作品でありながら東映動画出身者たちが力を発揮したこの第1話は古き良き東映の匂いすら感じるのである。余談だが、この宮崎・小田部コンビはこの後本作の裏番組として74年1月に始まる「アルプスの少女ハイジ」のメインスタッフとして大活躍することになる。さらに付け加えれば、ハイジの演出家高畑勲は本作の演出家としてオファーを受けていた。
 本作も「巨人の星」同様に主人公の番場蛮が数々の魔球でライバルたちとの対戦を繰り広げる。そのライバルもまた、スマートで天才肌のおぼっちゃん、デブで人のいい田舎者(笑)、元大リーガー(それもアメリカ社会では虐げられてきたマイノリティー)といった同じ構図である。
 本作ではV9を達成した番場は最後に、来日した大リーグの強打者ジャックスと対戦する。このジャックスに蛮は魔球の数々をいとも簡単に打たれる。あれほど苦労して開発した魔球を、である。そしてそれらの魔球と対戦してきたライバルたちもまた大リーガーの圧倒的な力に驚愕するのである。つまり1974年当時、物語的な誇張はあるにせよ大リーグのスラッガーというのはそれほど強大な存在であるというのが一般的な考えであった。
 このジャックス、後にアスレチックスからヤンキースに移籍しワールドシリーズで3打席連続本塁打を放ちミスター・オクトーバーとして語り継がれることになるレジー・ジャクソンがモデルである。そしてあの江夏豊の大リーグ挑戦に引導を渡したのが、誰あろうこのジャクソンであった。 
 魔球を打たれ、侍の「戦場」であるはずの野球場に背を向けてしまうほどショックを受けた蛮はライバル達や理香の説得で後楽園球場に戻る。そして万策尽きていた蛮は最後の賭けで全ての魔球をミックスした魔球を投げ、なんとかジャックスに勝つ。そして蛮が華々しく日米野球のMVPに輝いて本作は終わる。しかし蛮は「なんとか」勝ったにすぎない、しかも敵前逃亡しておいて何がMVPか!と突っ込みたくもなる。冷静に考えてみればそんな魔球ばかりを投げるわけにもいかないことは誰でも分かる。仮にこのジャックスとシーズンを通して対戦したならば、おそらくほとんど打たれるに違いない。つまるところやはり「大リーガーは凄い」ことを知らしめていることにもなっているのである。
 飛雄馬の魔球「大リーグボール」は結局太平洋を渡ることはなかった。蛮もただ一打席大リーガーに勝ったにすぎない。しかし今では魔球などなくても勇気と知恵と、ほんの少しの才能があれば大リーグで活躍出来ることは子どもでも知っている。
 大リーグはさほど遠い存在ではなくなってしまい、「大リーガー」という響きにもこの時代のような畏怖や憧れを感じられなくなった。そしてスターの象徴であった巨人の4番打者を捨ててまで松井秀喜が大リーグへ行ったことで、巨人でスターになることよりも大きなものがあることを(知らないふりをしたかった人たちもさすがに)思い知らされたのである。その後の巨人の凋落ぶりは周知の通りであり、「巨人の星」や「侍ジャイアンツ」といった物語そのものを成り立たなくしてしまった。
 野茂英雄が単身海を渡るのは放送終了の21年後、1995年のこと。「侍ジャイアンツ」は、大リーグがまだまだ遠い海の向こうの夢でしかなかった時代の、ある意味幸せな物語である。
(2006.10.22 今回は居候部屋から出張しAKIRAがイラストと文を書かせていただきました)