タイトル マタンゴ
公開年 1963年
配給 東宝
ゴジラの本多猪四郎が監督した、怪奇映画。七人の男女が不思議な茸の自生する無人島に漂着し、そこで味わう恐怖の世界。東宝特撮映画の女王、水野久美の艶やかさが際立つ

出演:土屋嘉男、佐原健二、久保明、小泉博ほか

どんどん妖艶さをましていく茸人間@水野久美さん。グリーンがよく似あう

 食べたら茸人間になってしまう。が、食べるものは茸以外選択肢がない。飢え死にするか、茸人間になるか…究極の選択を強いられるのが本作、マタンゴである。人間、ひもじくなると性格が悪くなるらしい。どんどん、仲間割れを起こし、エゴ丸出しで諍いを続ける。いち早く、茸に手を出したのが水野久美さん。男は、あっという間に醜い茸が顔にぼこぼこできるのに、何故か彼女はどんどん美しくなってくる。目の回りには鮮やかなグリーンのアイシャドウ。唇はぷるぷる光り輝く朱色に…おまけに、衣装も派手になっていき、ラストの辺りでは鮮やかなグリーンのスカーフを巻いて、艶然と微笑む…日本人でこれほどグリーンが似合う女優さんも珍しい。難しい色なのである
 自分がその道を選ぶかはわからないが、茸人間、なってしまえばそれなりに楽しいのでは?茸を食べた土屋嘉男さんがキャバレーかなんかの幻影を見てトリップしていたが、もし、そういう楽しいものをずっと見ていられるのなら、死ぬよりはいいのかも。茸は生え放題だから、飢えることもないし。仲間もたくさんいて、それなりに閉鎖された世界で楽しく暮しているのではないだろうか。もしかして、彼らは、流れ着いた人を襲っているのではなく、<争いごとが好きな人間なんかやめて、ほら、こんな楽しい茸人間におなりよ!>と誘いに来ているのではないだろうか。完全自給自足で、姿形もみんな同じ茸人間ならば容姿で悩むこともない。毎日茸を食べて、楽しい夢を見て、暮していく…エゴ丸出しで、ひどく醜い争いをしている人間様より、茸人間の方が真当かもしれない
 水野さんがインタビューで答えていたが、あの茸、美術さんが作ったものらしいが、大変美味しかったそうである。お菓子のように甘かったらしい。それにしても、この映画を見ていても思う。やっぱり、女の方が男よりも数倍も逞しい。女性のために必死で食べ物を探してきた久保明さんが[1日探して、これだけなの]と言われたときには、なんだか気の毒で、とほほな気分になった…がんばれ、男の子…(2003.6.8)