アイヌ文化

アイヌ民族が登場する児童書(北海道児童文学全集)

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以前思い立ったとおり北海道児童文学全集を読破することにしました。

北海道児童文学全集 立風書房   北海道を舞台にした児童文学ばかり集めた全集です。初めに15巻を読みましたが、これは全部読んだほうが良さそうです。収録作の著作年は大正9年から昭和58年まで。作品一覧があるので、この本の作家をあたれば他のアイヌ関連の童話もみつかるかも。

作品名 著者名 コメント

14巻 童話・民譚・民話
金田一京助・荒木田家寿…『流れてきた子どもの話』『鬼が島せいばつの話』『チャランケの話』『日の女神を救いだす話』『神々がざんげ話をする話』『生い立ちと晩年の話』、知里真志保…『パナンペ放屁譚』『パナンペの手足に浮袋がひっつく』『パナンペ銀の小犬を授かる』、更科源蔵…『人間創造』『人間が一番偉い』『上の者と下の者UVX』『あの世への岩穴』『ウサギの胆』『大ウサギ物語』『コタンを救ったウサギ』『目のうすいウサギ』『島にされたトド』『大トド』『クマとトド』『カワウソとキツネ』『カケスの雄弁』『カッコウの神』『談判鳥』『キツツキとオタスツ人』『世界はアメマスの上につくられた』『ウグイとニシンの競争』『シシャモ物語』『人間の子どもを育てたセミ』『クモと風の神様』『ヘビに呑まれるカエル』『なまけものの姿』『強情星』『キツネエにつかまった日の神』『臼のお婆さん』『フクジュソウ物語』『ニワトコとハシドイ』萱野茂…『キツネのチャランケ』『ポロシリ岳のふたつのちぶさ』『オキクルミとカジキマグロ』『カラスの恩返し』『白ギツネと六つの首のばけもの』『セミになった老女』『酒の女神』『びんぼうアイヌとりゅう』『木ぼりのオオカミ』『ススペチッチッ、ススペランラン』『ひとつぶのサッチポロ』『プクサの魂』『ヤイピラッカとチチヤアイヌ』『貧乏アイヌとユカラ』

 「神々の昔話(アイヌ・ウェペケル)」「パナンペペナンペ昔話」「和人昔話(シャモ・ウェペケル)」などがあるそうです。どうりで和人の昔話と似たようなものがありました。
 大槻富雄…『支笏湖の大アメマス』アメマスとアイヌ一家との戦い。蒲田順一…『有珠山とどろぼう』『コロポックルののろい』「トカツプ(十勝)」はコロポックの呪いの言葉だそうだ。

13巻 詩と童謡
北原白秋…『アイヌの子』、木村不二男…『アイヌの子』『佐原行』、更科源蔵…『チャチャはこう話して呉れた』『古潭記録』『コタンの学校1』『アイヌ子守唄』、八森虎太郎…『民族採集』、玉川雄介…『アイヌの子と舟』、坪松一郎…『いろりばたのお話』『北海の海鳴り』、巽聖歌…『韃靼の海』、渡辺ひろし…『バスで見た知里先生』、大久保テイ子…『ユーカラ』、友田多喜雄…『むかしアイヌのひとたちは』

 アイヌ=笹窓、日本語を練習しているイメージがたびたび描かれています。当時ほんとうにそのように聞こえたのか、まるで朝鮮の人たちが日本語を話しているかのような描写がされています。「ムンカチアイヌチヨカッタ・・・」というのは当時のいわゆる差別歌でしょうか?
 和人がやってきて、アイヌのくらしが苦しくなったことが歌われ、知里真志保や金田一京助も出てきました。人を訪ねるときのアイヌ風の礼儀も正確です。

12巻 ズリ山
若林勝 赤平にあった炭坑の移り変わりが、1913年から1970年、そしてそれ以降として描かれています。赤平の由来について、アイヌ語のフレピラ(赤い崖)→赤ピラ→赤平とありました。

11巻 原野にとぶ橇
加藤多一 正造がホロカムイ(架空の地名)へ入植してすぐ、食べ物を借りに来た人の中に木根セリマカンというアイヌが出てきます。借りたイナキビの代わりに、子どもたちの面倒をみたり、木彫りの練り鉢を作ってくれたりしました。

9巻 白いリス
安藤美紀夫 白いリスがうわさに聞く人間のなかに、 「古い人間」と「新しい人間」が出てきて、どうも「古い人間」がアイヌをさしているようです。 「ひぐまをキムン・カムイといってだいじにするということですから。 でも、ストーリーの展開からすると、アイヌに限らず「昔の考えをする人」という意味で使っているようにも思えます。
解説から、この作者がアイヌを題材にしたらしい作品がいくつかあることがわかりました。 県立図書館にあるようなので、後日『アイヌが登場する児童書』のほうで紹介します。

8巻 オホーツクの歌
菊地慶一 主人公の少年がオロチョン(ウィルタ)です。「オロチョン」はアイヌ語、「ウィルタ」はウィルタ語で「人間」という意味だそうです。こんなところまでアイヌと似ています。「アイヌ」はアイヌ語で人間という意味です。アイヌより人数が少なく、北海道に移住後はさらに過酷な運命でした。
この話しではオロチョンの火祭りは今年で終わり(昭和54年作品)となっていますが、現在も続いているようです。 (網走観光協会
観光案内にも出てくるモヨロ貝塚人(現呼称オホーツク人)はアイヌ民族よりさらに昔、北海道に住んでいました。ウィルタの祖先かとも考えられます。

8巻 若きゴメ達の出発
柴原紀代 舞台は北海道の南部、日本海側のM市ということです。中学3年生達が主人公で、その中の一人がアイヌの父と和人の母を持っています。父が亡くなって母の実家で暮らしているのですが、本人は「自分がアイヌ」という自覚(そしてたぶん誇りも)を持っています。
他に船主の子、普通の漁師の子と、いろいろな背景を持った子ども達の葛藤と進む道が描かれています。 作品発表は昭和57年。この年齢は、もう社会に出なければいけない年なのです。

7巻 天使で大地はいっぱいだ
後藤竜二 ほんのワンシーン、決闘の場面で「アイヌ打ち」というのが出てきます。 武器を持った者が持たない者の後に立っ打つ。避ける方は勘で避けるしかないというものだそうです。 なぜこんな名前がついているかは不明です。

7巻 コロポックルの橋
森一歩 海から40キロも山奥に入った開拓部落での話しです。実際のアイヌは登場しないのですが、アイヌの古老に聞いた昔話が出てきたり、 カラスのパスは「パスクル(カラス)」から、犬のコポは血統のしっかりしたアイヌ犬で「コロポックル」からつけたことになっています。

6巻 魔人の海
前川康男 アイヌ民族が登場する児童書」を参照ください。

5巻 親子牛
前川康男 ほんとにほんとに一言。今日のような北海道になるのには自分達の力だけじゃない。アイヌの力もあったというようなことで出てきました。
4巻 ハナとひげじい 三上敏夫 和人が入植をはじめた頃の物語。ひげじいがアイヌだったということが、後でわかったという展開です。 ということは、ひげじいがハナにごちそうしたのは「イモシト」ということになります。
4巻 天にのぼったチプ 四辻一郎 チプは丸木舟のこと。チプサンケは舟おろしの祭り。このチプは、人が乗る前に流されて最後は沈んでしまいましたが、流ていく間の交流が興味深いです。
著者は画家で、長年アイヌ民族の研究を続けてきたそうです。「コタンの四季」や「アイヌの文様」の著書があります。
3巻 毒矢 川村たかし 死んでいくおじいさんが教訓を語るというアイヌの伝説の形式にしたがっているものの、内容はアイヌの話しらしくないです。どうアイヌらしくないかというと、う〜ん。舟の上の少年とおじいさんの会話でしょうか。なんとなくなんですけどね。
3巻 海から来たうさぎ 末武綾子 波頭が白いことを「海でうさぎがはねている」と教えてくれた老人が、どうもアイヌらしいです。はっきりとは書いてありません。が、白いひげ、長いあごひげのお爺さんだし、「お前のおじいさんたちが、南の方からやって来た頃にはあの人たちはどこかへ行ってしまった」そうなので。
「昔、北の国には、自然の恩恵の下に狩猟をして暮らしていた人たちがいた。しかし、南方から侵入してきた文化に触れて、素朴なその人たちの生活も、荒廃してしまったのだった。それは、少數民族がたどる滅びの歴史でもあった」とあります。当時の認識はこうだったのでしょうか?誰が少數民族にしちゃったのかってことですよね。
3巻 挑戦のてんまつ 続橋利雄 中学生になってから同級生がアイヌと気付き、距離をおきだした2人が和解するまで。気付いてから距離ができるっていうことはあったのでしょうか?差別がある地区では、子どもの頃からなんとなくというならわかるのですが。
2巻 雁 竹内てるよ 「おじさん」に話しかける子ども達の一人として、アイヌの少年が出てくきます。和人の子達と何気なく一緒にいるけれど、それんな状況はこの時代(戦後すぐ)あったのでしょうか?地域によるのかもしれません。
2巻 カネランと小熊 西野辰吉 会話がアイヌというより東北の農民という感じです。小熊とカネランの交流は微笑ましい。
2巻 お母さん山 更科源蔵 解説では「この著者の中でも後世に残されるであろう、みがきぬかれた・・・」とあります。私は「原野」シリーズの方が好きです。この作品の中の、食べ物が無いから兄弟コタンに戦争をしかけるという、酋長像が納得いかないからかもしれません。もちろん、教訓のための悪人であるのだろうけれども。
2巻 立ってみなさい 斉藤隆介 アイヌ民族が登場する児童書」を参照ください。
1巻 蕗の下の神様 宇野浩二 アイヌ民族が登場する児童書」を参照ください。
1巻 あるアイヌじいさんの話 宇野浩二 冬の巣穴にころがりこんだアイヌの男を助けた熊のはなしが出てきます。もしかしたらあるかもと思わせるところがあります。
1巻 絶壁の荒鷲 吉田一穂 鷲の巣に隠された毒壺というあたり、ネイティブアメリカンの伝承に似た感じもします。
1巻 マナイタの化けた話し 小熊秀雄 おきざりにされたマナイタが恨みをもつ話し。マナイタ(イタダニ)にも神様がいるとは初めて知りました。 鍋にもいるんだから、マナイタにもいるかな・・・。
1巻 児童・コシャマイン記 鶴田知也 著者は「コシャマイン記」で芥川賞を受けたそうです。その子供向け版が本作品。この話しの主人公コシャマインは昔の英勇コシャマインにあやかっての名前で、空想で作り出した人物だそうです。
コシャマインが大人になり、死んでいくまでの話しですが、逆らえない時代の流れというかなんというか、終わり方がやりきれなくて暗い気持ちになってしまいました。
1巻 はまなすの野辺 森田たま 月が見た風景という設定で、北海道の浜辺の描写は美しいのですけれども、冒頭から「滅びゆく民族の一人なるアイヌ」とはっきり書かれているあたりう〜んです。