平成12年度 論文本試験問題



●憲法●

【第一問】
 学校教育法等の規定によれば、私立の幼稚園の設置には都道府県知事の認可を 受けなければならないとされている。
 学校法人Aは、X県Y市に幼稚園を設置する計画を立て、X県知事に対してその認可を申請した。 X県知事は、幼稚園が新設されると周辺の幼稚園との間で過当競争が生じて経営基盤が不安定になり、 そのため、教育水準の低下を招き、また、既存の幼稚園が休廃園に追い込まれて 入園希望児及びその保護者の選択の幅を狭めるおそれがあるとして、 学校法人Aの計画を認可しない旨の処分をした。
 この事例における憲法上の問題点について論ぜよ。
【第一問】
 最高裁判所の規則制定権と国会の法律制定権の競合関係について、 議院の規則制定権と国会の法律制定権の競合関係と対比しつつ、論ぜよ。

●民法●

【第一問】
 Aは、画商Bから著名な画家Cの署名入りの絵画(以下「本件絵画」という。) を代金2,000万円で買い受け、代金全額を支払って、その引渡しを受けた。 当時、ABは、本件絵画をCの真作と思っており、代金額も、本件絵画がCの真作であれば、 通常の取引価格相当額であった。Aは、自宅の改造工事のために、画廊を経営するDに対し、 報酬1日当たり1万円、期間50日間との約定で、本件絵画の保管を依頼し、報酬50万円を前払いして、 本件絵画を引き渡した。その後、本件絵画がCの真作を模倣した偽物であって 100万円程度の価値しかないことが判明したので、AがBに対し、本件絵画の引取りと代金の返還を求めて 交渉していたところ、本件絵画は、Dへの引渡後20日目に、隣家からの出火による延焼によって 画廊とともに焼失した。
 以上の事案におけるAB間及びAD間の法律関係について論ぜよ。

【第二問】
1 Xは、Yから甲土地とその地上建物(以下「甲不動産」という。)を代金 2,000万円で買い受け、代金全額を支払った。当時、Yは、長年にわたって専ら 家事に従事していた妻Zと婚姻中であり、甲不動産は、その婚姻中に購入した ものであった。甲不動産につき、YからXへの所有権移転登記を経由しないう ちに、YZの協議離婚届が提出され、離婚に伴う財産分与を原因としてYから Zへの所有権移転登記がされた。
 この事案において、YZの協議離婚がどのような場合に無効になるかを論ぜよ。

    2 上記の事案において、Yには、甲不動産以外にめぼしい資産がなく、Xの ほかに債権者が多数いるため、Yは、既に債務超過の状態にあったものとする。 また、YZが財産分与の合意をした当時、Zは、Yが債務超過の状態にあった ことは知っていたが、甲不動産をXに売却していたことは知らなかったものとする。
 仮に、YZの協議離婚が有効であるとした場合、Xは、裁判上、だれに対して どのような請求をすることができ、その結果、最終的にどのような形で自己 の権利ないし利益を実現することになるかを説明せよ。

●刑法●

【第一問】
 甲は、友人乙、丙に対して、Aが旅行に出かけて不在なので、A方に侵入し、 金品を盗んでくるように唆した。乙、丙は、A方に侵入したところ、 予期に反しAが在宅しているのに気付き、台所にあった包丁でAを脅して現金を奪い取ろうと相談し、 Aに包丁を突き付けた。ところが、Aが激しく抵抗するので、乙は、 現金を奪うためにAを殺害しようと考え、その旨丙にもちかけた。丙は、 少なくとも家人を殺したくないと思っていたことから、意外な展開に驚き、 「殺すのはやめろ。」と言いながら乙の腕を引っ張ったが、乙は、丙の制止を振り切って包丁で Aの腹部を刺し、現金を奪いその場から逃走した。丙は、Aの命だけは助けようと考え、 乙の逃走後、直ちに電話で救急車を呼んだが、Aを介抱することなくその場に放置してAを立ち去った。 結局Aは、救急隊員の到着が早く、一命を取り留めた。
 甲、乙及び丙の罪責を論ぜよ(特別法違反の点は除く。)。

【第二問】
 甲は、指名手配されて潜伏中、生活費に窮したため、Xという架空の氏名で就職しようと考え、 履歴書用紙にXの氏名、虚偽の生年月日、虚偽の住所等を記入した上、Xと刻した印鑑を押捺し、 更に甲自身の顔写真を貼付して履歴書を作成した。その後、甲は、広告で見たA社人事部に その履歴書をファクシミリで送信し、A社のファクシミリに受信・印字させ、A社人事部長Bの 面接試験を受け、A社に入社した。甲は、自己の顔写真入りのX名の社員証を利用し、 金融機関C社D支店からX名義で30万円を借りたが、当初の計画に従って期限内に利息分も 含め返済した。
 甲の罪責を論ぜよ。

●商法●

【第一問】
 ある株式会社が、平成12年度の株主総会において、次のような内容の定款変更を行おうと考えている。 それぞれについて、商法上どのような問題があるか説明した上、そのような定款変更が許されるかどうか について論ぜよ。
1 株式の譲渡について株主総会の承認を必要とする。
2 1万株以上の株式の所有者は、自社の製品を定価の4割引きで購入することができる。
3 平成13年度以降に発行する株式に対して行う利益配当は、それまでに発行した株式に対して 行う利益配当の2分の1とする。

【第二問】
 手形法第16条第2項ただし書の「悪意又ハ重大ナル過失」、第17条ただし書の 「債務者ヲ害スルコトヲ知リテ」及び第40条第3項前段の「悪意又ハ重大ナル過失」には、 どのような違いがあるか。そのような違いが生じる理由を挙げながら論ぜよ。

●民事訴訟法●

【第一問】
口頭弁論の意義と書面の役割について論ぜよ。

【第二問】
 Aが死亡し、その相続人であるYは、限定承認をした。その後、被相続人Aの債権者Xは、 Aに対して有していた金銭債権1,000万円の支払を求める訴えをYを相手方として提起した。
1 この訴訟において、Yが限定承認の事実を主張したところ、これが認められ、 相続財産の範囲で1,000万円を支払えとの判決がされて確定した。その後、Xが、 「Yは、相続直後に相続財産を隠匿しており、限定承認には無効事由がある。」と主張して、 確定判決の効力を争うことができるか。
2 この訴訟において、Yは、限定承認の事実を主張しなかったところ、1,000万円を 支払えとの判決(相続財産の範囲で支払えとの限定は付されていない。)がされて確定した。 Xは、この確定判決に基づき、Yの固有財産に対して強制執行をし債権全額の満足を得た。 その後、Yは、Xに対して、不法行為による損害賠償を求める訴えを提起し、 「Xが、限定承認の事実を知りながら、1,000万円の給付判決を得て強制執行をしたのは 違法である。」と主張した。確定判決の効力との関係で、Yの主張の当否を論ぜよ。

●刑事訴訟法●

【第一問】
 甲に対する覚せい剤取締法違反被疑事件に関し、同人方を捜索場所とする捜索差押許可状の 発布を受けた警察官が同人方に捜索に赴いたところ、玄関が施錠されていた。 そこで、証拠が隠滅されることをおそれた警察官は、「宅配便です。」と声をかけ、 甲にドアを開けさせた。警察官は、甲に同許可状を示して捜索に着手したところ、 その場に居合わせた乙があわてて退出しようとしたため、これを制止した上、 乙の上着のポケットに手を差し入れて捜索し、ビニール袋に入った覚せい剤を発見したので、 これを差し押さえた。
 この警察官の行為は、適法か。

【第二問】
 被告人は、「X日、Y町のA方において、同人の高級時計を窃取した。」として起訴されたが、 公判では、「その時計は、そのころ、同所付近において、知人から、盗品であるかもしれないと 思いながらも5万円で買い受けたものである。」と主張している。証拠調べの結果、裁判所は、 被告人の主張どおりの事実の心証を得た。
1 裁判所は、窃盗の訴因のままで、盗品の有償による譲受けの罪で被告人を 有罪とすることができるか。
2 窃盗の訴因のままでは有罪とすることができないとした場合、裁判所はどうすべきか。


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