題: 「実践作文講座」要約
『就職ジャーナル』実践作文講座(奥山益朗) | ||||||||
講義 | 号 | 1978 | 1979 | 1980 | 1981 | 1982 | 1983 | 1984 |
1 | 4月号 | 活字 | 好きな言葉 | 10年後の私 | 手紙 | 窓 | 夢 | テレビ |
2 | 5月号 | 大学生 | 自慢 | 背中 | 食う | 時代 | 友 | 言葉 |
3 | 6月号 | 計画 | 電話 | 雨 | 故郷 | 電話 | 手紙 | 米 |
4 | 7月号 | 友 | 故郷 | 地図 | ことば | ファッション | 旅 | (欠) |
5 | 8月号 | 私の未来 | 顔 | 音 | 友 | 背中 | 土 | ロボット |
6 | 9月号 | 何故・・志願か | 出会い | 旅 | 影 | 新聞 | 生命 | 嘘 |
7 | 10月号 | 本 | 手 | 色 | 時代 | 本 | 勇気 | 交差点 |
8 | 11月号 | 男と女 | 酒 | 口 | 冬 | 三題噺 | 朝 | 女 |
9 | 12月号 | 旅 | お金 | 本 | 地球 | 鏡 | 駅 | 時代 |
特別講義 | 作文の基本 |
資料(『就職ジャーナル』:埼玉県立浦和図書館 参考調査書庫)
奥山益朗氏 平成18年9月11日御逝去(行年88歳) 合掌
メモ書き(1980年頃のもの)
(アドバイス:読むスピードを考えて)
読み手は相当の早さで読む。したがって速読に耐えられる文章を書く。
そのためには、
書き出しばかりでなく、文中の要所要所にも「珠玉の文字」(読み手が胸躍らせるようなきらりと光る文字)が必要。
さらに
構成上の段落、会話文、読み流されては困るところには、
「一時停止」「徐行」といった道路標識のような、分かりやすいサイン
つまり
一行あけてみたり、会話に方言を使ったり、詩をはさんだり、わざと脱線したりして、読み手の速読を停止させる。
(アドバイス:4W1H、季節)
「4W1H、季節」のほんの数文字を挿入することで、読み手が分かりやすくなる。
(アドバイス:作文を芝居仕立てで)
構成のない作文が多い。「本」を例にとれば、自分は本が好きだ、中学の時には何を読んだ、高校では何を読んだ、大学では本を読まずに遊んだ、しかし本は大切だ、といったダラダラした作文が実に多い。作文で大切なのは、時間の経過ではなく、何と何とを、どういう形で書くかである。構成は芝居の何幕何場というのに似ている。
第一場 アパートの一室。本棚に本がぎっしり。主人公がそれを見上げている。
第二場 大学近くのスナック。部員数人がビールを飲みながら激論中。
第三場 大学の部室。主人公が最後の原稿を書いている。
……そして、芝居であるから、全てが具体的だ。第一場の部屋は六畳か四畳半か、カーテンの色は、第二場のビールはキリンか、サッポロか、アサヒか、サントリーか、集まっているのは誰と誰で、男か女か。場合によったら、テレビの天気予報で、その場の天気を暗示することさえできる。
(アドバイス:ピント合わせ)
文章のテーマとは、つまり被写体。被写体が悪くては、いい写真は出来ない。ピントが合ったら、なるべく深く絞る。
(焦点を定めて、そこを詳述すること)
(アドバイス:七つのポイント)
1 文章構成
作文は構築物である。家を作るのに設計図が必要なように、作文にも設計図は必要である
バイキング方式ではなく、洋食の順番で書く
2 知らないことは書くな
一般論は避け、個性を出す
借り物の知識ではなく、自分の経験を書く
3 若さにあふれていること
4 情感が満ち満ちていること
5 共感を呼びやすいこと
6 事実を事実として書く
7 思い出を書くのはいいけれど、大切なのはあくまでも今であり、過去はすべて今の説明でしかない
(アドバイス:省略すると文章はよくなる)
おしなべてセンテンスの長い文が多い。ひどいのになるとワン・センテンスが十行あまりにもなり、途中で読み直すはめになる。しかも意味がよく呑み込めない。
「街中に住む者が田舎で眠ろうとすると、小川の音や木々のざわめきが耳について、眠れないことがある。これは、音が刺激である証拠であり、そのため、いつもと違う音でショック状態に陥っているのである」
これを省略すると、次の通りになる。
「街の人が田舎へ行くと眠れないことがある。小川の音、木々のざわめきが耳につくのだ。いつもと違う音がショックなのだ」
さらに、漢語が多い文章は堅く、疲れやすい。省略文のように、大和言葉に置き替えて、わかりやすくする。
(アドバイス:書き始める際の三か条)
1 読み手を意識する
2 わかりやすいことが一番(何が書いてあるのか一目瞭然なのが先決)
3 段落は少なくとも七、八行に一回はつくる。文章は単文の積み重ねにする。
「母校の中学校へ教育実習に行くことになったので、朝五時起きして、六時の始発バスで駅に向かった」より
「母校の中学校へ教育実習に行くことになった。朝五時起きして、六時の始発バスで駅に向かった」のほうがわかりやすい。
(アドバイス:考える習慣をつける)
すぐれた人材とは、ほかでもない個性のある人物である。皆の考えるとおりに考えるのでない人物である。常識にまどわされないのが第一である。世に常識くらいつまらないものはない。一頭地を抜くには、努力と工夫がいる。常日頃よく考え、よく疑問を抱き、自分なりの結論を出しておくことだ。
(アドバイス:書き出し方と結末をつける方法)
「書き出し」の三手法
一、問題提起(内容の輪郭をわからせる)
二、場面の設定(読み手に状況を呑み込ませる)
三、意外性(読み手を驚かせる)
「結末」の方法
一、要約
二、覚悟・決心(注)
三、疑問
四、書き出しに使った言葉をもう一度繰り返す
(注)結末というのは、いわば「さようなら」の挨拶。何で覚悟や決心がいるのだろう。
説教調・覚悟調は避けること。
(アドバイス:秘訣)
一、原稿はきれいに書く
二、整理された文章を
三、結論をはっきりと
(アドバイス:四つのべからず集)
一、いきなり書き始めるべからず
A 何をどう書くか
B どのような構成にするか
C 書き出し、結末をどうするか
この三つを、二、三分かけてじっくり考える。
二、ダラダラと書くべからず
歯切れよく、ブッ切れの文章。改行は五、六行に一回。
三、て、に、を、はを誤るべからず
四、マスメディアの情報に依存すべからず
自分だけが知る世界を書く。
(アドバイス)
何か一つにマトを絞る(一つの主題で一貫する)
余分なことは書かない(無用な途中経過は省く)
事実を事実どおりに、飾らずに書く
時間の許す限り本を読むこと
誤った漢字を書くくらいなら、カナにした方がいい
特ダネを書く(体験したものにしか分からない感想。面白さとは特ダネだ)
他人には書けない自分だけのものを書く
使い慣れた言葉で書く
読点の打ち方は、声を出して読めばわかる
ものを見る目を養う(観察を鋭く)
言葉の迷子を避ける(副詞に要注意、「かかり」と「受け」の接近)
1、非常に出来の悪い子を育てるのはむずかしい。
2、もっと人の出入りの多いことを考えて門は広く作るべきだった。
訂正
1、出来の悪い子をそだてるのは非常にむずかしい。
2、ひとの出入りの多いことを考えて門はもっと広く作るべきだった。
登場人物の間柄の混乱に注意
たとえば、「私の母は……」「母は……」と書き進めているうちに、筆者の娘が登場してくると、とたんに「祖母は……」「祖母は」となってしまう。こうなると、「娘のことを案じる母は……」と書かれても、その娘が筆者なのか、それとも筆者の娘をさすのか、まるでわからなくなる。軸になる「母」を動かさず、娘(筆者)、孫(筆者の子)で一貫する。
……末尾(アドバイス)は、朝日新聞現編集委員:川村二郎、元整理部長:斎藤信也両氏の指導によるものです。
なお、奥山益朗氏(元朝日新聞記者)は、かって「就職ジャーナル」(リクルート)の作文添削者でした。
この資料は氏の七年間にわたる添削指導を要約したものです。
(付録)
論文の構成
(1)前置き…誰と誰がこういうことを研究したが、こういうところにまだ穴があって、その問題を埋めようと思った。
(2)材料と方法…材料としてこういうものを使って、方法としてこれこれを使って、データーはこうして出した。
(3)結果…一切主観を交えず評価もしない結果だけを書く。
(4)論述…はじめて自分のことを言う。