フリーマンの随想

その86. 一票の格差 ( その3 )


( Dec. 25, 2012 )



***
 衆院議員の選挙が近づきましたが、今回もまた 「 一票の格差 」 が大きな問題になっているのに、 それが放置されたまま突然の選挙が強行されるという問題については、多くの方がご承知の通りです。  最高裁判所大法廷が、現状は明らかに 「 違憲状態である 」 と、1人残らず全裁判官の合意のもと判決したのは、1年半以上前のことでした。

 永いこと 「 一票の格差を考える会 」 の仕事を続けてきた私としては、このことについて、是非ひとこと書きたいと考えました。  「 一票の格差 」 の問題について、基本的な事をお知りになりたい方は、以前私が書いた、このページをご覧ください

 与野党は解散当日の2012年11月16日、「 0増5減 」 の法改正をギリギリ決めました。  福井、山梨、徳島、高知、佐賀の各県の小選挙区の数を一つ減らす ( つまりこれらの県選出の議員数を1県につき1人減らす ) というものです。

 これとても、根本的な格差解決策には程遠いものです。 ある自民党の議員が 「 国会が格差是正への姿勢を示したので、 司法も理解してくれるのではないか 」 と、口を滑らせましたが、到底この程度のおざなりな是正への姿勢で済む話とは思われません。  しかし、この程度の改正ですら、実施となれば選挙区 ( 議員定員 ) を3から2に減らすとなれば、県内の選挙区の区割りの大変更です。  こんな事が短期間に出来るわけもないので、今回の選挙では、選挙区も定員も、前回2009年の時と全く同じままで強行され、 実施は次回選挙以降に持ち越されたわけです。 「 0増5減 」 は、現状、実施されていないままだという事実をご記憶ください。

 したがって、前回2.305倍だった一票の格差は今回の選挙では2.428倍にと、更に広がりました ( 千葉4区 vs 高知3区 )。  最高裁が 「 前回の衆院選における格差は違憲状態だ 」 と判決した昨年3月以降、1年半も時間があったのに、 国会議員たちは、何も対応策ととらずに無為に時を浪費してきたのです。

 国会では足の引っ張り合いばかりして、大切な案件を数多く積み残してしまった彼らは、怠慢、不誠実としか言いようがありません。  今回の選挙については、今後、裁判の結果 「 選挙無効 」 と言う前代未聞の判決が最高裁から出る事態すら現実味を帯びてきました。

 1選挙区あたりの有権者数が一番少ない高知3区を基準に取ると、 1選挙区あたりの有権者数がこの2倍以上ある選挙区が、全国で300の小選挙区の内、実に72もあるのです。  これらの選挙区の選挙民の投票の価値は、高知3区のそれの半分以下だということです。 ちなみに、前回2009年の時は、 46選挙区でした。 たった3年、国会が何も対策せずに怠けていた間に、格差は更にこんなに増えてしまったのでした。  党首討論で野田総理が、安倍総裁に向かって 「 やりましょうよ 」 と迫ったあの言葉が、 国会の総意で徹底した形で 「 近いうちに 」 実現することを祈ってやみません。

 なお、参院選挙については、同じ11月16日に、「 4増4減 」 が可決され、こちらは来年夏の参院選に間に合いそうです。  ただしこれも、取りあえずの 「 つくろい 」 に過ぎず、5倍以上もある格差を是正するためには、根本的対応策になっていません。

**********************************************************

 次に、総選挙のたびごとに行われる最高裁裁判官 ( 裁判官と判事は厳密には違うようですがここでは同じとします ) の国民審査について、 多くの方々から 「 誰に×をつけるべきかわからない 」 と質問されますので、今回はどうするのかにつき、私の個人的見解を以下に記します。

 毎回の衆議院議員選挙の際、裁判官の一部が国民審査にかけられます。 ここで投票数の半分以上の×を付けられた裁判官は罷免されます。  しかし、過去の実績から見て、それはほとんど不可能と言えるほど困難なことのようです。

 毎回、約5000万人の有権者が国民審査の投票を行います。 このうち、約90%の人は、何も印を付けずに投票箱に入れます。  ×が付くのは 「 合憲派 」 裁判官が約550万票、「 違憲派 」 の裁判官が約500万票です。  つまり、500万人は全員に×をつけるのです。 意識的に 「 合憲派 」 の裁判官だけに×をつけて罷免させようと考える人は、 全体の1%程度 ( 約50万人 ) に過ぎないのです。 これを50倍 ( 2500万票 ) にも増やさないと、罷免には至りません。

 全員に×をつけるのは、本当は意味がないと私は考えています。 仮に全裁判官に20%の×が付いても、皆が同じなので、誰も痛痒を感じません。  A裁判官は1%×なのに、B裁判官は20%×という風に、裁判官の間に差が付いてこそ、国民の意思が伝わるのです。

 では、どういう観点で誰と誰に×をつけるのか・・・選挙広報の資料を熟読しても、どの判決がどういう意味を持っているのか、 理解することは、だれにとっても非常に難しいことです。 分からないから誰にも×をつけない人がほとんどで、 結局、自動的に全員が承認されるしかないように出来ているといえます。 この制度 ( 最高裁判所裁判官国民審査法 ) 自体、全く形式的な制度です。  日本国憲法を作った米国にも見当たらないようで ( 似た制度がああるという記事も見たことがありますが未確認 )、実に不思議な制度です。

 勿論、ここには書きませんが、最高裁裁判官たちが判決を下した他の多くの重要な裁判があります。  それらの中にも、皆さまが賛否それぞれのお考えを持つものがあるかと思います。 詳細は、各家庭に配られる広報をご覧になれば、ある程度は分かります。  しかし、ここでは、2009年の衆院選、2010年の参院選における 「 一票の格差 」 の大法廷判決についての彼らの考えというか、 判決における姿勢にだけ絞って彼らを私なりに下記のように判断しています。 ご参考になさってください。

   他の参考資料としては、国民審査についての長嶺超輝氏によるこのページは、面白くてご参考になると思います。

 また、以前から 「 1人1票 」 の旗印を掲げ、裁判で、新聞紙面での意見広告で、ネット上で、 大活躍をなさっている升永英俊弁護士のご判断は、 今回は全員が 「 主権者 ( 国民 ) は、一人一票である 」 と明言していないという理由で、その不徹底さゆえに全員10名を×としようというものです。  私はこのお考えに十分な理解と敬意を表しますが、あえて、10名中2名の、中ではより積極的に現状は 「 違憲状態 」 どころではなく、 「 違憲違法 」 だと判断した方たちには×をつけないことを提案します。 上にも書いたように、×のつく人とつかない人とがある方がよいと思うからでもあります。


模擬投票用紙です。 実際の投票用紙はこのようなものと予想されます:長嶺氏のページから許可を得て拝借
勿論、上部の×は私が私個人の判断を書きこんだもので、実際の投票用紙では空欄です。

ご注意!!! 実際の投票においては×か空欄のままだけが認められ、△や○を書くと無効票になります。


ご感想、ご意見、ご質問などがあれば まで。