フリーマンの随想

その84. ビデオリサーチ社による年齢差別

私の抗議は聞き容れられません

( Sept.18, 2011 )


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 「 株式会社ビデオリサーチ 」 という会社があります。 事業内容の詳細にご興味があれば ここを見て頂く として、テレビの視聴率やテレビ広告の調査、評価などをやっている会社だと言えば、名前を思い出す方もいらっしゃるでしょう。

 この会社が去る8月27日に各全国紙に広告を出して、「 新聞広告調査モニター募集 」 というのを行うというので、私ども夫婦が応募しようとしたら、年齢は70歳未満に限ると書いてあるのです。 これを見て私たちは腹が立ちました。 そこでこの会社に 「 なぜそのような年齢制限、いや、年齢差別を設けるのですか 」 と抗議したら、さっそく返事がきました。

 その返事の骨子は、前後の挨拶等を省略して主要部分のみを引用させていただくと、

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 ご指摘の通り年齢に範囲を設けることなど無用なことであり、広く公論を捉えることが第一と認識いたしております。

 しかしながら、今回の調査課題としては、新聞広告の接触度合いを計測することも重要な要素といたしております。多種多様な広告表現の視認を通して購買に至る年齢層、および調査対象とする年齢範囲について、下記のような議論がございました。

 【高齢化社会を迎えている日本で、調査対象(年齢範囲)をどうすべきか?】

 【果たして、70歳以上の男女の回答者数が、必要数を確保できるのか?】

 必要数を確保するということは、調査において、20代、30代というような各年代を「統計処理」することにございます。

 前者については、必要性を認識しつつも、後者においては、実際に、アンケート回答者数を確保する現場で、70歳以上の方々の必要数を確保することが、非常に困難な状況にあります。

 また、今回の制約条件として、【パソコンを介して、インターネットでアンケートに回答していただく】というのがございます。

 熊井様のように、パソコンとインターネットに明るい方々もいらっしゃいますが、残念ながら、まだまだ少数に留まり、インターネットのアンケートで、70歳以上の方々の 「 声 」 を必要数確保し、「 統計処理 」 することは、さらに非常に困難な状況であり、これまでも数々の調査で実現に至っておりません。必要数が確保できなければ、正確な集計・分析ができず、結果的に70歳以上の 「 声 」 を 「 統計処理 」 し、具現化できない状況にあります。

 このような 「 あるべき姿 」 と 「 現実問題 」 との狭間で、あくまでも目安として15歳から69歳までを範囲と定めさせていただき、統計処理を行うことにさせていただきました。

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というものでした。

 この説明により、同社は、70歳以上には 「 パソコンを介して、インターネットでアンケートに回答する事が難しいレベルの人が大半で、募集しても必要数が集まらないだろう 」 と思いこんでいるという事が分かりました。

 私たち夫婦は無職でヒマなせいもあり、毎朝、新聞を舐めるように隅まで ( 広告まで ) 丹念に読んでいます。 同様の高齢者はきっと多いことでしょう。 現在の日本で、新聞に最も丹念に目を通しているのは、むしろ、定年後の60歳から80歳台前半くらいまでの人達ではないでしょうか。 この点では彼らは 「 新聞広告調査モニター 」 に最も好適な有資格者ではないでしょうか。

 一方、最近、若い人の中には新聞を購読しない人がどんどん増えていると聞きます。 彼らは新聞以外の新しいメディア上で広告に接する機会の方が多いのではと思いますがどうでしょうか。 そういう意味で この「 新聞広告調査モニター募集 」 では、むしろ若年層から回答必要数を確保することの方が今後難しくなるのでは・・・と考えたくなります。

 こう私が言うと同社は 「 それは思い込み、誤解であり、若い人にも新聞を読む人はまだ沢山いますよ 」 ときっと反論することでしょう。 宜しい。 それは認めましょう。 でも、それなら 「 70歳以上の老人の多くはパソコンを使えない ( 或いは使わない )。 インターネットでアンケートに回答できる人など、ごく少ない 」 というビデオリサーチ社の言い分もまた、思い込み、誤解ではないかと私は考えるのです。

 私たち夫婦は70歳台後半のいわゆる後期高齢者ですが、それぞれが自分のパソコンを持っていて、10年以上前から、物品購買、宿や切符の予約、情報調査、投稿、写真の修正・整理・保存、預金口座管理、株取引その他多様な目的のために毎日のようにそれを使っています。 私の身の回りの同世代で、パソコンでこれと似たような事を多少ともなさっている方はちっとも珍しくありません。

 私の高校、大学の同窓会、同期会等の開催通知は、以前は往復はがきが主流でしたが今はパソコンを持っていない人にだけ往復ハガキを使用し、半数以上はメールで済ませるという風に変ってきています。 男性だけでなく、小学校の同級生の後期高齢者の女性の中にさえ、パソコンを使える人は決して稀ではありません。

 彼らは友人の訃報やゴルフのコンペの開催通知、結果報告から転居や年賀の挨拶に至るまで、大方はパソコンを介してのメールで用を済ませています。 私が在職していた会社の定年退職者のゴルフ同好会では、会員は60歳台と70歳台とがほぼ半々ですが、数十人の男女 ( 学歴や旧職種はさまざま ) 全員がパソコンを所有しているので、メール以外の連絡方法を使わずに月例会が開催されています。 当日のスコアの集計・整理・保存なども、持ち込んだノートパソコンのソフトで済ませます。 彼らの多くがメールだけではなく、インターネットにも親しんでいることは申す迄もありません。

 今日現在では、大まかな感じに過ぎませんけれども、私の周辺では70歳台の人たちの 「 パソコン使用率 」 ( 同社の期待に応えられる程度にパソコンを使える人 ) は男性で20 ( 小・中学同期生 )〜60 ( 高校・大学同期生、会社のOB ) %程度は居ると考えています。 女性については10〜40%くらいか**と推定します。 この辺りの数字が疑問だと言うのなら、ビデオリサーチ社はお得意の調査能力を使って是非毎年お調べになったら良いでしょう。

 もっと大事な点は、この 「 使用率 」 は年々上昇して行くという事です。 例えば現在、ビデオリサーチ社の他のモニター制度において、パソコンを使えると同社が認めてモニター資格を与えている60歳台後半ののモニターたちは、5年後には ( まだほとんどの人が元気で生きていて )、パソコンを使う70歳台前半の人々になるのです。 そうなったら 「 もう70歳台になったから 」 と言って彼らに辞めてもらうのでしょうか? ですからビデオリサーチ社が、なんだかんだと差別正当化のための理屈をこねている間にも、毎年毎年、情勢は刻々と変って行くのです。

 日本では60年ほど前まで、女性には選挙権が与えられていませんでした。 これは 「 性差別 」 です。 米国ではつい4〜50年ほど前まで、有色人種には社会生活上の殆ど全ての場面で、白人と比べて、今では考えられないほどの激しい差別が加えられていました。 言うまでもなく、こういうのを 「 人種差別 」 と言います。

 同様に 「 年齢差別 」 と言う概念があり、日本では残念ながらまだ十分に浸透してはいませんが、例えば米国では、求職者が応募してきた時、その人の性別*や人種を書かせたり質問したりしたら、採用側が訴えられて有罪になるのと同様に、その人に年齢を書かせたり質問したりしたら訴えられて有罪です。 それは 「 年齢差別 」 を招くからです。 私は在米中、これら3つの差別を犯さないよう、細心の注意をしながら面接・採用し雇用していました。 

 「 ビデオリサーチ社は直ちに年齢差別を止め、全てのモニター募集やアンケートの対象に [ 70歳以上 ] というカテゴリーを新設せよ 」 と、ここで声を大にして要求したいと思います。 同社が掲げている経営理念の第1は、「 科学的かつ公正な態度で社会的使命を果たす 」 というものですが、現在同社がとっている年齢差別的制限は、現実が刻々と変化していることを認識していないという点で科学的でないばかりか、社会的使命を果たす上で公正な態度と言えない事は明らかです。

 仮に百歩譲って、同社が主張しているように、70歳台のモニターを必要数集める事に、今日現在まだ困難が存在するとしても、もし同社が公正な態度で社会的使命を果たしたいとの意思を持っているのであれば、工夫と努力でその困難を軽減・克服することにより、年齢差別を行わないで済むようにする事こそが、とるべき正しい道でしょう。 同社の経営理念の第5には 「 時代を読み柔軟な組織で社会の変化に対応する 」 と書いてあるではありませんか。

*:実際外見からは男か女か分からない人がいたりするのです!

**:70年前、私の小学校の時のクラスは男女約25人ずつでした。 クラスメートの女性の中でずっと以前からパソコンを持ち、チャンと使いこなしている方は私の知る限りでも4人います。

ご感想、ご意見、ご質問などがあれば まで。