フリーマンの随想

その54. 二つの概算


* 1.交通信号のLED化 2.打上げ花火は有害ではないのか *

(8. 15. 2003)


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 かれこれ20年ほど前のことですが、私は 「 将来、十数億の人口を抱える中国の人たちが、日本人や米国人ほどに写真を撮ろうとしても、 必須の原料である銀の供給量に限りがあるので、残念ながら不可能である 」 と計算し、 小さな雑誌に論文を載せました。 その要旨は ここをご覧下さい。  当時は、中国の人たちは貧しくて、白黒写真をごくたまに撮る程度でしたが、 最近は急速にたくさんのカラー写真を撮るようになってきています。

 そのとき同時に、もし中国人が、日本人や米国人と同じように冷蔵庫、洗濯機、カラーTV等を所有したら、 どれほどの発電所が必要となるかとか、1軒に1台の自動車を持ったら果たしてガソリンは供給できるのだろうか、 などという計算もしてみました。

 写真については、幸い最近に至り、銀を使わないデジタルカメラやインクジェットプリンタなどの技術が進んで、 問題が急速に解決されてきていると思います。  電力問題については、案の定、新設火力発電所に起因する大気汚染が、中国の大都市では非常に深刻になってきていますし、 日本までが、降ってくる酸性雨で被害を受け始めています。

 自動車については、当時、もしそんな事態になったら、世界中の推定原油埋蔵量は、 私の計算違いか記憶違いでない限り、たしか2年あまりで使い尽くされてしまうだろうという概算になったと思います。  中国の人口とは、それほどに多過ぎる? のです。  この点については今も事情は同様で、ハイブリッド車程度の新技術では到底間に合いませんから、 原油に由来しない、しかもクリーンなエネルギーで車を動かす他の方式の早急な実用化が急務でしょう。  日米の自動車メーカーは、中国に工場を建設し、中国人にガソリン車を売りつけることに熱中する前に、 こういうガソリン代替技術の開発を完成させるのが企業倫理というものだと思います。

 と、まあ、こういう話ですが、このように計算というか 概算 をやってみると、時には予想外の結果も出て面白いので、 今日は最近 行ったもののうちから二つほどご紹介し、ご一緒に考えてみたいと思います。

1.交通信号のLED化

 最近、交差点の交通信号機が、従来の白熱電球使用の方式から、 LED ( 発光ダイオード ) 利用の新型のものに変わりつつあることをご存知の方も多いと思います。  よく見ると小さな数百個のLEDの輝く点の集合から出来ているので、区別は容易です。私の家の近くでも最近見かけましたし、 昨日は新宿駅西口を出たところの交差点で目にしました。 昨年あたりから次第に全国的に普及し始めているようです。 本当かどうか、昼間でもよく見えるという人もいます。  自動車の赤く細長いブレーキ灯などには、以前から利用されていますが、最近は丸いテールランプにも使われるようになってきました。

 などのLEDは以前からあり、家庭用も含めさまざまの表示用途に広く使われてきましたが、 青だけが作れなかった のです。  それを発明し実用化したのが、あの有名な中村雄二氏のノーベル賞級の業績であることは、ご存知の方も多いと思います。

 LEDの特長は、通常の白熱電球に比べ、寿命が非常に長いことで、半永久的とすら言えます。  皆様の家庭にあるステレオ、テレビ、エアコンなどについている赤や緑の小さなLEDのランプ は、 今まで一度も切れたことはないと思います。  さらに優れた点は、消費電力が電球の約10分の1と少ないことです ( 資料によっては5分の1というのもある )。  したがって、交通信号機に利用すると、日本全体では莫大な量の電力が節減されることになります。  また、従来型信号機では、電球はやがて切れるものなので、何年かごとに交換が必要となり、維持費、補修費がバカになりません。  バカにならない金額だから、その工事を独占的に請負う会社が作られ、 そのトップに警察その他の高官が天下っていました。  こういう抵抗勢力が、これまで、信号機のLED化に反対してきたわけですが、それも 「 合理性 」 という説得力の前に、 ようやく押し切られつつあるようで、まことに喜ばしいことです。

 そこで、概算ですが、日本全体の信号機の設置場所は、約20万程度です。場所により、1カ所あたりの信号機数は、 歩行者用信号も入れると2から12くらいにわたると思いますが、平均は4から8くらいでしょうか。 24時間つきっぱなしです。  赤、黄、青と3灯あっても、ある瞬間に点灯しているのはそのうち1つだけです。 電灯の大きさがだいたい100Wくらいだと思うので、これらを掛け合わせて、その電力が10分の1に減らせると考えると、 おおまかに言って15万kW近い電力節減になります。  つまり、現在は、これだけの大きな電気エネルギーが、信号機から、熱として無駄に大気中に捨てられているのです。

 余談ですが、米国というのはさすがに大きな国ですね。 カリフォルニア州は面積も日本全体より大きいのですが、 23万基もの歩行者用信号機がすでにLED化していると報じられています ( 朝日新聞2002年7月8日 )。

 日本有数の超大型水力発電拠点の佐久間ダムとの能力が35万kWです。 原発の能力は大体、1基50万から100万kWです。  つまり、日本中の信号機をLED化すれば、大型の水力発電用ダム1つ、あるいは原発およそ3分の1基程度を作らずに済むのです。  火力発電所の場合ですと、二酸化炭素の放出削減という大きな副次的メリットもあります。

 さらに踏切の点滅赤信号や、LEDの特性が最も適していると思われるホテル、店舗等の非常灯、誘導灯などに使うようになれば、 原発1基減くらいの節電になると思います。。  以上はあくまで概算ですから、プラスマイナス数十%くらいの誤差は勘弁してください。

 問題はLEDの寿命が半永久的なことです。 自動車のランプ用途なら、新車生産の需要も常にあるし、 尾灯の電球が切れているのを知らずに走っていたりすることもないので、安全面でも大変結構なのですが、 交通信号機はいったん全部LED化したら、それ以降は保全の需要が激減してしまいます。  これにより、天下り高官はかまいませんが、その下で電球交換など保全に従事している職員たちが失職する事態がおきます。

 ( 補足 ) 本項は以上ですが、いろいろ調べているうちに、LEDの信号機にはもう一つの利点があることを知りました。  従来型の信号機では光源が白色で、その前面に3色の着色ガラスフイルターレンズがあるという構造なので、 明るい太陽光が斜めに当たったりすると、色ガラスが光って、点灯していないのに、 点灯しているかのように見える 「 擬似点灯 」 という現象が起るのです。 見た経験のある方も多いでしょう。  これに対し、LED方式では、光源に色が付いており、前面のガラスレンズは透明なので、こういう現象は起らないそうです。

 宇宙船からも見えるという、イカ釣り漁船のあの物凄く明るい集魚灯。 あれは水銀灯の一種のメタルハライド灯です。  漁船一隻あたり180kWが上限とされているそうですが、これは何と国道の街路照明1000本分の電力に相当するそうです。  これを、青色LEDに変えて発電用重油の使用量 ( と、これによる海上での大気汚染 ) を数十分の1に減らそうという試みが、 8月14日朝のテレビで紹介されていました。

2.打上げ花火は有害ではないのか

 2001年の元旦の午前零時、新しいミレニアムの門出を祝い、全世界で打上げられた花火の総量は、 なんと40万トンに及んだと言われます。

 日本でも夏の風物詩として、近年、ほとんどの都市で、花火大会があります。年々盛んになっているようです。  規模的には、世界的には、ノルウェーのオスロのもの、つい最近もニューヨークで行われた米国の独立記念日のものなどが、最大といわれ、 打上げの費用は日本円で1回につき十億円にものぼると言われています。

 打上げ花火の製造は手工業ですから、人件費の関係で、殆どはいまや中国で作られるとのことですが、 繊細な技術の面では、伝統ある日本はいまだに世界最高と言われているようです。

ところで、私がいつも気になるのは、これほど莫大な量の打上げ花火が、世界中の地表や海水中に、 どれほど多量の有毒な重金属化合物を撒き散らしているかという点です。  以前一度、打上げ場所のすぐ近くで見ていたときに、空から落ちてきたゴミのようなものを頭にかぶったことがありました。  それ以来、気にかかっているのです。

花火のあの美しい色は、実は、各種の金属化合物が炎に包まれたときに出る炎色反応の結果です。  とすれば、火薬はほとんどがガスになって消えてしまいますから、 打上げ花火とは 「 金属酸化物のカスを近隣に撒き散らす遊び 」 と言えないでしょうか。  工場も、行政も、市民も、日ごろは水銀、カドミウム、鉛などの金属による環境汚染について、細心に警戒し行動していながら、 花火についてだけは実に寛容に許しています。 年に1回程度ならともかく、近隣の観光地などは5回も7回も開催します。  まさか 「 イラクなどでの戦争の際の汚染に比べればたいした問題ではない 」 などと思っているのはないでしょうが・・・。

 そこで、いろいろ調べて概算を試みました。

 まず、色のもとになる金属の種類です。赤は、ストロンチウムやカルシウム化合物です。黄色はナトリウム化合物、緑はバリウム化合物、 そして青は銅の化合物です。 銀色はアルミニウムだそうです。ストロンチウム、カルシウム、ナトリウムは一般的にはほとんど無害です。  しかし、バリウムの化合物は一般に猛毒です ( 胃のX線検査のときに飲む硫酸バリウムは水に溶けないので無害ですが )。  そして、銅の化合物も、一般に毒性が強いものです。

 銅やバリウムは打上げの後は、多分、酸化物の形になると思われます。 たとえば、花火の中の硝酸バリウムは、 打ち上げの後、酸化バリウムとなり、その後水に会うと発熱して水酸化バリウムとなり、これは猛毒の物質です。

 次に、これらがどのくらいの量、飛散するかです。  打上げ花火には直径3寸 ( 9cm ) から3尺 ( 90cm ) くらいまでの種々のサイズがあり、 最大の30号 ( 3尺物 ) は280kgもあります。 平均的な8号 ( 8寸物 ) が4.5kg、大き目の10号 ( 1尺物 ) が8.5kgほどです。  このうち、外側の殻などを除いた中身の薬品の重量の15%から30%が、実はこれらの金属化合物なのです。

 仮に、あるちょっとした花火大会で大小取り混ぜて2千5百発を打ち上げたとすると、何と約2トンもの金属化合物が飛び散ります。  このうち、無害と思われる赤系や黄色系を除いても、 花火大会のたびに、おそらく1トン近くの銅化合物やバリウム化合物が撒き散らされるのです。  これほどの量が、付近の数十平方キロメートルの 畑や庭や沿岸の海に落ちてくるのです。  これが私の概算です。 今まで、実害がなかったのが不思議なほどです。  昔のように1年に1回だけ、小規模のものがあった時代とは、状況が違ってきていると思うのです。  私は花火については素人ですから、間違いがあれば教えてください。

ご感想、ご意見、ご質問などがあれば まで。