38a(2005年4月1日)

そのときどう動く
―「護るべきモノ」が多くある都市防災のあり方―

 

都市防災研究会会員/帰宅難民の会東京実行委員長 斎藤 晃顕

 阪神淡路大震災から10年経過しました。阪神では、建物の安全性よりも経済性に重点が置かれてきた点に問題がありました。その轍を踏まない為、高速道路や橋梁などの構築物を中心に補強工事がされていますが、災害も多様化してきました。例えば、ヒートアイランド、熱中症、都市洪水、落雷、集中豪雨によるライフラインの寸断、サイバーテロ、新潟中越にみる携帯電話中継基地のパンク、交通事故、医療事故などが増えてきています。自助が基本ですが、自らが対処できる範囲を大幅に越えるような災害が数多く発生してきております。

 日本は高齢社会ですが、車社会でもある訳です。日本人の総運転免許者数は7824万人、65歳以上は927万人(11.8%)、視力が衰えはじめた人達が、災害時に2次災害のトリガーとなる運転事故を起こす可能性大。また糖尿病患者は620万人、予備軍もほぼ同じ630万人合計して1250万人もの人達に、災害時、病院の施設がどれだけ機能するのか不明です。いまから視力の劣化や、災害弱者へのサポート用インフラ整備や用具に慣れさせておくことが減災に繋がる訳です。

 20世紀は生活の場を機能的な「大都市」に委ねてきました。しかし、我々は生活者第一主義に戻り、生活者が一番得をするという構造に体質を変えなければならない時代にいます。いわば我々の活動は「損する戦い」でもあります。この「損する戦い」とは企業に「生活者」と「得」が再び回ってくるよう準備する戦いだともいえます。「ありません」「できません」は提供する側の利益主義の発想から「自己得」を判断の基準としています。「ありません」「できません」ではなく、「何とかしてあげましょう」を追求することがこれからの「NPOサービス」であり、それが「損する戦い」から市場創造が始まり顧客創造が始まるのです。まず「顧客満足度」を基盤とした関係を構築できれば、そこから対話が始まります。基本的に「得を与えてくれるところ」「情報を与えるところ」「満足を与えてくれるところ」にヒトは集まります。




都市防災の回顧と展望

   

都市防災研究会名誉代表 三浦 隆

1.都市防災研究会の発足

 

 1995(平成7年)1月17日の阪神淡路大地震(M7.2)を契機に国・地方自治体・民間による立法・行政・地域活動その他地震対策が急速に進み、私たちの都市防災研究会も発足した。以来、会員の熱心な防災活動とあいまって会員の増加、NPO法人の認可、活発な防災諸活動により数多い防災団体の中でも注目される防災団体へと成長した。また成長発展に伴い都市防災研究会の注目度も広がり、会員自身の防災への取組みも積極的になってきた。一方、大地震の発生もインドネシアスマトラ地震津波、新潟中越地震など枚挙にいとまがなく続き、首都圏地震・東海地震の発生も心配される状況になった。このレポートはこのような状況下にある本会の足元をみつめなおし、さらなる会員の結束を固め、今後の活動への指針の一助となればと思う。

1.1. 本会設立当時の構想

   

 設立発起人、故藤本教授(本会設立の呼びかけ人、関東学院学長・工学部教授)の本会設立構想は、政治家・労組など既成組織に依存しない自主自立の「市民運動」としての防災団体をつくることであった。具体的な、設立目的、活動の概要等は以下の通りである。

 

1.2. 都市防災研究会の目的:防災に関する諸研究・市民的立場からの提言等を行い、都市防災の強化発展に寄与すること。

1.3. 都市防災研究会の活動

  1. 研究発表
  2. 新聞等への寄稿
  3. 親子防災・被災地見学などの実践活動
  4. 機関紙発行
  5. 防災図書」発行
  6. かながわ女性防災の設立支援
  7. 諸団体との交流を行なうこと。

1.4. 都市防災研究会の発展:会員の活動により新規会員の増加。組織の拡大に伴う組織統制の問題、防災活動経費の問題などが起る。

1.5. 活動資金の調達:一般会費の不足を補う法人会員の獲得。都市防災代表として三浦が京浜急行・東京ガス・遊技場組合等を訪問し、賛助会員・法人会員の承諾を得た。

2.脇口体制の発足

 

2.1. 都市防災研究会の発展。代表任期の満了により、三浦が代表を退き脇口育雄氏が新代表となった。

  1. 会員の増加。
  2. 研究会活動の細分化。防災だけでなく、福祉、防犯へと活動分野が広がった。
  3. 総務省消防庁からの「防災まちづくり大賞」授与。横浜市からの「横浜ひと・まちデザイン賞」授与。
  4. 神戸支部事務所の設置。
  5. 徳永会員の好意による都市防災本部事務所の設置。
  6. NPO(民間非営利団体)の認可(NGO=非政府団体、民間援助団体ではない)。
  7. ニュースレターの発行。

2.2. NPO法人(1998年NPO法成立に基づいて認可された法人のこと)について

   

2.2.1. 認可の条件

  1. 保健・医療・福祉の増進を図る活動
  2. 社会教育の増進を図る活動
  3. 環境の保全を図る活動
  4. 災害救援活動、人権の擁護または平和の推進を図る活動、
  5. 国際協力活動など不特定かつ多数者の利益の増進に間する活動をしている団体のこと。政治活動や宗教活動を目的としない。

2.2.2. 認可団体数:全国≒1万(優遇税制を受ける団体=24。2004年5月現在)。

2.2.3. 優遇税制を受ける団体が少ない理由は

  1. 総事業費の8割ないし寄付金の7割がNPO活動に向けられること
  2. 総収入に占める寄付金と助成金の合計が3分の1以上になること
  3. 3千円未満の小口寄付は寄付金総額に参入できないこと
  4. その他、収入支出の伝票を毎回集める作業、そのための葉書・電話などの連絡事務、伝票を整理保管し公開に備える作業、内訳明細書を添付した収支報告書=損益計算書・貸借対照表を作成し、金銭・物品を記録・管理する作業、大会で財政状態と経営成績を記録に基づいて報告する作業など。

 営利目的の企業と異なるボランティア団体の場合、無給ないし薄給で面倒な仕事を引き受けるのは困難だからと言われる。

2.2.4. さらに営利企業でも収益をあげるのは容易ではないとき、資金集めの使命感もノルマもない非営利のボランティア団体では収益を上げるのは一般論としても容易ではなかろう。このため本来の目的と異なる事業を行う違和感から団体内部に亀裂が生じるかも知れない。

2.2.5. また実態面で、誰がどのようにして収益を上げるのか?誰が収入支出の会計見通しを立てるのか?誰が赤字になった場合の責任を負うのか?誰が会計責任者になるのか?誰が会計責任者を選任するのか?など、差迫った責任問題も考えられる。
 私が代表を引き受けたのは、都市防災設立の経緯と合わせて、法人会員・賛助会員の賛同を期待できるあてがあったからである。新たな財政支援会員を勧誘し確実に収入増加が期待しうるまでは現状収入の範囲内で持続的な運営を行なうのが無難であろう。支出はオープンな明朗会計で、必要不可欠な会員間の連絡業務・事業活動費・ニュースレターの発行経費・事務所維持費など最低経費に抑え、研究発表経費・懇親会費用などは自弁、有償役員の設置は不要である。敢えて事業収入を期待し、新たな支出を行なうなど設立当初の目的と異なる活動を展開する場合は、私を含め設立総会に出席した全会員(個人会員・法人会員)にその旨を周知徹底し賛同を得る必要がある。

 

2.3. 会員の提言・活動の事例:ニュースレターが編集委員等の尽力により充実し、会員の投稿論文や動向が知らされるようになった。最新の「ニュースレター37号」には会員の提言・実践活動報告等が掲載されている。

3. 都市防災研究会、今後の課題

 

3.1. 都市防災研究会の基盤

   

本会は、

  1. 任意の
  2. 自弁による
  3. 善意の活動で
  4. 特定の営利・学術団体ではなく
  5. ボランティアの
  6. 個人、防災活動に熱心な専門家・防災団体・地域自治会等の人々による
  7. 地域に根ざした
  8. 有給の専業スタッフの居ない
  9. 既存既成のプロ化された組織とは異なる非営利の「自主防災組織」である。

 組織が大きくなると、一般的に個人会員(総会)より組織(役員)優先の官僚的・権力的・非民主的な運営になりやすいので要注意である。ボランティアは相互信頼の結束が第一義である。
今後もこのボランティアとしての「共通事項」を踏まえたうえで活動の輪を広げ、設立目的の趣意を生かした防災研究・提言を行なつていくことになろう。

3.1.2. 活動の限界。
 人的要素としては、人数・年齢層による作業の限界(個々の会員には年齢による力仕事の限界、組織としては「たった一言が人の心を傷つける」こともあり、お互いに言葉遣いに気をつけ、「和」を大切に、会員の結束を固めたい)。
資金的要素としては、収入(会費等、その他寄付金・雑収入など臨時収入)からの限界。

 

3.2. 事業面:旧来の事業に加え、新しい視点に立つ特色を考えたい。
 継続:

  1. 東海地震・東京直下地震(首都圏地震)に対応する諸研究。
  2. 防災の各種研究・啓蒙普及活動。
  3. 被災地見学(案:新潟中越の被災地など)。
  4. 被災者救援活動。

 新たな提言:東海地震・東京直下地震に対処する(案)。

   

3.2.1. 総合面。(例)「被災地復興支援基本法(復旧から復興へ視点を変える)」(仮名)の制定。
(補足)復旧は単に元に復すること、復興は夢のある防災都市の形成など将来像を定め復すること。復興の事例として、後藤新平が関東大震災後の東京復興案として策定した交通混雑を見越しての「昭和大通り」の建設が著名である。
 基本法の内容は、次のように考えられる。国として先進技術立国への拠点化、首都機能の分散化、国際港建設など。人として高齢者・障害者など災害弱者への配慮など。
具体的には、

  1. 人的面=医療・医薬など生命権の保障
  2. 物的面=衣食住、とくに居住権の生存権としての充実など
  3. インフラ整備面=電気・ガス・上下水道、道路・鉄道・海運、公共施設・医療施設などの整備
  4. 国等の役割と責務
    (国=自衛隊・警察、自治体=消防・学校・企業・地域、ボランタリー、家族・個人の役割と責任の明記)
  5. 復興に資する資金手当ての確保
    (国内とは別枠に事前に海外借入先の特定=金融機関・損保・企業などを特定しておく)。

3.2.2. 資金面。(例)「地震保険契約者保護機構」の制定。

  • 「生命保険契約者保護機構」は預金保険機構の生命保険版。「預金保険機構」とは、金融機関の倒産などで預金の払い戻しが不可能になった場合、金融機関に代って預金者に対し預金払い戻しをする肩代わり・保障する機関のこと。
  • 地震保険は火災保険とセット、補償は火災保険額の3〜5割までの制限。地震保険には建物・家財・総支払額の制限がある。また東京直下型大地震の場合、国の財政自体に不安が生ずること、保険会社の本店が被災すること、補償額が多大となることが予想される。これらを勘案して、各自の自助努力は必須である。なお、国・自治体は復旧・復興のための緊急かつ臨時の借入を速やかに行なえるよう、積極的に他国の損保会社・企業との特別契約など新たなる研究検討が迫られることになろう。

3.2.3. 住宅面。(例)「住宅再建共済制度」の検討。緊急資金借り入れのための手段、共済金の掛金額の決定、借入金額の上限など検討課題。

3.2.4. 福祉面。(例)予想される多数の被災者とくに災害弱者(孤老・孤児)への対応(戦後ラジオを賑わした鐘の鳴る丘の孤児施設が思い出される)。

3.2.5. 防犯面。(例)被災時の治安状況とその対応(「阪神淡路大震災」「新潟中越地震」に学ぶ犯罪の発生とその予防対策)。

3.2.6. 法律面。(例)被災家族間の動産・不動産をめぐる財産争い、近隣者との境界策定などの争い。

3.2.7. 地域面。身近な危険箇所を示す地図や自主避難所生活(援助物資の配分、洋式トイレの設置、外国人への対応など)の計画書の作成。

3.2.8. 行政面。(例)被災地の道路策定と立退き・移転等の争い。

3.3 組織面:新規会員増加への対応

   

3.3.1. 防災ボランティア団体としての再確認

  1. 性格(政治・宗教・労組・企業など既成組織でもNGOでもない自主・自立)
  2. 会員(任意の個人の参加)
  3. 目的(主は防災、従として防災に関連するまちづくり・福祉・防犯)
  4. 善意の参加(上下関係はない、参加する楽しさが必要)
  5. 事業(従来の路線踏襲と発展)
  6. 団体(防災団体に徹する。過度な個人主張は自粛。会員の「和」、懇親を深める)
  7. NPO法人(所轄官庁への提出書類、とくに会計書類は明確にする)。


3.3.2. 被災地など他地域・防災団体との交流促進:
 特色を生かした交流。

  1. 三宅島
  2. 新潟中越地震被災地
  3. その他、防災研究会の可能な範囲内での交流。

3.3.3. 防災ボランティアの自覚・責任・活動・誇り。

4. 結び
 「会員一同が共に支えあって」都市防災研究会の組織を強固にし、「自らを助け合う」とともに、被災者に「手を差し伸べる」ことのできる組織であるように頑張りたい。

〔追記〕 今後の課題として、

  1. 参加者の若年層の開拓
  2. 財政的持続性
  3. 組織的適性にあった管理手法の開発をあげている。問題は、なぜ「慢性的な資金不足」を生じたのか、「資金不足」を誰がどのようにして解決するのかである。将来的には税制優遇制度の改正もあるかも知れないが、これでは現時点の解決にはならない。国の累積赤字の一因が行政改革の不徹底による支出濫費にあるように、優遇税制度を改正するだけではNPO団体の赤字体質は改善されない。本稿で指摘したように、会計を明朗にし、不要な支出を抑えることである。

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