36a(2004年10月1日)

巻頭言
地球の歴史が問いかける

都市防災研究会幹事  砥上 康二

 最近、地球誕生の謎が少しずつ解明され始め、1億5千年前、「爬虫類である恐竜が地球に現れたのか」「爬虫類はなぜ40〜50mにもなるのか」「その頃なぜ哺乳類はいなかったのか」恐竜の謎に世界の科学者が一つの結論を出そうとしています。

 6億年前、島々が徐々に移動し、結合して大陸が出現し、大きなプレートをつくりました。大地〜海〜地核に向けてプレートが動き始め、地球の中心部へと深く沈み、地核に圧力を掛け、球体であるはずの地球はプレートの圧力により球体が維持出来なくなり、押し潰され、軟弱な地表の一部から火山灰として噴出しました。

 最近の調査で、その場所は「西シベリア」である事が判明して来ました。火山灰は2,000km以上まで吹き上り、地球を覆い、その結果温暖化現象が起こり地球上の温度が急上昇しました。

 海水の温度の急上昇は、海底で眠っていたメタンガスの気化を促し、一気に大気中へ放出され、大気中の酸素を奪いました。最近の調査で恐竜時代は大気中の酸素が10%しか存在していなかった事が判明しました。酸素の欠乏で地球上のほとんどの生物は死滅しましたが、10%の酸素でも爬虫類の恐竜は残ったのです。今、地球上の温暖化現象は異常気象や、噴火・地震等、大地までゆるがしております。

 10日も速い梅雨明け、記録的猛暑、日本列島を襲う台風の多発、集中豪雨、10年間も霧日がない、5年間も夕立のない首都圏、各地で起きる地震、浅間山の噴火など異常現象が次々に現れて、これらの現象は地球温暖化によるものだと警鐘を鳴らす学者もおります。阪神淡路大震災から10年、忘れかけた都市型地震をもう一度検証し直し、都市部の地震対策を練り直す時期ではないでしょうか。


「若手会員大いに語る」

平成16年8月20日  県民センターにて
司会者  三浦一郎(関東学院大学講師・当会理事)    編集長  神川ときよ
出席者  稲垣景子・後 厳雄・岡西 靖・川崎昭如・川辺浩司・(あいうえお順)

三浦「若手の会員の皆様との話し合いの前に、簡単な自己紹介をお願い致します。その後、都市防災研究会に参加されたきっかけや、関心を持っている事、現在どの様な活動をされ、今後どの様な行動をしたいかをお話し下さい」

座談会風景

 「五洋建設で工事現場の監督をしております。将来今の会社でまちづくりとか、都市計画等に携わりたいので、都市づくりには防災の勉強が絶対に必要ですから、この研究会に参加いたしました」

川辺「母親が地域の防災活動に関わっており、その関係で都市防災研究会に参加し、催し・行事などに関わっております。自分の横浜国大大学院での研究テーマでもある防災を学校教育にどのように反映させるか。特に子供達に小さい頃から防災意識を植え付ける事が大切であると考えております」

川崎昭如川崎「横浜国大で研究員をしております。私は緊急対応と言う面で防災に関わっており、その中でも特にコンピューター上で地図を扱う地理情報システム<GIS>を用いていかに防災対策を効率よく進めるかが研究課題です。GISとはカーナビゲーションの様な電子地図の上に図形だけではなく、それぞれの建物の所有者・階数・構造とかの唯の図形ではなく、そこに属性情報が入っており、様々なデータ―を重ね合わせて解析が出来るようになっております。災害の対象としましては、地震の他に崖崩れ・アメリカでのワールドトレードセンターでのテロ災害対策におけるGISに関係する研究等をやっております」

三浦「GISに用いられる情報とは具体的にはどの様な情報ですか?」

川崎「土地利用や地盤・建物の状況・災害に関しては、これまでどこで崖崩れや地震が起きて、今後どういうところに洪水が起きる危険性があるか等の都市内の様々な情報が、データ―化されています」

三浦「GISは、ハザードマップにも関係しますか?ハザードマップは近年非常に認知されてきましたが、危険な場所が判明してしまい、地価や評価に影響しますが、個人情報・プライバシーの開示に対しての問題はどの様になっておりますか?」

川崎「プライバシーとか地価に関する考えも世の中の変化と共に変り、昔は情報の公開を控える自治体も多かったのですが、最近では公開を進める流れになってきています。進んだ自治体では持っている情報は全て公開する、危険情報もインターネット上で建物情報と重ね合わせてみる事が出来る。しかし慎重に構えている地域もあり、いかに適正な情報の公開をして行くかが研究課題です」

稲垣「横浜国大佐土原原研究室で研究教育活動を致しています。学生時代に阪神淡路大震災が起こり、其の頃は建築を勉強中でしたが、現在、建物構造を強くするだけではなく、まち全体の危険個所・被害を最小限にする対応など、都市全体の計画に興味を持ちました。現在、具体的には都市の風水害について、崖崩れ・浸水被害を対象に研究しており、先日も福井水害の現場に行き問題点を見てきました。東海豪雨の被災地は実家の近くで、近隣がかなり被災いたしました。研究的に考えると共に生活者の目での防災を考えたいと思っています」

岡西 靖岡西「大学卒業後、防災のコンサルタントをしていました。現在は横浜国大佐土原研究室で研究生をしています。横浜市を対象に自主防災組織<地域の防災組織>の今後を研究しております。隣近所の助け合いこれが研究課題です」

 「日本は地震大国だけあって建築上も災害に対する法律が沢山ありますが、利用者には多くの法律上に建物が建っていると言う認識がない為に防災に対する意識が薄い。阪神大震災の時には防災に対する意識が高まりましたが、その2年後に研究で広島の災害意識調査を行いましたが、市民の意識が対岸の火事的な所があり、防災の準備や用意が浸透していない。川辺君の幼児からの防災教育の重要性を感じました」

川辺浩司川辺「今までは学校教育の中で防災教育の必要性という観点では、避難訓練とか交通指導ぐらいで、自然災害等が多い日本としては不十分でした。幼小時から危機管理の意識を持つ事は子供達の人間形成にも繋がります。又生活の場で地域と子供の繋がりは薄く、学校と地域が一体となり防災教育を通して子供達を育てていく事が大切です。教員の危機管理の意識向上も必要で、静岡のサッカーゴールポストが倒れた事件<グランドの使用方法等の問題も考えられるが、教員側の積極的な対策で防ぐことが出来たのではないか>では教員側の危機管理意識が問われました。教員が危機管理意識を持つ事は、子供達に対する教育的な視点にも繋がると思われます。学校教育の中でいかにマネージメントと出来るか。子供・家庭・地域(地域住民の教育は自治会単位で行われている)の繋がりの中で、学校教育を通して大人の防災意識向上も図れます。」

川崎「これからはITの時代で、電子情報技術が入ってきて日本も電子国土社会となるので、いかに防災対策を効率的に進めるシステムを作るかが課題です。私の研究対象は、行政・消防の様な災害の時に中心になる方たちが災害の時の意思決定支援をGISを使って効率よく行えるために、日常の防災対策業務から、非緊急事態まで連続的に使え防災活動者の役に立つシステムをつくる研究活動をしております」

三浦「データーによっては同じ地域でも違ったハザードマップを作る事も出来るわけですが、例えば、Aの団体が作ったハザードマップとBの団体が作ったハザードマップが同じ地域でも違ってくる。ハザードマップを作る時の基準とかスタンダードとかがありますか?それとも今の所、各自の判断に委ねられてるのでしょうか?」

稲垣「国がガイドラインにのっとって基本的には各自治体が作成しております。しかし地域ごとに状況が違うので、地域の人々と一緒に考えながら独自に作成している場合もあるのかもしれません。あとはハザードごとに地震なのか・火山なのか・水害なのか・津波なのか種類によって作っている部署も違い、作るタイミングも違うので、そのあたりの整合性をどう捉えるかという問題もあります」

三浦「それらのハザードマップは何種類ぐらい出来るのでしょう?」

稲垣景子稲垣「一枚に纏めようとしている自治体もありますが、災害の種類ごとに発行される事が多いのです。火山災害がハザードマップの原点ですが、地震はどこでいつ起こるか想定が難しく、詳細な地盤調査が必要な為少ないのです。また東海豪雨等の後に洪水ハザードマップを作ろうという動きが活発になりました。ハードな対策だけでは限界があるので、危険個所のリスクを住民も自治体も把握して、いかに対応すべきかを明らかにする必要があります。まちは急激に変化しており、ビルの地下にある機械設備・ATMのような街の中にある設備が少し水に浸かっただけで都市機能が麻痺します。家庭では一階部分のキッチン・風呂場が水に浸ると修理するまで使用不能になり、長期的な問題になります。この様に具体的な被害とハザードマップを関連づけて認識する必要があると思います。」

三浦「いくらハードを強化しても問題は解決しない色々な周辺の事情があります。最近の水害の多発の原因は指摘されていますか」

稲垣「堤防やダム等は50ミリの雨量に対応出来る様に計画・建設されていますが、最近一時間あたり50ミリを超える降雨が頻発しており、対応できないのが実情と言われています。財政の逼迫や、ダムをつくる事で環境を破壊する等、かなり総合的な問題となり、ハードな対策が難しくなっています。危険は危険として認識をし、どう対応するかにシフトしていくかが問われる時代なのかもしれません」

三浦「一つの処方箋で問題が解決するのではないと言う事ですね」

稲垣「地域ごとに抱えている問題が違い、それを地域住民を交えて、都市防災研究会の様な団体が具体的な課題を話し合う事が必要です」

岡西「防災コンサルタントの頃は行政の計画作成を手伝いましたが、地域の観点が抜けていたという反省があり、個人・地域・行政と言う縦の軸で防災を考えたい。ここ2,3年は危機管理の訓練に関する仕事をしていましたが、防災は人が重要です。将来は危機管理の訓練を通して人作りをしたいです。」

三浦「法律を整備するだけでも・ハードを強化するだけでも・ハザードマップを作るだけでも問題は解決しない。今、いかに地域の住民が意識を持ち色々な繋がりを持つ事が大切であると言うキーワードが出て来ました。色々な分野での関連性が巧く結び付かないと問題が解決しない。この様な問題点の処理の方法・都市防災研のような団体の役割と活動方向、期待、作った法律を一般の人に知らしめる方法、ハザードマップの活用などで問題点があったら指摘して下さい」

後 厳雄後 「ハード面の活用の為には住民が防災の知識を持ち理解して貰う事が重要です。都市防災研究会の活動として、ここにこう云う事があり行政はこう対応している等を住民に浸透させていく事です」

川辺「学問的にも防災の中でも問題点を他との繋がりの中で考えていく事が必要です。NPOとしての役割は行政と地域住民との橋渡しの役割があると思います」

川崎「様々なレベルでも色々な役割があると思うのですが国・自治体・大学・市民・の中で自治体が直接住民に防災教育を普及していくのも難しいし、大学の成果を皆様に知っていただくのも難しい。防災は色々のかかわりの中で<法律とか民間会社の取り組み等>それを結ぶと言う意味でNPOこそがそのつなぎ役をやれる所だと思います。情報の交換とか、周りを繋ぐ役をして欲しいですね」

三浦一郎三浦「横国の大学院でも当然危機管理と言う事で一般の人々にどう対応すればよいかと言うプロジェクトを考えておりますか」

川崎「リスクマネージメントの専門家を養成するプログラムがスタートしました。自然災害・産業災害、原発災害、等の専門家です。今年度から準備を始めた段階です」

神川「コンビナート問題などにも取り組んでいただけるのですか。東京湾の臨海部には2000基以上のタンクがひしめいており、過去の大地震で沈んだ所を埋めたてて建っているわけですから、同じような地震が起きたら沈下する事も考えられます。海上に流れ出した原油に火がついたら大変な事になります」

川崎「京浜臨海部は工場が多いので、横国大にもその責任の一端を担えという要請があり、横国大の安全工学の専門家が臨海部の企業等と共同研究をし、その実績と、関わりを含めリスクマネージメントの専門家を養成していく動きはあります。大学もこれからは研究だけではなく、研究の成果を社会に反映していくかが課題です。大学の変化する中で、この都市防災との関わりも大切になってきます。我々もNPO活動に積極的に参加し、研究の結果をいかに社会に普及させ、新たに社会の要望を研究に取り入れるかを考える為にも、都市防災研究会は重要な役割を荷なっていると思います」

神川「軟弱地盤に建っているコンビナート、揮発性・爆発性・毒物性のある化学物質を貯蔵しているタンクの問題も是非研究してください」

川崎「市民の意見を大学に取り上げていく役割をする為にもNPOの存在は重要です。国大でも産業災害を研究している所もありますが、市民との関わりのある研究室は少ないと思います。研究に邁進する事も必要ですが、市民との関わりも必要で、大学のこれからの課題かもしれません」

稲垣
「都市防災研究会の役割は、大学も行政でも分野分野で目標としている事が少しずつ違っておりますので、地域の人しか判っていない事柄は、そこに住んでいる人々と都市防災研究会の様なNPO団体が総合的に考える必要があります。過去の災害や地域の特徴を少し客観的に見る事が出来つつ、地域にも根ざしている組織にしか出来ないとても重要な役割です。その意味からも期待されております」

岡西「横浜の様な大きな自治体では地域の特性に合わせた対応は困難で、一律の対応にならざるを得ないという面があります。地域にあわせた災害対策の教育・指導は地域に根付いたNPOの様な団体でなければ出来ません。その中でGISを有効なツールとしてこれから活用することも重要です」

三浦「幾つか出てきたキーワードは市民との連携・地域性・各パーツが連携を取りながら結びついていかなければならないと言う事です。最後にNPO法人都市防災研究会の役割として市民との掛け橋とは何かを具体的にご指摘下さい」

 「川崎さんから地域住民に研究の結果を発表する場がないとの発言がありましたが研究の大小を問わず、地域住民に役立つ事であるならば、それを発表する場を都市防災研究会でも設けていったら良いですね」

川辺「子供を視野に入れての防災教育を充実させていくことが必要です」

川崎「大学と都市防災研究会の関わりの中で、昨年から大学と共同で研究申請などもしております。これからも一緒に研究を進めていく事が出来れば良いですね」

稲垣「地域に根ざしていない若者達や、地方から上京してきた地域の事を知らない学生<半分大人・半分子供>に対する教育などに役立つ活動も必要です」

岡西「町会や自治会にも都市防災研究会として関わり、防災力の底上げを図りたい」

三浦「折角良いパーツがありながら生かされていない現状が見えてきました。判り易い形で市民に伝えていく事が一つの課題です。皆様どうもありがとうございました。


36号bへ

ニュースレターtop 別館top