32号a(200310月1日)

巻 頭 言

都市設計連合顧問・兵庫県まちづくりコーディネート協議会事務局長
泉谷 良二

防災グッズ 方丈記に‥・山崩れて河を埋み、海は傾きて陸地をひたせり…、恐ろしい中にも最も恐ろしきものは地震だが、それも月日が経つと人々は忘れ口にすることもなくなる、という記述があります。当時と異なる今日の複雑な生活システムの中にあって、生命・財産を守るには、震災の恐ろしさを忘れず、経験を生かした対策を積上げる活動こそ大切なことと言えましょう。

 全半壊に一部損壊を含め建物51万棟、死者6千人を超えた阪神・淡路大震災から8年。兵庫県では、例えば、当時80億円を投じて設置した災害非常連路用の衛星通信ネットワークシステムが庁舎の被害で機能しなかったことから、防災専用の新庁舎の設置。また、震災の記録保存から災害対策の人材育成、調査研究、専門家の交流・ネットワーク機能も持つ「人と防災未来センター」の設置。更に、震災直後に受けた国内外からの救援隊活動や救援物資に支えられたことに鑑み、大規模な救援隊訓施設と救助・救援の資器材等物資を備蓄する大公園も建設中で、この8月、こうした復興対策を検証する震災復興10年委員会が設立されました。

 近年、震災への関心が高まり、国や地方の各地でも防災対策の強化が進んでいることを心強く思います。しかし、国や自治体レベルの防災対策が如何に進んでも、一人一人に自らが、生命・財産を守る心構え無くしては、災害から身を守ることは出来ません。

 あの震災時、鴨居に固定された箪笥、本・食器棚は倒壊を免れ、太い特大のキャンドルが暗闇の中で行う室内作業に力を発揮し、使い慣れた長靴が1km程ある夜道の給水所通いを助けてくれました。

 こうした身近で些細な経験を地域が共有するための活動も、都市防災研究会の役割の一つかと思います。




横浜港を震災時の救援基地に
−どうすればよいのか−

関東学院大学教授・都市防災研究会代表補佐  小林 照夫

  1. 神戸港:損傷した港湾施設
     1995年1月17日午前5時46分、「阪神・淡路大震災」が発生した。5000人を超える死者と約26万戸の家屋が全半壊した。
     神戸港では、至る所で、岸壁の沈下、ヤードの陥没、上屋、倉庫の損壊、荷役機械の損傷が発生したほか、神戸大橋や六甲大橋等の橋梁、港湾幹線道路や新交通システムの軌道も被害を受けた。
     特に外国貿易の機能を担っていた21のコンテナ・ターミナルの損傷は大きく、全てが使用不能になった。その災害復旧事業費は、神戸市2102億円、神戸埠頭公社1410億円、第三港湾建設局2123億円と言われた。
     聞き取り調査によると、ハード面だけではなく、ソフト面でも多くの問題点が指摘された。
     震災直後、船舶で輸送された救援物資(衣料品)は、緊急の役には立たなかった。そこに露呈した問題点は、戸惑う市職員の対応をはじめ、

    1. 埠頭の損傷、入港船の手続き上の問題等で、救援物資の輸送船が埠頭に接岸するのに多くの時間を要したこと。
    2. 港湾の埠顧部分が市民生活の日常的部分とゾーニング化されているので、一時的であるがゴーストタウン現象が発生し、港湾区域全体が機能しなくなったこと、

    などがあげられた。

     通常、震災等による対応の備蓄は三日間が前提になる。真冬野外に放り出された神戸市民が待ち望んだものは、「暖かい衣服と温かい食べ物」であった。しかし、港はその対応に窮した。そこで、「被災直後の救済活動に港はどう役立つのか」と言ったことが議論され、「役立つ港湾Jへの対策が、その後の各重要港湾での課題になった。

  2. 港湾に必要な規制緩和
     −緊急時の港湾機能増強への対応


    船「国の営造物思想」ではじまった日本の港湾、戦後、「港湾法」の下で、地方自治体が管理者になつたが、未だ中央省庁の手かせ足かせの中での港湾管理者であって、港の管理・運営にあたって独自の方針を打ち出すには多くの規制がある。
     横浜港に入港した「焼き鳥」が市民の口に入るまでには、幾つもの手続きが必要になる。最近ではタイから「焼き鳥」がやってくる。
     輸入通関事務をはじめ、厚生省の検疫、大蔵省の関税、運輸省の港湾管理手続き、建設省の道路輸送手続き、多くの手間と1週間の時間を要する。
     省庁の統合があってもさほど変わらない。港を利用するには手間と時間を覚悟しなければならない。
     「緊急輸送と港湾施設」(昭和55年7月18日運輸省告示346号)の告示がある。そこには緊急時の規定をみる。神戸港では、緊急物資を運んできた船舶の接岸に、手続き上の間桓が絡み、時間を要したことをあげている。
     「大切なことはその告示を緊急時の対応にどう内実化させるかである。」そのためには、縦割り行政の弊害をもつ中央諸官庁と縄張り主義の強い地方自治体の行政機能を整理し、司令塔の一本化が何よりも求められる。
     それも、緊急時を想定すれば、絵に画いた餅であつてはならない。
     「港は手間と時間がかかる。」港は埋め立てによってなる。そんな港を震災時の救援基地として利用するには、港湾内の条件づくりが必要になる。
    その条件づくりとしては、
    1. 港湾施設及び港湾貨物運搬利用道路の耐震性の強化(液状化等の対応として)
    2. 震災時情報システムの整備
    3. 緊急物資・緊急要員大量輸送システムの整備
    4. 震災時運航の整備
    5. 自動車・ヘリコプターと言った複合的交通機関の連携強化等
    ハード面とソフト面からの対応である。

  3. 横浜港の現状一求められる課題
     横浜港は日本を代表する港なので、その役割は大きく、横浜港に輸入される農水産品等は、遠く関東以北の地にまで運ばれる。その意味では、横浜港の震災対策は、横浜市民だけではなく国民経済的見地からも必要になる。
     横浜港は「神戸・淡路大震災」後、いち早く耐震強化岸壁の新規計画を前提に、円滑な緊急輸送の確保、国際物流機能の維持、港湾貨物のバランスのとれた配置、港湾緑地の整備等を進めている。そして、災害時に港湾機能を活用するための対策として次の諸点をあげている。

    1. 道路、鉄道等の陸上輸送に支障が生じた場合、緊急物資の輸送や公共代替機関として海上輸送による港湾利用をはかる。
    2. 住民の避難や防災活動拠点の場としての港湾の活用をはかる。
    3. 国際貿易港としての横浜港の重要性を鑑み、災害維持をはかる。


    1.「海上輸送の活用による港湾利用」となると、震災情報システムの整備を含め、港湾施設及び港湾貨物運搬道路の耐震性の強化が伴。

    2.「住民の避難や防災活動拠点の場としての港湾」となると、港湾本来の機能と関連して問題が発生する。通常、港湾は荷役作業の効率化を求めて日常的な市民生活とは切り離されている。そこはあくまでも物流拠点である。
     その場所を「住民の避難や防災活動拠点」にするには、従来の港湾のあり方を抜本的に見直し、市民の日常生活を港湾域に取り組み、港湾機能の再編成をはかることが望まれる。その意味でも、検討すべき多くの課題がある。

    3.「国際的貿易港としての横浜港の重要性に鑑み、・・・一定の物流活動の維持」は、耐震岸壁の拡充と言ったハード面の強化、背後地の物流拠点までの交通アクセス問題を除外しては実現できない。

     既述の問題点を整理し、その上で
    「横浜港を震災時の救援基地に−どうすればよいのか」については、少なくとも次の諸点は考慮しなければならない。

    【第1点】
    横浜港内の埠頭のうち、耐震構造で出来上がっている複数の岸壁を災害時の緊急岸壁に指定し、緊急時の利用ガイドライン作成(波浪方向によって岸壁の被害状況が異なるため複数指定が必要)をはかる。

    【第2点】
    横浜市港湾局の主導で、横浜港の関連諸企業(港運業、倉庫業等)との間に、緊急時を想定した企業間の日常的な教育・訓練・広報活動の徹底(定期的な防災訓練の実施、安全教育としての取り組み)をはかる。

    【第3点】
    横浜港の市民救済活動の機能強化に向けて、被災情報・交通情報の収集伝達システムの整備をはかる。



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