32号b(200310月1日)

防災と法 第4回

関東学院大学講師・都市防災研究会代表補佐  三浦 一郎

被災者生活再建支援法
2003年7月26日に発生した宮城県北部連統地震に適用

洪水イメージ
 自然災害によりその生活基盤に著しい被害を受け、経済的理由等によって自立して生活を再建することが困難な世帯に対し、自立した生活の再建の支援を目的とする法律として被災者生活支援法があります。

 具体的には、暴風、豪雨、豪雪、洪水、高潮、地震、津波、噴火その他の異常な自然現象によって10以上の世帯の住宅が全壊する被害が発生した市町村の区域に係る自然災害などに対して、世帯の構成等条件によって最高100万円の支援金が支給されます。
 いわば、災害に対する事後的対応を盛った法律であり、本制度が適用になる自然災害が発生した場合には、県から、その旨の公示がなされることになっています。

 支給対象となる経費は、生活に通常必要な物品の購入費又は修繕費や引越費用としての「通常経費」「特別経費」に区分されています。

この場合の「特別経費」とは、

  1. エアコンなど被災世帯の居住地域又は被災世帯に属する者の特別な事情により生活に必要な物品の購入費又は修理費
  2. 住居に移転するための交通費(引越費用と区別)
  3. 住宅を貸借する場合の礼金、権利金など
  4. 自然災害により負傷し、又は疾病にかかった場合の治療に要する医療費など

を指します。(具体的には被災者生活再建支援法施行令に規定)

 最近では2003年7月26日に発生した宮城県北部連続地震による災害を、宮城県は被災者生活再建支援法の対象となる自然災害と決定し、8月5日付けで公示しました。


支援の内容は現実的か

 
では、本法における支援の内容は十分かというと、上述のような100万円の支給がなされるのは、具体的には、収入合計額が500万円以下の複数世帯のみであり、支給には収入や世帯主の年齢などの制限があります。また、100万円という額は大金ではありますが、被災者の生活を再建することに必要な額には遠く及ばないでしょう。

 そもそも支援金は、都道府県が相互扶助の観点から基金(全都道府県から支援金支給事務の委託を受けた財団法人都道府県会館)への拠出金(当面300億円)の運用益と国からの補助金を原資としているもので、被災者の生活再建のすべてをカヴァーする性格のものではないといえます。現実的にも首都圏における大規模地震などは現時点の基金の支給能力をはるかに超えてしまうことが予想されます。

 つまり、被災者再建支援法によって自然災害に対する個人責任の原則が変わる訳ではなく、十分な生活再建には地震保険の加入などの個別の対応が不可欠といえるでしょう。




神奈川・東京・千葉のウォーターフロントの
地震時地盤液状化による建造物被害

建築基礎防災研究所代表・都市防災研究会幹事  川崎 浩司

 2003年7月1日発行のニューズレターに、「共同溝」の記事があり、それと関連、もしくは補足するものとして本報告を書かせて頂く。
 その場合、筆者の専門である「超高層建築物」についても「地震時地盤液状化」
によって、どのような被害が生ずるかにも触れてみたい。

 「地震時地盤液状化」による被害が鉄筋コンクリート四階建てのアパートや橋梁、そしてオイルタンクなどに大規模に発生したのが、1964年6月16日の新潟地震の時であった。それ以来、約40年内外において膨大な研究資料、調査資料が蓄積されているが、必ずしもその実態が解明されたとは言い難い。
 1995年1月17日の兵庫県南部地震では、「六甲アイランド」の埋立地で礫混じりの粘性土にも「液状化」がおこり、かなり高層のアパートの「基礎杭」の破壊も認められた。これは、今までの「水分の多いゆるい砂層」「液状化」がおこるという常識に重大な問題を提起したと考えている。
 更に、「液状化」のメカニズム、もしくは原理があいまいのままである。高名な学者や有名な研究者の提案はいろいろとあるがいずれも理論倒れか、独善的なものが多く説得性に欠ける。

 筆者は、実験室で基本的な実験を10年間行ない、資料調査や講義を20年間行なってきた結果、「液状化」の原理は、クーロンの経験則(Coulomb's Empirical Law)とテルツアギの間隙水圧概念〈Terzaghi's Porater-Pressure Concept)を結びつけた次式によって、「液状化」を説明するのが最も妥当だと考えている。
 ちなみに、このクーロンの経験則は土質力学の歴史における金字塔とも言うべきもので、テルツアギの間隙水圧概念と共に不滅の大法則である。

T=C+(σ−μ)tanφ
   τ:セン断応力度、
   C:見かけの粘着力度、
   σ:セン断面の直圧力度、
   μ:間隙水庄度、
   φ:内部摩擦角


 地盤のあるセン断面を考え、その直圧力σを打ち消すように、テルツアギの考えた間隙水圧μが働く。(σ−μ)は有効応力である。地震力が作用して、μが大きくなり(σ−μ)が0となれば、τ=0となる。ただしC≒0と考える。セン断力0は液体であるから、この時「液状化」が発生する。「液状化対策」の基本的な考えは、土の密度を大にしてCを大きくすること、間隙水を抜いてその水圧μを小さくすることであるからそれもこの式によって説明できる。

 ウォーターフロントの問題がクローズアップされたのは、1989年10月の「ロマプリータ地震」がサンフランシスコ市内のウォーターフロントに大被害を発生させたからである。その約一年後の『ニュートン』の1990年9月号に「石原」氏が、「巨大地震発生! ウォーターフロントは大丈夫か?」の解説記事を書いていて、大地震が来ても、下図のような「超高層建築物」は耐えられる構造形式を採用していると言っている。これには異論があるがここでは触れない。「杭」の記述はないが、他の資料によって直径2〜3メートルの場所打ち杭らしい。筆者は、長年杭の研究を行なっているが、これで大丈夫という保障はない。

モデル図
超高層ビル・
ライフライン共同溝・
地盤モデル図
(図をクリックすると
別画面で大きく表示します)

 左図の (a),(b)に示しているようなシートパイルを打つか、深層混合撹拝工法によるコンクリート壁の造成をするかしなくては安心できない。「共同溝」の被害が避けられないという「石原」説は納得できる。その対策としては、「液状化層」にコンクリートのシートパイルを打つことが有効であると思われる。このシートパイル工法は、前述の新潟地震で有効性が確かめられたもので、「内藤多仲」先生が新潟市役所に採用し「地震液状化」による被害を最小限にした工法である。



いえ・みち・まち改善事業プロジェクトチーム
(横浜市建築局密集市街地解消事業協力チーム)

 9月11日付横浜市建築局長名で都市防災研究会防災まちづくり支援団体として選定したとの選考結果の通知がありました。選考結果を重く受止め頑張りたいと思います。
 委員は一部交替して金田好明、川崎昭如、川崎浩司、川西崇行、倉茂勝一、高嶋三郎、常盤義和、徳永恵治、牧瀬稔の各氏9名でチームを構成しています。
 支援団体としては他に横浜プランナーズネットワーク×12名、横浜市まちづくりセンター×11名の方が加わっています。



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