『高齢者の防災対策の現状と課題』
調査研究報告書についてのお知らせ
主任研究員 大間知 倫

     都市防災研究会では、「阪神・淡路大震災」が高齢化社会を直撃した初めての直下型大地震であることに、かねてから注目していました。震災後自治省消防庁は、全国自治体に「地域防災計画」の見直しを依頼し、災害弱者対策が追加されることになりました。
     研究会では、社会構造の変化に対応した防災対策が必要で、高齢者対策が未着手の重要課題と位置付けていたところ、1999年が「国際高齢者年」に当たり、全国労働者共済組合連合会が助成事業として、高齢者問題への研究を支援している事を知り、上記のテーマで応募した所、幸い私たちの研究が採用されることになりました。以後池田晴哉・大間知倫・高嶋三郎・荻原多聞・佐藤紘志・林美佐の6名の研究員が、1年4ヵ月にわたり、神奈川県内37市町村を訪問し、防災担当者から直接ヒアリングを実施し、一方65歳以上の高齢者約1,100名から「ゆめクラブ神奈川」神奈川県老人クラブ連合会、横浜市老連、川崎市老連のご協力を得て、防災意識アンケート調査を実施内容を分析調査しました。
     神奈川県では、「阪神・淡路大震災」以後市町村自主防災組織に支援してきた、5年間総額100億円の予算執行が本年末で終了するので、予算継続の目玉として「災害弱者対策」を検討中であり、この度の研究調査報告は高く評価されました。
     内容は  1.研究の狙い
          2.37市町村のヒアリング
          3.65歳以上高齢者に対する20の設問アンケート
          4.今後への展望、の4章からなり、
    A4版98ページからなります。この概要は8月26日朝日新聞神奈川版で大きく紹介されました。
     尚、資料が必要な方には、実費500円でお譲りしますので、事務局までご連絡ください。

   避難所運営マニュアル整備状況から高齢者対策を見る

     「兵庫県南部地震」が発生した時に、避難所で高齢者には肺炎に罹った人や胃潰瘍等内臓出血になった人が多く発生したにも関わらず高齢者の問題には充分スポットが当たらなかった。神奈川県では平成9年3月に「避難所マニュアル策定指針」を作成し、各市町村に配布し、「避難所運営マニュアル」見本を地方自治体が作成した。自治体自身が運営マニュアルを有するのは10/37で30%にも達していなかった。 毎年「防災の日」「防災とボランティアの日」前後に、自主防災組織と行政が連帯して防災訓練が避難所となる小・中学校において実施されているが、訓練の殆どは初期消火・炊出・救急法の習得であったりして、高齢者への対応まで考えた訓練は見られない。
     横浜市では449の小・中学校に地域防災拠点運営委員会が予め組織されており、一部には「避難所運営マニュアル」を作成している組織もある。県内の自主防災組織の一部にもマニュアルを作成している例も見られた。しかしこれらはほんの一握りであり、高齢者への具体的対応をマニュアルに折り込んでいる場合は更に減少する。震災が発生し、避難者が避難所に集まって来れば、そこを運営する事が必要となる。マニュアル通りに運営はあり得ないとしても、日頃運営訓練をして高齢者(災害弱者)への対応を念頭に置かなければ、神戸で発生した問題を再び繰り返すことになるだろう。





「高齢者の防災調査」を終えて
高嶋 三郎

     当初簡単にできると考えていた調査が、自治体によっては敬遠されアポイントをとるのに最大6ヶ月を要した所もありました。このようなところは庁内移動で防災担当就任後間がないところで、アポイントをとるのに大変苦労しました。一時は諦めかけた事もありましたが無事に役目を果たし、全市町村からご回答を頂いて正直ホッとしています。
     アンケート用紙の印刷も大変でした。数百枚のコピーはした事がありましたが、数千枚ともなれば時間が十倍かかります。これを封筒に入れて宛名を書き切手を貼って郵便局へ持っていったときは、やってみなければ何も分からないと思いました。大間知主任研究員がアンケートの原案作成からやられたことを思うとご苦労が思いやられます。
     ところで、自治体高齢者の防災対策については各担当者とも必要生は認めつつもそこまで手が回らないと言うのが実態でした。やっていない言い訳としてプライバシー保護の法律を隠れ蓑に実際は何もしようとせず、一部の先進自治体が防災マップ上に、高齢者住宅をプロットして、コンピュータ入力までしているのとは対照的でした。
     これを契機に自治体、専門家集団、一般人へ災害弱者となる高齢者の防災対策の問題点を訴え、高齢化時代を乗り越えて行こうではありませんか!




高齢者アンケート調査報告書作成に携わって
林 美佐

     県下市町村連諸機関のうち、私が実際にヒアリング調査に廻ったのは3箇所(横浜・厚木・茅ヶ崎)に過ぎないので、ここでは報告書作成に携わっての感想を述べようと思う。
     集計結果を分析、考察を加えるという作業を通して一番印象深かっ言のは、対象者のうち「避難訓練等に参加している」と答えた人が割合多かった事に比較して、「家具の転倒防止策を講じている」「飛散防止フィルムを貼っている」等、個々人でも行うことの出来る対策を取っていると答えた人が意外に少なかったということである。勿論、一連の訓練等行事への参加は望ましいが、防災は他人任せでは無く、自発的なものだということを改め確認したい。 
     次に呼象深かったのは、アンケートを通して垣間見られるマンションや新興住宅地における住民相互の連帯意識の希薄化・匿名性・無関心化である。私事だが私は表門が刑事法なので、防災・防火という側面からのみならず、防犯とも絡めて、有機的な繋がりから「よりよいまちづくり」を考えてみたい。
     報告書のうち私の担当した部分については、時間的制約その他(私の能力等)により必ずしも十分な分析が行われたとは言えないのであるが、報告書提出後、今暫く考察を加えてみた。ここでその詳細を述べると本稿の主旨から逸脱する惧れがあるので差し控えるがいずれ少稿にしてみたいと思う。                    幸い、当研究会には防災の専門家の他、建築工学、都市工学の専門家がおられるから、総合的な≪まちづくり≫という問題について、建設的に考えてみたい。




≪投稿≫ 集中豪雨と都市の防災
佐藤 絃志

     わが国においても、これまで集中豪雨による災害がなかったわけではないが、昨年、今年と8月、9月に記録的な豪雨があったことは記憶に新しい。それも、時間雨量が100mmを越すような100年に一度の大雨である。最近の降雨量の増大を地球温暖化等と結び付けて議論する向きもあるが、ここでは、このような雨が、何故近代化された都市に災害をもたらすかを考えてみたい。昨年8月に東京都内のビルの地下街での災害や今年9月の東海地方の集中豪雨災害などは、防災対策が都市化の進行に応じきれていない近代化された都市の意外な脆さを見せつけたと言えるのではないだろうか?
     最近の日本では、都市防災というと主に地震を対象にしている。その理由は、戦後からこれまでの社会基盤の整備が主として治水対策に向けられてきたからである。そのため、国民の間に水害に対しては十分に備えが出来ているので、残る心配は地震だけという考えが植えつけられてしまっていた。確かに、昭和20年代までに繰り返した大河川の氾濫による水害は、このところほとんど無くなり、偶にあるとすれば、中小河川が限定された水害を起こす程度であつた。そのような状況がいつの間にか近代都市は水害の恐怖から解放されたという盲信になってしまっていた。そのことが、災害は起こらないことを前提に成り立つ都市生活の脆弱性に繋がり、ひいては都市の近代化に伴ない却って災害に対する危険度が増大するという皮肉な事態を招くことになってしまったのである。
     河川の氾濫による水害の恐怖から解放されたわが国においては、無定見な土地利用による山林、田畑の開発による自然の保水性の欠如を招き、また、都市においても大規模な地下利用などにより、集中蒙雨などの都市内に潜まった水に対して極めて脆弱な街を作ってしまっていた。
     災害は、いつでも設計基準など人間の考える想定を越えたところで起こるものである。
    そこで、何よりも恐いのは、雨等の災害要因よりも、災害への恐さを忘れ、行政への過度の依存と期待を持ち過ぎた住民そのものであると考えられる。
     従って、今後も起こるであろうこの種の災害に対処するためには、新しい防災体制の構築が必要不可欠である。ここで新しいということはこれから新規に作ることを必ずしも意味しているものではなく、以前には、日本の至るところにあったコミュニティを中心とした社会システムの再認識とその活用そのものである。


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